硫黄
硫黄の単体は王冠型分子 S8 を作っており、性質としてはむしろ有機化合物に近く、ベンゼンやトルエンなどの有機溶媒に若干溶けます。
室温では二硫化炭素が一番溶解度が高い溶媒です。二硫化炭素溶液からゆっくり成長させると、こういった斜方硫黄の結晶が得られます。
硫黄は複屈折(中を通る光線が、偏光振動方向の直交する二つの光線に分かれる現象)が強く、向こうが二重にダブって見えます。
これは、硫黄の分子配列に強い異方性があり、電磁波である光との相互作用にも異方性が生じることを意味します。
ちょっとわかりづらいですかね。
芳香族炭化水素でも熱時再結晶ができます。
溶存量によって析出温度が変化し、その温度に応じて結晶の形状が変わります。
メシチレン (1,3,5-trimethylbenzene) を溶媒とし、130℃の飽和溶液を冷却すると、下のような過程で結晶化が起こります。
冷却に従い、まず針状の単斜晶が盛大に晶出します。
その後、四角板状の単斜晶が溶液をフワフワ浮遊します。
もうちょっと温度が下がると、針状の単斜晶を包み込むように、板状の単斜晶が串刺し状に結晶方位を揃えて成長します。
これが冷えると、端から斜方晶に相転移を起こして、どんどん白く濁っていきます。
最後に、四角両錐の透明な斜方晶がその上を砂糖菓子のように覆います。
次の段階はステージ3。四角くて、ちょっと歪んでいる、角の切られた結晶が枝の先に付いてます。これが板状の単斜晶(転移前)です。
シュリーレン現象で根っこの方がユラユラとかげろうのようになっています。
3分後には真っ白に濁ります。
下のほうから伝染病のようにドンドン白く斜方晶系に転移してしまいます。
メルトした状態から冷却して結晶化させると、面白い結晶化の挙動を示します。
偏光顕微鏡だと、このような結晶化度の低い集合体の成長が確認できます。
ビーカーに硫黄を入れて融かし、冷却して、表面が半分固まった頃に中の融液を流しだすと、内部に単斜晶系の硫黄が見られます。これはやや不安定で、やはり斜方硫黄に転移してしまいますが、数時間程度は寿命があります。
ちょっとわかりづらいんですが、四角~六角柱状で、端面が斜めに削げた結晶です。
さらに加熱すると、相が転移して王冠状分子が開環し、重合します。
この状態で水に投入して急冷すると、柔軟な、いわゆる「ゴム状硫黄」が得られます。
これは、作りたては黄色い輪ゴムのような感じですが、30分もするとまたもとの王冠状分子に戻り、ボロボロに砕けてしまいます。
温泉や火山の噴気孔で見られるものは、温度にもよりますが斜方晶が多いようです。
下の写真は乳頭温泉の噴気孔に析出した硫黄で、針状ですが斜方晶です。
平行連晶になっているというのがミソです。
この硫黄は、硫化水素と二酸化硫黄の酸化還元反応でできると思われます。
水中で、融解した硫黄が火山活動により噴出すと、中空の硫黄球ができることがあります。
写真は国後島(北海道)のものです。
硫黄(sulphur) S8, orth., Fddd
北海道根室支庁国後郡国後島泊村ポントー イチビシナイ
東京大学総合研究博物館蔵(登録番号 00478)
写真幅 : 3.2 cm
草津温泉の湯畑です。100℃の源泉が湧き出し、それを引き込んでいる木の樋に、多くの硫黄が沈殿します。
草津ではこれを「湯の花」といって袋詰めして入浴剤として売っています。
硫黄は、タンパク質の一成分(システイン、シスチンなどのアミノ酸)に含まれ、生命活動には無くてはならない元素です。
硫酸イオンなどはあまり高等生物には役に立たないのですが、硫酸イオンが多いところを好んで生える地衣類なんてのも。
これがそれで、その名も「イオウゴケ」と呼ばれます。コケと名付けられてますが蘚苔類でなく地衣類です。
火山の噴気孔付近や鉱山のズリ山などで見つかることがある、奇妙な地衣類です。
単体硫黄を体内に溜める硫黄バクテリアというのもいます。糸のような組織で、温泉に漂っています。