赤烈霜のリスティル「襲ってきた賊は必ず捕らえろ。生かして捕らえるのが難しければ殺しても構わん。絶対に逃がすな」
依頼主・ゲイルスコグル戦祈団(ユグドヴァリア大公国)
概要・盗賊団の捕縛ないし殲滅
シナリオタイプ・戦闘
シナリオ難易度・難しい
主な味方NPC・赤烈霜の「リスティル」
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・無し
ゼフリール島の北部、ユグドヴァリア大公国が治めるノール地方はとても寒冷で厳しい大地だ。
土は痩せていて税も重く、ガルシャやトラペゾイドはおろか、小国フェニキシアと比較してさえも貧しい。
しかし、大公国の治安は意外な事にそれほど悪くはなかった。
『安全と水は無料である』などと謳われるガルシャ王国には流石に負けるが、代替わりして政情が不安定なフェニキシア王国と比べたら街道の安全などは遥かに保たれている。
何故かというと、
「――我々が守るべきは法を守っている民達の命と生活であって、これを冒す者達ではない」
州都ヴァルハベルグの門を出る際、青い瞳の女が貴方へと言った。
「故に無法者――賊は除かねばならない。そうしないと誰かが奪われ、犯され、殺される。賊の中には酌量の余地がある理由を持つ者もいるかもしれないが、その理由の為に法を守って生きている者達を犠牲にするのは順序が違う。ましてや私利私欲で人を殺める者に対しては何をか言わんや」
彼女の名は赤烈霜のリスティル。
グルヴェイグヴィズリル州軍の祈兵長である。
「故に私は貴君に言う。襲ってきた賊は必ず捕らえろ。生かして捕らえるのが難しければ殺しても構わん。絶対に逃がすな。逃がせば奴等は別の力なき者を襲う。必ず仕留めろ。絶対にだ。行くぞ」
捕らえられた賊は多くの場合、民衆の前で公開処刑されるそうだ。それが治安が引き締められている理由。
ユグドヴァリアの諸侯軍の賊に対する苛烈さは、国内外にあまねく知られていた。
●
季節は春だったが、未だ冷たい風が吹く荒野を荷馬と共に貴方は歩いていた。
馬の背には主にヴァルハベルグの特産品である毛皮が入った袋が乗せられている。
そこまで上等な毛皮ではなかったが、量があるので自由都市アヴリオンまで無事に届けられれば儲けは結構な額になる。
先頭に立って荷馬の手綱を引いているのは行商人らしい服に身を包んでいる若い女である。頭には毛皮の帽子を被っていた。
か弱そうな雰囲気を醸し出しているがその正体は祈兵長のリスティルだ。上手く化けている。
通常の行商の旅であるなら、武装した姿を晒してその威を示し、賊達へとそもそもに襲わせないのが常道だったが、しかし今回はさも隙のあるような態を見せていた。
今回の依頼は商隊の護衛ではなく、賊を退治して交易路の安全性を高めるのが目的だったからだ。
賊達の襲撃を誘っていた。
襲ってきた所を、討ち取る算段だったのだ。
しかし、
――これで本当に賊達が喰いつくのだろうか?
