宮入菌


肺炎で入院した際, 10日間にわたって抗生物質の点滴を受けた.その際,抗生剤による腸内細菌の乱れを改善するために整腸剤(ミヤBM)を服用した. 60年以上前の薬学部の講義で宮入菌の話を聞いた時, 当時開局薬剤師をしていた父にその話をしたら,「ミヤリサン」との説明書を手渡しながら, 類似薬である乳酸菌製剤ビオフェルミン(1917年〜)より効果があると説明してくれたことを思い出した.

MIYAIRI株は1933年に千葉医科大学衛生学教室(現 千葉大学医学部)宮入近治博士により, 人腸管内より見出され, 腐敗菌に対して強い拮抗作用がある酪酸菌として報告されたという. 宮入菌製剤は, 1錠に1億個の芽胞菌が含まれていて, 医療現場および家庭薬として今年で90年の長寿医薬薬である. 


以下はミヤリサン製薬HPの掲載記事である.

本菌は腐敗菌をはじめとした種々の消化管病原体に対して拮抗作用を有し、BifidobacteriaやLactobacillus等のいわゆる腸内有益菌と共生することにより、整腸効果を発揮します。 さらに、本菌は芽胞形成細菌であることから、製剤中における安定性および胃酸に対する抵抗性が乳酸菌群と比較し高いことが報告されています。


耐熱性

80℃では30分、90℃では10分の湿熱条件において全試験菌株が生存し、90℃20分では95%、100℃5分では30%生存します。


安全性

急性、亜急性および慢性毒性試験により、経口投与可能な最大量を投与しても、中毒症状は発現せず、臓器の病理学的変化がないこと、また、変異原性試験によっても異常がないことが報告されています。また、in vitroにおいて、ストレプトマイシン耐性大腸菌、MRSAおよびバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)と混合培養した結果、酪酸菌は他の菌種から、耐性因子を伝達されないことが報告されています。また、酪酸菌(宮入菌)を有効成分とする製剤(宮入菌製剤)を用いた641例に対する臨床試験の結果いわゆる副作用の例は報告されませんでした。


抗生物質抵抗性

酪酸菌(宮入菌)製剤を各種抗生物質と同時に投与した場合においても、酪酸菌(宮入菌)単独投与と同様に腸管内において発芽、増殖することが確認されている。  


胃液に対する安定性

pH1.0~5.4の健康な成人男子の胃液中にて37℃1時間振盪することにより、乳酸菌および腸球菌の菌数は著しく減少するのに対し、酪酸菌(宮入菌)は影響を受けない。

以下略

省略部分(折りたたみ文書)

経管栄養施行中の高齢者腸管粘膜機能に対する酪酸菌(宮入菌)製剤の改善効果

経管栄養療法施行の高齢者において、酪酸菌(宮入菌)製 剤を併用することにより、腸管粘膜萎縮の指標である血中ジアミンオキシダーゼ(DAO)活性の低下、糞 便中水分率の減少、糞便正常の改善および排便回数の改善が認められた。


過敏性腸症候群患者の腸内細菌叢の異常と酪酸菌(宮入菌)製剤投与によるその改善

過敏性腸症候群患者(30例)および健常ボランティア(30例)の腸内細菌叢構成菌を比較したところ、健常人に対して過敏性腸症候群患者では乳酸菌、ビフィズス菌および総嫌気性菌の減少、Clostridiumの増加が顕著に確認され、されら過敏性腸症候群患者の腸内細菌叢は酪酸菌(宮入菌)製剤投与後には健常人と同程度に改善された。


酪酸菌(宮入菌)投与による炎症性腸疾患の防御作用

ラットにデキストラン硫酸塩(DSS)を投与することにより発症する炎症および潰瘍に対して、酪酸菌(宮入菌)投与により、潰瘍および炎症の面積の縮小、MPO活性の低下および浮腫の顕著な抑制作用が確認された。


腸管病原性細菌の増殖抑制作用

腸管病原性細菌であるVibrio choleraeV. parahaemolyticusAeromonas hydrophilaSalmonalle enteritidis、腸管出血性大腸菌O157: H7、Shigalla flexneriHelicobacter pyloriおよびC. difficileと酪酸菌(宮入菌)の試験管内混合培養の結果、腸管病原性細菌の顕著な増殖抑制が確認された。


酪酸による毒素原性大腸菌の易熱性毒素(LT)の産生抑制作用

各種有機酸を同じ濃度で添加した液体培地中における毒素原性大腸菌の易熱性毒素(LT)の産生量はn-酪酸によって顕著に抑制された。


腸管出血性大腸菌の酪酸菌(宮入菌)による感染防御作用

無菌マウスを用いた腸管出血性大腸菌感染モデルにおいて、腸管出血性大腸菌単独感染マウスでは感染7日目までにすべてのマウスが斃死したが、酪酸菌(宮入菌)投与マウスではすべてが生存した。

腸管出血性大腸菌感染マウスの腸管内では酪酸菌(宮入菌)による腸管出血性大腸菌の増殖抑制および志賀様毒素(SLT)1型および2型の産生抑制効果が認められた。


化学療法剤投与により崩れた腸内細菌叢のバランスの早期改善

ラットへ化学療法剤を投与すると嫌気性菌等の菌数減少をはじめとした腸内細菌叢の異常や短鎖脂肪酸の減少が起きる。この腸内菌叢の異常は酪酸菌(宮入菌)の投与により早期に回復する。


酪酸菌(宮入菌)の腸管内における発芽および増殖性

酪酸菌(宮入菌)をラットに経口投与し、消化管内における発芽および増殖性を確認したところ、酪酸菌(宮入菌)は投与後30分後に小腸上部から小腸中部で発芽、2時間後には小腸下部で分裂増殖を開始していた。さらに、5時間後には胃から大腸にかけ広範に分布し、3日以内に排泄された。


注目される短鎖脂肪酸の生理活性

腸内菌叢により産生される短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸およびプロピオン酸)は、腸管粘膜のエネルギー源として利用され、水分吸収を促進する他、腸管上皮細胞の増殖促進、炎症性サイトカインの抑制作用等による抗炎症、抗潰瘍作用を有することが報告されています。

酪酸菌は経口投与後腸管内において増殖し、酪酸を産生することにより、抗炎症、抗潰瘍作用を示すことが動物実験において証明されています。

ミヤBM錠とビオフェルミンの違い

両方とも善玉菌が配合された薬だが、含まれる菌の種類が異なる. ミヤBMは「酪酸菌」を配合, 主に大腸で働く. 一方, ビオフェルミンは小腸で働く「乳酸菌」と大腸で働く「ビフィズス菌」が配合されている. 菌種が違うので, 両剤を併用することもある.

「酪酸菌」を含有した市販薬
ミヤBM錠の成分である「酪酸菌」を含有した市販薬としては, ミヤBM同様に酪酸菌(宮入菌)のみを含有するタイプから、乳酸菌やビフィズス菌を一緒に配合するタイプまで3社見受けられる. 武田薬品ビオスリーや太田胃散整腸薬など. 

   医療用のミヤBM錠に相当する市販薬は, ミヤリサンである. ミヤリサンの説明書には, 1錠に30mg含有, 用法用量が1回3錠, 1日3回と記載されていて, 1日に270mgの宮入菌を摂ることになる. 医療用に処方された量は1回1錠1日3回であり, 1錠の宮入菌は20mgであるので, 1日量は60mgである. ミヤリサンの場合も1回1錠でよいのではないだろうか.

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