不老の賢者メティス「この身をお預けいたします。どうかお守りください」
依頼主・皇帝アテーナニカ(ヴェルギナ・ノヴァ帝国)
概要・護衛対象(メティス)を守ってのフェニキシア王国からの脱出
シナリオタイプ・冒険
シナリオ難易度・易しい
主な味方NPC・不老の賢者「メティス」女騎士「アデルミラ」
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・実績「ガラエキア山脈の戦い結果=帝国の勝利」をPCが所持
ガラエキア山脈の戦いを制したボスキ公軍は、山脈内に拠点を築いて要所を抑えた。
しかしボスキ公ルカは勝利しても勢いのままに即座にフェニキシア王国内へと攻め入ろうとはしなかった。
フェニキシア王国の国境を固める山河都市ベールハッダァードは、その名の通り山脈と大河との狭間にある狭隘に建つ要害であり、正面からの力攻めで陥落させるのは、被害が大きくなると予想された、というのが理由の一点。
そして――公けにはされていなかったが、ボスキ公は女王ベルエーシュをあの一戦で侮りがたしと見るようになっていたというのが二点目だった。
優秀であると国内外で評判高いボスキ公だったが、彼は実の所、天才では無かった。
本当は評判程には才能のある人間では無い。
しかし秀才ではあったので、女王を天才の類だと感じ取る事は出来た。
味方のアドホック傭兵達が奮戦してくれたから助かったものの、順当にいけば山脈内の戦いで敗北していたのは己の方だったと良く理解していたのである。
合戦では何を仕掛けて来るかわからない相手であったので、有利な状況を活かし、直接対決では無く搦手で圧殺する事に決めた。
いかに戦場では天才的であろうが、盤外戦ならばその才能も十分には発揮出来まい、と考えたのである。実力を発揮させずに殺す。御曹司が本気になるとえげつない。
故にボスキ公が目をつけたのは、要害ベールハッダァードそのものよりも、そこを越えた先、後方の統治状況の不安定さだった。
ガラエキア山脈の戦いでのベルエーシュ軍の敗北により、元々若年の女王として地盤が脆弱だった女王は、その統治権・求心力をますます低下させていた。
最早本格的に亡国の運命と見て地方貴族達の間に不穏な空気が広がり始めていたのである。
国境の城塞都市ベールハッダァードの守りは固い。だが、食料他、物資の生産能力には欠けている。
後方から前線を支える支援物資が送られて来るのが前提の設計となっているのだ。
故にボスキ公は後方地域へと武力ではなく交渉によって、現地勢力の切り崩しを仕掛けた。
要するに、調略である。
元々開戦前から行われていた事ではあったが、優位な状況を確保した今であればこそ、以前よりも色良い返事が貰えるだろうと、その調略強度を強めていた。
後方を切り崩し、前線の城塞都市を孤立化させ、戦わずして無力化させる。
それが山脈戦で勝利したボスキ公がフェニキシア王国攻略の為に打ち立てた戦略だった。
●
ボスキ公からの要請を受けた元皇女の家庭教師・不老の賢者メティスは、今や皇帝となったアテーナニカの名代として、フェニキシア王国内で調略にあたっていた。
「山賊や野盗、魔獣に魔物、それらの被害にまるで対処できない、しようとしない、どころか対処しようとする我々の足を引っ張りさえする州総督アンムラピと貴族達、そしてそれを罰しようとしない中央には、ほとほと愛想が尽きていたのです」
さる屋敷で密会中、イル・ミスタムル州の豪族が憤懣やるかたない表情でメティスへと言う。
外見上は幼く見える不老の賢者は大粒の碧眼に同情を宿し沈痛な表情で頷き、
「ご無念、お察しいたします……しかしヴェルギナ・ノヴァならば、賊や魔物の跳梁は決して許しません。必ずやこの地に安寧をもたらすとお約束いたします」
