幸せの鍵
カカシは監視塔の入口で仲間に支えられて立っていた。
その監視塔の最上からはつい先程まで彼らがいた洞窟が見える。
上がったばかりの雨の余韻が残る土は泥濘(ぬかるみ)見渡す下界は幽かに煙っている。
銀糸から滴り頬を濡らす水を拭ってカカシは仲間と共に塔に入る。返事が出来ない程ではないが、話すべき言葉はなかった。訓練された忍ゆえ、数々の修羅場で受けた傷に比べれば何でもない範囲だが心の方が重傷なようだ。
この任務を負った時からずっと同じ事を考えている。
カカシはただ一つナルトが無茶をしないよう願った。
カカシがその洞窟に向かったのは中継地で一小隊を翻弄した後、離れていたライドウと合流できる地点まで近付き、もう一踏ん張りとなった時だった。
中にいる敵の人数は四名。更にライドウ率いる者達の移動が早く、踏み込む時点で木ノ葉はカカシを含め八名になっており、さほど難しくない状況だった。
突入後、敵側に加勢が現れたが、既にある程度追い詰めた状態にあり、木ノ葉に軍配が上がるのは時間の問題で何も無理はなく進んでいた。
しかし奥の部屋でカカシが相手の一人と対峙した時、その顔に抱くべき悲愴よりも、僅かな希望が浮かんでいる事に気付いた。
“いや気付いてしまった”
分からなければカカシに一瞬の隙が生まれる事はなかっただろう。
「我々の仲間は既に『彼に』接触しているぞ」
その一言は思ったよりもカカシの心を揺さ振った。
彼はどういう方法でか、あの大岩の戦いでナルトの隊が身内と接触したのを知りそれを言っているのだった。
だが味方が既に散り去っている事は分かっていないようだ。
嫌な予感が渦巻く。
動きが半歩遅れ、それを逸早く悟ったライドウの声が洞内に響いた。
「なにやってんだカカシ!」
雷切は敵を討ち損ねカカシは右肩を貫かれた。男は木ノ葉の仲間に取り押さえられたが不敵な表情は変わらなかった。
そして不安を拭えないまま彼らは監視塔へ移った。
続く