Expack500 に鉛の塊を詰めてみた

(この内容は、現在のレターパックの前身、Expack500 が存在したときのものです。現在のレターパックは重量制限は 4kg までで、ここまで詰めてはいけません)。

郵便局の定型小包に、エクスパック500(EXPACK500)というものがあります。

あらかじめ決まったサイズのボール紙の袋を500円で購入し、これに荷物を入れると全国どこでも一律で500円で送れるという優れものです。

こいつは便利です。オークションの配送などでも大活躍しています。

なんといっても一律500円というのが売りです。発送先の地域を考えなくてもいいのですから。

しかも手渡しで、荷物の追跡も可能です。

この中に入れば何でも500円で送れてしまいますよね。

でも、実はそうではありません。

この中に入れてはいけないものもあります。

  • 国際郵便にはご利用できません。

  • 特殊取扱はできません。

  • 配達証がはがれているものはお引受け、交換できません。

  • 袋が著しく破れているもの、切削加工したものはお引受けできません。

  • 封を補強するための粘着テープ等は、表面の料額印面その他の表示部にかからないようご注意ください。

  • 損害賠償はございませんので、次のようなものの送付はご遠慮ください。ガラスや瀬戸物などのわれもの/精密機械などのこわれもの/なまもの・いきもの/芸術作品などの代替品の入手が困難なもの。(定形小包郵便物の損害賠償制度)

  • 次のものを入れて送付することはできません。信書/現金・貴金属等の貴重品/爆発物・毒劇物などの危険物。

  • EXPACK500の重量制限は30kgまでです。(封筒に30kg入れられるということではありません。)

  • 一部のポストには入りません。

上限は 30 kg までなのです。

括弧書きで(封筒に30kg入れられるということではありません。)と記載されているのは、以前ちょっとこの売り文句でもめたことがあったためです。

以下は古い中日新聞の記事です。リンクが切れていたので転載しました。

A4判(縦23センチ、横32センチ、高さ2センチ)サイズの専用封筒を使った郵便小包「EXPACK500」のキャッチフレーズ「(封筒に)30キロ詰め放題です」について、公正取引委員会が「30キロ分の物質を入れることは事実上、不可能で、景品表示法に違反する恐れがある」として、日本郵政公社を今年1月に口頭注意していたことが分かった。公社は既に表現をただの「詰め放題です」に改めている。

「30キロ詰め放題」の表現は、この商品が登場した2003年から、郵便局のチラシや公社のホームページで用いられていた。改められたのは、たまたまチラシを見た名古屋市中村区の元教師、沢昌良さん(74)が「この地球上にこの小包の容積で30キロになるものが存在するのか。存在しなければ不当表示だ」と、一昨年10月に公取に申し立てたのがきっかけ。

この小包の体積は1472立方センチ。確かに、鉄でも比重(1立方センチ当たりのグラム数)は7・87にすぎず、いっぱいに鉄板を入れても約11・6キロ。純金(比重19・32)でさえ、約28・4キロと及ばない。

地球上、最も重い物質とされるイリジウムやオスミウム(いずれも比重22・5)なら、33・1キロとなって、やっと30キロを超えるが、地球内部の奥深くに存在する極めて希少な金属。白金(比重21・45)も“有資格”だが、30キロでゆうに1億円を超えるシロモノで、いずれにしろ郵便小包で送るようなものではない。つまり、この封筒に30キロを詰めることは、事実上、不可能と言える。

景品表示法は「実際より著しく優良であると誤認される表示」を禁じており、公取は昨年3月、調査段階で公社に電話で注意。これを受け、公社は表現を改めたが、公取はさらに今年1月に公社職員を呼び、口頭注意した。

法律で郵便小包は30キロ以下と定められており、超えると貨物扱いになる。EXPACKには「重量制限は30キロまで」と表示していた。公社によると、この注意書きと「詰め放題」の宣伝文句が合体して「30キロ詰め放題」の表現が生まれたらしい。ある公社職員は「別々に表示していれば問題なかったのに、表現は難しい」と話していた。

赤く字を染めたのは私です。

本当に、エクスパックには 30 kg まで荷物を詰めることができないのでしょうか?

