置換 付加 脱離反応

フロンティア軌道法の適用例(置換・付加・脱離反応)

フロンティア軌道法は,ペリ環状反応の反応挙動を明快に説明することができるため,専らDiels-Alder反応等の環化付加の機構説明に利用されるが,一般の化学反応,化合物の安定性など全般に適用できる理論である.以下に適用例を紹介する.

置換反応

求核置換反応は,求核試薬をHOMO,電子を受け入れる軌道をLUMOとして,位相が合うか合わないか(安定化が得られるか否か)を考える.求電子置換反応では,HOMOへの攻撃を問題にする.

SN2反応

求核試薬が基質脱離基の後方から接近するため,立体配置が反転する.もし,前方から接近すると,立体配置保持で反応が進行することになるが,反結合軌道(LUMO)の片方のローブと位相が合わず (out of phase),軌道相互作用による安定化は得られない.

SE2反応

Li金属が置換した化合物への求電子置換反応では,HOMOを攻撃する.

どちらの遷移状態でも位相が合うため,求電子試薬により立体配置の異なる化合物が得られる.

α位にカルボン酸アニオンを持つハロゲン化合物の求核置換反応

本化合物における置換反応は,立体配位保持で進行する.分子内HOMO-LUMO相互作用で中間体(A)が生成し,アニオンYがSN2型の攻撃をするものと考えられる.

β-脱離反応

E2反応においては,塩基 (B:) のβ位水素への攻撃とXの脱離は同時に起きる.塩基がHに接近すると,β位の炭素上のp軌道は電子豊富な状態となり,HOMOとしてC-X結合のLUMOと相互作用する.その遷移状態はシス型とトランス型が考えられるが,シス脱離の場合,波線で示す部分の位相が合わないためエネルギー的に不利になり,トランス型脱離が進行すると考えられる.

LUMO 1.50 eV

付加反応

不飽和二重結合に対するHBrやBr2の付加反応などもHOMO-LUMO相互作用で説明できる.電子豊富なオレフィンがHOMO,求電子試薬がLUMOとして解析する.

二重結合へのHBrの付加

もし,シス付加が起こると仮定すると矢印のところで位相が合わない.

非対称オレフィンへの付加

メチル基の効果によりHOMO係数が非対称になり,水素はHOMOの係数が大きい末端を攻撃する.

HOMO係数 0.69 0.62

正味の電荷 -0.22 -0.16

資料 Markovnikov の法則

アルケンに HX が付加するときは,水素はより多くの水素を持つ炭素の方に位置選択的に付加する.

この規則はイオン反応機構の場合にのみ適用され,ラジカル機構の場合は適用されない.

二重結合へのBr2の付加

Br+がLUMOとして電子豊富なオレフィンHOMOを攻撃する.

Cyclohexeneのような環状オレフィンにおける付加体の構造からtrans付加が支持される.

マイケル付加反応(1.4-付加反応)

マイケル付加反応は、α,β-不飽和カルボニル化合物に対して求核剤が1,4-付加する.

反応例

アクロレインのHOMOを見ると係数の大きな末端の炭素をを攻撃することが分かる.実際の分子軌道を以下に示した.

CH2=CHCHO (シス型,トランス型), CH2=CHCOCH


カルボニルの関与する反応

曲がった矢印による電子局在化はカルボニルのLUMOで説明できる.

カルボニル化合物へのNaCNの付加(シアノヒドリン化)

関連反応(Benzoin縮合)

追記

置換反応関連

加溶媒反応におけるPhenoniumイオン

β位にフェニルを有するハロゲン,トシル体の加溶媒 (solvolysis) 反応においてはフェニル基の転位を伴った置換体が得られることがある.フェニル基をHOMO,離脱基の付いた炭素をLUMOとする軌道相互作用で説明が可能である.遷移状態は右図のような架橋構造で描かれる.

工事中