女王ベルエーシュ「切り札は最後まで取っておくものよ! クソ皇帝覚悟っ!!」
不老の賢者メティス「どうかアテーナニカ様をお守りくださいっ!」
神将殺しゲオルジオ「一発逆転、伸るか反るか――勝負の時間だ」
騎士アデルミラ(えっ、私達が止めるの? あの化け物を?)
依頼主・不老の賢者メティス(ヴェルギナ・ノヴァ帝国)
目標概要・突撃してきた女王ベルエーシュを倒し皇帝アテーナニカを守る
シナリオタイプ・戦闘
シナリオ難易度・非常に難しい
ステータス上限・攻撃&防御170
シナリオ参加条件・実績「メティスを守った」をPCが所持
シナリオ中の確定世界線・実績「ゲオルジオを討ち取った」が獲得されていない世界
「――地獄に落ちろ売女」
引っ立てられて来たワスガンニ家当主シュッタルナは、私を燃えるような瞳で睨んだ。
黒い瞳に憎悪が燃えていた。
「……私達はより良き未来の為に戦っている。願わくばシュッタルナ殿にもご助力いただけないだろうか」
「くどいわ侵略者どもが。より良き未来だと? 私とフェニキシア王家にとってはろくでもない未来だ」
褐色肌の男は私の言葉を切って捨てた。
「フェニキシア王国の滅亡を、弱者を盾に押し付けんと剣を振るう貴様らに、私が貸す力など一片たりともないわ。そもガルシャの狸爺の傀儡女が世界帝国の後継者などと笑わせる。ヴェルギナ・ノヴァ? 辺境の小帝国ごときが、その小さき国の皇帝の座とて、イスクラ爺に腰を振って掠め取ったものであろう。乞食の淫売婦に下げる頭など誇り高きワスガンニにあるものか」
弱者を盾に押し付けんと剣を振るう――そういう事に、なるのだろうか。
シュッタルナ殿の言葉は私の心に突き刺さった。
しかし、それでも――
目蓋の裏に甦るのは、瓦礫の山と、彷徨う人々と、こと切れた弟を抱え私を見上げていた幼子の姿。
――世界の現状は変えなければならないのだ、誰かが。
誰もやらないなら蟷螂の斧であっても自分でやるしかない。
「貴様……っ! 陛下に向かってなんたる物言いッ!!」
騎士アデルミラやいきりたったガルシャ諸侯が憤怒を叫んで剣の柄に手をかける。
「良い」
「鎮まりたまえ。根も葉もないただの暴言だ」
私、そしてイスクラ王はアデルミラ達を制止した。
私はシュッタルナ殿を見つめ問いかけた。
「ご再考いただく事はどうしてもできないだろうか。便宜はできうる限り図るつもりだが」
「殺せ!」
彼は到底、協力してくれそうには見えなかった。
となると非協力的な態度を取る者への見せしめに処刑すべしと統治力学的にはなるのだが、それは躊躇われた。多くの諸侯がフェニキシアを裏切る中で、彼は裏切らなかったからこそ。
「あくまでフェニキシア王家に殉ずるその忠義、貴族として立派なものだと思う。けれどフェニキシアの統治は客観的に見ても良いものではない。多くの民が苦しんでいる――」
私はシュッタルナ殿を説得するというよりは、フェニキシアを裏切りヴェルギナ・ノヴァについてくれた諸侯の為を思って言った。敵についたままの人間の意志をあまりに尊重し過ぎれば、それを裏切ってこちらについてくれた人間達の立つ瀬が無い。
「シュッタルナ殿、貴方の選択は、事ここに至ってはもはや頑迷だ。シュッタルナ殿はもう十分王家へと尽くされたと思う。領内に暮らす人々の声に耳を傾けて欲しい。それが領主としての務めであり、天命だとも思う。より良い未来の為にはシュッタルナ殿の力が必要だ。いつかご再考いただける事を願っている」
私はシュッタルナ殿を軟禁する事を命じた。
二人の兵が男を両脇から挟み私の前から連れ去ってゆく。
フェニキシアの古くからの貴族は、最後に私を不審と敵愾心を宿した瞳で睨みつけると、引きずられるように無言で退出していった。
「陛下、あの男あまりに無礼。殺さぬのですか。示しがつきませぬ」
ベタンソス宮中伯が憤懣やるかたない様子で言った。
「無礼……無礼と言えば無礼だろうが、小さな事だと思う。示しとはなんだろう? 人を心服させる皇帝の権威だというのなら、私はもっと別の方法で示したいと思う」
「お言葉ですが皇帝陛下、その小さき事が序列を、政治を、国を象っているのです。その小さき事の前にこれまで数多くの命が積み重ねられて――」
「ベタンソス伯爵」
イスクラ王が名を呼んだ。
「…………出過ぎた真似をいたしました」
「良い。そしてすまない。私は軽率な物言いをした。だが、決定を覆すつもりは無い」
宮中伯が礼をして下がる。
私は居並ぶガルシャ人達の顔を見渡した。
口には出さねども、いずれの顔にも私に対する不信と軽蔑があった。
彼等が忠誠を誓っているのはイスクラ王に対してであって、私にではない。私は彼等の主人足りえていなかった。結局、私は、飾りであるに過ぎない。
(……私には、何が足りないのだろう。私は、何ができる?)
