シナリオ難易度:難しい
判定難易度:難しい
澄んだサファイアの青のように、陽光を浴びる大海は煌めきながら浪々とたゆたっている。
嵐の海と恐れられるキンディネロス海を東と南に臨む街イルハーシス。
街の宿の一室にて円卓をズデンカと囲んでいたケーナは、
「どの商品を積んでいくのが一番良いと思いますか?」
と問われた際にまず前提の条件を確認した。
「うーん……開戦後もリムニ・リマニィとガルシャとの間で交易って続いていたかな?」
栗色の髪の少女から問われた明茶色の髪の少女は、その葡萄酒色の瞳をぱちくりと一度瞬かせてから、
「開戦……ユグドヴァリアがヴェルギナ・ノヴァに宣戦を布告してこの島の戦乱が始まった後、ですか? それとも、ユグドヴァリア・フェニキシア同盟がトラペゾイド連合王国へと宣戦を布告した後、という意味でしょうか?」
「それじゃ一応両方で」
「前者では交易はある程度続いていたと思います。トラペゾイドは中立を宣言していたのでガルシャとの国交は断絶されていませんでした。島の南側の海はフェニキシアが制していましたが、それは完全ではありませんでしたし、陸ではプレイアーヒルからアヴリオンへの道がしばらく生きていましたから」
ただ、とズデンカは続け、
「去年の夏に大公国側が築いたプレイアーヒルの『大砦群』が完成してからは陸路の交易は完全に遮断されていたと思います」
プレイアーヒル封鎖大砦群と通称されたそれは、ゲイルスコグル戦祈団と彼女等に協力した『アヴリオンの傭兵』が交易路を脅かしていた盗賊団を掃討し前線への物資供給線を回復させ、それにより確保する事が可能となった大量の物資を用いて大公国が築城した大規模な砦群である。
なおゲイルスコグル戦祈団に協力した『アヴリオンの傭兵』というのは他ならぬケーナ・イリーネだ。
(あー、あれかぁ。リスティル達は元気かな)
大砦群を築く際にもケーナは大公国側に協力して、ガルシャの聖堂騎士団と激しく刃を交えたものである。
「そういえばケーナって大砦群が築城された時に現場にいて、ガルシャの雷神ジシュカと戦ったんでしたっけ? そこで互角以上に渡り合って退けたって噂ですけど」
「互角以上……かは短い時間だったからわからないけど、一応ね。さすがに強かったよ、雷神は」
もっともあの当時は使用していた祈刃がギルドから借りていた安物だった。
エイワズとウルズのルーンが刻まれたザナトを手にした今なら、噂通りに互角以上に打ち合えるかもしれない。
茜色のミニスカート姿の少女の腰に巻かれた革ベルトに佩かれている、豊穣の象徴である麦と戦の象徴である剣を象った、黄金色に輝く彫金装飾が施された鞘に包まれた祈刃は業物だった。
「その大砦群が築かれた後は陸が遮断されたので、ガルシャとリムニ・リマニィ間での交易量は激減したと思います。交易が復活したのはガルシャが同盟の支配下におかれてから後、今年の春くらいからですね」
そして、
「後者の期間になると?」
ユグドヴァリアがフェニキシアと共同してトラペゾイドへと宣戦布告したのは今年の夏である。
「交易は再び閉ざされました。ガルシャとリムニ・リマニィとの交易が再開されたのは、フェニキシアがリムニ・リマニィを陥落させて以降ですね」
つまり一年以上まともな交易は滞っており、フェニキシアの支配下になるまで、交易が再開されていたのは僅かな期間のみだったらしい。
およそ一ヵ月程度だろうか。
「一ヵ月かー……でもその間は交易が行われていたんだよね?」
「そうなりますね」
