ハイロード・ピュロス
「我々が勝利するには味方との相互支援が必要だ」
依頼主・トラペゾイド上王ピュロス(トラペゾイド連合王国)
概要・艦隊支援の空戦
シナリオタイプ・空戦
シナリオ難易度・普通
主な味方NPC・ヘリオタイ光導兵長「キルケー」、傭兵「スヴァリスヴェルス」、ハイロード「ピュロス」、ヘリオタイの鉄槌「パルメニオン」、大陸三勇者「ジャスティン」
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・実績「火唱の四面神グラボルイノを迅速に討ち、グルガルタ島の港への被害を抑え、その建設を成功に導いた」をPCが所持
光陽歴1205年。
夏には弱冠十五歳のフェニキシア女王ベルエーシュがガラエキア山脈でボスキ公ルカを打ち破り世間を驚愕させ、秋には表沙汰にはされなかったが異界勢力に寝返りスパイとして活動していた騎士エルナン・デ・バルディビアがピュロスらの手によって秘密裏に処刑された年の事である。
「……グルガルタ島は敵の目を惹き付ける為の囮だったのね」
自分達が命を賭し必死に守っていた港がそれであったと知って、金髪のエルフ娘スヴァリは複雑そうな表情で呟いた。
「不満かえ?」
トラペゾイド軍の光導兵長にして銀髪のエルフ娘キルケーが興味深そうに緑瞳を向ける。
スヴァリは首をゆっくりと横に振った。
「……いえ、それでエスペランザを解放できるなら」
「ふむ、お主は聞き分けが良いな」
「島を解放する為には必要な事なのでしょう? 私はその為だったらなんだってやるし、納得するわ」
エスペランザ島の生き残りの青瞳には決意の色が宿っていた。
「上層部から本当の事を告げられないで命を賭けるくらい、作戦でしょうし。ピュロス自身だってグルガルタ島の最前線に身を投じていたのだし」
「ふむ…………」
キルケーはしげしげと青瞳の傭兵エルフの表情をみやってから頷くと、
「……ま、そういう事じゃな。すべては異界勢力を駆逐しエスペランザ島を、ひいては人類世界を守る為じゃ。ゼフリールの覇王たるピュロス様のご指示に従っておれば、間違いは無い」
そのように訳知り顔で頷いた。
最初に貴方が傭兵隊長に任命された時に「ピュロス様は何をお考えなのか!」とぷりぷりと怒っていた事はどうやら棚の上らしい。
ユグドヴァリア大公であるソールヴォルフなどであれば「だからあのジジイは好かんのだ!」と罵倒するような事柄でも、キルケー達は――それぞれ納得の程度に差異はあったが――受け容れているようだった。
グルガルタ島は囮だったが、予想を上回る奮戦の結果、グルガルタ島においても今は軍港が完成し、結果的に人類側は二つの軍港を、異界勢力攻めの足場として使えるようになっていた。
●
ゼフリール島の東部沖。
青い海に多数の巨大なガレオン船が浮かんでいる。総勢で十隻程になるだろうか。
ゼフリール最強と名高いトラペゾイド連合王国の主力艦隊だ。祈士だけでなく船を動かす為に多数の一般海兵も乗り込んでいる。
光の都ケンヌリオス・ヘリオンの港に集結した艦隊は密やかに建設されていたケーファ島にではなく当初は囮とされていたグルガルタ島の軍港へと向かった。
敵の嫌がる位置でなければ囮とはならない為、選定されたグルガルタ島であり、ケーファ島よりも海流等の関係で攻勢をかけるに有利な位置にあるらしい。
無事にグルガルタ島に辿り着いた艦隊は集積されている物資より補給を行い、休息を取ると進路を北東へと向けエスペランザ諸島へと向かった。
艦隊はキンディネロス海名物の嵐や魔獣に悩まされたが、そこはさすがの最新鋭の主力艦揃いというべきか、一隻も沈む事はなく、船員達が多少疲労した程度の損害で無事に切り抜ける事に成功する。
しかし、嵐を抜けた時、物見がマスト上の見張り台より、水平線に巨大な生物を多数確認した。およそ二十体はいるだろうか。
『異鯨(フィレナ・ゲノス)』
そう呼ばれる文字通り鯨のごとき巨体を誇る海洋大魔獣型ゲノスである。
