シナリオ難易度:無し
判定難易度:普通
紫瞳の少女ケーナ・イリーネはじっとズデンカ・ノヴァクを見つめて
<<ズデンカは、相変わらずズデンカだよねぇ>>
<<えっ?>>
<<とりあえず、アタシのために怒ってくれてありがと>>
明るい葡萄酒色の瞳をぱちくりとさせる少女にケーナは笑った。
ケーナの事をズデンカは大切に思ってくれている。そんなズデンカと過ごす時間はケーナにとって心地よい。
ズデンカは心の真ん中にブレない芯が通っていて尊敬できる。
理不尽を嫌い、選択する余地を残してくれる。
そこが好きなところでもあり、だが心配な所でもあった。
<<ただねー、アタシも相変わらずアタシなんで、ズデンカの思ってることを洗いざらい聞いちゃうよ!>>
今回のズデンカの提案もケーナに選択肢がある事を強調しているのだろうが、それはズデンカ個人ではなく商隊の長としての発言となるだろう。
多くの人を巻き込む選択肢だと思う。
それは船長やメンバーがついて来ないと成り立たない。
今、商売は上手くいっていて、新大陸に行く夢が現実味を帯びて来て、楽しい日々を送れている。
ズデンカの理想を目指し、船長の航海術とケーナの戦闘力がその実現を支える、これらが揃っている限り商隊の繁栄は間違いない! と楽観的に思っている。
だが裏返すとそのどれかが欠けてもダメという事でもある。
だから友達としても、相談役としても、どちらの選択が良いのかしっかり考えて、後悔しないよう二人で決断したいと思った。
思った事、考えた事、互いに全部出し尽くして、二人のための未来を二人で決めたい。
<<あ、でもその前に――>>
ケーナは魔女の方へと振り向いた。
<<私のよく知ってるルルノリアさんはルル姉さんなんですが、なんて呼んだらいいですか? ルルばあさん? ルルおばあ様? 魔女さん?>>
<<儂の呼び名かィ?>>
受付嬢ルルノリアの祖母である森魔長ルルノリアは微笑すると、
<<好きに呼ンで良いがァ、そうじゃなァルノ婆とかで良いぞィ>>
<<ではルノお婆様とお呼びしますね。あっ、あと船長も相談に加わって貰った方が良いと思う!>>
かくてケーナはフズールも加えると四人でオープンに念話をかわし始めたのだった。
●
<<ズデンカ、アタシが異神将との戦いで目的を達成して生存できる確率ってどれくらいだと思う?>>
<<確率……ですか?>>
<<アタシの実力も異界の神将の強さも知ってるズデンカが世界で一番正確に予測できると思うから>>
<<それは……でも、難問ですね……私が以前に見た神将とエスペランザのアルバディオは別の個体ですし……>>
<<お願い、だいたいで良いから>>
ズデンカは心底困った顔をしつつもケーナから頼まれるとうんうんと唸りながらも言った。
<<アルバディオが私が以前に見た個体と同程度の力だとすると……ケーナでも勝算は三割……良くて四割、あるかないかだと思います、それくらい異神将は強大です>>
<<三、四割ね、なるほど……>>
命を賭けるには心もとない数字だ。だからこそズデンカは反対しているのだろうが。
<<でもさ、ズデンカはゲオルジオにも生き残ってほしいよね? 逃げると後悔しない?>>
<<ゲオはベテランの傭兵です。退き際は何よりも心得ている筈です>>
本当に危なくなったら逃げるだろうとの事だった。ゲオルジオの生存能力への信頼は篤いらしい。
<<それに、万一があっても……彼は選んで、納得の上での事でしょうから……>>
後半は半ば自分に言い聞かせでもしているかのようにズデンカは言った。
やはりそれでも不安な事は不安であり、ゲオルジオには生き残って欲しい様子だった。
<<それじゃあさ、異界勢力をもし首尾よく撃退できたとして、本当に大陸に向かうと思う?>>
<<……それはたぶん、ルルノリアさんの言う通りなんじゃないでしょうか……キンディネロス海は天下の険ですし、異神将は自分を倒せる可能性のある祈士のいるゼフリール島よりも、簡単な方へと流れる可能性が高いと思います……>>
