脱炭素化の主役として活躍しているシリコン系太陽電池に代わる次世代の脱炭素化技術と期待される「ペロブスカイト太陽電池」は,桐蔭横浜大学の宮坂力教授等によって開発された.軽くて薄く柔軟な特性を有するため,耐荷重の低い屋根や壁面など既存の太陽電池は設置できない場所での利用が見込まれている.政府の強力な量産化に向けた支援策もあり,開発当初は3〜4%であった変換効率は最近ではシリコン太陽電池にせまる変換効率を示す素子を印刷法で作る技術が実現している.
ペロブスカイト太陽電池は,原料的にも国内で調達できるため,コスト的にも安価であるが, 耐久性に劣る欠点があり,それを克服する努力が続けられている.その研究の一端を紹介したい.
ペロブスカイト太陽電池の模式図
結晶構造はA. B, Xの3つのパートに分けることができる(図の出典 資源エネルギー庁のホームページ).
Aサイト: CH3NH3+、NH2CHNH2+、Cs+、Rb+
Bサイト: Pb2+、Sn2+、Bi2+
Xサイト: I–、Br–、Cl–
Aサイトの有機カチオンは, それぞれMA(メチルアンモニウム), FA(ホルムアミジニウム)と略されて表現され, ペロブスカイト太陽電池本体は
NH3CH3PbI3 (MAPbI3), NH2CHNH2PbI3 (FAPbI3)のように略記される.
各パートの置換基,原子の組み合わせにより種々の化合物が可能である.それぞれは光に対する特性が異なる.
ペロブスカイト太陽電池は, 薄膜形成と塗布プロセスによって作ることができる. まず, 原料を含む溶液を, 金属酸化物(チタニアやアルミナ)の膜上に塗布してペロブスカイト結晶薄膜を形成する. この薄膜は波長800nmまでの可視光を吸収できる性能を持つている. その上層に, プラスの電気(正孔)が集まる有機の正孔輸送材料を接合して薄膜セルを作る. ペロブスカイト太陽電池は容易に作成できるため. 高校生向けの実験手順書が公開されている. ペロブスカイト太陽電池の基礎(PDF)
【岡山大学】次世代太陽電池・ペロブスカイト太陽電池の欠点を補完する画期的な添加材“ベンゾフェノン”を発見!~性能と耐環境性の向上により、再生可能エネルギーの発展に貢献~
<発表のポイント>
ペロブスカイト太陽電池の性能と耐環境性を向上する添加剤“ベンゾフェノン(BP)”を発見しました。
BPを添加したペロブスカイト太陽電池において、室温・湿度30%の環境で700時間経過後も90%の性能を保持する高い安定性を実現しました。対照的に、BPを添加しなかった場合、電力変換効率(PCE)は急速な劣化を示し、同じ条件下で300時間以内に初期値の30%しか維持できませんでした。
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン太陽電池に比べて、作製工程が容易で、フィルム状の柔軟な太陽用電池が作製でき、発電効率が同程度であることから、安価で様々な場所に活用できる太陽電池として期待されています。しかし、ペロブスカイト材料の環境安定性が低いことが大きな課題でした。
今回の研究では、ベンゾフェノンという分子を添加剤として用いることで、ペロブスカイト太陽電池の性能と安定性を向上することに成功しました。高性能・高安定性のペロブスカイト太陽電池は、今後エネルギーハーベスティングやInternet of Everything(IoE)の発展に大きく寄与します。
図1. (a) ペロブスカイト太陽電池の模式図。(b,c) 添加材(b)ありと(c)なしの場合のペロブスカイト太陽電池の出力特性。(d) 電力変換効率(PCE)の劣化特性
本研究では, 低分子添加剤であるBPがペロブスカイト太陽電池の性能と安定性に及ぼす影響を調べるため, FAPbI3のペロブスカイト前駆体溶液にBPを導入し, ITO/PEDOT:PSS/BP:FAPbI3/PC60BM/BCP/Ag の積層構造を持つ太陽電池を作製した(略号は文末参照).
最適濃度(2mg/mL)のBPを添加すると,太陽電池の出力特性(電流-電圧特性)に現れるヒステリシスを抑制するとともに,太陽電池の電力変換効率 (PCE) はBP無添加の13.12%から18.84%へと大幅に向上した.BPベースの太陽電池は,相対湿度30%の大気中,25℃で700時間保存した後も初期PCEの90%程度を維持した.BP無添加の場合は,同じ条件下で300時間以内に初期値の30%しか維持できていない.
次に、BPの添加がペロブスカイト薄膜の表面形状と結晶性にどのような影響を与えるかを調べるため.BPを添加したペロブスカイト薄膜と添加しなかったものを走査型電子顕微鏡(SEM)で比較した.その結果, BPを無添加の場合は.太陽電池の性能を阻害する多数の結晶粒界(GB)が観測されたが, BPを2mg/mL添加すると,結晶が大きくGBの少ないより滑らかで緻密なペロブスカイト薄膜が得られた. この膜質の向上により,太陽電池の性能と環境安定性が向上すると考えられる.BP添加によるペロブスカイト太陽電池の性能と安定性の向上は,ペロブスカイト膜の粒界不動態化に起因すると考えられる.X線回折による構造解析から,BPの添加で光に対して不安定なδ相から, 安定なα相FAPbI3への構造変化が促進されたことが明らかになっている. ー図2はPDF版を参照ー
ペロブスカイト太陽電池が発明されたのは2009年である.当初,3%程度であった変換効率は5年位の間に15%程度に達し,最近ではシリコン系太陽電池の22%に迫っている.耐用年数も5年程度と言われていたが, 高機能材料を光電変換層に被覆することで, 結晶構造中の材料の分離を抑制することにより,大幅な耐久性の向上が期待できるとのことである.今回紹介したベンゾフェノン添加法を併用すれば,シリコン系太陽電池を超える耐久性を有するパネルが実現できると思われる.このような背景もあり, ペロブスカイト太陽電池は、ノーベル賞の有力候補に挙げられているが, 実現するには. 広範な実装を待つ必要があると思われる.
ITO/PEDOT:PSS/BP:FAPbI3/PC60BM/BCP/Agについて
BP ベンゾフェノン(PhCOPh)
ITO:酸化インジウムスズの略称. 透明導電膜として用いられる.
PEDOT:PSS:ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の分散体の略称て. ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層として用いられる.
PC60BM:フェニル C61 酪酸メチルエステルの略称. ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層として用いられる.
BCP:バソクプロインの略称, 有機層—金属界面の特性を向上させるためのバッファ層として 用いられる.
参考資料
【岡山大学】次世代太陽電池・ペロブスカイト太陽電池の欠点を補完する画期的な添加材“ベンゾフェノン”を発見!~性能と耐環境性の向上により、再生可能エネルギーの発展に貢献~
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(後編)、~早期の社会実装を目指した取り組み 資源エネルギー庁。
(2026.1.10)