「かてもの」は, 亨和2年(1802年)米沢藩(山形県)が備荒事業 (災害対策)のために発行 した 救荒食品の解説書である.「かて もの」の 「かて」は 「繰」であり,「繰」は「米をたくのに他のものを加えること」であり,「 かてもの(揉物)」は 「米と混炊するもの」 という意味とのことである.
「かてもの」に関する情報収集は, 上杉鷹山(1751-1822)が天明3年(1783)の大凶作の体験に基づいて着手したもので, 花戸善政が鷹山の意を継いで完成させたものである.まず医師に命じて, 通常は食べない植物の中から食用となりうるものを選ばせ,江戸の本草学者佳藤成裕(通称,平三郎)に依頼して検討させたものを善政自身が著し,藩主治広の侍医等(矢板栄雪, 江口元沢, 水野道益,堀内忠意,高橋玄勝)に,試食させて確かめた上,丸山蔚明が清書し,亨和2年(1802)10月.費用140 貫898文を投じて1575冊を製本し,領内に広く配布した.
史料原本は,国会図書館デジタルコレクションやROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH),国文学研究資料館等で閲覧可能である.原本とくずし字を翻刻した結果を同時に見るには,国文学研究資料館の国書データべースに登録されている「かてもの」にアクセスするとよい.下部に「翻刻テキスト」が自動表示され,ページを進めると翻刻も更新するようにセットされている.
「かてもの」の解説書としては,「高垣順子 調理科学 Vol. 6 No. 3 (1973)52頁」がダウンロードできる.
82項目の植物について,記載名,和名,選定根拠別分類(a b c d),食用部位 ,調理法 貯蔵法(生,茹煮,揉物,焼,粉,千燥,塩蔵,その他,備考)の一覧表が記載されている.なお,著者は82項目として82種としなかったのは,「 わ らび」「わ らび粉」,「からすうり」「からすうりの恨」,「くぞの葉」「くずの根」というように, 同一植物でありながら2項目にわかれて書かれているところが3個所あり, 種類でいうなら79種とすべきと記している.
史料解読結果と解説書を参考にして,植物の名前,食用部位を以下に記載した.意外な植物が含まれているのに注目してほしい.
い
いたどり イタドリ 若茎葉全草?
どうぐひ オオイタドリ 若茎葉全草?
いちび イチビ 実
は
はすの薫 ハスの葉 葉
ほうきゞ ホウキギ 葉
はたけしちこ (ははこぐさ) ホウコグサ 茎、業
はぴゃう イヌビユ 若茎葉全草?
はしばみ ツノハシバミ 実 (内仁)
ほ
ほど ホド 根
へ
へびあさ ハンゴンソウ
と
ところ トコロ 根
とうごぼう ヤマゴボウ
どほな イヌドウナ
どろぶ ドロノキ
とちの実 トチノキの実
ち
ぢたぐり(ちんだぐり) クヌギ ミズナギ 実?
を
をけら オケラ 若葉,根
をゝづちは オトコエシ 若葉
わ
わらび ワラビ
わらびの粉 根
か
からすうり カラスウリ キカラスウリ 若茎葉
からすうりの根 カラスウリの根 根
かたゝご カタクリ 根
かやのみ カヤ,イヌカヤの実
がば ガマ 新芽,根
からすのや タウコギ 若茎葉?
かはらちゃ(あはたち) カワラケツメイ 若葉
かわほね コウホネ 根
かはらしちこ カワラホウコ 茎,葉
かやな コウゾリナ 若茎葉?
がつき マコモ 新芽,葉
よ
よしびこ(あしつの) アシ(ヨシ) 新芽
よもぎの葉 ヨモギの葉
た
たびらこ タネツケバナ 全草
つ
つゆくさ ツユクサ 全草
う
うばのち(うつほぐさ) ウツボグサ 若業
うるゐ オオバギボウシ 若葉葉柄?
うしひる ギョウジャニンニク 根
うしひたい ミゾソバ 茎,業
の
のにんじん コシャク 若葉?
のゝひる ノビル 鱗茎,茎葉
のこぎりは (われもこう) ワレモコウ ナガボノシロ ワレモコウ 若茎葉?
のぎく ヤマシロギク ノコンギク ユウガギク ヨメナ 若業
く
ぐじな(たんぽぽ) エゾタンポポ 全草?
