竜血(麒麟血)

竜血(麒麟血)という古くからの染料がある。ただし、竜やキリンの血を原料にしているわけではもちろんなく、植物由来の色素で赤いものを利用していることが多い。もっともよく知られていて貴重なものとしては、ドラセナの一種 Dracaena doraco D. cinnabari の樹皮を傷つけて出てくる赤い樹液を回収し、これを乾燥させたものである。これを竜血と呼び、染料や医薬品としていた。Color Index では C. I. natural red 31。

Dracaena doraco の株(Wikimedia より。(c) Frank Vincentz)。

亜熱帯~熱帯に自生するドラセナの一種で、しばしば植物園でも見られる。

大きな株では、見上げるような大樹になるが、成長はひどく遅い。

ソコトラ島(イエメン)では、この木が作りだす特殊な景観が観光の目玉でもある。

我が家の D. doraco。葉の付け根が茶色く染まるのが D. cinnabari D. doraco の特徴。

どうやら、葉の付け根にも、竜血を分泌する組織があるらしい。

古い葉柄をむしって、付け根を見てみたもの。確かに竜血がにじみ出している。

ソコトラ島に自生する Dracaena cinnabari の大木(Wikimedia より。(c) Boris Khvostichenko)。

非常に成長の遅いこの木は、約10年で1m育ち、数百年かけて大木を作る。

D. cinnabari はソコトラ島の固有種。cinnabari は「真っ赤な種」という色をあらわしている。

地平線に点々と大樹がみられる。

ソコトラ島のドラセナから得られた竜血 (dragon's blood)。真っ黒な樹脂状に見えるが、砕くと赤色透明であることがわかる。

樹木の種類や製法によってグレードがあり、これはわりといいもの。出処もはっきりしている。

竜血は、簡単に粉末にすることができる。

乳鉢で砕くと、真っ赤な脆い樹脂であることがわかる。

竜血を少量粉砕し、アルコール(エタノール)溶液としたもの。

この樹脂は非常によくアルコールに溶け、橙赤色のニスになる。

現在では、あまり絵画用に竜血を用いることはないが、バイオリンや家具等の木製品塗装にはまだ用いられている。

竜血の発色成分はいくつもあるが、もっとも寄与の大きいものは、ドラコロジンと呼ばれる奇妙なフラボンアナログと、それが二量化したドラコルビンだとされている。これらは容易に塩を作り、水溶性のフラボノイドになる。

また、太平洋南洋沿岸に生息するキリンケツヤシ(麒麟血椰子)Daemonorops draco の果実の皮から採取される赤色樹脂もまた、竜血とされる。こちらも発色成分は dracorhodin である。中国で伝統的な医薬品として使われる「竜血」は、むしろこちらである場合の方が多い。最近になって、ドラコロジンの抗ガン作用についての研究が相次いで報告され、染料としての利用よりは、薬用としての利用の方がはるかに優勢になってきている。