パソコンは社会の隅々まで浸透し，目的にあったアプリケーションがあれば誰でも簡単 に利用できるようになった．その多くはWindowsマシンであるが，化学・薬学・医学の領域ではMac愛用者が結構存在する．その最大の理由は、化学構 造式を描くためのソフトウェアであるChemDrawが使えるためであった．現在，ChemDraw関連ソフトの開発の重点はWindowsマシンへ移行しているが，初期の段階ではワンボタンマウスを装備したMacのみであった．そういうわけで，当時Macを使用した研究者は，現在でもMacを購入する人が多い．
注：ChemDraw ケモインフォマティクス企業のCambridgeSoftが開発した分子モデリングソフト
ワンボタンマウス ひとつのボタン操作で「取り残された人達」のためのコンピュータを実現．ファイルのコピー・ペースト等も可能
現在はWindowsとMacの操作性にほとんど差がないが，初期の段階ではMac の方が使いやすかった．Macの場合，アプリケーションに関係なく基本的な操作が共通しているため，コンピュータに弱い人でも使用できるマシンという評判 ができあがった．それまでのMS-DOSマシンに比べると，計算機と人とのインターフェースがコマンドやカーソルによるメニュー選択方式からマウスによる 選択方式に変わったため，操作性が抜群によかった．
マウスを利用すると，画面上の座標をドット単位で選択できるわけだから画像等も簡 単に描けるわけである。保存する場合は，個々の点，ピクセル(pixel)，の集まりとして構成された図，すなわちビットマップではなく，点の座標とそれ を結ぶ線(ベクトル)などの数値データをもとにしているため，描画情報はデータ量も小さく，拡大・縮小しても画質が損なわれない利点があった．
注：Intel Macになりソフト間における画像データの連携が問題になっている．
Macを購入するとChemDrawが使用できると思っている研究者もいた．その ため，納入業者は最初から違法コピーソフトを入れていたこともあった．私の担当した研究室で院生が購入したMacには，ある国立大学の有名な先生の研究室 で購入されたソフトが入っていた．私は長年総合情報処理センターの全学委員をしていた立場上，分子計算等の関連ソフトを含めて研究室で購入してきたが，高額なため一 般の研究室では簡単には購入できない状況であった．他研究室の教員が聞きつけてコピーさせてくれと頼んできたことがあった．断るのはかなり勇気が必要であ る．断ったため何となく人間関係がスムースにいかなくなったこともあり，柔軟性のない人間と思われたようである．そのようなこともあり，大学単位でサイト ライセンス契約を結ぶことを提案してきたが，実現したのは私立大学へ移ってからであった．財務担当者は使用料を毎年支払うことに驚いていたが大学全体が違 法ソフト利用で問題になることを考えると大したことではない．
注：大学在職中に何度か「ある大学がこっそり調べられている」という情報が入った． その後，いくつかの国立大学において，アメリカの著作権保護団体「ビジネス・ソフトウエア・アライアンス」（ＢＳＡ）に指摘され，抜き取り調査した結果， 数多くの違法コピーが発見され，本格的調査の受け入れ要求や調査結果に基づく和解が進んでいるとのことである．(2011/07/29)