くわんそう ノカンゾウ 新芽、花、根
ヤブカンゾウ
くぞの葉 クズの葉 若葉
くずの根 クズの根 根
や
やちふき サワオグルマ 若茎、 根生薬?
やまごぼう オヤマボクチ 若葉,根
やまうつぎの (がざは づくなし) タニウツギの葉 若葉
ま
またびの葉 マタタビ 若葉?
まめ ダイズ 実,葉
まゆみの葉 マユミの葉 若葉
ふ
ふき フキ 葉、茎
ふなの木の葉 ブナノキの葉 若葉,実
ふじの葉 フジの葉 若葉
こ
ごんがらび (ごがらび) イケマ 若葉
こうくり ベニバナ 若葉
こうずの葉 コウゾの葉 若葉
こくさぎ コクサギ 若芽?
あ
あかざ アカザ シロザ コアカザ 若茎葉?
あさづき アサツキ アズキの葉 葉
あづきの葉 アヅキの葉 葉
あざみ ナンプアザミ (ヒメアザミ) ,ダキバヒメアザミ 若茎葉?
あめふりばな (ひるがま) ヒルガオ 根,茎,葉
あさしらげ ハコベ 茎,葉
あいこ ミヤマイラクサ 若茎葉
さ
ささぎの葉 ゴガツササゲ ツルナシインゲンマメ 十六ササゲ] 青葉,つる
さわあざみ (サワアザミ) 若茎葉?
さいかちの葉 サイカチの葉 若葉
さるなめしの葉 リョウブの葉 若葉
き
ぎしぎし(とこわか) ギシギシ 若葉
ゆ
ゆり オニユリ 鱗茎
ウバユリ コオニユリ クルマユリ ヒメサユリ ヤマユリ
め
めなもみ(なもみ) メナモミ 若葉
み
みつはせり ミツバ 葉,根
し
しゃぜんそう(かいるば) オオバコ 若茎葉?
しだみ コナラ 実?
ゑ
ゑご名 ヒメザゼンソウ 若葉,葉柄?
ゑんじゅの葉 イヌエンジュの葉 若葉
せ せぜんまい ゼンマイ 幼茎葉
す
すぎな スギナ 若菜,胞子,茎?
すめりひょう (すべりひゅ)スベリヒユ 茎葉全草?
すひかずら スイカズラ 茎葉全草?,若葉,花
日本古典籍のIIIF Tsukushi Viewerによる翻刻
1コマ
かてもの
3コマ
か手物
凶年備の事年来御世話の下作末
深き気遣は有ましく其年次に当らは
猶も御手当の事はいふまてもなく候へとも
行立かたきものもあるへく又二年三年
つゝきての不作も知へからす然らは飯料
は余計にたくいふへく麦そば稷ひえの
蒔植より菜大こんの干たくはへまて年々
4コマ
の心遣はいふまてなく其外もろ〱の
かて物をは其相応にまじへて食ふへきニ事候
然とも其品其製法を知らすして生をあや
まる事の御心元なく広く御医者
衆におほせてかて物になるへき品々其
製法まてを撰はせられ候間民々戸々
豊なるけふより万々一の日の心かけ
いたすへく候
○い
いたどり くきのふとくはの大なるをどうぐひと云 能ゆびき麦か米かに炊合てかて物とす 但妊婦は食へからす
いちび 実をいちびまんでうと云 実をとり生にて食ふ 干てひき粉にし餅団子にしても食ふ
○は
はすの葉 ゆびき食ふ又かて物とす
5コマ
はうきゞ 葉をゆびき食ふ又かて物とす
はたけしちこ はゝこぐさとも云 茎も葉も灰水にてゆて米の粉へまじへ餅団子にして食ふ
はびやう ゆびき食ふ又かて物とす 但鼈とくひあはせへからす
はしばみ 飢を助るもの
○ほ
ほど 根を能々煮て塩をくはへ食ふ
○へ
へびあさ ゆびき食ふ又かて物とす
○と
ところ 横に切能々煮て流水に一宿ひたせは苦味よく去又灰水にてよく煮二宿ほと水にさはしかて物とす 但老人或病後の人又は病人なといふほとのものは食へからす
6コマ
附久しく食してもし大便つまらは白米を稀粥にして度々のむへし泄瀉して毒消
とうごぼう 根も葉もゆでゝ食ふ又かて物とす 根に赤きあり黄なるあり白きあり白きを食へしうすくへきながれに二宿ひたし大豆の葉を甑に
