皇帝アテーナニカ「前へ」
依頼主・皇帝アテーナニカ(ヴェルギナ・ノヴァ帝国)
概要・皇帝達要人の護衛
シナリオタイプ・戦闘
シナリオ難易度・普通
味方NPC・皇帝「アテーナニカ」賢者「メティス」女王「ベルエーシュ」騎士「アデルミラ」
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・PCが「ハック=F・ドライメン」である事
共通OP・「皇の目」
挿話・「【皇の目】風を呼ぶ者」
ガルシャ王国は果たして良くなっているか?
フェニキシア王国は果たして良くなっているか?
「ゼフリール島」は果たして良くなっているか?
『世界』というのは果たして良くなっているか?
『未来』は良い方向へと――
宮殿の奥の自室。
鏡を覗けば真顔の女の紫色の瞳が真っ直ぐに己を見つめている。
――馬鹿げた話だ。
人々から己の目標がそう評価されているのは知っている。
ヴェルギナ・ノヴァ帝国の皇帝アテーナニカは、鏡の中の己自身を真っ直ぐに見据え返した。
薄桃色の唇が動く。
「……前へ」
紡ぎだされた少女の声は小さく静かに室内に響いた。
●
『皇の目』としてフェニキシア国内を旅し各領の様子を査察している貴方が、報告の為に総督府がおかれている王都アーシェラルドへと戻った時の事だ。
「――前期と比較しイル・アシル州、イル・クアン州、イル・バノン州、イル・ミスタムル州、フェニキシア四州のそれぞれにおいて市場規模がおよそ26%、32%、24%、51%拡大しています! これは大きな進歩といえるでしょうっ!」
街の広場に設けられた壇の上、元々は世界帝国の皇室で皇女アテーナニカの家庭教師をしていたという小さき賢者が、集まっている群衆を前に弁舌を振るっていた。
「我々はまだまだ拡大します! もっともっとフェニキシアは豊かになれます! その為には前進あるのみです!! ――豊かな未来を築く為にどうかっ!! 皆々様の帝国への篤きご支持を!!」
幼く見える老女がかぶりを振り両手を広げ熱く叫んでいる。
「アテーナニカ陛下は必ずや皆様のご期待にお応えしてくだされます!! 無論、皇帝陛下からご信任いただいている我々フェニキシア総督府も力の限りを尽くす所存です!!」
メティスが演説を終えると雷鳴のように、津波のように拍手が人々の間から巻き起こった。
貴方が割り当てられていた地域での査察は当初こそ魔獣や賊の被害などもあったものの、あらかた討伐されてからの最近は平穏であったし、フェニキシア王家の威光がもっとも強かったアーシェラルドでもこの人気である。
メティスらによるフェニキシア王国の統治は今のところは順調にいっているらしい。
●
総督府。
「件の旧フェニキシア海軍残党の拠点に関してですが、残るは一つだけとなりました」
綺麗に磨かれている執務机に着いている小柄な童女がにこやかに述べた。
以前はこの机には書類が山のように積まれているのが常だったが、最近はデスマーチも減ったらしい。
「これもハックさん達『皇の目』が確かなお仕事をなされてくださった成果です。改めてお礼を申し上げます」
総督メティスはそう言って感謝を示すように貴方に会釈をした。
「ただ……」
幼さを残したかんばせが引き締められる。
「最後の拠点がかなり頑強で、未だ粘り強い抵抗を見せています。なんでも元はフェニキシア王国のイル・バノン州総督であったハンノ殿が指揮を執っているとか」
イル・バノン侯爵にしてイルハーシスの太守であり、フェニキシア海軍閥の首魁であったハンノは、女王が捕縛されイル・クアン州が陥落し、イル・アシル州も降伏し、最後の一州となった際、総督としてイル・バノン州全体を降伏させた。
しかし彼個人はヴェルギナ・ノヴァ帝国にくだるを良しとせず、総督位も侯爵位も退いて、一個人の海賊として暴れ回る道を選んだらしい。
海軍も大半は帝国に降伏したものの、決して軽視できぬ数がハンノに同調し彼と共に海賊となったのだという。