「おお! これは頼もしきお言葉……その際は是非とも、メティス様、よろしくお願い申し上げます。その為ならば、我等一族メティス様とヴェルギナ・ノヴァ帝国へのご協力は惜しみませぬぞ」
「ハニガルバト殿のご協力に深く感謝を。ハニガルバト殿のご尽力には、必ずや皇帝陛下は報われましょう。勿論私も。私に出来る可能な限りでお応えいたします」
メティスと豪族の男は固く握手をかわし、密約を取り付けると笑顔で別れた。
『貴方』はヴェルギナ・ノヴァ帝国からの依頼を受け、メティスの護衛の一人としてつき、共にフェニキシア王国内へと潜入し、調略活動を行っていた。
このように密会を重ね帝国側への寝返りの約束を取り付けた件数は既にかなりのものになっている。
イル・ミスタムル州は穀倉地帯として名高く、ベールハッダァードの食料供給を支える重要地域だったが、地方貴族達の中には悪政を敷く者が多く、調略は容易だった。
放っておいても反乱の一つや二つ起こっていたのではなかろうか。
またそれだけでなく、不老の賢者メティスは知識人階級においては世界帝国皇室の家庭教師としての名だけではなく、優れた政務書・兵法書・科学技術書・魔法書等の著作家として高名であり、その筋では声望が高かった。
本を読む階級の人間にはメティスの名はゼフリール島においても知られていたのである。
そのように、メティス自身の名声と知識も交渉を手助けしていた。
そんな高名な賢者はまた別の土着豪族のもとへと向かう道中、貴方へと語った。
「ボスキ公のお話では女王は戦場では大変有能だとの事ですが、統治者としてはあまりよろしくないようですね。あるいは、地盤が弱く思うように貴族達を動かせていないのか……――いずれにせよ、その統治を受けねばならない民達としてはたまったものではないでしょうね」
民達を圧政から解放しなければ、と外見上は幼い不老の賢者は使命感に満ちた表情で言う。
彼女はどうも建前ではなく、本気でそう言っている節があった。
自分達ヴェルギナ・ノヴァならば、この地の民達に健やかな暮らしをもたらす事が出来る、そのように信じているのだ。
あるいはそれは、戦場で敵を打ち破るよりも余程難しい事のように思われたが……メティスは皇室の家庭教師となる以前は世界帝国内で政務家としても辣腕を振るっていたそうだから、根拠の無い自信でもないのかもしれない。
そのように調略の旅を続け、さる豪族と密会し、歓待を受け、その屋敷に泊まった時の事である。
「どうもこのワスガンニ家は不味いですね。眠ったふりをして逃げましょう」
会食後、寝室に貴方ともう一人の護衛を招き入れるとメティスは言った。
「不味い? 何故です?」
護衛――黒髪を後頭部で結い上げている女騎士アデルミラが問いかける。
「食事に猛毒が混ぜられていました。彼等は私が祈士であるという事も、毒物に詳しい事も知らなかったようですね」
祈士に通常の毒は効かない。
効果が出ない代わりに毒が混ぜられていても大抵は気づかないものだが、メティスは何らかの方法で気づいたようだった。
「毒が効かなかったとなれば、刺客を差し向けて来るかもしれません。逃げましょう」
「どちらへ?」
「イル・ミスタムル湖へ。私は水の中でも呼吸が出来るようにする魔法を心得ていますから、それを使って追っ手を振り切った後、ガラエキア山脈内に入って帝国の拠点へ向かいましょう。大分調略しましたし、そろそろ潮時なのかもしれません」
部屋の窓を開け、そこから夜の闇の中へと飛び降り、貴方達は屋敷から抜け出したのだが、すぐに笛の音が響いた。
どうやら見張りがつけられていたらしい。
貴方は、メティスとアデルミラへと走るように念話を飛ばし、共に月下の闇の中を駆けた。