し段々へだめに入て蒸事六時ばかりにして食ふまめの葉なくは大豆を用てよし又灰水にてよく煮度々水をかへ二三宿ひたしさはしたるもよし
どほな 嫩葉をゆびき食ふ又かて物とす
どろぶ わか葉をあく水にてゆて水をかへゆびきさはしかて物とす
とちの実 水をかへ煮事十四五度し
7コマ
むして食ふなかれに一宿ひたせは一度煮てもよし又日に干火棚にあけ置干あかりたる時あつき湯へ入とりあけ物を以打て皮を去なかれにひたす事二三日してとりあけ灰をまびりねせ置事又二三日し実を刻中に白き色なくみな黄色に成たる時灰気を洗さり糯米にまじへて餅としのし置あぶりて食ふ又かて物とす
○ち
ぢたぐり ぢんだぐりとも云 水をかへて煮事十四五度しよくむして食ふなかれに一宿ひたせは一度煮てもよし又かて物とす
○を
をけら わか葉をゆひき食ふ又かて物とす根は黒皮を去うすく切二三
8コマ
宿水にひたし苦味をさりよく煮て食ふ
をゝづち はわか葉をゆびき水に二三べんさはして食ふ又かて物とす
○わ
わらび 細にきざみ灰水にて能煮て水をかへ二三宿さはしぬめりを去てかて物とす又なかれに二三宿ひたせは食やすし
わらびの粉 二月三月八月九月の比根を掘とり洗浄の杵をもてよくたゝき桶に入水を入てよくもみとり上てたゝき又其桶に入て能もみ黒く筋立たる
ものをとり去桶の水をかきたて布にてこし滓をさり沈め置けは粉は桶の底に溜る其たまりたるを幾度も水飛し真白に成たるを灰の上へ紙か筵かを
9コマ
敷て上置て水気をぬき干揚て米の粉か麦の粉か又こぬかなとをまじへ食ふへしわらびの粉ばかりは食へからす附わらび縄は常のなはにくらべて倍々
つよしいたつらに捨へからす右のことく黒く筋立たるものを取上日に干置て縄になうなりなはになうにはさつと湯をもてしめしてなうなり
○か
からすうり くきも葉もやはらかなる時ゆびき食ふ又かて物とす
からすうりの根 皮を去白き所を寸々に切一日に一度づゝ水をかへてひたす事四五とにして搗たゞらし汁を取水飛する事十篇あまりし餅だん
こにして食ふ
10コマ
但わらひの粉と食まじゆへからす附此毒にあたらは白米をひきはり粥に煮て湯のことくし塩か焼みそをまじへ度々吮へし
かたゝご 葉はほして食ふ生にては腹下るなり根を粉にしたるをかたくりと云製方からすうりとおなし附此毒にあたらは白米をひきはり粥に煮て湯のことくし塩かみそをまじへ度々吮へし
かやのみ 炒て皮をさり搗て粉にしこうせんにして食へし又麦を粉にしまじへて食ふ
がば おいはだちを食ふ根に近き白き所をとりはぎてゆびき食ふ又むして食ふもよし又根をとり簾皮を
11コマ
はぎさりゆてさはし臼にてつき米の粉にまじへ団子にし食ふ又晒ほし臼にかけひきて餅にまろめても食ふ
からすのや ゆびき食ふ又かて物とす
かはらちや あはたちとも云わか葉をよくゆびき水にさはし食ふ又かて物とす
かわほね 根をとり皮を去さいのめにきざみ米泔水に二宿ばかりひたしよくあらひ又しろみつにてゆで又水に一宿ひたしかて物とす生にては食ふへからす
かはらしちこ 製方はたけしちこと同し
かやな ゆびき食ふ又かて物とす
がつき おいはだちをゆびき食ふ実は舂てつぶとなしかて物とす
○よ
12コマ
よしびこ あしつのとも云おいはたち肉厚くしてやはらかなりゆびき食ふ又かて物とす
よもきの葉 灰水にてゆびきかて物とす
○た
たびらこ 能ゆびき水にさはして食ふ又かて物とす
○つ
つゆくさ 嫩苗葉をゆびき食ふ又かて物とす
○う
うばのち うつぼくさとも云 わか葉を灰水にてよくゆて水に二宿ほと漬置て食ふ又かて物とす
うるゐ ゆびき食ふ又かて物とすうしひる根をとり灰水にて能ゆて
13コマ
かて物とす
うしひたい 茎も葉も能ゆびきかて物とす
○の
のにんじん ゆびき食ふ又かて物とす