そもそも体積の 1472 cm3 という数値の出し方がわかりません。

エクスパックは、箱の折り方次第で、かなり大容量のかさばる荷物でも送れます。厚手のセーターだって。

「エクスパックマジック」と呼ばれる所以です。

さて、実際にエクスパックを使って荷造りしてみることにしました。

配送物は鉛のレンガです。

これを三本、愛する女性への誕生日プレゼントとしてエクスパックで送ることにしました。

きっとあの人は欲しがっていると思うんです(極低バックグラウンド放射線測定には鉛レンガは必須です。300年以上前の鉛から作ったレンガなんて、その道の研究者にあげたらむせび泣いて喜びますよ)。

これを三本エクスパックに詰めると・・・

はっ、入らない・・・!

幅が 2 mm 足りません。ぎりぎり押し込めそうなのですが、レンガが重すぎて無理をするとエクスパックが裂けてしまいます(もうすでに裂けてる)。

しょうがないので、一回袋をばらして、荷物を乗せてから箱を組み立てなおすことにしました。

糊代で両端 1 mm ずつオーバー分を吸収してもらえば、収まるでしょ。

本当は、「切削加工をしたものはお引き受けできません」と注意書きにあるのですが、「箱がやわで破けちゃったぜ」、ということにすれば大丈夫でしょう。

補強のテープ貼りも認めていますし。

正直、鉛レンガが重すぎて、オリジナルの紙袋に30キロ詰めたら箱が壊れます。

重力にボール紙の強度が付いてこないのです。

普通のガムテープでは持ち上げるとテープがぶっちぎれてしまうので、アルミテープを使って箱組みします。

ヨユーじゃん。よかったよかった。

アルミテープを巻いてしまったので見えませんが、封筒の糊代部分の張り合わせ線もオーバーしていません。

で、このレンガ、正確に厚さ 5 cm、幅 10 cm、長さ 20 cm あります。

一本の体積は正確に1000 cm3、鉛の室温における密度は 11.3 [g/cm3] ですから、11.3 kg です。

三本では 34 kg あり、30 kg をオーバーしてしまい、エクスパックで送ることはできません。

これは貨物扱いでなければ送れないのです。

誕生日プレゼントを送ろうとしたのに・・・

と言うわけで、エクスパックの表示は不当でもなんでもなく、30キロを簡単にオーバーしてしまいます。

公正取引委員会、まじめにやってください。

逆に業務妨害だと言われちゃいますよ。

厚さは 2 cm ではなく、5 cm のものも入ってしまいます。

今回の荷造りはそんなに常軌を逸したものではありませんよ。

↑これをポストに放り込んだら、この下にあるすべての郵便物を破壊すること間違いないでしょう。

破壊神シヴァの小包。

30 kg オーバーの EXPACK 500 は、すべての人に蛇蝎の如く嫌われる、呪われた郵便物になるに違いありません。

この地球上に存在してはならないものです。

持つと手首が後で痛むんです。

改めて、エクスパックをしみじみ見ていたら、端に「ご利用条件」が書いてありました。

これです。

あれ?こっちには重量制限が書いてないですよ?

どうも、この中に30kg以上詰められないと郵政公社も考えたらしく、利用条件から重量制限を外しちゃったみたいですね。

以前は書いてあった記憶があるのですが・・・

郵政公社のHPには制限重量がありますが、現品に書いてないのならゴリ押しできるかも。

ということは、このシヴァの小包、34kgでも500円で送ることが可能なのでしょうか?!