<<なるほど。それじゃ異界勢力を撃退したあかつきには、私達って色々優遇してもらってもいいんじゃない? ルノお婆様、どうです?>>
<<まずゥ儂に出来る範囲の額を出すぞィ。それとォ、ガルシャ貴族の儂からはァフェニキシアの女王に対して確約はできンがァ最善を働きかけよぅ――女王がどう応えそうかはァ、そちらの方が良く知っているンじゃないかィ?>>
<<……ええ、ベルエーシュ様ならそのあたりは無下にはなされない筈ですね……>>
<<ルノお婆様、神将って倒しちゃったらどうなりますか? かえってマズイ?>>
<<ルビトメゴルが儂らの想定通りの強さなら倒さン方がええのゥ。しかし想定未満だった場合は倒してもらった方がええのォ>>
ゼフリール島を守りたければ異界勢力と大陸勢力で潰し合って貰った方が良い。
なので大陸勢力が強大な場合は神将は倒さない方が良い。
しかし大陸勢力が弱体だった場合、その敗北は人類世界そのものの滅亡に繋がる可能性がある。
なので、倒さないように無理に努める必要は無い、との事だった。倒せるようなら倒してしまうのも有りだと。
そして同様に無理に倒しにかかる必要もまた無いとの事だった。退けられれば良い。
<<逃げる場合の事だけど、その場合、船長やメンバーは納得してついてくる?>>
<<事態が事態ですからね。俺はついていきやすよ。島に残る奴も多少でるかもしれやせんが……>>
<<島に家族がいる人はどうする?>>
<<ついて来る意志がある家族の場合は一緒に大陸についてきて貰うつもりです>>
とズデンカ。
<<逃げた先で商売やるのはどのくらい大変?>>
<<……今までと同じようには、いかないでしょうね>>
現在のノヴァク商会の繁盛はフェニキシア女王をはじめとして今までに築いた人脈が土台となっている。大陸ではその有利が消える事は大きなマイナスとなるだろう。
<<まぁでも相談役の商才があればなんとかなるんじゃないですかね。俺は大陸でも上手くいくと思いやすよ>>
とフズールが楽観的な意見を述べた。根拠は自分達の才幹、そして運のみである。
<<ねぇルノお婆様。戦ってみて、やっぱり無理だと思って逃げたらどうなりますか?>>
<<まァその時はしゃあないのゥ。逃げられそうならァ逃げるがええよォ。エスペランザ島とケンヌリオス・ヘリオンを繋ぐ次元回廊とォ、ケンヌリオス・ヘリオンとタラサリカを繋ぐ次元回廊は別じゃからァ、お主はタラサリカへの次元回廊を通ってェノヴァク商会と合流できるぞィ。その際はァ余裕があったらァ飛行の指輪は返して貰いたいがのォ>>
<<退路はある訳ですね>>
これは重要な点だった。
異神将と戦う場合、生存率が五割以上は欲しかった。
ズデンカは良くて四割だという。
逃げた場合、大陸での商売は、恐らく厳しいだろう。
しかし異神将を退けられれば、女王ベルエーシュは恐らくだが、今まで以上の優遇をしてくれるだろう。ガルシャ貴族のルノ婆さんからの報酬も期待できる。
そして戦ってみてダメそうなら逃げる選択が取れる場合、挑戦基準を大幅に引き下げても良かった。
ケーナは自分の楽しさが一番大事だった。
しかしそれにはユーニやズデンカがある程度、幸福を感じられることも重要だった。
島の命運なんて知らない。
いつもと同じように自分が生きたいように生きるだけ。
命を賭けるも全力で逃げるも、自分の気持ちと直感に素直に従えばいい。
その結果、ケーナが導き出した答えは――
<<ズデンカ、アタシ、異神将と戦ってみようと思う>>
<<ケーナ…………!!>>
<<島の為とかじゃないよ。でも、それで上手くいった方がきっと、アタシ達にとっても楽しいでしょ?>>
<<…………ケーナが、そう思うんじゃあ……そうですね。確かに、その通りだと思います……どうか、無事で……!>>
かくてケーナは自らの思いをすべてズデンカへと伝え、ズデンカからの承諾を得ると、森魔長ルルノリアと共に異神将の撃退へと向かったのだった。
成功度:大成功
獲得実績:異神将アルバディオの撃退へと向かった