彼等がつまり先日に『フェニキシア海軍の残党』と目された者達だった。
「そこまでして未だに暴れ回っているかた達ですから、私としてはもう精鋭の祈士部隊を送り込んで殲滅するしかないと思うのですが……」
そこでメティスは軽く息を吐いた。
「……報告をあげたところアテーナニカ様が『それはよくない』とおっしゃられまして」
彼女は言ったらしい。
「『私が説得にいく』と」
メティスは額に手をあてていた。
ひどい頭痛がするらしい。
「なんかもう問題が山のようにある行動で……」
降伏勧告したいならせめて自身で向かうのではなく旧主であるベルエーシュを向かわせたらどうか、とメティスは提案し、するとアテーナニカもそれに従ったのだが、
『死にたい奴は死なせてやりなさいよ。私は嫌よ、魂賭けて戦っている人間に旧主の立場を利用して剣を捨てろなんて言うのは』
とその提案はベルエーシュから一蹴され『じゃあやっぱり私がいく』という話に戻ったらしい。
そうして皇帝直々に向かう事になったのだが、そうなったらベルエーシュも同行したいと言ってきた。ハンノへの説得に手は貸さないが、元臣下の事は気になるので見届けてやるとの事。
「……陛下の事が非常に心配なので私も同行する事にいたしました。最近はフェニキシアの統治も安定してきましたし、一週間程度なら部下に任せても問題ないでしょう……たぶん」
女賢者は俯いていた顔をあげ、つぶらな碧眼を貴方へと向けてきた。
「そんな訳で帝国の要人が一ヶ所に集まります。しかも立て籠もっているハンノ殿を刺激しないように彼の拠点には少数で向かいます。これはもう帝国に害意ある者に対し襲ってくれと言っているようなものです。ですので、護衛は最強の祈士にお願いしたいのです。つまり、ハックさん、貴方です」
一応アデルミラらの精鋭祈士達も護衛につくらしいが数が少ないのでメティスとしては是非ともハックに護衛について貰いたいらしい。
「ハックさんの腕前ならどんな敵が襲ってきても安心ですからね」
以前に護衛した童女に見える女は笑顔を浮かべてそう述べたのだった。
●
「イル・クアンの戦いの時にはお世話になった。あの時はおかげで命拾いした。改めてお礼を言う。そして今回もハック、貴方の剣の腕を頼りにしている。どうかよろしくお願いする」
護衛依頼を引き受けると紫色の髪の娘が貴方を真っ直ぐに見つめて礼を言ってきた。
拡大したガルシャ王国と縮小したフェニキシア王国を従えているヴェルギナ・ノヴァ帝国の皇帝アテーナニカだ。
「あぁそっか、アンタも護衛に加わるのね」
黄金の髪の少女が苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべつつ貴方を見て言った。
領土は大幅に削減され唯一残った領地である王都アーシェラルドも代官という名目でメティスに抑えられてはいるが『フェニキシア王国とその王家』というのは一応形式的には残っているので、肩書上は未だフェニキシア女王となっているベルエーシュである。
「不満か?」
「文句言える立場じゃない事くらいは弁えてるわよ。腕は立つし良いんじゃない。私のすべてを賭けた剣を圧し折れるくらいには腕が立つ」
皇帝が問いかけ、宮中ではその相談役という立場になっているらしい女王がそんな言葉を返している。
彼女等のかたわらには賢者メティスと女騎士アデルミラ、その他護衛の近衛兵達が五名ほどついていた。全員が敏腕の祈士である。
これに貴方が加わり総勢十名、これが使者団だった。
元侯爵にして現海賊、最後のフェニキシア海軍残党ハンノの立て籠もっている拠点は海洋に浮かぶ小島にあったから、船に乗って向かうが、島へと降りるのは彼等を無駄に刺激しない為にこの十名だけの予定だった。
●
大船からボートに乗り換え島の浜辺へと十名で降り立ち、ハンノ達が拠点にしているという入り江の洞窟へと近づいた時である。
