総督メティス「たまたま、闇ルートに高品質の祈刃が横流しされて今回の賊達はそれを使用している、という事も考えられますが……」
依頼主・フェニキシア総督メティス(ヴェルギナ・ノヴァ帝国)
概要・海賊の討伐
シナリオタイプ・戦闘
シナリオ難易度・難しい
ステータス上限・防御150
シナリオ参加条件・実績「ガリラヤ村防衛において完璧な活躍をした上で皇の目を名乗り、帝国からの支援である事を示し、帝国への不満の広まりを緩和した」をPCが所持している事
共通OP・「皇の目」
前挿話・「【皇の目】風を呼ぶ者」
青い青い紺碧の大海原だ。
甲板上を吹き抜ける海風が、春の陽差しを受け光っている。
蒼く澄んだ空へと向かい高く高く伸びゆく巨大な木製の円柱より、真っ白な帆が張られ、風を孕み大きく膨らんでいた。
1206年春、貴方はキンディネロス海の洋上にあった。
時は少し遡る。
同年の初春、フェニキシア王国内では異変が頻発していた。
村落付近に普段は出没していなかった種類の魔獣が現れる。
穏やかだった河が氾濫する。
森で突然の大火災が巻き起こる。
どれもこれまでは滅多に起こらなかったものだ。
『天神ベールの血を引く神聖なる王家が倒された。
ベール神の加護をフェニキシアは失った。
災厄が溢れ出した。
すべてはヴェルギナ・ノヴァ帝国の侵略のせいだ』
そのような噂が急速に広まりつつあった。
しかし、それらの変事はガリラヤに派遣された『皇の目』の活躍の他、各地に派遣された他の『皇の目』や監査官達らの尽力により速やかに解決されていった。
またそれと同時に、
「ヴェルギナ・ノヴァ帝国は人々の生活を庇護する存在である」
と喧伝がされた為、人々の動揺は最低限に抑えられる事となる。
むしろ初めにそれを行ったガリラヤなど一部の地域では、民からの帝国への信頼は逆に上昇すらしていた。
しかしフェニキシアで起こっていた問題はそれだけではなかったのである。
●
「――海賊?」
貴方はガリラヤ他、幾つかの村や町を巡り、多数の魔獣を退治して王都アーシェラルドにある総督府へと帰還した。
各地を巡った見聞の報告をすると、これまでの働きを賢者メティスから労われると共に、彼女からもフェニキシア国内で発生している問題について知らされた。
なんでも、北東の港街イルハーシスとそのさらに北にある自由都市アヴリオンとの間を繋ぐ航路で、海賊による襲撃が頻発しており、民間の商船に多大な被害が発生しているのだという。
商人達は総督であるメティスにこの海賊をなんとかしてくれと訴え出てきたらしい。
幼女に見える老婆は貴方へと言った。
「これを放置する訳にはいきません」
商人達の話によれば、襲撃してきた海賊達の動きは皆洗練されていた上に、さらには凄腕の祈士が複数存在していて、商人達が護衛に雇っていた傭兵祈士達をいとも容易く撃破したのだという。
これは、驚くべき事態だった。
祈刃というのは特殊な兵装である。
メンテナンスには専用の設備と技術者が必要だし、力の源となる精神エネルギーを祈霊石に集めるには多数の人々と専用の施設が必要だ。
故にその運用は一定規模レベル以上――少なくとも地方領主レベル以上――の勢力からのバックアップがなければ難しい。
そこらの野盗達が独力で用意できるものではないのだ。
無論、人の世なので、闇ルートで非正規品が流出する事も無い訳ではない。
だが、そういったものは粗悪品であったり、調整が疎かにされている為に力が大幅に落ちている事がほとんどである。
その為、例え賊に非正規の祈士が混じっていたとしても、アドホックなどの正規の傭兵の祈士が複数人で守っている商船の護衛団が撃破されるというのは、通常では発生しにくい事の筈だった。
「たまたま、闇ルートに高品質の祈刃が横流しされて今回の賊達はそれを使用している、という事も考えられますが……」
メティスは眉間に皺を刻んで口元をきゅっと結び、しばし視線を彷徨わせた後、何かを言いかけたが、やがて貴方を見ると、
「――ともあれ、この海賊達の跳梁を許す訳にはいきません」
貴方に一つの依頼をしてきた。
それは、貴方の身分を隠して――顔に火傷を負ってしまった為に、仮面をつけ療養の為にアヴリオンへと向かっている。そしてこの商船の船長とは親戚であり、その縁で乗り合わせている。という偽の経歴を名乗って――密かに商船に搭乗し、商船の護衛にあたって欲しい、という内容の依頼だった。
その商船は囮の船であるらしい。
囮の商船へと海賊達が襲撃してきた所を返り討ちにして捕縛する、というのがメティスが立てた作戦の大筋だった。
商船の船長とは今回の作戦に関して話が通っているので、貴方の身分偽装に関し口裏を合わせてくれる手筈となっている。
ただ一般船員には貴方の本当の正体――『皇の目』である事は知らされていないらしい。
何故、そんな真似をするのかというと、
「どこに耳目があるかわかりませんから」
との事で、スパイを警戒しているようだった。
貴方は強力な祈士であったので、貴方の存在が海賊側にバレると襲撃してこなくなる恐れがあった為である。
「海賊の祈士は可能ならば生かしたまま捕縛し、総督府まで連れてきてください。可能なら、複数人を捕縛する事が望ましいです。
ただ、第一は無事に海賊団を撃退する事です。
敗北の危険性が高い場合は、無理は申しません」
