純国産の真朱を作ってみた

国産の川流れ辰砂塊(天然の硫化水銀)をもらったので、すりつぶして純国産の朱を作ってみる。

朱の分類名は原料や調製法に応じていくつかの名前を持つが、天然の辰砂を砕いたものは「真朱」と表現されることが多い。一方、金属水銀と硫黄との反応により作られたものは「銀朱」と呼ばれる(この言葉は、他の赤色顔料と硫化水銀との区別で使われることもあって、明確な定義はない)。ただし、不純な天然辰砂を昇華精製して作った朱もあり、なかなかこのあたりは肉眼判別が難しい。塊を割って、繊維状の結晶集合であったら、昇華プロセスによるもの。ただしその昇華前は、天然の硫化水銀かあるいは金属水銀からの合成かはわからない。粉になってしまうと、ほぼ判別不可能。チェンニーノ・チェンニーニ「絵画術の書」で塊を入手せよと書いてあるのは、そういうことも考えてのことだろう。

実に立派な辰砂(芋辰砂)。こんなものが河川を転がってくるらしい。

辰砂は密度が大きく酸化や水の作用に対し安定なので、辰砂を含んだ鉱石が風化すると、辰砂だけが河床の岩盤近くにたまる。

その挙動は砂金と似ている。川の河床の椀がけ(パンニング)では砂金とともにしばしば辰砂が見出される。

この川流れ辰砂の品位は高くて、硫化水銀分 80~90%以上に達すると思われる。

割って観察すると、石英などの不純物をほとんど含んでいないのがわかる。

特に質の良い辰砂塊を選び、砕くとこうなる。簡単に乳鉢で粉砕できる。

キラキラしているのは金属水銀ではなく、辰砂のへき開面。

川流れモノは、川を漂ううちにだいぶ金属水銀が抜けるようだ。

それでも石を割ると金属水銀が出てくることがあるので、そういう時は椀がけで水銀を除かねばならない。

磨砕すると、だんだん色が鮮やかになる。

辰砂は、磨れば磨るほど色が鮮やかになるといわれる。

チェンニーノ・チェンニーニ「絵画術の書」では、20年磨れ、という話が出てくるが、

今回はさすがにそこまではしない。

結晶のキラキラが目で見えなくなるぐらいまで、1時間の磨砕を必要とする。

このぐらい磨ると、色は血赤色から独特の黄色みがかった「朱色」に変化してくる。

乾燥状態で磨っているのに、だんだん粉が壁に貼りつきやすくなる。

今度は、先の磨砕辰砂に水を少量加え、水中でよくすりつぶす。

水はみるみるコーヒー牛乳のように濁るが、これは不純物を多く含んでいる。

不純物としては、少量含まれる石英や母岩、あるいは褐鉄鉱などのようだ。

辰砂は密度が飛びぬけて大きい (8.1 g/cm3) ので、他の不純物よりも早く沈降するので、これを利用すると簡単に精製ができる。

これを繰り返し、コーヒー牛乳のような色が付かなくなるまで、何度も何度も洗う。

辰砂はあまり水との濡れ性が良くなく(硫黄原子の影響)、表面張力で水の上に浮きやすいので注意。

最後によく水を切って乾燥させ、出来上がり。

明るい橙赤色。これが国産の朱。

真の「朱色」である。

縄文時代の四国でも、こうやって川流れの辰砂を椀がけで拾い集め、すりつぶして得た朱を儀式に用いたのだろう。