古文書勉強サイト
象の旅
象の旅
くずし字解読アプリの登場で,古文書の勉強がかなり捗るようになった.しかし,自学には解読結果がどの程度正確かを知る必要があり,古文書,解読文,読み下し文の3点を揃えて公開しているサイトが必要である.以前に紹介した静岡県立中央図書館(静岡県歴史文化情報センター)の「くずし字解読講座 テキスト一覧(古文書解読)」は典型的な自学サイトである.今回紹介する「岡山県立図書館 電子図書館システム」の「デジタル岡山大百科」の中にこの条件を満たしている資料がある..資料名は,「享保十四年己酉 象御領内通候一件」(90ページ)である.
本資料については,「地域の近世文書を読み解く学習用コンテンツ」として以下の位置付けがされている.
概要:地域の近世文書を読み解く学習用コンテンツ ・池田家文庫(岡山大学附属図書館所蔵)の岡山藩政史料のなかで、くずし字の体裁、内容、数量などの点から、享保14年「象御領内通候一件」を選びました。 ・将軍吉...
作成者・作成団体:中野 美智子 ・ 吉光 紀行
公開日:2014-12-11
データベース:郷土情報データベース
■地域の近世文書を読み解く学習用コンテンツ
・池田家文庫(岡山大学附属図書館所蔵)の岡山藩政史料のなかで、くずし字の体裁、内容、数量などの点から、享保14年「象御領内通候一件」を選びました。
・将軍吉宗に献上されるベトナム象が長崎から江戸へ上る道中、岡山藩領内を通行した時の記録です。岡山藩と長崎奉行、中国路(山陽道)の諸藩、及び藩内の江戸・国元間で実際に取り交わされた通達、書状、上申書、報告書などの書類を藩庁の留方(とめかた)が永久保存のため清書し、編冊したものです。今日では享保の象に関する希少史料の一つといえます。
・原文の解読文と読み下し文、それに用語説明をつけたものです。いずれも凡例によって作成しています。
■古文書アクセス利用のための工夫点
・原文を確かめながら読めるように原史料の全文の画像を表示しました。
・画像と解読文、読み下し文をセットにし、それらをWebの1ページ内で閲覧できるように編集しました。原文を参照しながら読み解きをすることができます。表紙を除いて90ページあり、通し番号を付けています。
・史料の画像はクリックで拡大・移動できます。全体、及び左右別々に拡大して移動し、解読文や読み下し文と照合することもできます。
・解読文、読み下し文、用語説明の凡例は、トップページから参照することができます。
・解読文には、初出の用語(青字、傍線)に適宜、説明を付けています。マウスをおくと、ポップアップ表示により説明文を参照することができます。
・トップページから五十音順の「用語説明表」を開き参照することもできます。
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表記の資料は,変色しているが,画像表示アプリ(Macの場合,Preview)で少し明度を上げると右上図程度まで改善する.もともと古文書は変色しているものが多く,原本に馴れる必要があるようだ.本資料の場合,少しづつ読み込んでいけば,巻末(90頁)に達する頃にはかなり上達するはずである.
享保十四己酉年四月交趾国象上京之次第記について
類似の資料はないかといろいろ調べてみると,「象の旅」の16頁の記述とほとんど同じ文章が関西大学デジタルアーカイブの「享保十四己酉年四月交趾国象上京之次第記」の中に記されていることが分かった.しかも画像がIIIF対応であり,KuroNetを利用して解読することができる.
象
巻 御用み象壱疋江戸へ差立候
間入?之品井人馬無御差出候大
垣迄み泊付左記伝共風雨強き
節或は人馬ニ云船渡汐時ら考も
有之候付き自然二三日も遅滞て有
之哉と存候尤一日ニ五六里ならては
難章候間自然泊宿相迄候其事
領民々者方分追酒可致候い上
象
此度御用の象壱疋江戸へ差立候
間入用之品并人馬無御差出候大
垣迄の泊付左記得共風雨強き
節或は人馬ニ云船渡汐時の考も
有之候付自然二三日も遅滞て有
之哉と存候尤一日ニ五六里ならては
難牽候間自然泊宿相迄候其事
領の者方ゟ追触可致候 以上
国文学研究資料館には 『御用象本坂通之節御触書之写』の資料がある.長崎から江戸までの道程で,像に関する注意事項を周知させるため「お触れ」を出して周知させている.その現代語訳が紹介されている.
以下は「みを」と「古文書カメラ」による解読結果であるが,一部不確実な部分が存在する.
御用象本坂通之節御触書
一象無常を嫌ひ云犬猫之声を嫌ひ申付通
当日は一切差置不申候由
一油屋鍛冶屋家作普請等音高騒度義一切相止申候
一まんじうの儀米まんじうではなく麦饅頭
八拾程用意仕内弐三拾八あん入に致候由
一笹葉之儀何笹ニても不苦候由
一いたぶかづら之儀書付之通ニ無之候而相済
不申由尤姫草ハ少ト無数候而不苦候由
一大唐米之儀四升程飯ニ焼象遣相渡し候由
一見物人廉を下ケ差置候由象通筋指?
構?ニ成候所ハ門或者家ニ而宅取家退申候由
一筵三四枚程入用是ハ象給物之敷建之由
古文書の内容が難しい事柄ではないので,文言の意味を考える必要がなく学習用コンテンツとして取っ付き易い.スマホを利用した「みを」や「古文書カメラ」等の解読アプリを利用すればかなりの確度で読めるようになるはずである.
参考資料
岡山県立図書館 電子図書館システムデジタル岡山大百科」「享保十四年己酉 象御領内通候一件」
関西大学デジタルアーカイブ「享保十四己酉年四月交趾国象上京之次第記」
国文学研究資料館 『御用象本坂通之節御触書之写』
(2024.5.21)