皇帝アテーナニカ「ハック、貴方は私から贈られる騎士伯の称号と湊町アロウサを貰ってくれるだろうか?」
依頼主・皇帝アテーナニカ(ヴェルギナ・ノヴァ帝国)
概要・受け取りの返答
シナリオタイプ・特殊
シナリオ難易度・普通
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・PCが「ハック=F・ドライメン」である事
光陽歴1207年春――
フェニキシア王国が降伏しヴェルギナ・ノヴァ帝国に組み込まれてから一年以上が経過している。
「私はここから見える現在の景色がとても気に入っている」
宮殿のテラスより一望できる城下街の様子を差し示して、明るい紫瞳の娘が無表情ながらも何処か満足そうな気配を滲ませつつ言った。
白髪の傭兵青年――その時には十七歳となっていたハック=F・ドライメンの緑瞳からも、春の城下街は大変活気に溢れ、賑わっている様子が見て取れた。
ハックは現在、皇帝アテーナニカから招かれ皇都の宮殿の一室にいた。
人払いがされており周囲にいるのは皇帝アテーナニカとその護衛の騎士が数人のみである。
皇都ルアノール・ノヴァはその時、ガルシャ王国の史上他に類がないほどの好景気に包まれていた。
噂によれば皇都だけでなく、ガルシャ地方全体が非常に景気が良くなっているらしい。
フェニキシア王国に戦勝し、大量の戦利品を獲得した事と、そして戦後のフェニキシア地方の統治が順調である事は、巨大な経済効果を生み出していた。
帝国のトップである皇帝アテーナニカとガルシャ王国のトップである王イスクラは、共に戦勝で得た利益を民や貴族達に還元する事に躊躇いがなかった。その利益を国内の発展の為に費やした。
それらの投資に加え、フェニキシア総督メティスらをはじめとした各地の行政担当者達の努力もあり、『ヴェルギナ・ノヴァ帝国』を構成するガルシャ王国とフェニキシア王国は、一つの巨大な流通圏を形成する事に成功しつつあった。
両国間での物流はかつてない程に活発となっている。
物が動けば、商いが発生する。
商いは仕事を生み、仕事は利益を生み出す。
その結果、多くの帝国臣民達の現金収入は右肩上がりに上昇し続けており、今後もさらに好景気が続き拡大してゆくとの展望を得た人々は、消費を拡大し生活水準を上昇させ、さらに経済活動を活発化させている。
ヴァルギナ・ノヴァ帝国は好景気が好景気を生む、正の循環に突入していた。
皇都のメインストリートを歩く人々は活力に満ち、未来への希望に溢れている。
フェニキシア地方でもガルシャ地方程ではないが好景気が波及しており、民達の生活水準は急上昇し始めている。
『皇の目』としてフェニキシア国内を旅し、監査して回っていたハック自身が、その目でフェニキシアの村や街が日に日に豊かになってゆく様を見て来ていた。
ただし、フェニキシアでも多くの者が豊かになっていたが、それまでに重税を課し民達を苦しめていた貴族達などは例外で、総督府の働きによって無惨といえる程までに徹底的に取り潰され、領地はおろか溜め込んだ財産すらも失っていた。
かつての貴族の子女達が物乞いとして街をうろついている姿を目にした、などという類の噂も少なくない。
「この世界は、今はまだ僅かにその一部分だけかもしれないが、多くの善良な人々にとって、確実に良くなっている」
世界。
ガルシャでもフェニキシアでもゼフリールでもなく『世界』と世界帝国ヴェルギナの元皇女にして、その世界帝国の後継を称しているヴェルギナ・ノヴァ帝国の現皇帝は言った。
「現在見えているこの光景を実現できたのはハック、貴方の力が大きい。貴方の力が、民達に笑顔をもたらした」
皇帝が振り返り紫色の瞳をハックへと真っ直ぐに向けて来た。
フェニキシア王国との戦争、そして戦後のフェニキシア王国の統治には様々な困難があった。