●
「くそっ、勘の良い奴等だ」
賢者メティスらが逃亡したとの報告を受けワスガンニ家当主シュッタルナは呟いた。
「いかがいたしましょう?」
「妖騎兵を放て、なんとしても捕らえろ、生死は不問だ。他領に踏み入っても構わん。敵国の調略者を追っているのだ、例え内応を約束した連中の領だとしても、帝国軍はまだ山の中だ、表立っては邪魔だて出来まい。それと、盗賊ギルドにも伝えておけ。奴等もメティスの首を狙っている」
「はっ!」
ワスガンニ家当主シュッタルナは思う。
己は時流にも民意にも逆らっているのかもしれない、と。
しかし、どんな暗政、暗君だとて、代々の御恩があるのだから、付き従うのが忠臣というものだと思う。
目先に囚われ義理を欠いては貴族の家は保てまい。
「不忠者どもめ……」
周囲の領を内通者達に囲まれている状況にあってもワスガンニはあくまでフェニキシア王国に殉ずるつもりだった。
●
夜明け。
東の空より陽が昇り、緑の中に枯草の黄色が混じり始めている野を覆う夜の紺碧に、黄金の陽射しが入り込んで、独特の色合いにグラデーションをつけ染め上げてゆく。
「どうにか振り切ったようですが……まだ油断は出来ませんね」
騎士アデルミラが歩きつつ背後を振り返って言う。
「強行軍になります。メティス様にはご苦労をおかけいたしますが……」
「大丈夫です。逃げるのには慣れてますから」
にこりと笑って幼女にしか見えない老女は笑った。
かつて皇女だった頃のアテーナニカと共に、僭主達が放った追っ手から逃げ回る日々を送っていたそうだから、確かに慣れているのだろう。
さて、しかし、祈士の足を以ってすれば、大抵の追跡は振り切れるが、行く先に待ち伏せされている場合もあるし、あまり一般的なものではないが魔法的な改良が施された乗騎なども世には存在するという。そういったもので追われた場合、追いつかれずにミスタムル湖まで辿り着けるとは限らない。
貴方の方向感覚が狂っていなければ、大湖イル・ミスタムルは北西の方角に数日の距離にある。
さて、ここからどのように逃げようか?
■概要
追っ手に追われながらの逃亡行の様子を描くシナリオです。
PCさんは皇帝の名代としての使者である賢者メティスの護衛としてヴェルギナ・ノヴァ帝国から雇われています。
日中や夜間も強行して歩いている様子や流石に疲れ果てて眠る時の様子などを描写します(祈士でもまる一日以上徹夜で歩き続けると流石にキツイです)。
どのように逃げてゆくかをプレイングに記述してください。
戦闘したく無い場合はそのように記述すれば戦闘は起こりません(あるいは起こってもダイジェストで処理される)
戦いたい場合はその旨を記述していただければ、待ち伏せ勢や騎兵の追手がやってきます。
ただその場合、戦闘判定と描写はかなりざっくりしたものになります。
また結構自由度の高いシナリオですので、極端な話、プレイングを全部NPCとの会話やPCが状況に対して思う事の独白などに費やしたりしても問題ありません。(そうした場合、逃亡部分はオートで成功になるように動きます)
■成功条件
メティスを守り抜いて帝国の勢力圏まで辿り着く事。
メインルートとしては、イル・ミスタムル湖まで辿り着けばメティスが水中呼吸の魔法を全員にかけて水中移動を行えるようになるので確実に追っ手を振り切ってガラエキア山脈内まで逃げられます。
(ただ、湖はとても巨大なので、一日以上水中を進まなければならないので、それはそれできつい行軍となります。
なお季節は既に秋ですがフェニキシアは島南部に位置する暖かい地域なので、水温はそれほど冷たくありません。
また念話は水中でも使えます)
■所持品など
