MRI検査時の騒音

筆者が初めてMRIを経験したのは,2014年であった.当時,開業医であった義弟の勧めで姉妹と一緒に脳のMRI検査を経験した.その時の検査データがその後の変化を調べる際の基本データとなった.2018年末に階段を踏み外して頭を打ち急性硬膜下血腫になった時は大いに役に立った.半年間,薬物治療を受けたが,その効果はMRI画像解析を用いて追跡できた.MRI検査はインターバル(2週間→1ヶ月→2ヶ月)を変えて半年間に9回,その後は半年毎に年2回MRI検査を受けている.

直近の検査は6月20日に受けたが,検査時に工事現場のような轟音に慣れることはない.得られる画像データの精密度とは裏腹に,なぜ,あのような騒音を長時間我慢しなければなたないのか現状を調べてみた.

NMR(核磁気共鳴)とMRI(磁気共鳴イメージング)

化合物の構造決定法にNMR(核磁気共鳴)という手法がある.原子核は正電荷をもち, 自転している.厳密にはコマのように 歳差運動 を行い,自ら磁場を発生させている.言い換えると,原子一つ一つは,小さな磁石とみなすことができる.この状態を表すベクトル物理量を,核磁気モーメント(核スピン)と呼ぶ.一般的には↑↓で表す.NMRでは,外部から強力な磁場をかけてやると,核スピンは 磁場と順並行(↑)または逆並行(↓)の2種類に整列 する.その状態にパルス状のラジオ波を照射して核磁気共鳴させ,分子が元の安定状態に戻る際に発生する信号を検知する.分子内の各水素原子の結合情報を化学シフトとして精密に検出することが可能であり,化合物の構造決定には必須の技術である.

原子核は小磁石とみなせる.

逆向き(↓)の方が高エネルギー

NMRスペクトラムとMRI画像

 NMR が分子構造の解析(スペクトル分布)に重点を置いているのに対し,MRI は信号強度の空間分布を画像化することに重点を置き.生体に含まれる水や脂肪の分布を断層画像として観察する診断技術である.溶液NMRでは,5mm径のガラス製試料管を用いて高速回転させながら測定する.MRIの場合,試料は静止した人体であり,強力な磁場の中で電磁波を体に照射し体内の水素原子が共鳴して振動することで発生する微弱な電磁波を受信し電気信号に変換して画像化する.

MRIの検査手順は次のとおりである.


この戻る時間は組織(骨や水、脂肪、がん細胞など)によって異なり,この戻る時間の差を画像化したものがMRIの画像となる.異なる組織や物質は,戻る時間の差に基づいて異なる信号を生成し,画像内で異なるコントラストを示す.


MRIの画像は臓器の水の1H核信号を捉えたものでX線などの放射線を使用しないため被曝がなく超音波診断のように手軽に利用できる.


注)NMRでは,CH3CH2OHの各水素は区別できるが,MRIではそのような区別化はできない.

検査時の騒音問題

    被験者は水色の円筒内に仰向けになって寝て,検査を受ける.脳MRIでは約25分間,轟音に曝される.

    MRI機器を研究しているキャノンのホームページにその解答があるので,図を含めて引用させてもらった.

    騒音の原因となる振動が生じる原理

MRI装置は,大きく分けて,強力な磁場を発生させる超電導磁石,電波を送信する高周波コイル,磁場に変化を与える傾斜磁場コイル,体内からの電波を受信する受信コイル,被験者をドーナツ型の装置の中に運ぶ寝台の5つから構成されている.騒音は,大きな磁石の内側にある傾斜磁場コイルに電流が流れる時,「フレミングの左手の法則」に従って生じた力(ローレンツ力)が傾斜磁場コイルを振動させ,磁石本体などにその振動が伝播することによって装置全体から発生する.

その音圧レベルは最大で 100 dBを超え工事現場の騒音に匹敵することもある.また検査の音として,削岩機,波の音,槌の音等など,色々聞こえてくるがそれは撮影している画像毎にタイミングが設定されていて何種類もの画像を撮影しているためである.

静音化の試み
キャノンメディカルシステムズのホームページによると,ジェット機のエンジン音に匹敵する検査音を90パーセント低減化する技術の開発に成功し,実用化されているとのことである.

以下はGoogleのAI-チャット Geminiの回答である.

MRIの騒音の原因は?

MRI検査の騒音は、主に以下の2つの原因によって発生します。

1. 磁場と電流による振動

MRI装置は、強力な磁場と電流を使って人体を画像化します。この磁場と電流が、装置全体やコイルを振動させ、それが音の原因となります。具体的には、以下のようなメカニズムが考えられます。

2. 電磁波パルスによる共鳴

MRI検査では、ラジオ波と呼ばれる電磁波を体内に照射します。この電磁波は、体内の水素原子にエネルギーを与え、共鳴と呼ばれる現象を起こさせます。共鳴した水素原子は、元の状態に戻る際に電磁波を放出します。この電磁波が、装置や人体と共鳴し、音の原因となります。

これらの音は、検査部位や装置の種類、撮像方法によって異なり、ドリルのようなゴロゴロとした音、ノックのような打撃音、波のような音が混ざったような音など、様々な音が聞こえます。

MRI検査の騒音は、検査の最大の難点の一つとされています。近年では、騒音を低減するための技術開発が進められており、静音性の高いMRI装置も登場しています。しかし、完全に騒音を無くすことは難しく、多くの場合、耳栓やヘッドホンを装着して検査を受けることになります。

MRI検査の騒音について、さらに詳しく知りたい場合は、以下の情報も参考にしてみてください。

令和元年    4月 脳MRI検査の結果2ヶ月後の撮影に変更(2週間→1ヶ月(1回 4/4)→2ヶ月).

         五苓散,イルアミクス(トラネキサム酸は使用中止)