元々はただの魔獣であったフィレナは、異貌の神々の魔導技術により体内を改造され、自我を破壊され、完全なる操り人形と化しており、内部に多数のゲノス達を抱えているという。
鯨に似てはいるが、内部にゲノスを収容している関係上、フィレナ達は潜水はせず、海面に浮上して泳いでいる。
その大魔獣は船のようなもので、フィレナを基点に多数のゲノスが展開される事が、祈士達の間では知られていた。
<<船体防護障壁展開せよ>>
艦隊提督を兼ねるハイロード・ピュロスからの念話が味方の『念話領域(チャンネル)』に響き渡った。
ゲノスの中には水陸両用の者がおり、人類側の艦隊と遭遇したとあれば、彼等はフィレナから出撃して水中を進み、見えざる海中から船底を破らんと仕掛けて来る事が以前の大戦時より確認されている。
それに対抗する為、軍船には一定数の障壁展開専門の祈士がついて、破神盾に似た障壁を常時展開し続け、船体破壊を防ぐという戦術がとられている。
覆わねばならぬ面積が広い為、破神盾ほど絶対の防御を誇る訳ではなかったが、並大抵では船は沈まなくなる。
<<水中戦隊出撃準備>>
また水の中で呼吸を可能にする魔術による支援を受けて、海の中へと生身で入り、海中からの攻撃を防ぐ、または逆にこちら側が海中より攻撃を仕掛けて、敵のフィレナを攻撃する部隊も用意されていた。
多数の兵達が慌ただしく動き出す中、さらなる報告が入る。
<<フィレナより空へ多数の敵影が飛び立ったのを確認! ――ドラゴニアンです!!>>
ゲノスの中には翼を持ち、空を舞う者も存在する。
彼等の多くは物理的に飛翔するのではなく霊力を利用して舞う。
大気に存在する霊力は地表に近い程濃く、高度が高くなる程に薄くなるから、彼等は一定以上の高さには飛べない事が多い。
しかし、空から高速で飛来し、長射程の飛び道具で一方的に撃ち降ろして来る戦術は通常の祈士では反撃が出来ない非常に強力な戦術であり、人類側が最も恐れている存在の一つだった。
<<『連光弩砲(バリスタ・ファランクス)』へ祈霊石を籠めよ>>
これに対する人類側の対抗手段の一つが、大型の備え付け型の射撃兵器である。技術力と資金力に優れ、大陸との繋がりが濃かったトラペゾイド海軍は、最新兵器である連光弩砲を保有していた。
祈刃と似た性質を持つそれはエネルギー装填補助観測手と射撃手の二人一組で運用され、破神剣に遥かに勝る威力と射程、連射性を誇る。破神剣ならば届かない距離と高度にもバリスタから放たれる光矢ならば届く。
大型な為、移動ができないのが欠点だったが、一地点を守るには適していた。
これにさらに破神盾に専念する祈士を数人つけてバリスタの周囲に配置する事により防御力も非常に高いものとなり、遠距離での撃ち合いでは無類の強さを誇る。
ただし、破神盾は接近されると無力化される事が多かったから、多数の兵に肉薄され斬り込まれると弱かった。
このバリスタ・ファランクスと破神盾の組み合わせは人類側でもトップクラスに強力な兵器・戦術だったが、バリスタは非常に高価であり整備・維持・運用の霊的コストも多大である為、艦船一つに対して一つだけが設置されている程度の希少なものだ。
<<空戦隊出撃準備>>
そしてもう一つの空への対抗手段が飛行する祈士の存在である。
この存在は『バリスタ』よりもさらに希少であった。
古より伝えられる飛行術用魔導器と優れた魔術師、そして魔導器に適正を持ちかけられた飛行術を制御しうる技量を持つ祈士、この三要素が揃って初めて空を飛び戦う祈士というものが実現される。
この魔導器は非常に希少なもので、ゼフリール島で保持しているのは『覇王』の称号を世界帝国ヴェルギナから贈られ認められていたトラペゾイド連合王国のみであるといわれている。
水中、海上、空中より迫る異界勢力に対し、トラペゾイド艦隊はそのような備えで対抗せんとしていた。
●
<<――調子はどうじゃ?>>
貴方へとバリスタ・ファランクスに射手としてついているキルケーから調子を窺う念話が届いた。その補助観測手にはスヴァリがついている。