一筋の光明が見えてきました。

郵政公社の国内郵便約款における小包郵便の重量は以下とされています。

30キログラム以下(郵便物の取扱上支障がないものとして、公社が別に定める種類又は性質の内容品をその取扱上支障がないように公社が別に定めるところにより包装等したものであって、公社が別に定める取扱いに関する条件を満たすものは、この限りでありません。)

かっこ内がエクスパックのことを指しているのかどうかはこの文からはわかりません。

昨日のエクスパックの箱はすでに使用したものでしたので、新品を買うべく郵便局に行ってきました。

窓口の若くてかわいい女性職員さんに「エクスパック、ちょうだい」と言って、二枚出してもらいました。

2枚でも千円です。

で、彼女に「何キロぐらい入れていいの?」と聞いたら、やっぱり、「小包なので、規定で30キロまでです」というコメントでした。

約款を曲げるのは難しそうです。

しかし彼女は

「30kgもこの箱に入るはずないので、何入れてもいいですよ」

と可愛い顔で微笑みながら言ってくれました。

優しい人です。

私が彼女にこのエクスパックを渡すとき、彼女は憎悪と絶望と困憊の表情でその悪魔の小包を睨み、親の敵でも見るような目で私を心底呪うことでしょう。

鉛レンガ入りエクスパックが動き出したら、誰の得にもならないのです。

シヴァの血を継いだその白い物体は、触れた者すべてを恐怖と疲労のどん底に陥れ、憎み疎まれながらこの地上のものを破壊しながら這いずり回るのです。一回500円で♪

できたら、新聞記事にあった「名古屋市中村区の元教師」さんにこのエクスパックをプレゼントしたいですね。あるいは公正取引委員会かな。

さて、私は実験屋なので体を動かさないと気がすまないのですが、やはりここはクールに一歩下がって、実験する前に極限を考えたほうがよいでしょう。

公称A4判なのですが、折り目の入っている長さは縦23センチ、横32センチ、高さ2センチです。

これにとらわれるのはズブの素人。真のエクスパックヘビーユーザーではありません。

名古屋の先生もこれにとらわれ過ぎて、エクスパックの最高のポテンシャルを引き出せず、間違った結論を導き出してしまったのです。

私もその形状にだまされてしまいました。

エクスパックは羊の皮を被った狼。

エクスパック道はそんなに甘いものではないのです。

エクスパック500の内寸長さは34.4cm、ガイドラインが完全に隠れる内寸有効幅は25.4cmあります。

では、この封筒が最大の体積を取ったとき、エクスパックはどのような形をしているのでしょうか?

同じ体積で最小の表面積を求めるのと類似してます。

形の制約がなければ球になります。

エクスパックが最大体積を取る場合、おそらくそれはパンパンに張った方形ビニール袋のような形を取るはずです。

ガス採取のテドラーバッグや、買ってすぐの羽毛枕のような形状です。

テドラーバッグはフィルムの伸びがあるのでしわが入ってしまいます。

この形状に内接するのは、両端が半球状になった楕円柱に近い立体です、

これの四隅に角が付いているのがエクスパックの最高ポテンシャル。

エクスパックに厚手のセーターをむりやり押し込んだ形状、あれが最大体積なのです((最適な関数でモデリングして積分すればその体積が出せますが、封筒の四隅の角の部分の扱いがめんどくさそうなので、やめておきます))。

その形で金属塊を作り、それをエクスパックに入れることができれば、エクスパック史上最重のものが世の中に送り出せるはずです。

中に入れる金属は密度が最も高いオスミウムがベストですが、白金族元素は貴金属であり、エクスパックに入れることはできません。値段も個人の手の出せるレベルではありません。金銀もその点でダメです。

水銀は毒物であり、これも送れません。水銀を詰めたら確実に封が裂けます((200ml 以上のガラス瓶に水銀を詰めて持ち上げると、瓶の底が抜けます。やったことあります。))。

タングステンも密度が大きいですが、融点が高すぎて粉末冶金しかできず、塊はびっくりするほど高額です。

ウランは「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」および「核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する技術上の基準に係る細目等を定める告示」に引っかかるのでダメです。

やはり鉛ですね。

という考察を経て、鉛レンガをエクスパックに詰める場合、平らに三本並べるより表面積が最小になるように積み重ねたほうがはるかに封筒に詰めやすいんじゃないか、という結論に達しました。

