武装商人のズデンカ「小麦が駄目にされてしまったら私としても困るので、貴方さえよろしければ、退治してあげて欲しいのですが……いかがでしょう?」
依頼主・セドート村の村長(フェニキシア王国)
概要・村内に現れたゲノス(カエル剣士)の撃破
シナリオタイプ・戦闘
シナリオ難易度・普通
関連の深いNPC・武装商人の「ズデンカ・ノヴァク」
ステータス上限・攻撃&防御170
シナリオ参加条件・無し
貴方は襤褸を纏った男が斧を振り翳し飛び掛かって来るのを視界の隅に捕らえると、振り向きざま素早く祈刃を向け、その先端から閃光を撃ち放った。
ドンッという空気が破裂するような重い轟音と共に飛び出した光が腹に突き刺さり、斧男が血反吐をぶちまけ回転しながら吹き飛んでゆく。
<<畜生! こんな腕利きがなんでこんなチンケなキャラバンの守りについてやがる?!>>
<<チンケで悪かったですね!>>
明るい茶色の長髪の少女が長柄の戦槌を振り回して、念話領域で叫んだ男を殴り飛ばした。
ぐげぇと悲鳴をあげて男が倒れ地に転がる。
さらに隙を狙って突撃してきたもう一人を貴方が間髪入れずに打ち倒すと、まだ立っている男達はどうあがいても勝てぬと悟ったか、悲鳴をあげ踵を返し逃げ始める。
貴方達の周囲には既に十数人の野盗らしき男女が倒れていた。
――追撃はするか?
という旨の念話を貴方が投げかけると、現在の雇い主であるこのキャラバンの長、ズデンカ・ノヴァクは少し迷った様子だったが、
「……いえ、そこまでは必要ないでしょう」
と首を振った。
貴方が理由を問うように少女を見つめると、彼女は長柄の戦槌を肩に担ぎつつ周囲を見回し、
「こんな時代です、この人達が盗賊になったのも、何か理由があるのかもしれない――まぁ殺される事も無く、奴隷にされる事も無く、無事に被害なく生き残ったからこそ言える台詞ですけどね。助かりましたよカサドール・エル・フェルテ。腕が立つ、という傭兵ギルドからの評価に間違いはないようですね」
エル・フェルテ、というのは『強者』という意味らしい。一つの尊称だ。祈士の強い人。
現在、貴方は隊商護衛の依頼を請け負い、ゼフリール島南西部に位置するフェニキシア王国を旅していた。
この王国では先王らの死により年若い娘が急遽後を継いで女王となった為、政治に乱れが生じていると言われている。
実際中央の目が行き届かなくなったのか、それを良い事に一部の領主達が好き勝手をやっていて、結構な悪政が問題となっていた。
地方では過酷な税の取り立てから、人々の生活が立ち行かなくなっている場所も多いのだという。
その身を盗賊にやつす者が急増し、賊によって被害を受けた人間がまた賊となる。
人々を脅威から守るべき兵達は、賊の討伐に追われて余力を奪われ、偶に出現する『眷族(ゲノス)』への対応が疎かになり、その跳梁を許してしまっている。
悪循環が悪循環を呼び、なかなか酷い有様になっていた。
――こんな治安の悪い国で稼ごうとするよりも、もっと安全な国で商売した方が良いのでは?