というような疑問を貴方は抱いていた。
この擬態はあまりにもあからさまではなかろうか。
その為、そういった旨の事をリスティルへと告げたのだが、新米商人に扮した赤毛の祈士曰く、
「……この前、ユグドヴァリア軍はガルシャに大敗したからな」
と不機嫌そうな表情で言った。
大公ソールヴォルフが大軍を率いてヴェルギナ・ノヴァ帝国へと攻め入ったは良いものの、老将ジシュカが率いる寡兵を相手に大敗北を喫したのは有名な話だった。
その為、ユグドヴァリア軍の力を軽んじて、また、大敗北によって後方の賊達を相手にする余裕が無くなっただろうと見て、今まで抑えられていた賊達が、その活動を活発化させていた。
今月に入ってから交易路を行く商隊が賊によって襲われるという事件が頻発している。
「連中は今、調子に乗っている。だからこの餌には喰いつく」
リスティルは言う。
「それに、他国では知らんが、このあたりでは今の我々のような少数編成で交易をする商人は多いんだ。ユグドの民は大体が貧乏だからな。商人も貧乏だ。だから護衛の祈士が一人だけなんてのは、そう珍しい事じゃないんだ。ユグドは金はないが度胸だけはあるのも特徴だからな……言ってて悲しくなってきた」
祖国を愛しているらしき女兵士はくっと唇を噛んだ。
「ともかく! 賊が私達を襲ってくる可能性は高いという事だ。無論、絶対ではないが、来なければ来ないで普通に商売するだけだ。アヴリオンへと毛皮をもっていけば儲かる。特に今は賊が暴れてるせいでちょっと相場が上がってるらしいからな。普段よりも高く売れるぞ! ……あんまり喜ばしい事じゃあないが」
との事だった。
そんな会話をかわしてから数日が過ぎ、気温もかなり暖かくなり、本当にただの行商で終わりはしないだろうかとリスティルがソワソワしだしたのが貴方の目からは良く見て取れるようになった頃、火を焚き野営をしている最中に、彼等は現れた。
●
暗黒の空で満月が眩く輝いている。
貧しいのが一般的な大公国の民にしては、随分と上等な武具に身を包んだ男女達だった。
「ようよう、グーテン・アーベント(今晩は)、たった二人で行商かい? 勇敢だねぇ」
煌々と燃える松明を手に、焚き火の光が届く範囲まで踏み込んで来た髭面の男は、北方民族言語での挨拶と共に馴れ馴れしい調子で声をかけてきた。
霊鋼製らしきプレートアーマーに身を包み、頭にはバイザーを上げたサレットヘルムを被っている。
「……これはこれは、素晴らしい造りの鎧ですね。どこかの騎士様でらっしゃいますか?」
リスティルが立ち上がって恭しく一礼し問うと、髭面の男は嘲笑するように口端をあげた。
「騎士? いいや違うね。祈士ではあるが。こちとら『傭兵』だ。武器を捨てて両手をあげろ」
男は目にも止まらぬ速度で鮮やかに腰から剣を抜刀すると、その切っ先をリスティルの鼻先へと向けた。
「有り金と積み荷を半分よこしな。そうすれば命と身の安全は保証してやる。望むならアヴリオンまで無事に送り届けてやっても良い」
するとリスティルは表情を変えた。
高慢そうに鼻を鳴らす。
「……賊にしては多少は紳士的だな? その言葉が本当ならば、だが」
「俺は美人に嘘はつかねぇよ、ノールの神々の名に懸けて」
男が笑い、横手の暗闇から飛来した矢がリスティルの脇腹に鋭く命中した。
空間が水面に波が走るように揺らめき、矢が弾き飛ばされ地に転がる。
『波紋障壁』が発動していた。通常兵装による攻撃を弾き飛ばし無力化する祈士達と異界の生物達の特有能力。
地に落ちた鏃を見れば、焚き火の光に照らされて黄色く不気味な色に輝いていた。
毒が塗られている。
恐らく、麻痺の毒だ。
<<嘘つきめ>>
吐き捨てたようなリスティルの念が響き、女の身が後方に大きく飛んだ。
彼女が直前まで立っていた空間を髭男の剣閃が突き抜ける。
<<……祈士か!>>
着地したリスティルは懐から短剣を抜き構えると、
<<左様、こちらゲイルスコグル戦祈団、我々は祈士だ。武器を捨てて投降せよ。さすればヴァルハベルグで裁判を受ける権利をくれてやる>>
<<公開処刑が九割の裁判なんぞに誰が出るか。野郎ども出来れば殺すなよ! 高値で売れるぞ!!>>
首領らしき髭男は松明を放り捨て兜のバイザーを降ろした。髭男の念話に応えて賊達から気勢が上がる。
貴方は違和感を覚えていた。
祈士というのはなるのに適性が必要だった。
そして力を発揮する為にはさらに祈刃が必要となる。
祈刃というのは製作に高度な技術力が必要で、一度製作した後も定期的に調整が求められ、力の元となる祈霊石には充填が必要だった。
そのあたりの技術は各国が厳重に管理していたから、いずれも容易に手に入るものではない。何よりそれ用の大型の設備が必要だ。
裏のルートでの売買は一応なされていたが非常に高価だ。
だから、小規模な野盗の一団には祈士は一人いれば良い方であり、二人いるのは珍しく、三人いるのなんてのは奇跡的な確率になる。
しかし、祈士がいてもせいぜい二人であるのなら、野盗達の対応はおかしかった。
モグリの祈士よりも正規軍や傭兵の祈士の方が強いからだ。
一対二、二対二、なんなら三対二であっても、彼等に勝ち目は無い筈なのだ。
貴方の前方には髭面の男と、その手下らしき斧を持った大男と革鎧を着込んだ女が立っている。
先程飛来した矢を撃ち放った者が横手の闇の奥に控えていて、そしてうっすらと感じる気配からするに恐らくもう一人が周囲の闇の中、四半スタディオン内(約50メートル内)に居る。
――こいつら、全員、もしかして祈士なのでは?
