リチウム

アルカリ金属のトップバッター、リチウムです。

銀白色の金属で、アルカリ金属のうち最も硬いんですが、頑張ればハサミで切ることのできる程度です。

ただし、空気中の湿気(水分)、酸素、およびチッ素と速やかに反応し、あっという間に灰色くくすみ、そのうち白い粉を吹いてきますので、保存はアルゴン雰囲気か、鉱油に漬け込んで空気を遮断します。

切断してよく観察すると、銀色の新鮮な面は、最初の数秒は酸化皮膜で虹色の干渉色を示します。

が、これはほんの数秒しか見られず、5秒もすると灰色にくすんでしまいます。無酸素の雰囲気で切断すれば銀色のままです。

売られている状態はこんな感じです。瓶詰めで、瓶の中はアルゴンで充填され、中に金属リチウムのスティックが入っています。

たいへん密度が小さい金属で、室温では 0.53 g/cm3 しかなく、油にも浮きます。

アルカリ金属のさらに周期が下のナトリウムやカリウムに比べて水との反応が穏やかで、微粒でなければ水と反応してもなかなか火は出ません。

有機基の付いた有機リチウム化合物という一連の有機金属化合物があります。これは、強い求核試剤として、あるいは強い塩基として、有機合成用の試薬として汎用されます。特に、ブチルリチウム(n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムおよび tert-ブチルリチウム)が扱いの容易さから好まれます。

国内では東ソー・アクゾが瀬戸内で多量に合成供給しており、ヘキサンあるいはペンタン溶液で購入することができるのですが、しばしば空気中の酸素との接触で自発的に発火燃焼し、死亡事故に結びつくような火災を発生することもあります。取り扱いにスキルの必要な試薬でもあります。

モルあたりの重量が小さく、密度も小さく、酸化還元電位が極めて低いことから、軽く容量の大きい電池、特に放充電の繰り返し可能な二次電池に重宝されます。

血中のリチウムイオンを増大させるとうつ病治療に効果があるということがわかり、うつ病の治療に炭酸リチウムを用いることがあります。血中濃度コントロー ルが重要で、慎重に投薬する必要があります。これが由来なのかわかりませんが、Lithium というアパレルブランドがあります。

下の缶は粉末のリチウムですが、しばしば空気中で発火することから、最近は手に入りづらいものです。

非常に微粒のリチウムを用いたい場合は、リチウムディスパージョン(鉱油に分散させた微細なリチウム粉末)をアルゴン気流中でヘキサンで洗浄して用いることが多いです。

かつては、リチア雲母やリチア電気石などの鉱物資源に依存していましたが、現在の資源の主流は塩湖のかん水(干上がった海水のなかなか蒸発結晶化しない部分)です。北南アメリカの塩湖資源が主に使われますが、開発に伴う環境破壊が問題とされています。

下の写真はパキスタンのリチア電気石です。リチウムを含む鉱物で、貴石として装飾品にも使われる電気石(トルマリン)として知られます。

赤、黄色、緑、青などの多くの色のバリエーションがありますが、これは不純物イオンに基づくもので、純粋なものはほぼ無色透明です。

あまり資源としては使い道がありませんが、リチウムを含む日本の新鉱物、南部石(nambulite) です。岩手県舟子沢鉱山産。

南部石(nambulite), (Li,Na)Mn4Si5O14(OH), tric., P-1.

岩手県九戸郡大野村舟子沢鉱山

国立科学博物館蔵.標本番号:NSM-M18829 (type specimen)

撮影幅 : 3.5 cm

詰まっている黒褐色のビール瓶みたいな色のはネオトス石。

舟子沢鉱山は北上の層状マンガン鉱床でも一番北に位置し、明治末から昭和40年代まで細々と2条の鉱脈を掘った由緒正しい鉱山です。

50度ほどに傾斜した主脈をジワジワと掘っていたのですが、下部に行くと尖滅し、その時点で採鉱を止めました。

この間行ってみましたが、沢沿いの杉林の中で、現在は通洞も崩れてしまい、何も見つかりません。鬱蒼とした杉林の中です。

南部石はここで見つかった新鉱物で、ちょっとオレンジ色をしてますが、いかにも三斜晶で、バラ輝石やパイロクスマンガン石によく似ています。

ですが、分析の結果、これには多くのリチウムが含まれ、新鉱物として認定されました。

今では世界中の産地から見出されている南部石ですが、北上の小さな小さな鉱山から見出された、宝石のような鉱物です。

鉱物名は先日鬼籍入りされた東北大選鉱精錬研の故南部松夫先生 (1917-2009)にちなんでいます。

身近には、あまりリチウムを含んだ石ころが転がっていることは多くはありませんが、岩の隙間に樹枝状に育つ「忍石」が、リチオフォライトというリチウムを含むマンガン酸化物であることがあります。