武装商人のズデンカ・ノヴァク「……アンムラピ……まさか、イル・ミスタムル州総督のアンムラピ侯?」
依頼主・武装商人のズデンカ(フェニキシア王国寄りの中立)
概要・行き倒れていた少年とそれを追ってきた男達への対処
シナリオタイプ・交渉or戦闘
シナリオ難易度・普通
関連の深いNPC・武装商人の「ズデンカ・ノヴァク」
ステータス上限・攻撃&防御170
シナリオ参加条件・実績「セドート村を守った」をPCが所持
無数の砂の粒が風に吹かれ舞い上がり、黄金色に空気を濁しながら彼方へと飛んでゆく。
陽の光に照らされた黒い影達がカラカラに渇いた砂の上に伸びていた。
馬と、人の群れだ。
背に大量の荷物を負った十数頭の馬達は、革帯で数珠のように繋がれ、一列となり歩いている。
五名ほどの人間達が、荷馬の轡を引きつつ熱砂を踏み締め歩いていた。
――キャラバンである。
貴方は護衛依頼を引き受け、この交易の旅路に同道していた。
「やがてこの国は砂漠に呑まれるんですかねぇ」
明るい茶色の長髪の少女が轡の革帯を右手に握り、左手の甲で顔の汗を拭いつつ口を開いた。
このキャラバンの長、ズデンカ・ノヴァクである。
ゼフリール文明の発祥地イル・アシル。
現在ではフェニキシア王国の王都アーシェラルドを中心として栄えている地だ。
イル・アシル州の大半は草原であり、砂漠の割合は少ない。しかし黄金色の砂達はその勢力を年々拡大させているという。
国土が砂に呑まれる。
それは少なく見積もってもまだ百年以上は先の事だろうが、イル・アシル州は元々は森深い土地であり、それが今現在では草原が主となっている事を考えると、遠い未来では国土の大半が砂漠に変貌するというのも、ありえない話ではなかった。
澄みきった砂漠の青天の下、灼熱にギラつく白い陽に照らされながら、黄金の死の大地を荷馬と共に歩いてゆく。
そんな旅の途中、ズデンカと共に先頭を歩いている貴方は、地平の彼方に不審な存在を発見した。
すぐにズデンカへと報告すると、彼女はワインレッドの瞳を貴方へと向け、ぱちくりと瞬かせた。
「え……人が倒れている、ですか?」
●
黒髪の痩せた少年だった。
歳の頃は十三、四といったところだろうか。
服の背中部分が赤黒く汚れており、どうやら凝固した血液のようだ。
服をめくって肌を晒させれば、そこには矢を乱暴に引き抜いたような痕があり、それが出血の原因と思われた。
「出血と疲労、そして脱水症状が原因ですかね……」
ズデンカは祈刃である戦槌を翳して光を放ち、少年の傷を治癒してからそのように述べた。
周囲では荷駄の背から積み荷が降ろされ、馬達も砂の上に膝を折り畳んで座り休んでいる。
少年の治療がてら本日はここでキャンプする事に決めていた。
幸いな事に少年に息はあり、治療を終え水を飲ませると、やがて意識を取り戻した。
「おや、気がつきましたか?」
「アンタ達は……」
貴方達が名乗ると少年は、
「オラはダグヌといいます。ウティカ村の農家の息子です」
手当てしてくださり誠に有難うございます、と訛りの強い口調ながらも彼なりに丁寧に礼を述べ頭を下げてきた。
「私達がたまたま通りがかったから良いものの、一体どうして一人でこんな所に? その装備で祈士でもない只人がこの砂漠を越えようとするのは無茶ですよ」
少年はズデンカの問いに表情を硬くし押し黙った。
「……まぁ、おっしゃりづらいようなら、言わなくても良いですが」
彼は迷いを見せていたが、やや経ってから再び口を開いた。
「……オラ、どうしてもアーシェラルドさ、行かねばならんのです」
「王都へ?」
「んだ、必ず女王陛下にさ、お届けせないかんもんがあるのです」
ズデンカは赤瞳を驚いたように見開いて貧しそうな少年を見やった。
「――貴方が?」
彼は到底、諸侯の長でありこのフェニキシア王国の頂点に立つ女王ベルエーシュと関りがあるような人間には見えなかった。
一体何を届けるつもりなのか、問いかけると少年はまた表情を硬くして、
「…………とても、大事なものなんです。村の皆の生き死にに関わる」
とだけ重々しい口調で答えた。
●
少年の身を案じたズデンカは彼へ同道を提案し、少年ははじめ遠慮していた様子だったが、
『傷が癒えたとはいえ衰弱しているその身で一人でこの砂漠を越えるのはとても無理だ』
といわれるとそれを否定できなかったか、躊躇いがちながらもやがて頷いた。
夜。
空では無数の星々が輝いている。
昼間は灼熱の天地だったが夜となると身も凍える程に冷え込んでいた。
焚き火にあたって暖を取りつつ沸かした湯で淹れた茶を飲み、ズデンカが言った。
「ダグヌは農家の息子さんだというお話ですが、ご両親はどうしたのでしょうね……それにあの矢傷……」