一番大きな面を張り合わせて積むと・・・

見事に三本入ります。ゆとりもあります。

ボール紙も破けませんし、封もきちんとできます。

というわけで白い悪魔、世界で最も邪悪なエクスパック500は出来上がりました。

もうちょっと詰め込めそうですが、ここは武士の情け。

その重量は33.9kgあります。

こいつは餌食を求めてその禍々しい白い体を血の赤に染め、邪悪な角を振り上げて、触れる人すべてを絶望に似た恐怖に叩き込んでしまうでしょう。

いや、マジで重いんですって。腰痛いです。

「白い悪魔」こと34kgエクスパックを車に積んで、郵便局に行きました。

それにしてもこいつは重いです。

人間は誰でも物を持ち上げるとき、その素性と大きさと形状に見合ったレスポンスを想像します。

こいつはまったく外見からの想像と違った重さなのです。

本を30kg詰めたダンボールを持っても、こんなびっくり感は味わえません。

「なんじゃぁこりゃぁ!?」って感じです。

外部条件に応じた体感温度というものがありますが、体感重量というものがもしあるとすると、こいつはその重量をはるかに超えた値を叩き出すでしょう。

綿5kgと、鉛5kgなら、綿5kgのほうが軽く感じるでしょうね((鉛5kgなら手のひらサイズですが、綿5kgなら両手の上腕いっぱいまで使わないと掴めないでしょう。そういう「単位面積あたりで支える重量」の差が効いているのではないかと。))。

今日の局員も昨日のお姉さんでした。

私「エクスパックなんですけど、とりあえず重さ、計ってみてください」

と窓口に出したのですが・・・

お姉さん「おっ、重ッ(しばらく無言で格闘)」

お姉さん、持ち上げられないんです。どうやっても。

お姉さんは笑顔を装おうとしてはいるのですが、顔が引きつっていました。

なぜこのような邪悪な物体が、自分の担当している時間に窓口に来たのか、不運を呪いながら。

お姉さんの腰痛の原因になるのは私の本意ではないので、私が秤にそっと載せました。

が、水色の秤の液晶パネルには、重量表示が出てきません。振り切れているみたいです。

郵便局のデジタルの秤は30kgフルレンジで、それ以上の重量は残念ながら表示されないようです。

窓口の内側の液晶パネルをお姉さんがチェックして、やはり『「重量オーバーです」と出てますよ』と言われました。

するとすかさず、お姉さんは局長さんに聞きました。

お姉さん「きょくちょー。エクスパックって、30キロまでですよねぇ?」

局長「うーん。小包だからそうなのかな。そんなに入るかいあの包みに?」

お姉さん「はい。オーバーしてます」

で、局長が後ろの席から出てきました。ボスキャラ登場です。

が、ボスはとても気さくそうな人です。

で、局長としばらく雑談をしていました。

ここは田舎の郵便局。しかも雨降り。お客は私以外誰もいやしません。

局長とちょっとの間談笑して、公正取引委員の不当で高慢な注意や、鉛のレンガの話やら、エクスパックに大量の荷物を詰める秘訣などの話をしました。

局長は、そんなヘンなことを考える人にはいままで遭ったことがない、という感じで、何度も大声をあげて笑ってました。

私、そんなにヘンですかね?

で、巨頭会談の結果、局長のお言葉が、

局長「エクスパックは普通の小包じゃないから、重さを計らないんだよ。そういう話だったら計らなかったことにして送るよ」

とのこと。

いい人じゃん局長。

この世に存在するべきではなかった、最も邪悪な定型小包が、あたたかく受け入れてもらえたのは初めてです(お姉さんは受け入れていないのですがね)。

というわけで、送れるようです。

この郵便局からだけかもしれませんが。

私は、理解のない郵便局員に冷たく配送を断られ、ヤツと一緒に雨の中をとぼとぼ淋しく帰る結果を想像していました。

約款よりも人の情のほうが濃い。そういうことです。

というわけで、「白い悪魔」はまた私が回収して帰ってきました。

何日か一緒に暮らしてたら、なんか愛着が沸いてきました。

あの小柄な体に似合わない、パンチの効いた重量感も、それはそれで嬉しいものです(運んでいるときはそんな風には絶対に思うことができないのですが)。