720年前、初めて異界より『異貌の神々』の大侵攻を受けた時、トラシア大陸には瘴気が満ち溢れ、人々の多くが壊死し、異貌の神々とその眷属が殺戮の限りを尽くし、世界には絶望のみが溢れていました。
そんな中、古の大魔導が産み出したのが『祈刃(オラシオン・アルマ)』です。
それは人の精神をエネルギーに転化して光の刃を形成し、使い手の身体能力を大幅に上昇させる機能を持つ霊装兵器でした。
その身と共鳴する莫大な霊力によりオラシオンを振るう者はまさに一騎当千たる強大な力を誇りましたが、その力を発揮する為には極めて多大な精神エネルギーが必要とされ、とても一人の精神力で動かせるものではありませんでした。
数百、数千、数万の人々の精神エネルギーを特殊な装置によって特殊な霊石――『祈霊石(ピエドラ・ルエゲン)』へと集積し、十分なエネルギーが蓄えられたピエドラを祈刃へと嵌め込み、しかるべき使い手が使用する事で初めて『祈刃(オラシオン)』はその強大な力を発揮します。
使い手の適正や力量が十分でない場合、どれだけ莫大な精神エネルギーが籠められていても祈刃は力を発揮せず、また逆にどれほど使い手が優れていようとも精神エネルギーが枯渇していれば、やはり祈刃は力を発揮しません。
また初期の頃は使用者に高い負荷がかかる為、その命――寿命を激しく削りました。
現在では祈刃の性能が向上した為に、祈刃を振るっても寿命が削れるような事はありません。
形状も性能も初期の頃に比べて非常にバリエーション豊かになっており(初期の頃は皆同じ性能で形状も剣しかなかった)多種多様な『祈刃』が作られています。
剣、槍、斧、爪、杖、銃剣付小銃、様々なものがあります。
基本的にその特性上、近接攻撃できない形状のものは存在しません。
その為、弓や弩や拳銃の形をした祈刃も存在しますが、それらも必ず何らかの形で近接攻撃が可能なようになっています。
カルナイン「百億の祈りの焔だ」
祈刃は誰しもが扱える兵器ではありませんでした。
適正を持たない者は祈刃の性能を十分に引き出す事が出来ません。
祈刃の性能を十分に引き出せる適性を備えた使い手、血を吐くような人々の祈願に応え人類の生存を守り、その身を燃やし尽くしながらも異貌の神々を狩り立ててゆく彼等はいつしか人々から『祈士(カサドール・デ・ラ・オラシオン)』と呼ばれるようになりました。
しかし、『適正がある』と言われカサドールと呼ばれている者達でも大半は、本来『祈刃』が持つ性能の50%も引き出せていないというデータが残されています。
祈士の戦闘能力は主に、
1.霊装兵器たる『祈刃(オラシオン)』自体の性能
2.燃料となる『祈霊石(ピエドラ)』に籠められた精神エネルギーの量と密度
3.使い手である『祈士(カサドール)』の適正と力量
これら複数の要素が複雑に絡み合って決まると言われています。
『祈刃』すべての性能を引き出せていない『祈士』であっても、常人よりも遥かに強大な存在です。
『祈刃』と共鳴する霊力によって身体能力が激増する事も大きな差ですが、最も一般人との差を決定づけるのは『偏向波紋壁(エスクード・ディフレクター)』です。
『波紋壁(エスクード)』は『祈士』達が『祈刃』を身に帯びている間、無意識でも展開できる障壁です。
『波紋壁』を纏っている存在は『祈刃』を用いた攻撃及びスキル(猟技含む)、あるいは『異世の存在』からの攻撃で無い限り基本的にダメージを受けません。
その為、人間同士の戦いである場合『祈士』を打ち倒せるのは『祈士』のみです。
故に、祈士は元々は異界からの侵略者を撃退し人類の生存を守護する存在でしたが、祈刃の性能向上からその使用による寿命の消耗も無くなり、いつしか人間同士の戦いにも用いられるようになり、国家間戦争の主戦力となってゆきました。
