幸せの鍵
「なあシカマル聞いていいか?」
その少し強張った真剣な声音にシカマルは観念して、この際とばかりにカカシの希望を放棄してゆっくり答えた。
「なんだ」
もう、どうにでもなれという想いだった。
「草の本音はなんだってばよ」
「あぁ」
シカマルの胸中は、ついにきたか、そんな感じだった。
「本音ぇー?」
何も知らないキバは不審な顔で問うが、シカマルはそれを無視して三人に聞こえる声で再び答えた。
「あいつらの狙いは、お前だナルト」
「はあっ!?」
ナルトの表情には『やっぱり』という諦めが交じっていたが、キバは素っ頓狂な声を上げてシカマルの肩を掴んだ。
「そりゃどーいう事だよ!?」
感情的に怒鳴る友にシカマルは鋭い目付きで返して、そっと手を離させた。
「ならばこの戦いはナルトを護る為の戦か」
静かに問うシノにシカマルは否定の意味で首を振る。
「草に渡さねぇための戦いだ」
「どっちも同じじゃねーか!」
騒ぐキバの背後でナルトは静かだった。それも異様な程に。それを心配してシカマルは話し掛けようとしたが、先にナルトが
顔を上げた。
ナルトの視線がまっすぐシカマルを捉える。
その瞳を受けて脳裏にカカシの言葉が甦った。
『ナルトは自分の意志を貫こうとはしても、本当の意味では自分を優先しない』
ナルトは強い心の宿った目でシカマルに聞いた。
「カカシ先生はこの事知ってんのか?」
「・・・・」
「知ってるからオレには何も言わなかったのか?」
「―――ナルト」
「どうなんだってばよ!シカマル」
「・・・その通りだ。カカシ上忍は」
言い掛けた途端ナルトはその場を走り出した。
「ナルト待て!・・・まじぃぞ、キバ!シノ!あいつを捕まえろ!」
「おっおお!?なんだよ、なんだよ、訳分かんねーな、クソッ」
「ワォンッ」
赤丸が吼えて跳び掛かる。それをナルトは素早く避けたが、シカマルの攻撃に気を取られて足元の石に躓き転んだ。
「ッテ!・・・」
それをシカマルが透かさず拘束しようとしたが、シノが立ちはだかり止めた。
どうしたら良いか分からないキバは三人の顔を交互に見ている。
「ナルトの話を聞こう」
「聞かなくてもコイツの答えは見えてる」
シカマルはシノの提案に首を振ってナルトを見た。
「オレは行くってばよ」
「行くって、どこにだ?」
キバの問いにナルトはシカマルを睨んだまま答える。
「それは言えねー」
その言葉にシカマルは長い無言の後、厳しい顔で手を組み構えた。
「聞かなくても分かる。行き先は草だな」
「・・・・」
「副将として、俺はお前を行かせる訳にはいかねぇ」
「黙って見過ごせねェって事か」
止む無し、ナルトも応戦する構えを見せる。
だがその右手にいるキバもゆっくり進み出て外套の下から縄付きクナイを取り出した。
「俺もシカマルに賛成だぜ。第一お前はどっちの味方なんだよ!木ノ葉だろうがよ!」
「そりゃ分かってる!けど、敵味方カンケーねーってばよ!」
三つ巴の様相を呈する最中(さなか)シノが声を発した。
「俺はナルトを支持する」
「シノてめーっ!」
「二対二、か」
シカマルは面倒臭げに空を見上げた。まだ降り続く雨が対立する四人を非難するように、瞼を開けていられない程強い滴を顔に叩き付ける。
「お前の性格はよく分かってる。その信念は簡単には曲げられねぇ」
「長い付き合いだろ?」
ナルトの科白に頷く。
「長いから行かせられねーとも言える。分かんだろ、お前を行かせりゃ五代目がどう言うか」
「ばあちゃんには悪ぃと思ってる。けど、ばあちゃんもオレの事は分かってる」
そこで急にキバが動いた。
「分かってりゃいいってもんじゃねーだろ!シノお前もだ!」
ヒュッと伸びるクナイを躱してシノが応戦する。
「行けっナルト!」
雨の所為でうまく動けない蟲の代わりに武具を操るシノが背中でナルトを護る。けれどナルトはすぐに駆け出す事ができず、向こうに立つ二人を見ていた。その内突然、謎の煙幕が発生して視界を奪われ、互いの姿は見えなくなった。
続く