のゝひる 苗根をとりゆびき食ふ又かて物とす
のこぎりは われもこうとも云 ゆびきさはし細にきざみねばりをもみさりかて物とす又ねばりを去ほして臼にてつき米の粉にまじへ団子にし大豆の粉をつけて食ふもよし又みそを合て焼もちにしても食ふ
のぎく わか葉をとりゆびき苦味を去て食ふ又かて物とす
○く
14コマ
ぐじな たんほゝとも云 ゆびき食ふ又かて物とす
くはんそう 苗も花もゆびき水にさはし食ふ又かて物とす根も又粉となし米の粉か麦の粉か又は米粃をまじへ餅に作り食ふ
くぞの葉 くずのはとも云わか葉をよくゆびきかて物とす
くずの根 根を堀とりつきくだき汁をとり水飛する事十篇あまりし団子にして食ふ
○や
やちふき ゆびき食ふ又かて物とす
やまごぼう 根も葉も食ふ葉はゆびき一宿水にひたし二三度水をかへかて物とす又米の粉にまじへ団子にしても食ふ
15コマ
やまうつぎの 葉がざはともづくなしとも云わか葉をゆびきかて物とす
○ま
またゝびの葉 ゆびき食ふ又かて物とす塩なくは食ふへからす
まめ むして臼にて能つき小麦を合団子にして食ふ葉はほして手にてもみゆてあけてかて物とす
まゆみの葉 ゆびき食ふ又かて物とす
○ふ
ふき 葉もくきもゆびき食ふかて物とせは灰水にてゆでなかれに一宿ひたすへし
ふきのとうもかて物とすへしゆびきて水にさはし置て後なかれに一宿ひたし苦味を去へし但毒にあたらは白米をおもゆに煮て焼
16コマ
塩をくはへ度々吮へし
ぶなの木の葉 わか葉をとり灰水にてゆてこまかにきざみ又素水にてゆびきかて物とす実をこのみといふ炒て食ふ又きなこにも用ゆ
ふじの葉 わか葉をあく水にて煮水をかへ二三宿さはして後食ふ又かて物とす味噌塩なくは食ふへからす但産婦は食ふへからす
○こ
ごんがらび ごからびとも云わか葉をゆびき水にさはし食ふ又かて物とす
こうくわ(り) わか葉をゆびき食ふ又かて物とす但妊婦又は産後又金瘡或脾胃虚の人は食ふへからす
17コマ
こうずの葉 わか葉を干手にてもみあく水にてゆて又素水にて能ゆびきかて物とす
こくさぎ 灰水にてゆびき水に一宿さはして食ふ又かて物とす但脾胃虚の人は食ふへからす
○あ
あかざ ゆびき食ふ又かて物とす
あさづき ゆびき食ふ又かゆにまじへかて物とす
あづきの葉 干て手にてもみゆてあげてかて物とす
あざみ ゆびき食ふ又かて物とす但小豆と食あわせへからす
あめふりばな ひるがほとも云根も葉も茎もゆびき食ふ又かて物とす
18コマ
但久しく食すれはあしくまれ〱に食へし
あさしらげ(ず)ゆびきさはし食ふ又かて物とす
あいこ ゆびき食ふ又かて物とす
○さ
さゝぎの葉 葉も手もゆてさはして食ふ又かて物とす十六さゝぎもりうきうさゝぎも同し
さわあざみ 灰水にてよくゆて水をかへさはして後食ふ又かて物とす
さいかちの葉 わか葉をとりゆびき水をかへさはして食ふ又かて物とす
さるなめしの葉 わか葉をあく水にてゆて素水にてゆびき能あらひ度々水をかへかて物とす
○き
19コマ
ぎし〱(ぎし) とこわかとも云わか葉をゆびき水にさはして食ふ又かて物とす
○ゆ
ゆり ゆりの名あるものは何ゆりにても食ふ又かて物とす
○め
めなもみなもみとも云わか葉をしろみつにひたし一昼夜してよくゆびき食ふ又かて物とす
○み
みつはせり 葉も根もゆびき食ふ又かて物とす
○し
しやぜんそう
かいるはとも云ゆびき食ふ又かて物とす但稷又はわらび粉と食あわせへからす
20コマ
附久しく食し惣身はれ顔色青く腹くたり或大便つまりする事あらは白米をおもゆに煮てやきみそをくはへたび〱吮へし腫ひき大便常にかへる
しだみ 水をかへて煮事十四五度してよくむし米の粉にまじへ団子にし食ふなかれに二三宿ひたせは渋味も毒も去但老人小児又は虚労の病人には食せまじ
