世界最強 本田賞 サマリウム コバルト モーターの小型化
科学ニュースを見ていたら,世界最高の「ネオジム磁石」が話題になっていた.
世界最強「ネオジム磁石」発明の佐川、クロート両氏に本田賞 (2023.10.20)
本田財団(石田寛人理事長)は2023年の本田賞を、世界最強の永久磁石である「ネオジム磁石」を発明した大同特殊鋼の佐川眞人(まさと)顧問と、米ジョン・クロートコンサルティング社のジョン・クロート元社長に授与すると発表した。
現状を知るために改めて調べてみた.
<永久磁石研究の歴史:社会の要請に応え、進められた開発> プレスリリースから引用
永久磁石は外部からのエネルギー供給を必要とせず、自発的かつ恒常的に磁場を発生させる物体です。最初の永久磁石は紀元前 600 年頃にギリシアのマグネシア地方で自然に産出した磁場鉱から得られました。人工的な永久磁石は 1917 年本多光太郎博士によって発明され、その後に様々な種類の 磁石が開発されました。希土類(レアアース)とコバルトを組み合わせた磁石の研究も進み、1969 年 にはオランダの K. H. J.ブッショウ博士らにより高圧で成形する方法が確立され、サマリウムと コバルトの化合物を用いた永久磁石の実用化が進みました。
しかし、サマリウムとコバルトは希少資源であり、コバルトの産出がアフリカに偏在していたため、 価格上昇のリスクが存在しました。工業製品向けには安定した大量生産ができることが必須で、 安価で豊富な材料を用いた高性能磁石が求められていました。
ネオジム磁石(Neodymium magnet)
ネオジム(neodymium)は、原子番号60の金属元素, 元素記号は Nd, 希土類元素の一つで, ランタノイドにも属する. これまで, 最も強力な磁石は1969年に開発されたレアアースのサマリウムと金属のコバルトを組み合わせたものであった. いずれも希少資源のため、もっと安価で豊富な材料を使った高性能の磁石が求められた.
両氏は鉄を使った磁石の研究途上。サマリウムの代わりに、レアアースの中では比較的入手可能なネオジムに微量のホウ素を加えた永久磁石を発明した。
佐川氏は、「原子サイズの小さい物質が鉄原子同士の間に入れば、距離を広げられる」との仮説を立て, 1978年にネオジムと鉄に、原子の小さいホウ素を組み合わせることで、強い磁力が出ることを突き止めた.
さらに, 熱処理で粒子を結合させる「焼結法」を見いだし, ネオジム磁石から、従来のサマリウム・コバルト磁石を大きく上回るエネルギーが取り出せた. 1982年に特許出願後, わずか3年で量産を開始したという. 家電品, 電気自動車や風力発電のモーターなど世界中で幅広く活用されている.
一方, クロート氏は米国ゼネラルモーターズ社の研究所で, 磁石の開発に従事中, 1982年に高温で液体にしたネオジムと鉄、ホウ素の化合物を急速に冷却して高性能の永久磁石を作る「液体急冷法」を開発した. この方法では、磁石の粉末を樹脂で固めて成形して作る「ボンド磁石」の基礎となった.焼結法のものより磁気は弱いが, 複雑な形に成形でき, コンピューター周辺機器などの精密機器に利用されている. 現在は製法を工夫することにより、焼結法と同等の性能を持つものも開発されているという.
ネオジム磁石は, 意外にも身近なところに存在する. 我家では, 次図の様なマグネットフック(直径20ミリ)をシステムキッチンや浴室の金属壁に10個位使用している. アマゾンの商品説明を以下に示した. 小物を吊り下げるために購入したが, 磁石の強さは予想外である. 清掃用具などを下げてもずり落ちることはない. 最大水平荷重は3Kg, 最大垂直荷重は15Kgとなっている. 500mlの保存水(ペットボトル)を吊り下げてみたが, びくともしない. 小さいピン型に成型した押しピンやメモ用プレートなども販売されている.
関連記事によると, モーターを利用した機器のほとんどでネオジム磁石が利用されていて, IT分野ではHDDの小型化を可能にしたと言う.
ネオジム磁石は, 開発から 40年近くが経過し, その応用・用途は拡大し続けている. 従来の永久磁石よりも強力な磁力を有するため、モーターの小型化と軽量化を実現している. ネオジム焼結磁石は, 自動車やエアコン、ハードディスク、洗濯機、掃除機、エレベータ、医療機器(永久磁石式MRI), 産業機械など様々な分野で用いられ、省エネルギー化に大きく寄与している. また, ネオジムボンド磁石は加工性に優れ, 狭い空間で強力な磁界が要求されるハードディスクのスピンドルモーター. 自動車内の小型モーター, 携帯電話のスピーカーなど, 小型で高機能が要求される分野で幅広く利用されている.
ネオジム熱間加工磁石は、自動車の駆動用モーター, 電動パワーステアリングモーターで実用化されていると書かれているが, 筆者は説明できるほど理解していない.
筆者はオーディオに興味がるので, スピーカーの磁石について調べてみた. 現在でもアルニコ磁石が主流であり, ネオジム磁石は高音用に限られているようである.
ネオジム熱間加工磁石については参考資料を見てほしい.
永久磁石について
永久磁力といっても永久に磁力を保持するわけではない. 厳密には経年により弱くなるが, 数十年経過しても弱くなったと実感できるレベルではないと言われている. そのため永久に減磁しないと考える方が一般的である. 経年による減磁よりもむしろ温度変化や反発負荷による減磁に注意すべきとのことである. 弱くなっやら再着磁することも可能らしい.
ネオジム(Neodymium)は、原子番号60の金属元素で、元素記号はNdです。希土類元素の一つで、ランタノイドにも属しています。
ネオジムは、1885年にBaron Auer von Weisbachによって発見されました。希土類元素の中で2番目によく見られる元素で、地殻質量の38ppmを占めています。
ネオジムは、銀白色をした鉱物で、採取されるときは粘土鉱物に吸着した状態です。常温常圧では比較的安定した結晶構造を有し、常温で空気中において表面のみが酸化されます。高温では燃焼して淡赤紫色になります。
ネオジムは、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類磁石(レアアース磁石)の一つで、永久磁石のうちでは最も強力とされています。単位体積当たりの磁力が大きいため、小型化しても満足できる吸着力を得ることができます。
ネオジム磁石は、携帯電話やハードディスクなどの小型電子機器や家電製品、医療用MRIなど強力な磁力が必要な用途で広く使われています。最近ではハイブリッド自動車の駆動用モータへの応用が開拓され、その消費量が急速に拡大しています
(2024.1.16)