トラシア文化圏における人類国家間の正規の戦争は例外状況を除いて『祈士』達の勝敗を以って決着がつけられる形になっています。
『祈士』の数はそれほど多いものではない為――適正があるのは千人に一人程度の割合――『祈士』一人一人が国家間のパワーバランスに与える影響力が強くなっています。
トラシア文化圏の都市や町、村の中にはほぼ必ずといって良い程、背の高い石塔が幾つか建っています。
これは「一定範囲内の人の精神エネルギーを収集する」機能を持った魔導装置であり、毎日定められた時間になると稼働します。(主に領主から派遣された役人が制御している)
およそ時計塔から鐘の音が響くなどして時刻が知らされると、人々はその間、仕事などの手を止めて、祈りを捧げます。
祈りを捧げる事が推奨されるのは、精神エネルギーは何か強い感情を抱いていた方が高まる為です。
およそ一、二分程度でその日の精神エネルギー収集は終了します。
カサドールなど霊力を見る事に優れた者の目ならば、その間、人々の身より生じる蒼白い光の帯が石塔の方へと向かい流れてゆくのを視認できるそうです。
石塔へと集められた精神エネルギーはそこに備えられている装置に集積され、そこからさらに各『祈霊石』へとチャージされてゆきます。
なお基本的には、収集される精神エネルギー量は人々の体調に影響が出ない範囲に定められている為、日常生活に支障はでません。
ただ、状況によっては、極限まで吸い取ろうとするような領主も存在するそうです。
なお、カサドールは纏っている『波紋壁』によって防御されている為、精神エネルギーが勝手に集積される事はありません。
●祈刃と祈霊石
祈刃には必ず祈霊石が嵌め込まれており、そこに集積された人々の莫大な精神エネルギーを燃料とする事で、祈士はその強大な戦闘能力を発揮できます。
祈霊石に充填されたエネルギーが空になってしまった場合、祈刃は威力を大幅に減少させ、さらに祈刃の補助によって上昇されている祈士自身の身体能力も大幅に低下してしまいます。
一戦や二戦ですぐに枯渇するものではありませんが、PC含めアドホックに所属している傭兵は、アドホックの本部ないしその支部で祈刃に組み込まれている祈霊石を定期的に入れ替える必要があります。
人類史上初めて祈刃の使い手――すなわちカサドールとなった男。
第一次異神大戦において活躍し、当時存亡の危機にあったトラシア文化圏の人々の希望の星となりました。
獅子奮迅した彼はやがて大戦を人類側の勝利へと導きます。
大戦集結後は後代に世界帝国へと成長するヴェルギナ帝国を建国、その初代皇帝の座につきました。
混迷窮まった時代の英雄であるだけに諸説ある人物で、説の中の一つには、
『神官戦士カルナインは第一次異神大戦時、実はその途中でオラシオンの過剰使用により命を使い果たして戦死している――』
というものがあります。
『大魔導達は英雄カルナインの死による人々の士気低下を恐れ、その死を隠した。大戦を集結させ、後にヴェルギナ皇帝になった男は大魔導によってカルナインに似せて姿形を変えられた影武者であり、人類史上初めて祈刃の使い手となった男とは別人である――すなわちヴェルギナ皇家はカルナインの子孫では無い』
この言説に対しヴェルギナ皇家は「我々は間違いなくカルナインの子孫である」とだけコメントしています。
カルナインは帝位に就いた後、統治は良好でしたが、女性関係のスキャンダルでしばしば騒がれたとの記録が残っています。
しかし生涯でもうけた子供は帝位に就く前に正妻との間に授かった一子(後に二代目皇帝となるフィリッポス)のみであり、度々の不倫騒動を起こしても正妻との仲は生涯良好だったと伝えられています。
なお皇帝と皇后の関係は少しばかり不自然な部分もあったらしく、その様から、
『皇帝と皇后は実はまっとうな夫婦ではなく偽りの夫婦関係であり、フィリッポスは皇帝の実子ではない』
という珍説もあるそうです。