○ゑ
ゑごな 能ゆびき煮て食ふ
ゑんじゆの葉 わか葉を食ふ製方用方のこぎりはと同し
○せ
ぜんまい 製方用方わらびと同し
21コマ
○す
すぎな 能ゆびき食ふ又かて物とす但瘡疹ある人は食へからす
すめりひやう すべりひゆとも云ゆびき食ふ又かて物とす但わらび粉と食あはせへからす
すひかづら わか葉も花もゆびきさはしかて物とす
右木葉草根は人の常に食なれぬ物にて口腹に叶はぬはいふまてなく殊に凶年に当ては身の衰に食あたりのあらん事必其節の事尤此ゑらみは御医者衆各製し嘗たる上には候へとも嘗に少しく食ふと衰たる腹に多く食ふにて違も有へく製方には
22コマ
幾はくも念を入べく又味噌塩をまじへてくはねは大事に至るよしにけへはかならすみそしほにて調食ふへく候事
○村役共常々心を用へきヶ条凶年に当て穀につぐ大事の物は味噌と塩とに候平年穀食するだにもみそしほなくしては穀の用をなさす況穀食乏しく木の葉草の根を食ふ時をや然らは塩とみそとの世話に心を尽すへし味噌仕入の法ぬか味噌の法米粃一石大豆二斗又一斗にても塩二斗又一斗五升にても大豆を釜にて煮其釜へこぬかを水にてしめり合ほとにねりて入大豆の汁にて蒸とくとよくむせたる時火を止よくつき塩こぬか大豆のおもひ合様に搗あはせ桶に入置三
23コマ
十日ほと経て用る也久しく置て変らす又法米粃一石大豆一斗酒糟一斗製法前に同し又法米粃一石酒糟一斗醤油渣一斗こぬかを釜にてよく煮て搗合する也酒糟なくは不入ともよし又法米粃八俵大豆一俵塩三斗五升こぬかはいりてほとよきしめりに蒸篭にてふかし扨さまし人肌ならん時糀室に込糀にしてましへ桶に押置也五斗味噌の法大豆一斗麹一斗酒糟一斗米粃一斗いりて入るゝ塩一斗右一同に搗合置て用ゆ麹を不入ともよし飛騨味噌の法大豆一斗塩三升常のみそのことく製し用る也末醤の法大豆一斗を能煮熟し
24コマ
臼にて搗玉となし数日を経て黄色になりたる時水にて洗ひ臼に入搗くたきふるひて細末にし塩三升を入水を合臼の中にてねりあはせ手にてすくひ上れはとろ〱とする程にして桶に入置数日を経て用れは色よく味もよしとち味噌の法橡の実を臼にて搗くたきからを去蒸篭にてむしたるを一斗へ大豆一斗をよく煮て塩六升を入臼にて同しく搗ましへ桶に押し風の入らぬ様に封して置也凶年用心囲味噌の法大豆一升へ塩七合を合て仕込置なり五六年目に払て又仕込置
○か手物の心懸に蒔植置へき物
25コマ
大こん
かぶらな
ごぼう
此三種今年の作毛覚束なきといふ年次には必山或荒野薮地なと堀返して種を多くふりまき置へし其年のかて物をも足し又其根の残り其実の散たるか来年にさかへてかて物の用をなし後々は自然生となるなり
やまのいも やまいもの実をむかこと云此むかこを垣のほとり或山或荒野薮地なと堀返して蒔おけは年々にふとりて飢を助け又常に堀出して売たるも利あり年々無用の地へ蒔ちらすへし
26コマ
にかゆり実をとり薮地或河原前なと堀返し蒔ちらすへし
○干かて数年を経て変らぬ物ゆり秋堀とり洗ひゆてゝ干寒中の水に漬をき春にいたりて又干臼にてつき粉にして囲ふいものこ雪の中にてよくしみらかし干て粉にし囲ふいものくき干て囲ふわらびかて物にする程に細に切ほして囲ふあかざ干て囲ふくはひ秋堀とり洗ひ二ツ三ツにきり干て囲ふ寒中の水に漬置春の日にほして囲ふは猶よし用る時臼にてつき粉にし雑穀の粉にあはせ団子
27コマ
にして食ふ
かわほね 根を掘とり泥を洗ひよくゆてゝ其まゝ水にひたし二三日を経て取上きざみ干て囲ふ用る時の製方前に同し
ちんだぐり 落る時ひろひ干て少し口のあきたる時臼にてつき箕にてからをふき去篭に入滝かながれにひたす事十日はかりして取上干て俵に入て囲ふ用る時の製法前に同し