ハックは依頼を通じてそれらの困難を打破し続けてきた。
今日の帝国の繁栄の為にハックが果たした働きはとても大きい。
王、諸侯、兵達の働きも無論大きいが、ハックがいなければ今日の帝国はなかっただろうと。
「そのようにメティス師は貴方の働きを高く評価している。ハック=F・ドライメンは傭兵として、皇の目として、帝国に多大な貢献をしてくれたと――私もそう思う」
あの元皇帝の家庭教師にして今はフェニキシアで総督をしている老幼女はハックの仕事ぶりに関して皇帝へと高評価で伝えていたらしい。
「私は帝国皇帝として、貴方のこれまでの働きに報いる為に、騎士伯の称号とアロウサの湊町を、貴方へと贈りたいと思う」
騎士伯とはヴェルギナ文化圏において、金銭によって主家に仕えるのではなく、領地を与えられて主家に仕える封建騎士に与えられる称号である。
アロウサは皇都があるノヴァ州にある町で、大河ドウロに面した湊町であるとの事だった。
元々はガルシャ王イスクラの直轄地であったがアテーナニカに捧げられて現在は皇帝の直轄地となっている。河川を利用した交易の中継地として栄えていて税収は町規模としては国内でも上位に位置するらしい。
その統治権をハックに与えるとの事だった。
「ただ、気を悪くしないで欲しいのだけど、領主としての権限には初めのうちは制限がつく。貴方がこの礼を受け取ってくれたとしても、ユグドヴァリア大公国との戦いに決着がつくまでは、町の統治は貴方の代理人となる皇家直属の代官が行う事になる」
ハックは領主ではあるが政事には直接は関わらず、町から上がる利益のみを受け取る形となるそうだ。
なお万一代官によって町の経営が赤字となった場合は、その補填は皇家の方で行うとの事。
「もしかしたら、貴方が直接アロウサの統治を取り仕切ったら、今以上に上手く町を豊かにしてくれるかもしれない。けれど、領地の統治は、行政官としての実績がない人間がいきなり上手く行う事は難しい。私はアロウサの町の人々の生活を万一にも混乱させたくないので、申し訳ないけど、そういう形になる」
自分で直接、領内の政事を行ってみたい場合は、ユグドヴァリアとの戦争が終わってからにして欲しい、との事だった。
戦争に決着がついた後でなら、ハックが直接統治に乗り出して万一失敗したとしても、帝国が迅速にそのフォローとバックアップを行う事ができるだろうから、と。
「この授与は帝国からハックに対するお礼だ。ただ、私なりの貴方へのお礼として正直に言うと、これは全部がお礼という訳じゃない」
アテーナニカは淡々と言う。
「貴方は現在メティス師からの依頼を受けて帝国の『皇の目』という職務にあるけど、傭兵だ。傭兵は契約を選ぶ権利がある。貴方は契約の更新日にその意志があれば帝国との契約を破棄し、その後は敵国と敵対する依頼を引き受ける事もできる。私達は貴方の事を高く評価していて、だからこそ貴方に敵に回られたくない」
故に、
「私達は貴方を完全な帝国側の人間にしたいと思っている。その為の騎士伯位と領地の授与だ。これはお礼ではあるけども、同時に帝国側に貴方を完全に引き入れる為の枷でもある。騎士は主君に忠誠を誓わなければならないから。そして――」
アテーナニカは北の方を一瞥した。
「これを隠しておきながら貴方に返答を迫るのはフェアではないと思うので、伝える。先日、雷神ジシュカが亡くなった」
ヴェルギナ・ノヴァ帝国は北方の要衝を寡兵にて守備し、余剰の兵力を南へと回してフェニキシア王国を撃破した。
その要衝、プレイアーヒルの守備に多大な影響力を発揮していたのが『ガルシャの雷神』『ゼフリール最強の戦鬼』と謳われる老将イスクラ・ジシュカ・プロコノフである。
このゼフリール最強の名将が死んだのだと皇帝は言う。
「医者の説明によれば、寿命、との事だった」