視線を向ければ少年は毛布にくるまり馬に身を寄せながら寝息をたてている。
「女王陛下へお届けがどうとかも言っていましたし、どうも尋常の事情ではなさそうですが……」
貴方がズデンカとその事に関して会話をかわしていると、やがて複数の気配が接近してきている事に貴方は気づいた。
気配の方へと振り向き立ち上がってみれば、彼方に炎の光が見える。
――人が近づいてきている。
馬から荷をおろして野営体制に入っていたのと、既に寝ているキャラバン員や少年がいるのですぐには動けない。
貴方はズデンカと相談すると寝ている者達を起こしつつ気配を待ち受ける事に決めた。
●
「一つ聞く」
馬の鞍上より軽やかに飛び降り砂上に着地したのは、遊牧少数民族の商人風の黒布の長衣と脚衣に身を包んだ長身の男だった。
左手に燃える松明を握り、腰には反りが深く入った剣を佩いている。着地の際に僅かに金属が擦れるような音が小さく闇に響いた。
「その子供をこちらに引き渡す気はないか?」
静謐な琥珀色の瞳が炎光を照り返しヌラヌラと輝いていた。
ダグヌが息を呑み身を固くする気配がした。
男は商人のような装いだったが、表情に友好を示すような柔らかい笑みはなく、口調も訓練された軍人のように硬質なものだった。
さらに違和感があったのは、引き連れている荷馬達が歩いている時に、足があまり砂の中に沈んでいなかった事だ。
それは重量が見かけ程には重く無いという事を意味する。
商人の荷馬らしく背に何かを積んでいるように見せてはいるが、それは非常に軽い荷物であるか、そうでなければ見せかけだけで実際は空だという事だった。
彼等は商人を装っているが、商人ではない。
男は単独ではなく、男女を一人づつ引き連れていた。いずれも長身の男の斜め後ろの左と右にそれぞれ降り立ち、無表情と硬質な瞳を貴方達へと向けている。
強力な祈士である貴方の目から見れば話はまた違ったが――常人の基準からするならば、彼等の立ち姿にはまったく隙がなかった。
「さて、この子が行き倒れているのを私達が発見したのは日が落ちる前ですが、介抱を終え彼が意識を取り戻してからそう時間が経っていないのですよねぇ」
ズデンカは可憐な笑顔と柔らかい声音で流暢に言葉を紡いでゆく。
「私達はあまり話を聞けていないのです。問いかけてもさほどには会話をしてくれませんでしたし……どうして旦那様、貴方様がたのようなご立派な装いのかたがたが、この子の身を求めるのですか?」
「……その子供は、正確にはその子供の父親が、だが、主人の屋敷より商売上とても重要な書類を盗み出したのだ。父親は捕縛したがそやつはあろうことか盗み出した書類を子供に渡し逃走させた。我々は主人よりの命を受け書類を取り戻すべくこの少年を追いかけてきたのだ」
「貴方様がたは……ご家来様ですか? ご主人はどちらのお方で?」
「さる高貴な家の方だとだけ言っておく。それ以上は、言えん。やんごとなき方故に俗塵が纏わりつくは阻まねばならぬ」
「……書類とは?」
「商売上の重要な書類だ。それ以上は女、貴様が知る必要があるか? 不必要な好奇心は猫をも殺すぞ。しかし、大人しく引き渡すならば、祟る神とておるまい。砂漠の神は分別を知る者を好む故にな」
男は土くれや石ころでも見るかのように、琥珀色の冷たい瞳でズデンカを見下ろした。
「ダグヌ、貴方が貴方のお父さんが盗んだ書類を持っているというのは本当ですか?」
「……たぶん、本当だ。でもこいつらの親玉は悪い奴だ! アクトクリョウシュだ! アンムラピのせいで何百人と死んでるんだ! オラはそれを女王様にお伝えしなけりゃならねぇ!!」
「黙れ小僧! 我が主への侮辱は許さぬぞ!!」
「ひぃっ!!」
男達が武器――祈霊石らしきものが嵌められている――の柄に手をかけて凄み、少年が顔を真っ青にしてガタガタと震え出す。
<<……アンムラピ……まさか、イル・ミスタムル侯爵? 州総督の?>>
イル・ミスタムル侯アンムラピといえばフェニキシア王国において先々代から現女王まで三代にわたって仕える王国の宿将にして貴族中の貴族、押しも押されぬ大貴族である。
その権勢はフェニキシア王家をもさえ凌ぐと言われている。
<<……どーしますかねぇ、これダグヌを引き渡すの『もしも嫌だと言ったら?』とかいったら即座に腰の物引き抜いて斬りかかってきそうな雰囲気ですが>>
ズデンカはニコニコと笑みを浮かべたまま男を見つめつつ、ひそかに貴方へと念話を飛ばしてきた。
<<一人くらいなら私が抑えられます>>
元傭兵の武装商団長は貴方へと問うてきていた、どうしますか、と。
どうやらズデンカは断れば十中八、九戦闘になると踏んでいて、戦うか戦わないか、その選択肢は貴方に預けているらしい。
戦うべきか。
戦わざるべきか。
それが問題だ。
――どう答えよう?