求められているもの、譲れないもの、埋め合わせるべきもの、足りないもの。
考えている事は幾つかあったが、まずはメティス師とイスクラ王の二人と相談しようと私は思った。
●
1205年秋、ボスキ公ルカ及び賢者メティスらの調略により、フェニキシア王国南西部に位置するイル・ミスタムル州にて大規模な反乱が勃発した。
州の大半の諸侯が参加した反乱は成功し、州総督アンムラピは逃走、イル・ミスタムル州はヴェルギナ・ノヴァ帝国の傘下に入った。
この反乱の成功と皇帝アテーナニカからの相談を受けガルシャ王イスクラは一つの決断を下した。
後詰として備えさせていた国内の兵を船に乗せ、水上よりイル・ミスタムル州へと送り込む事にしたのである。
フェニキシア海軍は精強である為、今までは水上での兵力輸送は万一に備え避けられていた。
しかしイル・ミスタムル州が味方についた事により、その港と海軍の支援を受けられるようになった為、海上輸送が実行可能になったと判断したのである。
送り込まれる軍団の長に据えられたのは、皇帝アテーナニカその人であった。
首尾よくイル・ミスタムル州へと上陸を果たした皇帝軍500祈は、ヴェルギナ・ノヴァ側へとついた同州の諸侯を糾合し兵力を増強、祈士の数を倍となる1000祈にまで膨れ上がらせ、その大兵力と扇動された民衆の熱狂的な歓声を以って州内を完全に平定すると、イル・クアン州ベールハッダァードを目指し進撃した。
天険ベールハッダァードといえども主要な食料の供給源であったイル・ミスタムル州を奪われ、さらに前後より挟撃されるとあっては、十全の防御力を発揮する事は出来ない。ベールハッダァードは後方からの支援を前提に設計されている都市だったからだ。
その為、フェニキシアは国内の諸州より海軍まで含め残存の予備兵全てを掻き集めて急遽編成した軍団700祈を以って、ベールハッダァードの背後を守る位置まで前進し、皇帝軍の進撃を阻むべく立ち塞がった。
フェニキシア王女ベルエーシュもベールハッダァードの守りをグブラ伯ジザベルへと預けると親衛隊を率いて南下し軍団に合流、かくてイル・クアン州南部の草原にて皇帝と女王が直接対峙する事となったのだった。
●
冬の風にフェニキシアの緑成す草々が波打つように揺れている。
<<我々は豊かになれます。そう――アテーナニカ陛下の治世のもとでならばです>>
副軍団長の賢者メティスが居並ぶ一同へと念話を飛ばしている。
<<賊や魔物に脅える事がない平和で安全な世が来ます。陽が暮れれば休み、陽が昇れば起きて真面目に働く、それだけで誰しもが飢える事無く家族を作り守れる、豊かで平穏な世が来ます。
それはまだ未来の話ですが、この戦いに勝利する事でその一歩を踏み出せます。
功績を立てればアテーナニカ陛下はそれに見合った金貨をくだされるでしょう。
この戦いに勝利して金貨を手に入れましょう。
この戦いに勝利してより良い生活を手に入れましょう。
この戦いに勝利してより良い世界をこの現世に築きましょう。死後の世界ではなく今生きているかけがえのないこの世界でです。
奮戦し勝利すれば未来が開けます。
貴方の人生に鮮やかな薔薇色の色彩が加えられるのです。
貴方がその手で振るう鋼の剣が、金貨を掴み、皆を幸福に導き、そしてこの世界に希望に満ち溢れた素晴らしい時代をもたらすのです。
貴方の闘う意志こそが栄光の歴史を刻む。無法と理不尽に塗れた暗黒の時代はヴェルギナ・ノヴァ帝国の勝利と共に終わりを告げるのです。今こそが黄金の陽射し差す夜明けの時代なのです。
