シリーズ  あの話どうなった

波動発電

先進国においては2050年のカーボンニュートラルが宣言されており,化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが緊急の課題になっている.今世紀の初め,波動発電が話題になったことがあったが,ソーラーエネルギーによる発電の影に隠れて殆ど話題になることはなかった.佐賀大学の海洋エネルギー研究所によると,北欧諸国では継続的に実証実験が行われ,500KW程度の発電が達成されていたようである.そのような状況下,昨年秋,イギリスを拠点とする研究開発会社「Sea Wave Energy Limited (SWEL)」によって画期的なは発電装置が開発され話題になった.会社のHPによると,海に浮かべるだけで,効率的に発電するという.動きの詳細は同社HPの動画を見てほしい.低コストで波のエネルギーを電力に変換する波力発電機「ウェーブラインマグネット」を開発したという.最新バージョンの場合,ユニットあたりの発電出力が100MWに達する可能性もあると言われており,これは約2万8000世帯分の電力に相当すると書かれている.



種々の解説記事によると,何十個もの黄色の板状のエレメントが連なっていて,これらが波の動きに沿うように上下に変形,移動する.またエレメントの中央部分には,先端から末端までそれぞれに固定された発電機が設置されている.発電機と板状のエレメントはレバーアームで連結され,海の波を受けて上下に振幅することで接続されたレバーアームが動き,発電機を回転させ発電しているということらしい.これまでに波力による発電方法としては何種類か存在し,その多くは海水の波で直接タービンを回し発電するというものが多い.ところが,今回の場合はその動力を波の振幅で得ていることになるという.

 日本のような台風の多い地域で,上記のようなシステムが利用できるか疑問という見方もあるようだ.日本では,洋上に大型風力発電装置を設置する方式が進められている.この場合,台風が来襲した際は風車の羽の角度を変えることで風害を避けることができるという.海に浮かべる装置の場合,台風の波浪に直接さらされる状況で類似の制御が可能か問題があり,その上漁業問題なども存在するらしい.

     波力発電や潮力発電といった海洋エネルギーの応用は,欧州での取り組みが盛んであいるが,世界で最初に波力発電を実用化したのは日本であるらしい.1965年に海上保安庁が採用した航路標識用ブイでは,最大出力30W~60Wの波力発電装置を備えていた.その後,目立った動きはなかったが,2022年夏,岩手県釜石市の釜石湾で防波堤を活用した波力発電の実証実験が始まった.市内の海洋土木や電気工事業など4社が事業主体となり,東京大先端科学技術研究センターなどの協力を得て2023年3月末まで継続するとのことであった.同センターによると,防波堤に装置を設置する波力発電は例がないという.釜石湾では「吸波式」が採用され,波の動きで起こる空気の流れを利用して2基のタービンで発電する.

     また,昨年末に秋田県沖で稼働開始した洋上発電機の部材は欧州から輸入したものとのことである.その間,石油や天然ガス等の資源のない我が国において,将来展望能力の欠如のため,太陽光発電以外の洋上発電等の研究開発が疎かにされたという事実は否定することはできない.共通する問題は半導体分野でも指摘されていて,一理は下火になったシリコンアイランドの再興を期した半導体国家戦略構想が進行中である..

数年後に「あの話どうなった」と空振りにならないことを祈る.