というような意味の事を貴方が問いかけると、
「条件が良い国だと、既に先達たちがしっかりと販路を構築しちゃってて、競合がすっごい多いんですよ。こういう悪条件の場所だからこそ、私みたいな新米商人でも喰い込める目があるってものなのです」
一理はあった。実行は口で言う程に簡単ではなく、それはそれで過酷な道だとは思うが、ズデンカ・ノヴァクという女商人は、なかなか果敢な性格をしているらしい。
なるほど了解、と貴方は頷くと、再び進みだした荷馬達の列を引きつつ、旅する商人達と共に荒野を歩いてゆくのだった。
●
「ふぅ」
セドート村の農夫エノクは、担いだ麦束を木で組んだ柵の上にかけた。
数歩を後退し、身を反らせてから、日に焼け土に汚れた褐色の手で、腰の後ろを数度叩く。
痛みが若干和らいで心地が良かった。
西の空の低い所で山吹色に輝く夕陽が燃えている。
涼やかな夕方の風が緩く吹いていた。
今、セドート村は小麦の収穫の真っ盛りであった。
島の中部では小麦はアシェラ(6月)からフィリッパ(8月)にかけてが収穫時期だったが、南部に位置し暖かいフェニキシアでは、ヴェルガン(3月)からメリク(5月)頃にかけて収穫されるのが一般的だった。
エノクも今ちょうど、収穫し終えた麦を束にして柵にかけ終えた所だ。
木で柵を組み、麦を収穫して束に結び、組んだ木柵にかけ干していく作業は重労働で、四十を半ばも過ぎた齢であるエノクの肉体にはなかなかキツイものがある。
しかし、夕陽を浴びて黄金色に輝く麦束が、何列もの柵にかけられ整然と並んでいる様は壮観で、一年の苦労の結実が生み出すこの美しい光景を見る為だったら、こうして身体の痛みを甘受する事もそう悪くはないのかもしれない、と作業を終えた今ならばエノクは思った。
その折角の実りも領主が課している重税のせいで大半がもっていかれてしまうのだが、ミスタムル湖の恵みを受けているイル・ミスタムル州一帯は土壌が豊かで、セドート村のエノクの畑も例に洩れず豊作であり、なんとか生活してゆく分くらいは手元に残るのだった。
しかし同年の妻との間に遅くに授かった一人息子に、自分の若い頃のような苦労はさせぬよう少しはマシな財産を残してやりたかったから、もう少し税が軽くなってくれないものかとは思う。
(……領主と代官の気性を考えれば、望み薄というものだろうが)
セドート村を領有する男爵は虚栄心が強く散財家である事で知られていた。
村を直接治める代官である騎士は、男爵から重い割り当てを課せられているらしく、その取り立ては熾烈で、税がこれ以上重くなる事はあっても、軽くなる事はあるまい。
先王ハミルカルが健在だった頃はこれほどではなかった。
だが、その年若い娘が女王となってからは酷いものだ。
伝統あるこのフェニキシア王国は、異貌の神々が世界に現れて以降、急速に黄昏へと転がり落ちていっている――そのようにエノクには感じられた。
せめて先王が健在だったなら希望も持てたのだが、現状を見るに新しい女王の治世に期待はできまい。
この国の未来は暗い。
そう思いエノクが深々と嘆息した時だった。
目の前の麦束が消えた。
一つ、二つ、三つ、と次々に消えてゆく。
目の前、空になった柵を挟んで向こう側にカエルが現れた。
赤く細長い舌を伸ばして麦束を絡め取り、次々に咥内へと納めて呑み込んでいっている。
その時点でもうまっとうなカエルではなかったが、とりわけ奇妙な所は、体長が四クビト(約2メートル)もあり、しかもその巨大ガエルが二本の足で立っていて、腰に革のベルトをまわし鞘に納められた長剣を佩いている事だろうか。カエルの身の上ながら襤褸の砂色マントを羽織っている事も珍妙である。
傍らの宙には、水色の拳大の球体が浮いていてクルクルと蛙怪人の周囲をまわっていた。
突然の事に呆気に取られ立ち尽くしていると、金色の瞳がギョロリと動いてエノクを見た。
獣人種(セリアンスロープ)には顔が獣な者もいるが、顔が両生類だという者は見たことも聞いた事も無い。
つまり、
「ゲ……ゲノスだぁあああああああッ!!」
中年の農夫は悲鳴をあげると踵を返し、脱兎のごとく逃げ出した。
●
「長剣を佩いたカエルの怪人?」
雇い主のズデンカ・ノヴァクが葡萄酒色の瞳を瞬かせた。
都から運んで来た品の売却と小麦の買い付けの為、貴方達が村長と商談を行っていた所、村人らしき中年の農夫が血相を変えて村長宅へと飛び込んで来たのである。
曰く、突如出現した剣を帯びたカエル怪人は舌先を伸ばし、次々に収穫を終えたばかりの小麦を喰らっているのだという。
