幸せの鍵
ナルトはシカマルに教えられた渓流に行き、そこでのんびり釣りをしている二人に声を掛けた。
「キバ、シノ!」
振り向いたキバは明らかに不満そうな顔をしている。彼は一度淀み無く流れる水面を見て立ち上がった。収穫なしのようだ。
「ちぇっもう出発か」
その後からシノが上がって来て、それ程残念でもなさそうな顔でナルトに聞いた。まあ彼は平素から感情の起伏が余り見えないので分からないが。
「いいのか?」
「おうバッチリだってばよ!サンキューな」
「どうせ、これから支度してくんだ、出んのは明朝だろ」
「おう!頼むぜキバ」
「分かった分かった。荷物が増えるんなら赤丸に背負わせられるぜ」
「んや、余計なもんは必要ねーってばよ。あっ、けど食料がちっと増えるってば」
「それくらいオッケーだ」
竿を担いだキバは空のバケツを提げて残念だと笑った。
けれど本当に残念なのは釣れなかった獲物より束の間の安息だろう。
谷川は駐屯地から近く、徒歩十分程で行き来できる。なので食料係は頻繁に利用しているらしいが、いかんせん先程のキバのように巧くいかない日もある。
もちろん利用目的は狩猟ばかりでなく、水の確保と流れを利用した連絡手段の確立もあるが。
テントに戻ったナルトはまずヤマトに非礼を詫びて明日前線に向かう事を告げた。
「そうか―――」
他に言葉が見つからないのは仕方がない。
「分かった。はっきり言って今のボクに出来る事は無いが、カカシ先輩に会ったら必ず君の事を伝えておくよ」
「ああ!ありがとなヤマト隊長」
「いや、もしかしたらナルトの方が先に会うかもしれない」
「えっ」
「そうだといいね」
「・・・ああ」
既にナルトはここでの情報収集を終えたシカマルから現在のカカシの状況を聞いている。ここに来て大分経つカカシがライドウ班を離れ一度帰還した理由。そして今彼が負っている任務についてだ。
それを鑑みると、ナルトがカカシと偶然出会う確率は非常に低い。
だが少ない希望にヤマトは前向きな考えを持っているようだ。彼は厳しい現実主義者だが時に優しい一面を見せる。
その不意打ちにナルトは胸がじんわりして、曖昧に頷きつつ彼のテントを出た。あと少し長居すれば気弱な自分を吐露してしまいそうだった。
愚行を謝ったばかりである。涙を見せる訳にはいかない。
「結局、隊長も優しいよな」
甘えれば恐怖指導を行い兼ねない男(実際そうするだろう)だが一時期カカシと共に居ただけあって、他の先輩上忍とは少し違う。
「なんつーか、こう・・・・う~ん、やっぱ説明できねえ!」
首を激しく振った所で丁度、自分のテントの入り口に立っていた。
「百面相リーダーのお帰りだ」
ふざける仲間に適当な言葉を返して自分の荷物の方へ行く。三人はもう寝袋を広げている。
「ふぁ~あ、明日は早いってばよ」
「おめーは十分寝ただろ!」
「ははっ、それは言えてる」
「シカマル、お前まで!睡眠は大事なんだっての!」
「は、・・・まあ、そんだけ言い返せりゃ大丈夫だな」
「ん、もう平気だってばよ」
しかしナルトの答えにキバだけが、腕を組み首を傾げる。
「んー・・・」
「なんだ?」
目聡くシノが促すと、シカマルとナルトの視線がキバに集中した。
「何となく、気になってたんだけどよ。お前の反応ってまるで・・・恋する乙女じゃねーか?」
一瞬でテント内の空気が変わった。
「ぶっ!ちげーってばっ」
ナルトは顔を振り、妙な雰囲気を掻き消そうと一生懸命手を振り回す。
「だよなァ、リーじゃあるまいし」
「リーだって恋はしてねーだろ」
冷静に突っ込む傍らシカマルは横目でナルトを見た。全力で否定しているが、それは無自覚なだけではないかと思い浮かぶ。
「俺の思い違いか~・・・」
「そ、そ、そーだってばよ」
顔を赤くしたナルトは、何故か残念な響きが滲むキバの声に頷き、己の高鳴る鼓動に自分こそ首を傾げて、如何にもこの部屋が暑いのだと手で扇いだ。
続く