ラジウム

アルカリ土類金属で最も大きな放射性元素、ラジウム。

この元素の歴史は、輝かしいマリー・キュリーの業績と切っても切り離せない関係にあります。

しかし、その単離は苦行とも言えるものでした。

マリーは、ベクレルの発見した放射線について研究しているうちに、チェコ、ヨアヒムスタール(ヤヒモフ)のピッチブレンドが、高い放射能を有することに気付きました。ヨアヒムスタールのピッチブレンドは、純粋なウランの数倍もあります。

ピッチブレンドというのは、不純な閃ウラン鉱(せんうらんこう、UO2)で、鉄や亜鉛の硫化物を多く含み、自身の放射線で結晶構造が壊れ、非晶質になった鉱石です。和名では古くは瀝青ウラン鉱と呼ばれました。ぬるっとした光沢の漆黒の塊状になるため、これをピッチ(コールタールの固まったもの。アスファルト)になぞらえたのでしょう。ヨアヒムスタールは有名な鉱山街で、ボヘミアガラスの黄色着色原料として、このピッチブレンドも採掘していました。マリーは、このピッチブレンドに、極めて比放射能の高い元素が含まれていると予想し、その単離を行いました。その一つがポロニウムであり、もう一つがラジウムでした。

ところが、当初の予想に反し、ラジウムはこの鉱石には 1 ppm (100万分の一、0.0001%)しか含まれておらず、その単離は困難を極めました。ピッチブレンドを酸に溶かし、バリウムの画分がウラン金属の400倍近く高い放射能を確認し、このフラクションを一万回分別再結晶し、ほぼ純粋な塩化ラジウムの単離までこぎつけたようです。

そんな地道な実験の末に単離した塩化ラジウムは、自らの放射線により光る、たいへん美しい結晶だったそうです。

彼ら夫婦は、その美しさを示すため、ガラス管に封じて、ラジウム塩を見せて周ったといいます。

ちょっと今からでは考えられませんね。ラジウムの比放射能はウランのそれの300万倍あります。

ラジウムが出すα線は蛍光物質を著しく光らせ、夜光塗料としてつい最近まで盛んに使われていました。

次の写真は、大戦中にパラシュート降下部隊がつけていた発光標識です。

多くのラジウムを含むらしく、大変に強い放射線を発します。

合法に手に入る物質のうち、もっとも強い放射線を出すものかもしれません。

時計の文字盤や針にもかつては多く塗られました。

かつての塗装工は女性のことが多く、筆先を舐めて整えることが多かったことから、ラジウム入り夜行剤入り塗装が盛んだったころは、塗装工に多くの被曝者が出たそうです。次の時計はイギリス空軍の時計ですが、ラジウムを含んだ夜行剤が塗られているらしく、強い放射能を有します。