さぁ私達と共にこの世に産まれてきた意味をより豊かなものに変えましょう。暗黒を払う太陽を呼べ! 黄金の世界帝国ヴェルギナ万歳! 皇帝陛下万歳!>>
地鳴りのような盛大な歓声が湧き起こった。
メティスの演説は一部の貴族や知識人達からは「利益主義過ぎる」「地獄に続いてなきゃいいがな」と微妙な評価だったが、民衆達――すなわち兵の大部分――からは好評だった。特に明日食べるパンすらも不安なイル・ミスタムル州からの寝返り組からの支持が篤い。
とにかく彼等は喰えなければ始まらないのだ。
家族を喰わさなければならないのだ。
喰えなければ未来が無いのだ。
名高き賢者は皇帝の名において勝利すれば豊かな未来が訪れると保証してみせた。
このままでは未来が無い、明日をも知れぬ身の人々には、命を掛け金に剣を振るう理由足りえた。
「あの小娘に見えるババアは賢者というよりも扇動者なのではないか?」
そんな疑問の声もあがってはいたが、兵達はメティスの呼びかけに応えて「皇帝陛下万歳!」を唱和し皇帝軍全体としては大いに士気が高まったのだった。
●
破滅が近づいて来ている。
「アーシェラルドの食料備蓄は十分な量ではありません。このままでは我が軍の補給は二週間で尽きます」
「イルハーシスから運ばせなさい」
フェニキシア軍の幕舎では女王ベルエーシュが目の下に隈を作って書類仕事をこなしていた。
「イルハーシスでも不足しております」
「アヴリオンから買い付けなさい」
「しかし資金が……現在、傭兵達へと支払う給与さえも不足しており、一部の傭兵が離脱すると申し立てております」
「傭兵への支払いには十分な予算を組んでおいた筈よ?! あのお金は何処に消えたの!」
「はっ、それがなんとも面妖不可思議な事に……」
「調査しなさい!」
「今からですか?」
「証拠もなく担当者の首を刎ねる訳にはいかないでしょ!」
同盟国である北の戦士達――例えばユグドヴァリアの雷狼大公ソールヴォルフなどであれば冤罪の恐れがあろうが問答無用で首を刎ねただろうが、女王ベルエーシュは問題解決は望んでも、あくまで罪なき者を殺す可能性がある事は忌避した。とことんまで追い詰められていても、彼女はそれでも手段を選ぶ人間だった。
「恐れながら、信頼できる調査員というものが不足しています」
「なにそれ? 調査した所でその調査結果自体が信用できないって事? クソッタレ!」
ガルシャは豊かな国である。
それに比較すれば多くの国は貧しい。
だがフェニキシアとて貧富の差は激しかれど国全体として見ればそこまで貧しい国ではなかった筈だった。
しかし横領、中抜き、搾取等の悪徳がはびこっており、資金が効率的に運用されていなかったのである。
ベルエーシュは理解していた。最早、八方塞がりだった。
既に多くの諸侯がフェニキシア王家から離反まではいかずとも距離を取り始めている。
やはりイル・ミスタムル州を失ったのが、総督アンムラピを除けなかったのが致命的だった。
ベルエーシュとてアンムラピが癌であるとはわかってはいたのだ。
しかし、三代前から王家に仕えている宿将であり、豊かなミスタムルの地に総督として長く君臨し莫大な財を築いて、多くの兵権を握っていた大侯爵を罷免するだけの政治力を即位したばかりの十五歳の少女では持ち得なかった。
アンムラピは現在はその莫大な財産を抱え、金に物を言わせた質の高い私兵と息のかかった賊達の手引きにより既に国外へと逃亡を果たしていた。侯爵という身分ながらに思い切りが良かった。イル・ミスタムル州を長年搾り取って来た悪徳貴族は、ただの小悪党ではなかった。
(せめてあと一年あったなら! ああ、せめてガラエキア山脈の戦いで勝てていたなら!)
