(てつ)はもっとも身近にある金属元素で、地球全体では存在量トップの元素です。

地殻は、融けた鉄の球の表面に浮いたケイ酸塩の皮で、地球内部はほとんどが鉄とニッケルです。

地殻における存在量も大きく、ざっくり計算すると地殻の5%が鉄で出来ていることになります。

ありふれていますが、純粋な鉄というのは、実はあまりみることがありません。

純粋な鉄の物性を利用する場面があまり無く、炭素鋼や合金鋼のほうが有用である場合が多いためです。

純鉄は、鉄を電気分解して調製します。これを電解鉄といいます。

もっと純度を上げる必要があるときは、ペンタカルボニル鉄などの鉄の錯体を分解して得ることもありますが、コストがかさむため、研究目的のみです。

電解鉄は繊維状の多結晶の塊で、潜晶質に近いのですが、凸凹の隙間に自形の結晶があります。

8面体結晶がくぼみの隙間に見えますが、はっきりと撮影することができませんでした。

[元素名]:鉄

[元素名(英)]:iron

[原子番号]:26

鉄の結晶は、宇宙空間を浮遊しているものが落下してくることもあります。

これを隕鉄といいます。次の写真は、スウェーデンで100年ほど前に見つかった隕鉄のスライスで、ムオニオナルスタ隕鉄という名が付いています。

隕鉄はわずかにニッケルを含んだ鉄のことがほとんどで、このニッケル量の微妙な違いによって、相がわずかに異なる組織が離溶することがあります。隕鉄を切断し、アルコール+硝酸などでエッチングするとこの模様がはっきり見えてきます。これを、「ウィドマンシュテッテン構造」といいます。これは、溶融状態の鉄が無重力で、何百万年もかかって結晶化したことによるもので、地上ではここまで大きなウィドマンシュテッテン構造を作ることは難しいです。

この模様、隕鉄の結晶の結晶方位によって大きく変わるのですが、この写真のように、60度で交差しているのが一番きれいに見えますね。

これは、オクタヘドライト型(正八面体結晶)の隕鉄の (111) 面に平行に切断した状態です。

隕鉄を購入される際は、ぜひこの結晶方位による模様の変化をチェックし、一番キレイなものを選んでくださいませ。

離溶組織方向に破断されやすく、外形もややそれに従っている部分も見えます。一部組織構造に沿って剥離しているのが見えます。

資源的には、鉄の鉱石としては、酸化物が用いられることが多く、鉄の価数によって精錬の容易さが変わります。

よく用いられるのは、二価と三価の鉄の複酸化物である磁鉄鉱と、三価の鉄の酸化物の赤鉄鉱です。

磁鉄鉱は、八面体の結晶をすることが多く、岩石中にも多く含まれています。

いわゆる「砂鉄」は、岩石が風化し、中に含まれていた磁鉄鉱を集めたものです。

沖縄で見つけた鉄鉱床の露頭。磁鉄鉱の8面体結晶がみえます。

砂鉄が河川の砂に集まったものです。黒い粒は磁鉄鉱と少量のチタン鉄鉱。

こちらは赤鉄鉱です。鋼鉄色の六角板状の結晶ですが、砕いて粉末にすると赤くなります。

この微粉末の赤鉄鉱は、「ベンガラ」という名称で赤色顔料として広く用いられています。

赤鉄鉱は極めて微細な結晶になると、赤く透明になります。

いわゆる鉄錆は、この赤鉄鉱がかなり多く、これに水酸化鉄や、塩基性酸化鉄などが多く含まれています。

鉄鉱石が天水で分解すると、このような不純な沈殿性赤鉄鉱を生じます。昔はこれを褐鉄鉱と言っていました。

これは木炭と強熱すると簡単に金属鉄まで還元されるため、最初の製鉄ではこれを用いたものだろうと言われています。

鉄は、古くから構造材料として利用されてきました。

次の写真は日本で一番古い鉄橋、栃木県足尾銅山の古河橋です。

鉄は多くの化合物があります。代表的な有機鉄化合物のフェロセンです。