ゲルマニウム

メンデレエフによって、「エカケイ素」と名付けられ、存在が予言されたゲルマニウムは、ケイ素と瓜二つの元素であったものの、地殻中の存在量が極めて少なく、しかもまとまった鉱床を作らない、本当に「隠れた」元素でした。

単体といい化合物といい、見た目も性質もケイ素と極めて類似しており、ゲルマニウムの化学はケイ素化学の「間違い探し」みたいなものだと言ってもよいでしょう。

そのぐらいよく似ています。

低配位数の化学種の挙動が微妙に違う?くらいの違いしかありません。

写真は半導体用単結晶ゲルマニウム(CZ法)のかけらです。

へき開が写真の下のほうに少し見えます。

金属ケイ素にそっくりですが、金属ケイ素はやや青みがかった銀白色なのに対し、ゲルマニウムはより渋い銀白色で、手に持つと密度が大きのが実感できます。ケイ素の密度 2.33 g/cm3 に対し、ゲルマニウムの密度は 5.32 g/cm3 と倍以上あります。

ゲルマニウムは地下資源が薄くて利用しづらい元素ですが、ちょぼちょぼと生産されてはいます。

昔はトランジスタに使われ、ゲルマニウムラジオなんてのも作られました。

現在でも、半導体関係にはちょこまか使われ、ガンマ線の半導体検出器にはなくてはならない材料です。

PET の重合触媒なんかにも使います(この用途で全生産量の半分は消費してます)。

アンチモン系の触媒で作ったPETに比べ、ゲルマニウム系の重合触媒で作ったPETは耐熱性が高く、日本のPETボトルの重合触媒の大半は、ゲルマニウムを用いています。

蛍光灯の蛍光剤として酸化物をまぶしたりとか。

光ファイバー用ドープ材としてもけっこう使います。

単体が赤外線をよく透過させるため、赤外線スコープ窓材として、軍需産業においても利用されます。

昨今のゲルマニウム健康ブームで、がんに効くという話もありましたが、がん細胞ってのは異常細胞で、どんな化合物でも抗がん剤、制がん剤の面もあれば、発がん性物質の側面もあるんですよね。

ゲルマニウムの大家の某教授のところには、「がんに効きますか」ってよく電話がかかってきたそうです。

正直に言ってしまいますと、ゲルマニウム化合物が健康によいというのは、疑わしいものだと考えています。

多くの化合物が知られていますが、ケイ素と同じく、混成軌道を取って四配位正四面体構造を取ることができます。

また、電気陰性度の関係から、炭素と安定な結合を作ることが出来るため、様々な有機ゲルマニウム化合物を合成することも可能です。あまり産業的な使い道はありませんが。

炭素とケイ素・ゲルマニウムの最も大きな違いは、高周期のケイ素・ゲルマニウムは原子サイズの問題から安定な多重結合を形成することができません。

有機化合物の特性・官能性の大部分は、炭素の多重結合によるものですから、安定な多重結合ができないケイ素やゲルマニウムは、炭素ほどの分子の機能を発現させることはできません。

頑張って保護基でブロックにブロックを重ね、ようやくゲルマニウム―ゲルマニウム二重結合ができるぐらいです。

でも、空気中の酸素で瞬時に分解してしまうような、儚い存在です。

地下資源としては、硫銀ゲルマニウム鉱(アージロード鉱)のような、ゲルマニウムを主成分のひとつとして含む鉱物はいくつか知られているのですが、資源的な価値はそれほどなく、鉛亜鉛鉱石の焙焼煙や電解精製の陽極汚泥などから回収されます。

だいたい、日本の年間消費量が40トンぐらいです。

以下の写真は、ウィンクラーがはじめてゲルマニウムを発見した硫銀ゲルマニウム鉱(アージロード鉱)です。

これ、欧州鉱物コレクターにとっては非常にメジャーな鉱物らしく、絶産だということも手伝って、小さなものでもすごく高額で取引されています。

Argyrodite crystal aggregates (6.5 mm, 5.5mm)

Himmelsfurst mine, Freiberg District, Erzgebirge, Saxony, Germany