幸せの鍵
ナルトが駆け付けるとそこは重々しい空気に包まれ、救護テントの周りには見知った上忍が揃っていた。
みな神妙な顔で時折テントに目を向けている。
その様子に一層の不安を掻き立てられて両の手を握った。
「ナルト、早く!」
急かすサイを背に照明の少ない薄暗いテントの中に入る。彼の姿は下りる幕の向こうに消えた。
「カカシ先生、大丈夫か!?」
重傷だと聞いていたので大分気が動転していた。
「―――ナルトか」
「そうだってばよ。やっと会えたってば!なのに先生ってば何やってんだよ!」
「お前こそ・・・木ノ葉で会おうって言っただろう」
なのに、なにやってんの。
「歩き神にでも取り憑かれたのか」
溜め息を吐きかけるカカシにナルトは駆け寄り恐る恐る覗き込んだ。
「こんな、こんな大怪我して・・・っ」
「ナルト」
「大怪我して・・・?あれ?」
「ナルト、オレなら大丈夫だから」
「大怪我、してない?」
触れようとしたナルトの手は宙に浮いて静止した。
「どゆこと?」
「サイに騙されたんじゃないか?」
冷静なカカシの言葉にハッとして漸く目が覚めた。
「サイ~~~!」
周囲の者達の芝居掛かった様子にも惑わされた。
それでも怪我をしているのは本当なので、そっと肩に触れるとカカシは目を細めた。やはりそれなりに深い傷なのだ。
ナルトは労(いたわ)りの視線でカカシを見た。
「オレ、カカシ先生が生死彷徨ってるって聞いて・・・」
「おいおい、サイは一体何を言ったんだ?」
「すっげぇ後悔した。何やってたんだろうって。もっと早くカカシ先生を探すべきだったって」
「そりゃ、仕方ないねえ。こういう状況じゃ、誰もが離れ離れになったりする。お前の気持ちは有り難いけどな。事実オレの班も別れた」
「それに真相に気付くのが遅かった」
そう言って沈黙するナルトをカカシは静かに見つめた。
「オレの所為でみんな、」
「そうじゃない」
「そうじゃないさ。草の意思がどうあれ、木ノ葉は、たとえそれがお前じゃなく他の誰かだったとしても同じ方向に動いた」
「・・・・」
「人柱力云々加味してもな」
「っ・・・でもっ!オレってば何もできなかった!力になれなかった人達が沢山いる!カカシ先生も、そうだってばよ」
「―――」
「分かってる。オレが一緒にいたからってどうなるってもんじゃねェって事。けど同じ場所にいたら役に立つかもしれねー。カカシ先生にこんな傷負わせねェ」
「ナルト・・・」
「オレってば里を出てカカシ先生を追って来て・・・やっと、気付いた。カカシ先生は家族じゃねーけど、同じくらい大事な存在なんだ。四代目は尊敬してる。母ちゃんも尊敬してるし好きだ。でもそれとは違う。カカシ先生は・・・なんつーか・・・」
最後は照れた様に尻窄まりに消えた。
だがそれで二人の間の空気は一気に和らいで、カカシの伸ばした手がナルトに触れた。
「それだけで十分だよ」
ゆっくり手を握るその仕草に俯きかけていたナルトが顔を上げる。
お互いの手を繋いでやっと安心感が胸に広がった。
「途中でキバに恋みたいだって指摘された」
「!」
「だけどずっと無意識に感じてたんだ。オレは鈍感で自覚するのが遅ぇーけど。あの食卓で飯を食ったり、笑い合ったり、愚痴を言い合ったりすんのはカカシ先生じゃなきゃ駄目だ。だから・・・その、カカシ先生が良ければ、ってか嫌って言われても・・・」
「言う訳ないでしょ。ホントお前ニブ過ぎ」
「!」
「やれやれ。自分の気持ちが分かってもまだオレの心には気付かないのかねえ」
「わっ・・悪かったな!先生ってば分かり難いし!だから、だってばよ!」
「解り難い、ねぇ。ま、お前は体で覚えるタイプだからな」
「ハ、ハァ?」
「なら、これなら分かるか」
徐にマスクを下ろして身を乗り出した。
「えっえ・・・」
訳が分からずあたふたするナルトにカカシの顔が近付いて、不意にちゅっとキスをした。
「~~~~~っ、うわっ・・・!ギャッ」
「ギャッてお前・・・繊細なカカシ先生は傷付くぞ」
「いやっあのっ、てゆーか男だしっ」
「はははっ本当にお前は面白いな・・・それ今更だし」
「そういや、さっきの歩き神ってなんだってばよ?」
ベッドに並んで腰掛けて、ふと思った疑問をカカシにぶつけた。
「人をフラッと歩かせちゃったり、旅に誘い出す神様のこと」
お前みたいな神様だよ。
「え~~~?そんなの忍みんなじゃん。そりゃオレは遠出が多いけど」
「まさしくじゃないか」
カカシはふっと笑ってナルトの頭を撫でた。
じきに放送を聞いた者共、或いは五代目の寄越す忍がナルトに事情を求めて来るだろう。
子供扱いする態度にぎゃあぎゃあ喚くナルトを見つめて、カカシはもう少し二人の時間が続くようにと思った。
続く