「そしてその後、すぐにフェニキシアがリムニ・リマニィを陥落させたから、逆に交易が行われていなかった期間もごく短期間になってる」
「そうなりますね……」
ズデンカが赤瞳を向けて来る。
ケーナはどう答えるべきか少し悩んだ。
「まず、ガルシャの刀剣は高価だけど、それだけに相場次第では利鞘が大きいと思う」
ケーナはピンと人差し指を一本立てて言った。
ズデンカが頷く。
紫瞳の少女は二本目にピースの形になるように中指も立てつつ、
「だから交易量、つまり供給が減少していて、高い売り相場が見込めるなら、これを沢山仕入れるべきだと思うんだけど……」
「一ヵ月でも再開されていたのなら、同じ考えの商人がその時に大量に売り込みにいってそうですねぇ」
「そうなんだよね」
ケーナは頷いて、立てていた指をおろした。
フェニキシアは宣戦布告から素早くリムニ・リマニィを陥落させた為、ガルシャとリムニ・リマニィの間で交易が途切れていた期間は僅かでしかない。
「だからあまり相場が高くなっているとは考えない方が良いかなぁ……ガルシャの刀剣を仕入れるのは一、二本にした方が良いかも」
「なるほど。では安全策をとって仕入れは一本だけにしておきますね」
という訳でまずは雪星のガルシアンブレードを一振りのみ仕入れる事となった。
「それから次なんだけど――その前にまたちょっと聞きたい。ズデンカは一度の稼ぎを重視したい? それとも継続的にリムニ・リマニィと交易したい?」
「ん~~~~~長期的に見れば継続的に稼ぎたいですっ。ただ今は船を購入したばかりで資金に余裕がそこまで無いので、好景気なうちにガツンとまずは一度大きく稼いでおきたいですね……基礎体力が少ないと長期的な面でも支障が出るでしょうし……」
唸り迷うそぶりを見せつつもズデンカはそう答えた。
それを聞いてケーナは方針を決定した。
「なるほど。だったら、他に仕入れるのは食料と木材が良いと思う。食料は少なめにして木材を多めで」
「木材多め、ですか?」
「うん、木材は高く売れると思う、勘だけど」
「勘ですか……」
ケーナの言葉にズデンカはしばし思案した後にハッとしたように顔をあげ、
「……そういえば、攻城戦の末に占領したという事は色々破壊された訳で、そうなると家とか建て直す為に建材が必要になってそうですね!」
確かに、木材の相場は高くなってそうです! と明茶髪の少女。
「何より今いる現在位置イルハーシスの特産だから安く沢山手に入れられます!」
「ほら、木材、儲かりそうでしょ」
「確かに――」
「継続的にリムニ・リマニィと交易したいんだったら、不足して困ってそうな食料とか、上流階級に需要が高そうな高級家具とか仕入れて顔を売っとくのもありだと思うけど、一度の稼ぎを狙うなら木材のが確実だと思う」
「なるほど……そうですね、ケーナのお勧めの通り木材多めにしようと思います。建材が足りないというのも、食料が足りないほど逼迫した事ではないにせよ、困ってるでしょうから」
あと食料ならさっき自分が思いついていたように、他にも誰かが運んでそうだから、との事だった。
という訳で今回のノヴァク商会の仕入れはケーナとズデンカの相談の末、ガルシャの刀を一振りとイルハーシス特産のフェニキス木材を大量に、そして小麦粉を少々という割り振りになったのだった。
●甲板での戦い
ケーナは船縁より身を乗り出し見下ろした。
すると船体の側面に巨影が張り付き、多脚を蠢かせながら這い登ってきているのが見える。
<<――それじゃ、張り切ってお仕事始めましょうか!>>
ズデンカと船長からの念話が響く中、応えるように念を発しつつ腰に佩いている黄金色に輝く彫金装飾が施された鞘よりザナトを抜刀する。