つい先日まで戦場にて剛勇を振るうと共に鋭い用兵を見せていただけに俄かには信じがたい事だったが――確かに寿命であったのだという。
今はまだ『ガルシャの雷神』の死は世間には伏せられている。
「だが、彼の死が外に知られるのも時間の問題だろう」
再び振り向いた皇帝の面持ちには沈痛なものが宿っていた。
雷神の死は、国家間のパワーバランスすらも左右する、重大な情報だった。
「ジシュカは偉大な将軍だった……彼が失われた事によって生じた空白は、非常に巨大だ。帝国はこの空白を少しでも埋めなくてはならない」
皇帝はその紫色の瞳を真っ直ぐにハックへと向けて来た。
「だから、帝国議会は貴方に騎士伯の称号と湊町を贈る事を良しとした。それは私達は貴方に完全な帝国側の人間になって貰いたいからだ。雷神の武の代わりを務められそうな人間がいるかとなったら『神滅剣破りのハック=F・ドライメンをおいて他にない』という結論となったから」
アテーナニカは言った。
「だが貴方に帝国の人間になって欲しい、というのは私達の都合だ。貴方には貴方の都合があると思う。貴方にはこの話を断る権利がある。イールの大神の名に懸けて、ヴェルギナ・ノヴァ帝国皇帝アテーナニカの名に懸けて、貴方がこの称号と領地の受け取りを拒否したとしても、私達ヴァルギナ・ノヴァ帝国はそれを理由に貴方へと危害を加える事は無いと約束する」
味方にならないなら殺す、野放しにするには危険過ぎるんだよお前は、などといった真似はアテーナニカはしない主義らしい。
ただし一般的な事実として、為政者が耳障りの良い嘘を語るのは古今東西良くある事だ。
アテーナニカが本当に本心をハックへと述べているのだという保証は無い。
世界帝国の皇女として生まれ育ち現在は新帝国の皇帝となっている彼女は、雲上人中の雲上人だ。平民の事など同じ人間だとも思っていないのでいくらでも平然と嘘をつく、と言われてもなんら不思議はない。
「――その上で聞きたい。ハック、貴方は私から贈られる騎士伯の称号と湊町アロウサを貰ってくれるだろうか? 頷いてくれた場合、貴方は私に騎士の忠誠を誓う事となり、帝国騎士として今後ユグドヴァリア大公国との戦いに参加して貰う事になる。もしも即答はできかねるという事だったら、返事は後にしてくれても構わない」
ただ、申し訳ないけど現実的な問題として無限に待つ事は帝国もできないので、一週間以内には返答をお願いしたい、と紫髪の女皇帝はハックへと言ったのだった。
■シナリオ概要
「皇帝アテーナニカからの問いかけに対して返事をする」
基本的には今回のOPに書かれている状況において、現在の情勢やこれまでの依頼の事などをあれこれ内心で思ったりつつ、皇帝に対して言葉を述べるロールプレイ回となります。
なおロールプレイとして、返事をその場では返さない事もできます(一晩良く考えてから返事をする(皇都をぶらぶらしつつ街の様子をよく見てから決める、海を眺めつつ考える、などのロールプレイも可能です))
ただし最終的に『騎士伯&領主になるかならないか』どのように返答するのかは、プレイングに明記をお願いいたします。
・その他
ちなみに特殊なプレイとしては、隠し持てるサイズの祈刃を隠して持ち込み(長剣などメイン武器となる刃物は宮殿の奥へは持ち込み禁止なので、奥へと進む前に宮殿兵に預けたので現在所持していません)皇帝アテーナニカの暗殺を試みる事なども可能です。
(なおそれをした場合、生きて皇都から脱出できるかはわかりません)
功績の上げ具合と情勢からして、そろそろ本格的な取り込みがきてもおかしくないのでは? と思い、帝国の場合、皇帝のアテーナニカが直接勧誘してくるのでこのようなOPとなりました。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。