貴方はそのような、漠然とした予感と危機感を覚えていた。
■目標
賊達全員の捕縛、ないし殺害
一人でも逃がした場合、あるいは全滅した(己とリスティルが戦闘不能になった)場合、シナリオ失敗
多くの賊を生かして捕らえた方が成功度は上がる。
霊鋼製の拘束具が積み荷の袋の中に入っているので、賊達を生かして無力化した場合、それで拘束する事が可能。
全員殺した場合でもシナリオ成功度は「成功」までにはなるが、大成功にはならない。
■地形等
平坦な荒野。
夜。
あたりには闇が落ちている。
満月が出ている為、目を凝らせば見えない事はないが、焚き火の光が届く範囲外は視認がしにくい。
■味方戦力
●赤烈霜のリスティル
大公国のゲイルスコグル戦祈団所属。
祈兵長。
若いが敏腕。
本来は槍を使うが、今回は行商人のふりをする為に短剣しか持っていない。
ほっといた場合、首領と切り結び始めそうな雰囲気。
自殺じみた指示でない限りは作戦を提案すれば従ってくれそうな雰囲気。
・能力
攻撃力120
防御力120
攻撃レート-20
防御レート-25
最大生命力300
最大精神力110
最大機動力25
最大行動力2
使用ダイス1D100。
セットスキル 紫電
猟技の縮地が使える
■敵戦力
●首領
長身の髭面の男。
プレートアーマーとサレットヘルムで身を固めている。
武器は全長90cm程度の片手半剣。
・能力(PL情報)
攻撃レート+0
防御レート+20
ステータスはやや防御寄り。
●巨漢
身長2mほどの大男。
チェインメイルとスパンゲンヘルムに身を包んでいる。
右手に片手用の戦斧を持ち、左腕には直径1m程度の大きさの円形盾を持っている。
戦斧は長さ1m程度の柄の先に、片刃の斧頭がついたもの。
・能力(PL情報)
攻撃レート+15
防御レート+20
ステータスは防御寄り。
●革鎧女
身長150cm程度の若い女。
柔革の鎧に身を包み全長80cm程度のスモールソード(レイピアのような刺突剣)を右手に持っている。
・能力(PL情報)
攻撃レート-25
防御レート-10
ステータスは攻撃寄り。
●弓使いと思われし者
PC達の西側(左手側)にいる。
(以下PL情報)
身長170cm程度の中年の女。
布鎧に身を包み長弓を手に持ち腰に毒矢筒を吊り、全長1m程度の両手剣を背負う。
弓は毒矢は使用せず、光の矢を飛ばして攻撃してくる。
焚き火の光が届かぬ闇の中にいる為、姿がはっきりとは視認しにくい。
だが満月が出ている夜の為、目を凝らせば一応その影は視認出来る。
・能力
攻撃レート+20
防御レート-20
ステータスは攻撃寄り。
●闇中の気配
PC達の西側(左手側)にいる。
(以下PL情報)
身長175cm程度の若い男。
布鎧に身を包み銃剣付きのマスケットライフルを所持している。
ライフルの全長は銃剣込みで2m程度。
焚き火の光が届かぬ闇の中にいる為、姿がはっきりとは視認しにくい。
だが満月が出ている夜の為、目を凝らせば一応その影は視認出来る。
・能力
攻撃レート+25
防御レート-20
ステータスは攻撃寄り。
●全体備考(PL情報)
敵の使用ダイスは全員1D100。
全員精鋭の祈士。
荒野の戦場へようこそ、望月誠司です。
ユグド勢による賊退治シナリオですが敵は全員精鋭の祈士です。
一対一ならPCの方が遥かに強いのですが、敵は数が多く、しかも視覚的・配置的有利を取っています。
動き方によっては普通に負ける上に大成功取る為には殺さないように工夫して倒さないといけないのでシナリオ難易度は「難しい」です。
少数VS多数。
PCは一般的なPBWで言う、いわゆる『BOSS』側の立場になっています。
敵は連携して攻めてきますので上手い具合に撃破してください。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。