PCさん及びメティスとアデルミラは保存用の効く干し肉と硬パンと火口箱を背負い袋の中に少々持っています。
またアデルミラは簡単な調理の出来る小型の鍋も持っています。
飲み水はそれぞれ手持ちの水袋の中に入っているだけですが、メティスが魔法で出せるので彼女が健在な限り心配はありません。
また火もメティスが魔法でつけられます。
■各種地形
逃亡行の道中にある地形です。
全部に関して記述する必要はありません。
あくまでプレイングを作成する際の補助として、使えそうな物をお役立てください。
●イル・ミスタムル州の野
緑豊かな、しかし所々に枯草色が混じり始めている秋の野原です。
野生のウサギや野牛の他、狼型の魔獣なども出没します。
平坦で遮蔽物がなく見晴らしが良いです。
主に強行軍して歩いている様子や野宿している様子の舞台に出来ます。
また騎兵タイプの敵(強化され馬鎧に身を包んだ軍馬に乗ったワスガンニ家の家臣祈士達。甲冑に身を固め、6騎程度で騎乗槍を使う)が追いついて来るならばこの地形でしょう。
●地方村
イル・ミスタムル州の野にある村。
湖が生み出している小さな細い川(一番深い場所でも足がつく程度の水深の川)沿いに立っています。
村に一軒だけある酒場が、雑貨屋と宿屋も兼ねているような、小さな村です。
畑が広がっている領域の中心に、簡単な木塀と水掘で囲まれた村人達の住居が密集している区画があり、そこに酒場や宿などもあります。
住居区画の中に入るには村の塀門を潜らなければならない為、食料や寝床を求めて中に入る場合、帝国側の人間であると気づかれないように門番に言い訳しないと騒ぎになるでしょう。
騒ぎになっても武力でどうとでも切り抜けられますが、追っ手達が集まってきて追跡精度が上がり、追いつかれる確率が上昇します。
●イル・ミスタムル州の丘陵地帯
山という程険しくも大きくもないですが、ちょっとした隆起が連続して密集している地帯です。
丘の間を抜ける道が一本通っており、イル・ミスタムル湖へと抜ける場合は利用すると楽に素早く進めます。
ただし、盗賊ギルドのアサシン達が待ち伏せしています。
(革鎧に身を包んだ弩兵祈士達6人程度、丘の上に身を伏せ狙撃してくる。接近すると抜刀し剣で戦う)
■逃亡行の同行者達
●メティス
護衛対象。
元世界帝国ヴェルギナの執政官にして皇族の家庭教師を務めていた才女。
老化がごく早い段階で止まっていて、かつ、普通の人間なら寿命で死んでいる以上の年月を生きている。
現在は宮廷で『皇帝の助言者』なる役職についているらしい。身軽かつ皇帝から信頼が厚いので皇帝の名代として調略役に名乗り出た。
基本的に戦闘能力は低く、脆い。
ただし3ラウンド間だけ自身を超強化出来る。
しかし、それを使うと激しく消耗してまる一日ろくに動けなくなるので出来れば使いたくないらしい。
●アデルミラ
黒髪ポニーテールの帝国の精鋭女騎士。
四角四面の真面目さの上に気が強くプライドが高い性格で、同僚達からはとっつきにくいと評判。
ただし少数での潜入調略任務の護衛に抜擢されるだけあって非常に強い(初期状態のPCよりもちょっと弱い程度で2回行動、使用ダイスは1D100)
護衛対象であるメティスには敬語で話すが同じ護衛で傭兵であるPCには「~だ。だろう。じゃないのか?」などぶっきらに話す。
逃亡の旅路へようこそ、望月誠司です。
こちら帝国軍が有利となり、フェニキシア王国内へと調略を進めていっているシナリオとなります。
基本的には失敗はしない、描写メインのシチュエーション系のシナリオとなります。
戦闘ばっかりでも飽きるかなと思い、ちょっと変化球な具合です。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。