キカラスウリは、古くから民間薬として使用されてきた.日本薬局方では使用部位によって生薬の名称が異なる.その有効成分の研究についてまとめてみた.
日本薬局方
使用部位によって以下の生薬名で収載されている.
日局カロコン(栝楼根)
キカラスウリTrichosanthes kirilowii Maximowicz var. japonica Kitamura のコルク層をできるだけ除いた根
日局カロニン(栝楼仁)
キカラスウリTrichosanthes kirilowii Maximowicz var. japonica Kitamura の根茎
梧楼根は日本薬局方に収載されている生薬で, 邦産のウリ科植物キカラスウリ (Trichosanthes kirilowii MAXIM. var. japonicum KITAM.), オオカラスウリ (T. bracteata VolGT), 及び中国産 T. kirilowii MAXIM の皮層を除 いた根である. また梧楼根は神農本草経の中品に記載され, 傷寒論以来漢方の要薬として解熱, 止渇剤とし, 柴胡桂枝乾姜湯, 柴胡清肝湯, 梧楼桂枝湯などに処方されている.
キカラスウリの成分研究
キカラスウリの根の成分の単離および構造決定は昭和薬科大学 の北島 潤一,田中 靖子等によって核磁気共鳴法および質量分析法を駆使して行われている.大半は既知の化合物であり,苦味成分であるcucurbitacin類については別の研究者によってルリハコベから単離されたcucurbitacinのスペクトルデータと一致することを明らかにしている.
栝楼根類生薬の成分に関する研究(第1報)キカラスウリ根の成分 薬学雑誌 109(4). 250-255(1998).
栝楼根類生薬の成分に関する研究(第2報)カラスウリ根の成分 薬学雑誌 109(4). 256-264(1998).
第2報では,配糖体の構造解析が報告されている.
ククルビタシンA
その後,各種のククルビタシン誘導体(cucurbitacin A〜T, Mを除く)が20個程度単離され構造決定されている.そのうち6種類について,単結晶X線解析が行われている.CCDCに登録されている結晶データからcucurbitacin Eとneocucurbitacin Dを以下に示した. なお,cucurbitacin Bは抗腫瘍活性がある.
A環がラクトン構造に変化
neocucurbitacin D 2019
cucurbitacin E 2004
Cucurbitacin G sesquihydrate 2011
isocucurbitacin G dihydrate 2011
Isocucurbitacin H methanol solvate 2011
Cucurbitacin J sesquihydrate 2011
今世紀になってからのキカラスウリに関する研究論文をいくつか以下にご紹介した.キカラスウリの果実を乾燥させて粉末にした「天花粉」を用いて, マウスに天花粉を投与した結果である.
【キカラスウリの去痰作用に関する研究】
石川県立大学農学部・山本 淳一ら(2008):痰の量と粘度が減少し、痰の排泄が促進されることがわかった。また、天花粉は、痰の粘着性を抑制する作用も確認された。
【キカラスウリの鎮咳作用に関する研究】
大阪市立大学医学部・中川 智子ら(2011):咳の頻度と強度が減少することがわかった。また、天花粉は、咳を抑制する神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を抑制する作用も確認された。
【キカラスウリの抗炎症作用に関する研究】
中国の北京中医薬大学・王 国平ら(2006):炎症性サイトカインの産生が抑制され、炎症が抑制されることがわかった。また、天花粉は、炎症を起こした組織の修復を促進する作用も確認された。
【キカラスウリの抗腫瘍作用に関する研究】
中国の上海中医薬大学・李 宝華ら(2009):腫瘍細胞の増殖が抑制され、腫瘍の縮小が確認された。また、天花粉は、腫瘍細胞の死滅を促進する作用も確認された。
ウリ科(キュウリ、メロン、スイカ)のへたに近い部分に苦味成分としてククルビタシンが含まれている.キュウリに含まれるククルビタシンCは強い抗酸化作用を有しているため,淡色野菜の中の抗がん物質として注目されている.
ククルビタシンC
参考資料
栝楼根類生薬の成分に関する研究(第1報)キカラスウリ根の成分 薬学雑誌 109(4). 250-255(1998).
栝楼根類生薬の成分に関する研究(第2報)カラスウリ根の成分 薬学雑誌 109(4). 256-264(1998).
キカラスウリ | 薬草データベース(熊大薬学部)
キカラスウリ | 学校法人 東邦大学 薬学部付属薬用植物園 煎じ方等が紹介されている.
(2025.5.20)