毎年夏になると,隣家のキカラスウリの猛襲に悩まされてきた.キカラスウリは漢方薬でもあり,栽培しているのかも知れないので,放置していたら,境界線を越えて我家のモッコウバラに絡まるのでヒゲを毎朝ハサミで切っていた.我家へ侵入できないとなると,隣家の樋を伝って電灯引込線,通信線に沿って縦横に蔓延り,ついには三階のひさしまで到達する有様であった.
ところが、今年は今のところ侵入してくる気配がない.
以下,キカラスウリについて復習してみた.
カラスウリとキカラスウリ(ウリ科)
日本中のあちこちに生えているウリ科の多年生草本植物である.雌雄異株, つる性植物で, 巻きヒゲによって絡みつきながら伸長する. 花は白色, 花冠は五裂し, 裂片の縁は糸状になっている. 両方とも夕方に花が開く,キカラスウリの花は昼間でも咲いているのをみかけるが,カラスウリの方は昼間に咲いているのをみたことがない.花粉媒介を担っている虫の活躍時間が微妙に異なるのだろう.また,カラスウリの花期は7月から1月くらいであるのに,キカラスウリはかなり長い間咲くようだ..
和名は果実が黄色いので, カラスウリの頭に「キ」をつけてキカラスウリというらしい.カラスウリとはいえ,カラスが食べる光景は見受けないようである.以前,ヒヨドリが実をつついているのをブログで紹介したことがある(次図).
キカラスウリは,古くから民間薬として,以下のような薬理作用を期待して,使用されてきた.
去痰作用,鎮咳作用,鎮痛作用,抗炎症作用,抗菌作用,抗腫瘍作用
薬用には根を用いる.生薬名をカロコン(か楼根)といい,解熱や鎮咳などを目的に用いられる. 根に含まれるデンプンは吸湿性が高く,かつて「天花(瓜)粉」の名でベビーパウダーとして利用されていた.最近は,局所保護作用をもつタルク(含水ケイ酸アルミニウム)などの無機質結晶質物質を主成分とした素材に取って代わられた経緯がある.
成分の詳細は別稿で紹介したい.
追記 救荒食品として
亨和2年(1802年)米沢藩が備荒事業 (災害対策)のため領内に頒布した救荒食品の解説書である「かてもの」には, 以下のように記載されている.
かからすうり くきも葉もやはらかなる時ゆびき食ふ又かて物とす
からすうりの根 皮を去白き所を寸々に切一日に一度づゝ水をかへてひたす事四五とにして搗たゞらし汁を取水飛する事十篇あまりし餅だんこにして食ふ
「かてもの」については2月20日のブログで紹介した.
かてもの (米と混炊, 備荒事業, 米沢藩. 上杉鷹山, 亨和2年)
参考資料
栝楼根類生薬の成分に関する研究(第1報)キカラスウリ根の成分 薬学雑誌 109(4). 250-255(1998).
栝楼根類生薬の成分に関する研究(第2報)カラスウリ根の成分 薬学雑誌 109(4). 256-264(1998).
キカラスウリ | 薬草データベース(熊大薬学部)
キカラスウリ | 学校法人 東邦大学 薬学部付属薬用植物園 煎じ方等が紹介されている.
(2025.5.20)