運命を嘆くが現実にもしもはなく、やり直しは効かない。
(こうなったら短期決戦……野戦で皇帝の首を取るしかない)
掻き集められた予備兵――弱兵であるフェニキシア兵の中でもとりわけに弱兵――で構成されている軍団で、おまけに士気も非常に低いとあっては、実行可能な作戦に制限が大きかった。複雑な戦術・連携など訓練も無しに取れるものでは無い。
だがそれでもフェニキシアが生き残る道は最早、国が崩壊する前に早期に野戦で勝利するくらいしか残されていない。
ベルエーシュはそのように判断し攻勢に出る決意を固める。
(私はベールの火)
ベールとはフェニキシアの主神である天神だ。雷火と嵐を司る。
ガルシャ王家が水神の血を引くとされるように、フェニキシア王家もまたこの天神ベールの血を引くとされていた。
エーシュはフェニキシアの古い言葉で火をあらわす。
すなわちベルエーシュとは天神の火炎を意味した。
ベルエーシュは自らに神々の血が流れているなどとは本気では信じていなかったが、しかしこの年若い女王は常人よりも精神エネルギーの扱いに長けているのは事実だった。オラシオンを扱う適正に優れている。
今の世で「適正がある」と言われ、カサドールと呼ばれている者達でもその大半は、本来『祈刃』が持つ性能の50%も引き出せていない。
ベルエーシュは王族のたしなみとして通り一遍の訓練を受けただけで、戦闘の達人という訳ではなかった。戦闘技能はただの少女に毛が生えた程度のものだ。
しかし、彼女は祈刃の性能を100%近くまでに引き出せる高適正者だった。
「古の大魔導、異世の神の断末魔と聖なる剣とを混ぜ合わせ、祈りの刃を鍛えたもう」
ベルエーシュはフェニキシア王家伝来の長剣を鞘から抜き放った。
真紅の刀身を持つ『片刃直剣(サーベル)』だ。
古の時代、伝説の大魔導が真なる銀、ミスリルで作られた伝説の聖剣を溶かし異貌の神と混ぜ合わせ鍛え上げたという。
世界を滅ぼす神の力を秘め、滅びの神々を滅ぼした祈りの聖剣。
使い手の命を喰らい尽くし破滅をもたらした血色の魔剣。
700年以上も前の大戦の後期に作られた祈刃だ。何故この曰く付きの長剣がフェニキシア王家に伝わっているのかはベルエーシュは知らない。
古い時代の祈刃だ。
時代遅れの祈刃だ。
今の時代の祈刃は使用者の命――魂を削るような祈刃は欠陥品とされ、使用されていない。
しかし初期の大戦の英雄、後にヴェルギナの初代皇帝となった神官戦士カルナインなどはその身を燃やして戦っていた。
古の大魔導が異神の皇を討つ為にあらゆる手段を用い全霊を賭して鍛え上げたという執念の刃は、技術が進歩した今となっては、時代遅れの欠陥品である。
適正が低い者には扱う事すら出来ない。
――だが、出力だけは高かった。
「……お前が悪しき者を滅する聖なる剣だというのなら、使い手の命を喰らう代わりに神々すらをも滅する魔剣だというのなら、私を糧にこの国に破滅をもたらす悪しき皇帝を滅ぼして、フェニキシアの滅亡を止めてみせなさい」
少女は額を血色の刃の腹につけると、祈りを籠めて呟いた。
●
イル・クアン州南部の草原にて両軍の戦闘が始まった時、近隣からの従軍希望者を受け容れ膨れ上がった皇帝アテーナニカ軍1100祈に対し女王ベルエーシュ軍は500祈あまりだった。
本来は女王軍は700祈いたのだがおよそ200祈は決戦前に逃亡したのである。その中にはヴェルギナ・ノヴァ側に寝返った者達もいた事だろう。
その頭数差倍以上。
さらには数だけではなく、皇帝側の方が兵の質、士気ともに大幅に勝っており、勝負はあっさりつくであろう事が予想された。
しかし奇策でもってボスキ公軍を敗北一歩手前まで追い込んだ女王ベルエーシュであったから、油断はならぬと皇帝軍は万全を期して慎重にあたった。
戦場は兵力差が活きる草原を選び、しっかりと鶴翼の陣形を組み、両翼を伸ばして、寡兵の女王軍に対し、多勢の利を活かして包囲殲滅せんとした。
これに対し女王軍はどのような策で応ずるかと注目されたが、この時ベルエーシュが採用した作戦は、単純に全軍一丸となって真っ直ぐに駆ける事だった。