■引き渡すか引き渡さないかの選択
ダグヌ少年を引き渡すか引き渡さないかを選択できます。
(もし引き渡す場合、リプレイは比較的短く終わる事が予想されますので、リプレイをご発注なされる際は「タイプA(2000文字)」をお勧めいたします)
引き渡さない場合戦闘になります、確実な所はPL情報の部類になりますがPC情報としても「十中八九戦闘になるんだろうな」というのは男達の雰囲気・殺気などで感じ取れています。
■戦闘相手の選択
引き渡さず戦う場合、三人のうち一人をズデンカに任せる事ができます。
誰を任せるのか選択可能です(念話でズデンカに任せたい相手を伝える形となります)
PCは残った二人を相手に戦う事となります。
■敵戦力
●黒布男
黒布のローブとズボンに鍛えられた体躯を包んだ背の高い壮年の男。
左手に松明を握り、腰に片手用の曲刀を佩いている。
達人の雰囲気。
・PL情報
ローブの下には鎖帷子を着込んでいる。ローブの裾で隠れるギリギリの位置、右のロングブーツの側面に鞘に包まれた短刀型の祈刃を巻いて一見ではわからぬように保持している。
最大行動力2
曲刀 攻撃レート-5
短刀 攻撃レート-15
防御レート+10
主な行動パターン
松明を投げつけ→曲刀で斬りつけ二連斬。
曲刀で斬りつけ後、その効果から曲刀よりも短刀の方が効果的と判断した場合、前方に倒れ込むように踏み込みつつ曲刀を投擲→低い体勢からローブの裾へと手を入れて、右ブーツの短刀を右手でリバースグリップで抜き打ちざま斬りつけてくる。
短刀による抜刀斬りの後は、薙ぎや突きを縦横に織り交ぜて攻撃してくる。
●黒頭巾女
目の部分以外を覆う黒い頭巾をかぶり、黒布のローブとズボンに豊満な身を包んだ若い女。
両手持ちの長大な曲刀を背負っている。
・PL情報
最大行動力1
曲刀 攻撃レート+20
防御レート-25
主な行動パターン
斬撃を主体として攻撃してくる。基本的に大振りだが破壊力が乗った一撃を繰り出して来る。
●覆面小男
黒布のローブとズボンに鋭く引き締まった矮躯を包んだ青年。
要所が金属で補強された革の手甲と具足を両手両足に嵌めている。
・PL情報
ローブの下には鎖帷子を着込んでいる。
最大行動力1
手甲具足 攻撃レート-10
防御レート+10
主な攻撃パターン
「虚掛け+DPR判定による連続攻撃描写」=左ジャブからの右ストレートなどの体術のコンビネーションを仕掛けてくる。
■味方戦力
●ズデンカ・ノヴァク
明るい茶色の髪の小柄な少女。元傭兵。
両手持ちの長柄のルツェルンハンマーが得物。
使用ダイスは1D100。最大行動力1。
攻撃レート+25
防御レート-20
PL情報・選択相手によっては普通に負ける程度の強さ
●ダグヌ少年や只人のキャラバン員達
計四人。
戦闘が始まると荷場達や積み荷の陰などに退避します。
砂漠の旅路へようこそ、望月誠司です。
砂漠で行き倒れていた少年を介抱すると、その少年は怪しい男達に追われておりました。
引き渡しを拒否すると戦闘へと突入します。
割と王道的な選択肢ですかね。
王道的でない選択肢としては引き渡しに応じる事も可能です。その際は妙な事をしなければ戦闘を回避する事ができます。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。