貴方はピュロスから飛行の魔導器たるプテリュクス――外見としてはベルトである、腹に巻く――と念話が可能な距離が拡大する指揮官用腕輪を身につけ、飛行術をかけられて大空へと舞い上がっていた。
ピュロスから飛行戦隊に抜擢された為である。
もっとも戦隊とはいっても貴方の他には空に上がっている祈士は飛行術の術者たる覇王ピュロス自身と大陸三勇者のジャスティン、ヘリオタイの鉄槌パルメニオンの三名しか存在していなかったが。
貴方はキルケーへと返事を返したり返さなかったりしつつ艦隊上空より彼方を見やる。
彼方の空からは黄金、銀、黒、赤、緑、青、色とりどりの鱗と翼を持つ竜人ドラゴニアンが散開しながら艦隊へと接近してきている。
海上には大型の鯨型大魔獣の背に多数のゲノス達が乗っているのが見えた。
おそらく、海中からもゲノス達が前進してきている筈である。
<<我等空戦隊は敵の竜人どもを迎え撃つ。ただし仕掛けるのはバリスタの射程内に引き込んでからとする>>
輝く剣を手にして外套を靡かせながら空を舞っている老人――ピュロスからの念話が届いた。
<<敵の数は空戦隊よりも多い。
空戦隊に選抜した者はいずれも実力に秀でた者だが、それでも、竜人達の総火力を集中されれば耐えきれまい。
空戦隊のみで竜人の群れと正面からぶつかるのは無謀といえる。
ダメージの分散が必要だ。
故に我々が勝利するには味方との相互支援が必要だ。
竜人どもは恐らく、船上の味方へと光のブレスを降り注がせるだろうから、空戦隊はその時に竜人どもの横腹を突く形で突撃し、これを撃破する>>
もっとも、とピュロスは続ける。
<<無謀というのはあくまで私の見立てだから、自分ならば出来ると踏むのならば単騎で突出しても構わない。勧めはせんがな>>
■状況と目標
エスペランザ諸島へと向かうトラペゾイド艦隊と、迎撃に出て来た異界勢力によるキンディネロス海の大海原での激突です。
海中、海上、空中よりそれぞれゲノスの群れがトラペゾイド艦隊に接近してきています。
海中からは水中行動に適正のあるゲノスが潜水して接近しています。
海上は鯨型超大型魔獣フィレナの背へとゲノス達が出ており、射撃攻撃やガレオン船に接舷してから跳躍して乗り移っての斬り込み攻撃などを目論んでいます。
そして、空中からはドラゴニアンと呼ばれる翼持つ竜人型ゲノスが接近してきています。
トラペゾイド側も水中呼吸の魔術を受けている水中戦隊や、船上の祈士達、そして空に飛行術を受け舞い上がった空戦隊を展開して対抗せんとしています。
PCは空戦隊に所属しています。
空戦隊はドラゴニアンの排除が主目的となります。
ドラゴニアンは長射程の飛び道具を持ちます。
トラペゾイド側の主な戦力の分類を
1.飛行戦力である飛行祈士
2.長射程と高火力を誇るバリスタ
3.船上の一般祈士
4.海中の潜水祈士
5.一般船員
の五種とするとゲノス側にとって最も脅威なのは飛行祈士とバリスタです。
飛行祈士は機動力が高い為、逃げに徹しられると捕捉が困難ですが、バリスタは固定兵器である為、狙われると逃げる事が難しい兵器です。
その為、彼等は排除の最優先目標をまずバリスタに定めています。
原則、バリスタと飛行祈士を排除しさえすれば、ドラゴニアンは空から一方的に船上・海中の祈士達へと頭上から攻撃し続けられからです。
故にバリスタと飛行戦力が消滅した時点で彼等の勝利が確定するといっても過言ではありません。
ただしバリスタは破神盾により射撃戦に滅法強い為、ドラゴニアンからすると直接交戦するには相性が悪い相手となります。
その為、ゲノス達は斬り込み隊による接近攻撃でバリスタを沈黙させようと目論んでいます。
ドラゴニアンはこの斬り込み隊を支援する為に、空から船上の祈士達を狙い撃ちにせんとしてきます。
これは船上の祈士達にとって非常に厄介な攻撃であり、放置すれば多大な被害が発生してトラペゾイド側は敗北するでしょう。
その為、飛行祈士であるPCはこのドラゴニアンを速やかに殲滅ないし撃退する必要があります。