魔術によって強化された軍馬をフェニキシアの優れた馬鎧でよろった装甲騎兵・妖騎兵と、重い防具を捨て軽量化を施した歩兵達による中央への突撃。
「狙いは皇帝アテーナニカの首ただ一つ!」
乗馬服姿で軍馬に跨った女王は、赤い刀身を持ったサーベルを振り上げると全軍突撃を号令、自ら先頭に立ち、ひたすらにヴェルギナ・ノヴァ帝国の本陣を目指して駆けた。
「フェニキシアの女王、血迷ったか!!」
帝国諸侯はその行動を見て、最早勝負あったとの念を抱いた。
両翼から破神の閃光の嵐が飛び、十字射撃を受けて突進する女王軍が見る見るうちに撃ち減らされてゆく。
そして皇帝軍の中央先頭へと激突し、一瞬で第一陣を喰い破った。
「なっ……にぃっ?!」
凄まじかったのは緑色の外套に身を包んだ妖騎兵の青年だ。
先頭を駆け卓越した槍捌きで次々に帝国兵を仕留めてゆく。
「こっ、こっ、こいつ、ゲオだぁああああッ!!」
「神将殺しのゲオルジオかッ!!」
かつて異貌の神々の将軍を討ち取った、北面傭兵団のエースの一人。
ここまで劣勢になってもフェニキシア王国に引き続き味方しているらしきアドホック傭兵は、騎兵となってもガラエキア山脈の戦いで見せた技の冴えを遜色なく発揮し大暴れしていた。
しかし、ゲオルジオの登場は予想されていた範疇の事ではあった。
メティスも他の諸侯達も無能ではないから、例え神将殺しが襲い来ても容易には破られぬよう前衛の守りは固めていた。
それがあっさりと破られたのは、
「――ばっ、馬鹿なっ!!」
ゲオルジオと並んで先頭を駆ける、軍馬に跨った金髪の少女――女王ベルエーシュがサーベルから真紅の光を放出して長大な光の刃と化し、光嵐の如くに凄まじい勢いで閃かせ次々に帝国兵を斬り伏せていっているのである。
その破壊力は凄まじく居並ぶ兵が木の葉のように両断され吹き飛ばされてゆく。およそ人間技ではなかった。
――何故、戦闘はほぼ素人同然の筈の少女がここまで強い?
居並ぶ一同が信じられぬ思いでいる中、ベルエーシュはゲオと並んで群がる帝国兵達を薙ぎ倒し、ついには戦列を突き破って、その奥の小高い丘上にて戦場を見渡しているアテーナニカを睨み、叫んだ。
<<切り札は最後まで取っておくものよ! クソ皇帝覚悟っ!!>>
帝国側の誰しもが『まさか』と思っていた事を現実としてみせた女王は、共通の念話領域へと声を響かせると、鞍上より赤光纏う血色のサーベルを振り翳し、跨る軍馬を皇帝目がけて矢の如く駆けさせた。
●
さて貴方である。
万一の際の護衛として雇われ、メティスの付近に控えていた腕利きのアドホック傭兵である貴方は、皇帝本陣の混乱っぷりを目の当たりにしていた。
<<アテーナニカ様、お下がりください!>>
副軍団長の賢者メティスが味方本陣の念話領域にて叫んだ。
それに側近のベタンソス宮中伯が叫び返す。
<<半数以下の小勢を相手に皇帝が陣を後退させるなど大恥ぞ!!>>
<<今はそんな事を言ってられる場合ではありませんッ!!>>
メティスはさらに叫んだ。
<<神将殺しは私が止めます! ――さん! アデルミラ! 女王を止めてください! 他の皆は続くフェニキシア兵達を!!>>
女王と神将殺しを先頭に、大きく撃ち減らされてもそれでも三百以上を数えるフェニキシア兵が突撃して来る。
<<皆>>
皇帝アテーナニカは貴方達を見渡すと表情を沈痛に歪めて言った。
<<不甲斐ない皇帝ですまない。すまないが、よろしく頼む。死なないでくれ>>
<<承知しております! おはやく!>>
メティスが叫び、アテーナニカが踵を返して駆けてゆく。ベタンソス伯爵らの側近達が後に続いた。
<<――すいません、勝手に割り振ってしまいましたが、止められそうですか? ベルエーシュ女王を>>
幼女の外見をした老婆が個人領域の念話で貴方へと謝ってきた。
貴方はメティスへと答えつつ祈刃を手に化け物じみた戦闘能力を発揮している女王を止めるべく、女騎士アデルミラと共に丘の斜面を駆け下るのだった。