異様な程の速さで麦を胃袋の中に納めていっており、その勢いは留まるところを知らず、このままでは村中の麦を喰らい尽くされてしまうとの事だった。
「体長はエノクさんよりちょっと大きい程度なのですよね? それ物理的におかしくないです??? 呑み込んだ麦、一体何処に消えてるんでしょう」
ズデンカは小首を傾げているが『異神の眷族(ゲノス)』なんてのはそういう事を平気でする奇怪な生物である。胃袋の中が魔法的力場に満ちていて、一瞬で小麦を消化し、エネルギーに転換している、とか言われても驚きはしないし、そのうちに麦ではなく人間を喰らいだしても驚かない。
「ズデンカ殿、折り入ってお頼み申し上げたき事があるのですが……」
農夫からゲノス出現の報を聞いた白長眉の村長はそう言って話を切り出して来た。
ちらりと貴方を見て言う。
「そちらの御仁は、とてもお強い祈士様なのですよね? どうかこの村の危機を救ってはいただけますまいか……? 無論、御礼は重く差し上げる次第」
貴方は赤瞳の少女と顔を見合わせた。
「……エル・フェルテ、小麦が駄目にされてしまったら私としても困るので、貴方さえよろしければ、退治してあげて欲しいのですが……いかがでしょう? 村長さんからいただける御礼は全て貴方に差し上げます」
そういう訳で貴方は追加報酬と引き換えに、突如現れた奇怪な蛙人剣士型ゲノスの退治を請け負ったのだった。
■目標
ゲノスの撃破
●ゲノスの現在位置
セドート村内の畑。
畑は麦の収穫を既に終えていて、はさ掛け(木で組んだ柵に結んだ麦束をかけて天日で干す作業)を行っている最中。
畑は多少柔らかいが、そこそこ硬く足を取られるような事は無い。
●時刻と天候
日暮れ。山吹色の光を放つ太陽が西の空の低い位置で燃えている。
快晴。風は時折り吹いているが、勢いは緩い。
■ゲノス(蛙人剣士)
●外見
二足歩行するカエル男型ゲノス。
体皮は緑色を基色とし所々白色や薄緑色。瞳は黄金色で瞳孔部分は色が濃い。
砂色の襤褸マントを羽織っている。
身長2m程度。
腰にベルトを巻いて鞘に納められた長剣を佩いている。
長剣の長さは全長1m20cm程度。
傍らに水色の握り拳大の球体が浮いていて、蛙人剣士の周囲をクルクルと回っている。
●身体能力(PL情報)
並みの祈士に遥かに勝る驚異的な身体能力を持つ最新の高位眷族。燃費は悪い為、ほぼ常に何かを喰らい消化してエネルギーに転換し続けている。
動きが速く力が強い。
体皮は弾力に富み強靭で、さらにぬめりを帯びており、生半な一撃は逸らしてしまう。
とはいえPCの一撃がまともに入った場合はそれだけでノーダメージに凌げるレベルのものではないだろう。
最大行動力3。
攻撃レート+10
防御レート-10
●使用技能(PL情報)
・剣技
これといった特別な近接剣技は使わないが、ゲノスの優れた身体能力を用いて両刃の直剣を振るい、鋭く速くパワーのある剛撃を繰り出して来る。
・異神剣
破神剣と非常に良く似た技。射程50mの剣閃の飛び道具。
・対射偏向障壁
蛙人剣士本人、というよりもその傍らに浮いている水色球体による能力。
迫り来る飛来物に自動的に高速反応し力場を展開、射撃物の軌道を捻じ曲げ、攻撃を無効化する。
10m以内まで踏み込んでから射撃した場合、破神剣など弾速の速い射撃は反応が間に合わずに通るようになる。
・舌撃
口から舌を伸ばして、対象を突いたり、打ったり、巻きついて万力のような剛力で締め上げ圧殺したり、身動きを阻害したりする。
舌はゴムのように弾力があり強靭で、容易には切断しがたい。
射程10m。
・丸呑み
舌を絡みつかせた相手に対抗判定を仕掛け、判定に敗北した相手を咥内に引きづり込んで丸のみにする。
蛙人剣士の体内は非常に強力な霊的力場が満ちており、引きずり込まれた対象は身動きを封じられると同時に致命的なダメージを負い続ける。
ほぼ一撃必殺。一対一では呑まれたら十中八、九死ぬ。
斜陽の王国の色々問題を抱えた農村に降って沸いた危機の対策現場にようこそ、望月誠司です。
苦境の中、それでもめげずに汗水たらしてコツコツ地道に育て上げたものが、唐突に横から湧いて出てきた脅威に台無しにされるのは悲劇です。
是非とも早急にゲノスを退治して村の農夫及びその家族の生活を助けていただければ幸いです。
なおこのシナリオの敵ゲノス「蛙人剣士」ですが、ゲノスとしては非常に強い部類です。
一体だけですが、油断しているとPCでもちょっと危ない(死亡する危険性が一定値以上ある)ので注意してあたってくださいませ。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。