往来一札

江戸時代,旅行手形,古文書,古文書カメラ

インターネット上には古文書講座が複数の自治体によって開催されている.結構役に立つので,筆者も活用している.教材にはいろいろな史料があるが,江戸時代の往来手形はあちこちの講座で使用されている.

   往来手形には,旅行者の氏名や住所,宗旨,旅行目的などが記され,旅宿の便宜や万一の際の処置を依頼する内容が書かれている.

次図は,愛知県の公文書館の史料である.早速,凸版の「古文書カメラ」を使ってみた.

左が古文書カメラの解釈,右が正解である.


      往来一札

一尾州知下形候彦六忰彦蔵ト

   申者宗旨ハ代々祝葉当寺ニ紛無座候

   勿論御制之切支目之者ニハ無御座候

   今般神社参詣致度候間若行

   候節其御村ニおゐて  宿可被成下候萬    

   病死ト仕候節ハ其所之御沙法通り

   御取置可被下候後日此方江御沙汰ニハ及

   不申候間為後日往来如件

      安枚四年      郡し水当           

        巳六月          

                             彦四

  諸国村々 

      御役人衆中

   

      往来一札

一尾州知多郡姫嶋村彦六忰彦蔵ト

 申者宗旨ハ代々禅宗当寺ニ御座候

 勿論御制禁之切支丹筋目之者ニハ無御座候

 今般神社参詣致度ト申候間若行暮

 候節,其御村ニおゐて止宿可被成下候萬一

 病死ト仕候節ハ其所之御沙法通り

 御取置可被下候,後日此方江御沙汰ニハ及

 不申候間為後日往来一札依如件

  安枚四年  尾州知多郡姫路島村

   巳六月   庄屋

          彦四郎(印)

  諸国村々

    御役人衆中

安政4年(1857),知多郡姫島村の彦六の倅,彦蔵という者が神社参詣のために,旅に出るにあたり,宗旨は代々禅宗で切支丹ではないことを示した上で,道中の宿の便宜を依頼し,病死などした場合にはその地の作法にのっとり対応してほしいと記し,後にその旨を当方へ連絡するには及ばないと書かれている.庄屋彦四郎が諸国村々の御役人に宛てた旅行手形である.

   往来手形は,村役人や檀那寺から発行してもらっていた.江戸時代初期は,名主や年寄.五人組の連署をもって領主に願書を差出し.その裏印を受けなければ有効ではなかった.中期以降になると,社寺参詣や湯治が流行し,庶民の通行が盛んになるに及んで,手形の記載様式も次第に簡略化された.

   往来手形は,諸国の関所や番所の通過や旅宿の宿泊,その他種々の場合に正規の旅行者として便宜と保護を受けたが,他方,それは行政取締りの意味をもっていたとのことである..

「五人組」とは,江戸幕府が強制施行した庶民の隣保組織である. 原型は律令制下の五保制度で,直接には豊臣秀吉が治安のために置いた五人組・十人組の流れを汲む.村方では総百姓を単位に,原則として5軒1組で組織し,相互監察,相互扶助,貢納確保などのため連帯責任制をとった.

古文書解読アプリ「古文書カメラ」の実力を試すために,「往来一札」を資料として使用してみたが,88%の正解率であった.今回は,くずし字解読の勉強のほかにもいろいろ学習することができた.また.副産物として,各地の図書館において,史料のIIIF高精細画像化が進行してことが確認できた.一層の発展を期待したい.

追記(みをアプリ解析結果)

往木一れ

一尾州知多都軽島川彦六体差蔵

   申し家方は代々稀前当重ニ紙兵座に

   勿論御料祭て切子風亀目とし世に

   今服神社参詣致道ト申鳥若行て

   養其御村ニ雪て上名可日成よ万一

   病死ト仕に落は其所之御沙法通り

   御取置て下候後に聞に御少すニハ及

   所申多為後日往来花侭かつ

   安形四斗尾丸智布御島付

      月彦

   図村々

   御後人衆中

参考資料
愛知県公文書館

    バーチャル文書館 古文書講座 解読にチャレンジする(解読問題一覧)
香川県立文書館    古文書解読講座 

群馬県立文書館   インターネット古文書講座

新潟県立図書館 [第93話]江戸時代のパスポート、往来手形 - 新潟県立図書館

埼玉県立文書館  ネット古文書講座 - 埼玉県立文書館(もんじょかん)

広島県立文書館 古文書 50音順 - 広島県立文書館(もんじょかん)

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(2024.3.29)