と幼女に見える老婆は言ったのだった。
●
一度目の航海では海賊達は襲撃してこなかった。
しかしイルハーシスとアヴリオンの間を往復する事二度目の航海にしてついに海賊達が現れた。
彼等はフェニキス樹を豊かに茂らせる陸地の間の入り江より、ガレー式の船に乗って矢のように進み出て来て、猟犬のごとくに商船へと迫り来る。
敵味方から破神の閃光が飛び交い、船体に直撃したが、互いの祈士達は破神盾と似た力を船体に張り巡らせている。
光の膜が閃光を弾き飛ばし、船体は大きなダメージを負っていない様子だった。
その結果は敵味方互いに了承済みの事のようで、儀式的に軽く撃ち合った後、やがてガレー船は商船に肉薄、フック付きのロープを無数に投擲し船体を寄せ接舷してきた。
海賊達が船へと乗り込んで来る。
<<この動き……こいつら、フェニキシアの海軍崩れだな>>
船長からの念話が味方の念領域に流れた。
曰く、その動き方に見覚えがあるという。フェニキシアは陸軍は弱兵といわれていたが海軍は精強といわれていた。この海賊達はその海軍に所属していた者達であると。
その船長の見立てが正しいか誤っているか、真偽の程は定かではなかったが、しかし、確かに祈士ではない一兵にいたるまで、無駄の無い機敏な動きをしている。
<<海賊だ! 命が惜しければ、金と積み荷をおいてゆけ!!>>
<<断る!!>>
共通の念領域に念話が飛び交い、商船の護衛団と斬り込んできた海賊達が激突する。
先頭を切って甲板上へと乗りこんで来た三人の祈士らしき海賊達の前に、貴方は立ちはだかっていた。
とびかかってきた下っ端の海賊達を祈刃を振るって蹴散らし、仮面の奥より海賊祈士達を睨みつける。
<<こいつ……やる!>>
<<我々で排除する! コクナー! ビナー! 同時に仕掛けるぞ!!>>
<<了解!!>>
羽付きの黒い鍔広帽子をかぶった海賊祈士ケテルは、仲間の祈士二人に貴方からは聞かれぬように海賊側の念領域に叫ぶと、貴方を討つべく、刃渡り1mを超える大振りで太いレイピアを手に携え甲板上を駆けた。
■状況と勝敗条件
『皇の目』としてメティスからフェニキシア商人の商船の護衛を依頼された貴方は、正体を悟られぬ為に仮面をつけて変装し護衛とは周囲に悟られぬように商船に乗り込みました。
一回目の往復は空ぶりでしたが、二度目の航海時、イルハーシスからアヴリオンへと向かう途中で、海賊が目論見通りに襲いかかってきました。
商船の甲板上で戦闘が発生し、貴方は敵で最も腕が立ち、また頭目格を含む三人組の祈士の前へと立ちはだかっています。
三人の海賊祈士が襲いかかってきますので、撃退してください。
なおメティスからは可能ならば生け捕りが望ましいとされています(背後関係の情報を吐かせる為に)が、殺めてしまっても依頼失敗とはなりません。
敵にはこの三人の海賊祈士達の他にも数名祈士が存在していますが、そちらは味方の祈士が対応しているので、PCはそちらの相手をプレイングで考える必要はありません。
三人の海賊祈士に首尾良く勝利できれば、自動的に商船側の勝利となります(逆にPCが敗北すると商船側の敗北となります)
■敵戦力
●ケテル
羽付きの黒色の鍔広帽子をかぶり、黒を基調としたコートに身を包んだ立派な口髭と顎鬚を蓄えた長身の中年男。
下はコートと同色のズボンと長靴。
刃渡り1mを超える大振りのレイピアがメイン武器。予備にダガーを持つ。
鋭く素早い刺突を中心に手数を多く繰り出して来るが、斬撃も時折り織り交ぜて来る。
(能力値に関してはPL情報)
最大行動力2
攻撃レート-15
防御レート-15
使用ダイス1D100
流水と猛撃を使う
●コクナー
羽付きの黒色の鍔広帽子をかぶり、要所を鉄板で覆った黒を基調としたに張り裂けんばかりの筋骨隆々の身を包んだ大柄な青年。
下はコートと同色のズボンと長靴。
三日月状に反り返った両手持ちの曲刀がメイン武器。予備に手斧を持つ。
重く鋭い斬撃を繰り出して来る。手数は少な目だが一発一発が重い。
(能力値に関してはPL情報)
最大行動力2
攻撃レート+15
防御レート+10
使用ダイス1D100
力溜めと紫電を使う
●ビナー
羽付きの黒色の鍔広帽子をかぶり、黒を基調としたコートに細身を包んだ青髪ショートカットの若い女。
下はコートと同色のズボンと長靴。
銃剣の付いたマスケットライフル型の祈刃を持っている。予備にメイスを持つ。
最大行動力2
攻撃レート+25
防御レート-20
使用ダイス1D100
最大精神値110
閃光弾、地霊縛、癒しの光を使う
■戦場に関して
揺れる商船の甲板の上、それなりに広い
天候は快晴
【皇の目】第二話へようこそ、望月誠司です。
何やら背後で様々な人々の思惑が蠢いているようですが、やるべき事は変わりません。
民を襲っている賊がいるので、これを討伐します。
ただし、可能なら生きて捕縛する事が求められています。
死亡判定はこちらなので、普通に攻撃すると勢い余って殺してしまう可能性は結構な確率で発生します。PCの火力や状況によっては上手く殺さないように工夫して攻撃する必要があるかもしれません。
ただし、今回の依頼の場合は、殺してしまっても依頼失敗にはなりません。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。