アカニシで貝紫を染めてみた

アカニシを有明海から送ってもらって、貝紫染めをしてみました。アカニシ (Rapana venosa, Valenciennes) という貝もアクキガイ科で、やはり貝紫前駆体を持っていて、貝紫染めができます。アカニシは大きいのでは 20 cm 近くになりますが、今回のは 10 cm 前後の小ぶりのものです。

イキイキです。食べられる貝なので、わずかに流通してます。九州では回転寿司でも出てくるらしいです。

これを割ります。ゆでると肉がするりと抜けて楽なんですが、ゆでちゃうと酵素が死んで貝紫ができないので、貝紫用には生きたまま割るしかないのです。

フェニキアにも、紀元前15世紀ぐらいからのムレックスの大量の貝塚があるんですが、みんなピンポイントで鰓下腺の外側を割られているそうです。

慣れると、貝の外からどこに鰓下腺があるか、見当が付くようになります。そこをスパッ、と。

もはやフェニキア人のレベル。

貝の肉の真ん中にある黒い筋が鰓下腺(パープル腺)。

ここに、貝紫の前駆体であるチリンドキシルのエステルを持っています。およそ 2-4 mg ぐらいですかね。

たぶん、ムレックス・ブランダリスよりアカニシの方が多いです。

これなら、染め物に使えそう。

↓これは鰓下腺の構造がよく見えます。

鰓下腺を破ると、黄色い粉を含んだ粘ちょう物が出てきます。これが貝紫の原料です。

イキが悪いのは、最初から周りが紫に染まってます。最初から紫だと、布を染められないのです。

これを2本の楊枝ですくい取り、よく練って、正絹の縮緬に落書きします。

空気にさらすと直後に、酵素反応をスタートとした4段階の反応が連続して起こり、貝紫染めができます。

お題はセーマンドーマン。伊勢志摩のおまじないですね。描いてるそばから、紫色に変色します。

蛍光灯ではなかなか色が変わらないんですが、太陽光の下だと、曇っててもすぐに変わります。

紫外線が多いみたいですね。太陽光は。

30分も日光にさらすと、濃い紫色に変わります。

何度も何度も水洗いし、ゴシゴシこすって洗うと色が落ち着き、あのカラシのような刺激臭も抜けてきます。

反応式をおさらいしますと、こう。

夜、蛍光灯の下でやると、中間体のチリバージンの色がはっきり見えます。緑色です。

チリバージンからチリアンパープルへはジスルフィドの脱離反応なんですが、これは乾燥がアシストするのか、周りから色が変わっているのがよくわかります。