一行は突如として岩陰より現れた二十名の男女に囲まれた。彼等は手に祈刃を持ち、いずれも武装していた。
<<ハンノの――じゃないわよこいつら?!>>
一瞬、海賊達が襲いかかってきたのかと思った。しかし現れた者達は海賊にもフェニキシア海軍の残党にも見えないとベルエーシュが言う。
<<……ルビトメゴルです!>>
メティスが長杖を握り締めつつ念領域にて叫んだ。
<<まさか>>
アテーナニカがハッとしたように表情を変え、
<<ルビトメゴル? ……ルビドメゴルって、世界の果ての大魔界の?>>
ベルエーシュが戸惑ったように念話を発する。
<<皆々様ご注意を! 来ます!!>>
アデルミラの注意が走ると同時、メティス曰くルビトメゴル人である20名の祈士達は祈刃の切っ先を貴方達へと向けながら疾風の如く一斉に突撃して来る。
その動きは鋭く、また貴方にさえ霊的気配を姿を現すまで悟らせなかった事から、いずれも非常な腕利きの祈士達である事が感じ取れた。
つまり――とてつもない危機に、皇帝の一団は襲われたのだった。
■地形
入り江の洞窟へと続く砂浜。
波で削られた丸みをおびた大きな岩が多数転がっている。中には人の身を優に超えるサイズの巨大なものもある(これらの岩陰から襲撃者達は飛び出してきた)
■成功条件
ヴェルギナ・ノヴァ帝国皇帝アテーナニカの無事を守りつつ敵集団を撃退する事
■敵戦力
ルビトメゴル人の祈士10名(他にも敵は10名いるが、そちらはNPCの精鋭祈士達が防ぐのでPCが防がなくても大丈夫)
トラシア大陸で東服と呼ばれている独特の衣服に身を包んでいる。
(地球でいうデール(モンゴルの民族衣装)や中華服、和服などに似た服の総称)
服の下に鎖帷子を着込んでいる者も多い。
反りの深いサーベルや、眉尖刀(大薙刀)、十字槍、打刀、金棒などを得物にしている。
いずれも精鋭である。
ただしPCの目から見た場合は、個々はPCよりはかなり弱い。
PL情報・要人を攫うのが無理そうだとみると潮が引くように撤退する。
■味方戦力
●皇帝アテーナニカ
一応は祈士だが一般的な祈士以下の実力(ルビトメゴル人祈士達よりも遥かに弱い)
武器は剣、防具は非常に軽装(イラストにマントをプラスした程度)
●女王ベルエーシュ
今回使用している祈刃は神滅剣ではなく上質だが一般的な祈刃の剣なので実力は並みの祈士より気持ち強い程度。防具は皮の乗馬服。
●騎士アデルミラ
黒髪ポニーテールの精鋭女帝国騎士。武装は長剣とカイトシールド、プレートアーマー。
PCよりは弱いが非常に強い。
ルビトメゴル人祈士2人程度なら同時に相手をして打ち倒せる。
●賢者メティス
開幕から自己超強化をして瞳の色が金色になる。3ラウンドの間だけ鬼のように強く、四方を囲まれても1ラウンド毎にルビトメゴル人祈士を1~2殺できる。
が、4ラウンド目に突入してしまうと急激に消耗してまともに身動きできなくなる。武器は長杖。防具は布の長衣。
遠い異国の特殊部隊員達? 一体何リオンの議長が手引きしているんだ……という襲撃現場へようこそ、望月誠司です。
ガルシャ王イスクラが懸念している存在がちらほら姿を現し始めました。
要人がかどわかされると厄介な事になるので守り抜きましょう、というシナリオになります。
世界観的には非常に危機的な状況ですが、ゲーム的にはPCが鬼強いのでそこまで難しい状況ではありません。
ただし要人が揃っている状況なので、PCの動き方によっては致命的な事にもなりえます。
なお当初の目的である海賊ハンノの説得はアテーナニカとベルエーシュが無事ならオートで成功しますので説得関係の内容にプレイングを割く必要はありません。
(ただしアテーナニカとベルエーシュが二人とも無事に揃っていないと失敗します)
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。