草木のもへはたち 去年の凶作に今年必食物乏からんといふ其春は何木にても何草にても嫩芽嫩葉を摘とりゆひき干一人のつもり五七俵八九俵も囲ひてかて物を足すしへ嫩芽嫩葉のゆひきほしたるは草も
28コマ
木も大かたは毒なしと云然といへともどくだみとりかぶと大せり鬼せりなといふたくひは必のぞくへし
○魚鳥獣肉の心かけ 凶年ならぬたに魚鳥毛ものゝ肉を食はねは生を養ふの助少し況老たるものは肉にあらされは養ひかたし殊凶年穀食乏しきをやからる年次によきものあたへかたきはいふまてもなし責ては塩いはしほしこにしんなとの類まれ〱にもあたゆる心つかひも其世話の一なるへし野猪の肉を厚サ二三寸長サ六七寸に切蒸篭にてむしたるを取上灰をぬり縄にてあみ火にほしかため火棚か梁のうへかなとにつるしをけは数十年を経て変らす
29コマ
用る時はあくを洗ひおとし小刀にてけつり用るに鰹節におとらすといふ但能々むして脂を去らされば虫ばみて永く囲ひかたしよく〱むすへし然らは野猪ばかりにも限へからす何毛ものゝ肉も同しなるへけれは是等の心かけも亦其心懸の一なるへし又田螺もからを去ゆてゝほし囲へは幾年を経てもむしばますと云魚鳥毛ものゝあふら尤以衰たる腹を養ふへし是も亦心得の一なるへし右は今の豊なる日に能々心得させよとの御事ニ候条油断すへからさるもの也
享和二年三月中条莅戸
注)ゆびき【湯引き】料理で熱湯にさっと通したり.熱湯をかけたりして.材料の表面だけに熱を通すこと
「かてもの」では,食用になる草木を紹介した後「魚鳥獣肉の心がけ」の項目を設けて,動物性のたんぱく質を摂ることを勧めている.「かてもの」は,江戸時代の飢饉を乗り切るらめの手引書であったが,第二次大戦後の食糧難にも役に立ったと言われている.ところで,「度重なる飢饉の際,薩摩芋は役に立たなかったのか」という質問をウエブ上で見かけることがある.調べてみると,東北地方で薩摩芋栽培が可能になったのはもっと後になってからである.最近は,農研機構が開発した「ゆきこまち」や「べにはるか」などの寒冷地向きの品種を使用するようである.
◯「かてもの」と類似の史料(草木絵図)
「かてもの」は文字による説明だけであるが,挿絵付きの史料(便覧,図録)も存在する.同じ時期に執筆された備荒草木図(そうもくず)である.著者は陸奥国一関藩の藩医,建部清庵(1712―82)であり,宝暦5年(1755)に東北地方で起きた大飢饉の経験が「食用にできる自生植物」の調査,研究の動機になったと言われている.原稿は明和8年(1771)に完成していたが,印刷されたのは62年後の天保4年(1833),「天保の飢饉」が始まった時であった. スミレ・キキョウ・ヘチマ・クヌギなど食用可能な草木百数種の調理法が詳しく記されているほか,一関藩士北郷子明が描いた草木図を載せている.
詳細は以下の資料を見てほしい.
資料
国立公文書館 飢饉 - 天下大変
47. 備荒草木図そうもくず
48. 救荒便覧べんらん
49. 凶荒図録きょうこうずろく
◯「かてもの」原本のアクセス
国文学研究資料館の国書データべースに登録されている「かてもの」にアクセスするのが最もシンプルである.下部に「翻刻テキスト」が自動表示され,ページを進めると翻刻も更新するようにセットされている.
日本古典籍との生成AIチャットの場合も「𠩤本」及び「くずし字解読結果」を読むことができる.「解読」するには,IIIF Tsukushi Viewerで生成AIチャットを使う にアクセスして,図のコマ数を指定し,ページリストを開き「テキストを表示」をクリックする.
解読結果はそのまま「折り畳み文書」として掲載した.AIに現代語訳してもらうことも可能である.
(2025.2.20)