ナトリウム硫黄電池
2024年5月25日の電気新聞デジタルに「日本ガイシ、NAS電池で大口受注/グリーン水素製造用で独に72台」のタイトル記事が目に止まった.正直のところ,本当かなと目を疑った.
ナトリウム硫黄(NaS)電池は,負極にナトリウム,正極に 硫黄(厳密には多硫化ナトリウム)を用いた電池で,1967年にFord社のKummerらによってべ一タ アルミナがナトリウムイオン導電性の固体電解質であることの発見とともに提唱された電池である.ナトリウムの性状,危険性を知っている筆者としては,NAS電池は56年前に提案されたものの,実現不可能と思っていたためである.半世紀の間に問題点は解決されたようである.
電気新聞デジタル2024年5月25日土曜日
日本ガイシ、NAS電池で大口受注/グリーン水素製造用で独に72台
日本ガイシは23日、ドイツの大型グリーン水素製造プロジェクト向けにNAS(ナトリウム硫黄)電池72台を受注したと発表した。最大出力1万8千キロワット、容量10万4400キロワット時となる。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー由来の電力を充放電する蓄電設備として利用される。同プロジェクトは総容量23万キロワット時以上の蓄電池を用いる。蓄電池を2ロットに分けて導入する計画で、日本ガイシは前半ロット全量を担当した。NAS電池が商用のグリーン水素製造プロジェクトに採用されるのは初めて。2024/04/24 4面記事
この分野の専門家ではないので,アルミナの隔壁で隔てられた固体のナトリウムと硫黄がどのようにして反応するのか簡単には理解できない.何故なら,ナトリウム(固体)の融点は89℃,硫黄(固体)の融点は 112.8℃であるからである.陰極のナ トリウムが液化してイオンになり,アルミナ(固体電解質)を通過して陽極の硫黄と反応するとのことであるが,そのためにはかなりの高い温度を必要とするはずである.
念のため,AIに訊くと,以下のように回答した.
AI による概要
NAS電池(ナトリウム硫黄電池)は、負極に液体ナトリウム、正極に液体硫黄、電解質としてナトリウムイオンを通す特殊セラミックスを使った化学電池で、約300℃の高温で動作します。充放電中は電池内部の電気抵抗により発熱して300℃以上を保つため、外部電源(ヒーター)で加熱する必要はありません。ただし、最初の300℃への昇温はヒーターで行う必要があります。また、動作後はヒーターと化学反応の反応熱により動作温度である300℃が維持されます。
ナトリウムのイオン化については,高校の化学レベルの知識で理解できる.ナトリウム原子は,貴ガスのネオン Ne 原子よりも原子番号が1大きいので, 電子も1個多く持っている,ナトリウム原子は M 殻にある価電子を1個失い,安定なネオンと 同じ電子配置になろうとする.このようにして生じるイオンが,Na+ である.
電気学会の解説によると,放電ー充電の機構は次図のとおりである.
出典,電気学会の図を利用させてもらった.
放電
1)ナトリウム●がナトリウムイオン●と電子◯にわかれ,
2)ナトリウムイオン●はベータアルミナ▓を通って正極側▓に移動し.
3)硫黄●および電子◯と反応して多硫化ナトリウム●●になる.
充電
1)多硫化ナトリウム●●がナトリウムイオン●,硫黄●および電子◯にわかれ,
2)ナトリウムイオン●はベータアルミナ▓を通って負極側▓に移動し,
3)電子◯を受けとってナトリウム●に戻る.
電流の向きは電子の動く向きとは逆,したがってナトリウム側が負極になる.
化学式では
NAS電池は,一般的に使われている鉛蓄電池と比較して,同じ体積で3倍のエネルギーを蓄えられるので,コンパクトに多くの電気を蓄えることができる.また,電解質が固体なので自己放電しにくく,充放電効率が高いことと,充放電が2000回以上可能であるという.
実際のNAS電池は,円筒形の単電池をたくさん集めて,断熱容器に収納したモジュールとして使用する.断熱容器内には砂が詰められており,単電池の固定と単電池破損時に被害を最小限にとどめる役割をしている.
日本はリチウムイオン電池の原料のひとつである水酸化リチウム調達の8割を中国に依存しており,過度な依存が供給網上の課題となっている.脱リチウムという意味において,資源が豊富で安価なナトリウムを用いるNAS電池の実用化は大きな朗報と言える.現在,ナトリウムー硫黄電池は,再生可能エネルギー由来電力の蓄電目的が主とのことである.硫化ナトリウムは腐食性が高いので,スマホなどのリチウムイオン電池がナトリウムー硫黄電池に置き換わることはないと思うが,幅広い分野での利用を期待したい.
参考資料
一般社団法人 電気学会 用語解説 第23回テーマ: ナトリウム-硫黄電池
2ナトリウムー硫黄電池用固体電解質 DENKI KAGAKU 55,No.3(1987)194-197
NAS電池 | 製品情報 TDK
NAS電池とは | 製品情報 日本ガイシ株式会社,安全性についての解説