鞘走りの音を発しながら鍛え抜かれた刀身が解き放たれた。
秋の陽光を浴びて女神の刃が綺羅の光芒を放つ。
大海を吹き抜ける潮風が、ケーナの頬をなで髪を揺らしながら抜けてゆく。
甲板も揺れていた。
嵐が過ぎ去り、海は先刻よりは比較にならない程に穏やかになっていたが、それでも海上、僅かに揺れている。
<<ところで、コイツって結構ヤバいゲノスなんだっけ? どんな風にヤバいのか覚えてる?>>
<<一番の注意点は8本の蛸足ですぜ相談役!>>
海の男は海の伝説の魔物に関してはさすがに詳しいらしく中年船長フズール・ハイレッディンは即座に念話を返してきた。
<<蛸足に絡まれて身動きを封じられたら、人型が手にしている槍で貫かれて即お陀仏って噂でさぁ! 他には――>>
と船長より伝説の眷属スキュラの情報を聞く。
情報の大体のところはケーナも吟遊詩人が歌っていた詩で実は既に聞いた事があったのだが、酒場で聞いていたそれは彼女にとって美味しい料理を食べる時のBGMでしかなかったので、耳に入っていても内容までは気にしていなかったのである。
今度こそ情報を音ではなく情報として認識した少女は、
<<ふーん。槍に触っても、足に捕まってもダメ……ってことは全部避ければいいんでしょ? いつもと同じだね!>>
ありがと船長! と感謝を伝えておく。
<<礼には及びやせんぜ! その代わり頼んますよ小戦姫! あんたも既に荒事を生業にしてる連中の間じゃ生きた伝説だ。どっちの伝説が上なのか、キンディネロスの海に知らしめてやってくだせぇ!!>>
<<りょーかい。まぁーまっかせなさい! 大船に乗ったつもりで見てて!>>
ケーナから十歩ほど離れた位置にて巨影が船縁を乗り越え甲板へとぬるりと侵入してきた。
スキュラ、それは女人と大型の蛸が融合したかのような異形の魔物だった。
下半身は赤茶色の皮膚に白い吸盤を備えた蛸の脚のような形状のものが多数生やされている。
脚一本一本の長さはおよそ四クビト(約2m)ほどであり、太さはもっとも太い部分で三パルムス(約30cm)程度だろうか。
合計で八本ある脚の根元は一ヶ所に集まっており、そこが上半身である女人状部分の腹に繋がっている。
人型の上半身の肌は白く滑らかで、その体躯は細く引き締まっているが胸部は豊かに盛り上がっている。
絹糸のような長い髪は金色で、顔の彫りはトラシア人の美術彫像のように深く、瞳の色は氷のような水色だった。
そして白くたおやかな手には全長四クビト(約2m)にも及ぶ槍の柄が握られている。
槍の先端は三又に分かれており、蒼白く輝く燐光を鬼火のように立ち昇らせていた。
船長がケーナに語った話によると、この蒼光の刃は生物の生命力を吸い取るらしく、槍に突き刺された対象は数秒で急速に干からびてミイラのように変えられてしまうらしい。
一瞬、刃が掠めただけでも活力が奪われるという。
まさしく「触ってはダメ」なものだった。
故に、
(全部よける)
ケーナは籠手越しに右手に握るザナトを低く構えつつ、注意深くスキュラを見据えながら、揺れる甲板の足場を確かめるようにゆっくりと歩み寄ってゆく。
スキュラは笑っていた。
獲物を前に歓喜する蛇のように氷色の瞳を細めている。異貌といえども人に似た心があるのだろうか。あるいはそれはただの上辺だけなのか。
いずれにせよケーナは相手の表情は気にしなかった。冷静に巨体の全体を見つめつつ、間合いぎりぎりを探るようにじりじりと進んでゆく。
不意にスキュラの巨体が高速で滑るように動いた。
赤黒い雷光だ。