■状況
女王ベルエーシュを打ち倒し皇帝アテーナニカを守る事が目的となります。
ゲオルジオや他のフェニキシア兵達はメティスや味方の帝国兵達が相手してくれるので、考慮に入れなくて大丈夫です。
PCが現在立っている地形は小高い丘の斜面。
アテーナニカは丘上から後退したので戦闘開始時ではベルエーシュからの射線は遮られています。
■特別失敗条件
後方に抜けられるとベルエーシュはアテーナニカへと追いすがって丘を駆け登ります。
ベルエーシュは射程の長い攻撃スキルを持っています。
アテーナニカが倒されるとシナリオ失敗となります。
PCがベルエーシュへと攻撃を加えている間は、ベルエーシュはPCを警戒して背中を見せてアテーナニカを追う事はしません。
■敵戦力
●神火の娘ベルエーシュ
フェニキシア王国女王。
金髪碧眼の十五歳の少女。
現在は白いズボンを穿いた乗馬服姿で胸甲をつけ、血色の直刀を手にして軍馬に跨っている。
顔の色は蒼白で額には脂汗が浮かんでいる。
――PL情報――
備考・1ラウンド経過するごとにベルエーシュは攻撃と防御が20、生命が100低下する。
備考2・通常攻撃は行わない。必ずいずれかのスキルで攻撃してくる。
――――――――
●基礎ステータス
――PL情報――
攻撃200
防御200
最大行動力4
使用ダイス1D100
攻防レート0
――――――――
●使用スキル
・レーザーブレード
赤い霊力の光を武器に収束させて刃と成し攻撃射程を延長する。
およそ2mの射程を持つ。
―PL情報―
パッシブスキル
――
・八双三連斬
行動力消費4
八双の構えを取った後、僅かな時間の溜めと共にレーザーブレードの光量を眩いまでに急激に増加させる。
その後、一刹那のうちに高速で三連撃を繰り出す。
前衛戦列の突破時では一撃で帝国祈士を両断していた。
―PL情報―
3回攻撃。一発一発のダメージが2倍。
本人が移動を停止していないと使用できない。使用するとそのラウンド中の機動力を全て消費する。
なお軍馬に乗っている場合などは軍馬が移動していても使える。
――
・虎切
行動力消費3
上段に構えた後、真っ向から剣を振り下ろし即座に真上へと斬り上げる二連撃。
―PL情報―
2回攻撃。一発一発のダメージが2倍。
一発目が崩しとフェイントを兼ねている。一発目のダメージ判定と共に攻撃側と防御側は互いに攻撃値に1D100と状況補正値を足してその値を比較する。「攻撃側の値-防御側の値」の数値が二発目の最終攻撃力に加算される。
――
・真破神剣
行動力消費4
僅かな間、剣に赤い霊力を凝縮し、極限まで眩く高めてから放つ破神剣。射程が通常の破神剣よりも長い。
―PL情報―
一回攻撃、ダメージ5倍
――
・大斬り
行動力消費1
大きく振りかぶって繰り出す強烈な斬撃。
―PL情報―
1回攻撃。ダメージ30%増加。
――
●軍馬
魔術によって強化された軍馬。
乗り手(ベルエーシュ)からの特別な念話で手足の如くに動く他、自らの意志でも主人に仇成す者へと蹴りを放ったりして攻撃してくる。
頑強な馬鎧で身を覆っている。
生命力はそこまで高くなく、PCレベルの通常攻撃を二回受ければ大体倒れる。
――PL情報―――
最大行動力1
使用ダイス1D50
攻防レート+10
――――――――
■味方戦力
●アデルミラ
黒髪ポニーテールの帝国の精鋭女騎士。
初期状態のPCよりもちょっと弱い程度で2回行動、使用ダイスは1D100。
■スキル一覧■
にあるスキルをどれか一つ、プレイングで指定すればセットできる。
乾坤一擲の突撃現場へようこそ、望月誠司です。
OPが長くなり過ぎました……最後までお読みくださり誠に有難うございます。
帝国ルートでのフェニキシア王国の興亡クライマックス回になるでしょうか。
帝国側が勝てばフェニキシア正規軍との戦争シナリオとしてはおそらくこれが最終となると思われます。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。