また、ドラゴニアンは飛行祈士が射程内にいてかつ邪魔である場合は飛行祈士の排除を一般祈士への攻撃よりも優先するでしょう。
……というのがピュロスから戦闘前にPCへと説明されている今回の戦いの見立てです。
可能な限り味方の被害を少なく抑えつつ、敵戦力を殲滅、ないし撃退する事が目標となります。
■飛行術に関して
このシナリオ中ではPCは空中での移動が可能となり、空中では機動力1の消費で2メートル移動する事が可能です(つまり通常の倍の速度で移動可能)
ただし海面から50メートルを超える高度には原則上昇できません(勢いをつけて上昇すると一時的には50メートルを超えるなどはあるが、すぐに50メートル以下まで落下する)
飛行中、空中で落下せずの停止も可能です。
(高度制限がある事以外は基本的にイメージとしてはドラゴ○ボールの舞○術のような具合です(作品を知らない方はすみません))
また空中では縮地は使用が不能になります。
代わりに『ブースト』という猟技が使用可能になります。基本効果や制限は縮地と同じですが移動可能距離が10メートル以内ではなく倍の20メートル以内となります。
また使用時、進行するのとは逆の方向へと霊光の噴出がエフェクトとして発生します。
色は基本的に蒼ですが、プレイングで「このキャラの場合はこの色」などと自由な色に指定する事もできます。
■敵戦力
●ゲノス・ドラゴニアン × 30
飛行する上位ゲノス。
身体部分の体長は2メートル程。
さらに背中から片翼のみで1メートル程度の長さの蝙蝠に似た竜の翼を二枚生やす。
トカゲに似た竜の首と頭部を持ち、人に似た胴体と四肢を持ち、蜥蜴の尻尾を生やす。
体躯は鱗で覆われている。
鱗の色は、黄金、白、黒、赤、緑、青など様々。
2メートル程度のサイズの槍を手にしている。
○ステータス(過去の人類側の交戦記録を伝えられており、以下の数値はPC情報で問題無い)
攻撃力130~150
防御力80~90
攻撃レート5
防御レート-10
最大生命力100~150
最大精神力100
最大行動力1
使用ダイス1D100
○使用スキル
・レーザーブレス
大きく息を吸うモーションから次いで大きく顎を開き喉の奥から吐き出す眩い光線波。一直線上を薙ぎ払う範囲攻撃。
さらに吐き出し続けながら方向を変更も出来るので、剣で薙ぐように空間を薙ぐ事も出来る。
空から降り注ぐ光線は甲板上の祈士達にとって厄介極まりない攻撃。
最大射程100メートル。
ステータス補正
攻撃力+10(ただし5メートル以内の距離に存在する対象へは攻撃力-10に変化する)
攻撃レートに+20加算する。
・鉄穿槍
手にした槍による刺突や斬撃など。
接近すると基本的にこちらで攻撃してくる。
○ステータス補正
無し。
■味方戦力
ピュロスやジャスティン、パルメニオンらの空戦隊の他、船上のバリスタ・ファランクスから援護射撃が飛んできます。
その為、撃破目標であるゲノス・ドラゴニアンは30体存在していますがすべてをPC一人で倒す必要はありません。
最後までお読みくださり誠に有難うございます。
例によってオープニングが長くなりました望月誠司です、対エスペランザ戦線へようこそ。
今回は軍港も完成したので、それを足掛かりについにエスペランザ諸島の解放を目指し人類側(トラペゾイド)の艦隊が出発しました。
異界側はこれを迎撃する為にゲノスの海戦隊と空戦隊を送り込んできました。
両者はキンディネロス海で激突し、今回の戦いとなっています。
ガレオン船十隻の艦隊とゲノスを満載した船のような鯨型大魔獣フィレナ二十体と内部に収容された多数のゲノス、そして空中からは竜人三十体です。
水中、海上、空中で戦いが繰り広げられる大規模な海戦となっています。
PCはそのうちの空戦の一翼を担います。
背景が色々ありますが、タイプとしてはPCが空戦でビシバシ無双する系のシナリオになるでしょうか。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。