気づいた刹那には視界が迫る蛸足で覆われている。顔面を柘榴の実の如く砕き消し飛ばす横薙ぎが迫り来ている。
ケーナの膝が曲がった。上体が低く落ちる。生臭く湿った赤雷が、雷光よりも速く身を屈めた少女の頭上を突き抜けてゆく。
少女は右手に力をこめた。籠手越しに柄を握る指が締められる。膝のバネと体幹とを使い、捻り伸び上がりざまに剣を一閃。
刀身に霊気が収束されたザナトが、立ち昇る稲妻のごとく唸りをあげ振り上げられる。
伸びきったスキュラの脚を下方から昇った蒼雷が喰らう。
蒼い獣の牙は、しかし蛸足を裂かずに弾き飛ばした。
崩撃。
纏わせた霊気により斬撃力は著しく低下するが、引き換えに鈍器のように強い衝撃を対象に加える事ができる。
スキュラの長い蛸足が、天へと向かい高々と大きく打ち上がる。
足の動作が大きく阻害されてゆく。
しかし、その足の動きは妨げられているが、スキュラには脚がまだ7本あった。それらは健在だ。
脚の一本が打ち上げられても意に返さず、スキュラはケーナが剣を振るった隙を狙い今度は二本の脚を同時に襲い掛からせた。
赤黒雷、二連。
かわせるタイミングではない。
ケーナはその瞬間に、霊力を解き放った。
革鎧に小柄な身を包んだ栗色の髪の少女の姿が掻き消える。縮地。二連の蛸脚が挟み込むように直前までケーナが存在していた空間を薙ぎ払いながら抜けてゆく。
次の瞬間、剣を下段に構えた姿でケーナが出現する。
位置は、スキュラの眼前。
<<エイワズよ!>>
女神の剣ザナトに刻まれたルーンに呼びかけつつ霊力を解放。その念に応えるようにルーンが輝くと左斜め下から右斜め上へと剣が走り、そこから唐突に左へと直角に信じられぬ事に加速しながら曲がって右斜め下へとさらに加速して剣が走る。並の祈士どころか達人の祈士であっても普通ならば決して繰り出しえぬ、慣性を無視して加速する常世物理法則外の軌道。外の法則、外法、すなわち魔法の斬撃だ。古の真なる魔法の一つ。
最初に打ち上げられ動きを阻害されている脚の根元付近へと魔法剣が喰い込んでゆく。
その瞬間、
<<ウルズ!>>
ケーナはさらにルーンの力を解放した。運命のルーンが輝く。
重みが急激に増された戦女神の刃は、蛸の太く弾力のある脚を、意に返さずそのまま泥のように斬り裂いて、真っ二つに断って鮮やかに豪快に抜けてゆく。
青色の血液が断面より勢い良く噴出し、スキュラが表情を苦悶と憤怒に歪ませる。言葉にならぬ叫び声がその女身の口より放たれる。
そして彼女は身をよじらせながら、さらにまだ残っている健在な脚を振るい、手に持つ槍をしゃにむに突き降ろす。
ケーナ、冷静に動きを見ている。
横から弧を描いて迫る蛸足を風切り音と直感で捉えつつ一歩を後退してかわし、さらに勘と予測で一歩を後退してもう一本の脚をかわす。
そこへ追うように延びてきた槍に対し霊力をさらに解放、神がかった速度にまで加速し大きく横にステップして三叉の穂先より逃れる。
分かれている槍の穂先がケーナのすぐ傍の空間を掠めながら突き抜けてゆく。僅かにでも掠れば命を吸い取られる魔槍だ。
「カァッ!!」
スキュラは咆哮しながら足を蠢かせて滑るように自身を前進させ、さらに横薙ぎに槍を振り回す。
ケーナは霊力を全開に解放、横薙ぎの槍に対してザナトを一閃した。
轟音と共に霊力が収束された剣の刃と槍の柄が激突、槍が大きく弾かれる。
スキュラは槍を手放すまいと歯を喰いしばる。上体を横に流しつつも柄を強く掴み直し――その瞬間、視界が白に灼かれた。
ケーナが閃光弾を放っていた。
革鎧に赤いスカート姿の少女は、さらに間髪入れずに甲板へと籠手に包まれている片手をつけ、霊力を周囲へと流し込む。
地霊縛。
甲板より見えざる三条の霊気の糸が立ち昇り、スキュラの脚に絡み付いてその動きを阻害してゆく。
スキュラは咆哮し、視界を潰されながらも動かせる三本の脚を一斉にケーナへと放つ。
鈍い音と共に足先が甲板を剛打し、しかしその場からは既にケーナの姿は掻き消えている。
小柄な戦姫は縮地で加速すると共に甲板を蹴って宙を舞い、すれ違いざまにスキュラの女人状の脇腹へと剣を一閃させていた。
轟音と共にスキュラの身が折れて、その態勢が大きく崩れて動きが止まる。
<<海の伝説。確かに強かったけど……雷神よりは遥かに弱かったかな?>>
スキュラの背後へと着地したケーナは、念話を発しつつ生命力を燃やし、霊力を極限に解放。
力溜め、紫電、使用可能な諸々の猟技と祈闘術を籠めて剣を振るった。
弧を描く剣閃と共に三日月状の極大の破神の閃光が撃ち放たれる。
大気を揺るがすほどの轟音と共に撃ち放たれた光の衝撃波は雷光の如くに飛び、一瞬でスキュラの後頭部に吸い込まれるように命中、スキュラのそれを爆ぜさせた。
砕かれたスキュラは足とは違い、赤色の鮮血を甲板へと雨のごとく散らしながら崩れ伏し、そして二度と動かなくなったのだった。
●
船長のフズールがスキュラの骸の傍へとシミター片手に寄り、その死亡を確認すると、
「お流石です相談役。トラシアの傭兵伝説の方が上でしたな」
「今はもう傭兵じゃないけどね」
笑ってケーナは言葉を返した。確かにスキュラは息絶えている様子だった。
船長はケーナに対して少女ながらにも傭兵として名をあげてきた凄腕の、生きた伝説的祈士として敬意を払ってくれていた。フズールは自身では決してケーナを軽んじるような言動はしないし、部下の船員達にも決してさせなかった。会長のズデンカの意向やケーナ自身の実力もあるが、それでも中には愚かな人間はいる、それでもケーナを軽んじる者が船内で一人もでないのはフズールが目を光らせているからだ。
そしてケーナの方でもこの船長へは敬意を払っていた。
大酒飲みでしょっちゅう酔っぱらっている男だが、仕事はむしろそこらの男達よりもしっかりこなしているからだ。
ケーナは自分自身も普段はいい加減なところがあるので、その長短がはっきりしているところに親近感が沸いているのだった。
分野は異なるが船長がケーナの実力を認めているように、ケーナもまた船長の技能を認めていた。
戦友、というのはこんな感じなのだろうか? とふと思う。
<<提督! スキュラはケーナ相談役が仕留めてくださりました! 圧勝です! 鮮やかなもんでしたぜ!!>>
<<まあ! さっすがはケーナですね!!>>
<<ウオオオオオオ!! さすがはイリーネ相談役!!>>
<<ウオオオオオオ雷神をも退けた小戦姫の名前は伊達じゃないッ!!!!>>
船長が念話でズデンカや船員達に勝利を伝えると爆発的な歓声が伝わってきた。
彼等彼女等はすぐに船内から甲板へと飛び出してきて、確かに伝説のゲノス・スキュラが討たれているのを確認すると、口々にケーナの腕前と勇気を讃え、その働きを賞賛したのだった。
●
その後、船は東への航海を続け、数日の後に、夜明けと共に昇る朝日の黄金の光を浴びながらリムニ・リマニィの港へと到着した。
フェニキシアの占領下にあってズデンカは当然だったが品を売買するルートをきちんと抑えているようだった。運んできた交易品は無事にすべてが売却された。
売買する際に元北面傭兵団員やトラシア人、異名の小戦姫など肩書きを使うかどうかケーナが提案してみたところ、木材を売るのにはあまり効果的ではなさそうだが、刀剣の売り込みにはやり方次第では効果があるかもしれないとの事だった。
という訳で購入した一振りだけの『雪星のガルシアンブレード』の値を釣り上げるべく、小戦姫を名乗ってこの祈刃は値段に対してとても性能の良い素晴らしいものである、と力説してみた。
しかし、ガルシアンブレードは既に以前に到着した商人によってかなりの量が売られていた様子だった。
その為、相場は高いとはいえず、
「こちらのケーナは今回の航海であのスキュラを退治したのですよ」
「ほう、あのスキュラを! それは凄い!」
などと武勇伝で箔をつけ演舞などを見せて好感触を得て、その為に普通よりも色をつけて買い取って貰ったりはしたものの、それでも刀剣に関しては交渉の末にギリギリ赤字は回避された、程度の利益となってしまったのだった。
「あー、あたれば利鞘が一番大きいと思ったんだけどなぁ」
「商売ですからね、そういう時もまぁよくあります。儲けがでなかったのは残念ですが、でも、ケーナのリスクを抑える手腕は見事でしたよ」
と状況を見て当初よりも仕入れの本数を減らしたケーナのやり方はズデンカに評価された。
そしてその一方、大量に仕入れた木材に関して。
フェニキス木材は建材としてだけでなく燃料としても優秀な為、復興とこれからのフェニキシア軍の進軍準備の為に強い需要が続いており、非常に高い相場で売り捌く事ができた。
「やりました! 大儲けですよケーナ!! 今夜はごちそうです!」
「やったねズデンカ! それじゃ遠慮なくいただいちゃうよー!」
また小麦粉の方も木材ほどではないにせよ高めの需要が続いており、こちらもそこそこの儲けを出す事ができた。
祈霊石をフェニキシア軍へと納品し、また交易に関しても一通りの売買を終え打ち上げを行った夜の翌日、休日となったその日にケーナはズデンカと弟のユーニと共に食べ歩きを楽しんだ。
露店でリムニ・リマニィの名物の貝の壺焼きを食した際などには、
「これ美味しい〜! よし、ユーニ! 作れるようになって!」
「む、無茶言いますねぇケーナは――ってえ、やってみる? ……ユーニさんはお姉ちゃん思いで偉いですねぇ」
ユーニはズデンカともども姉からの無茶振りに呆れていたが、料理は好きらしく一応チャレンジしてみるとの事だった。
かくて、港街で楽しく過ごし休養をとった一行は、リムニ・リマニィで仕入れた品(またケーナとズデンカで相談して選んだ)をナオ船に積んで帰路につき、無事にイルハーシスへと帰還して売り捌き、そこでもまた大きな利益をあげたのだった。
「ケーナのやり方は果敢でありつつもリスクは極力抑えていて、利益を手堅く拡大してゆけますね。この調子なら二隻目の船の購入もそう遠くない日にできるかもしれません」
などとズデンカはイルハーシスの街でまた景気の良い、調子の良い事をケーナへと語ったのだった。
まぁそんな事を酒杯片手とはいえ言えるくらいには儲かったらしく、ケーナやユーニにもボーナスが出たので、イリーネ姉弟はまたイルハーシスの街においてもズデンカら商会メンバーと共に食べ歩きを行ったりしたのだった。
成功度:大成功
獲得称号1:スキュラスレイヤー
獲得称号2:海の伝説殺し
獲得称号3:リスク回避を抑えたバランスの良い交易相談役
獲得称号4:アナトの魔剣士
獲得実績1:伝説の眷属『スキュラ』を討伐した
獲得実績2:交易の際、供給過多な高級品による出血を最小限に抑え、かつ需要の高い良品を主力に選定し利益を大きく増加させた
獲得実績3:黄金の暁航路