ノヴァク商会の商会長ズデンカ「ケーナ、貴方が頼りです! どうかこの船を頼みます!」
依頼主・ノヴァク商会の商会長ズデンカ(フェニキシア王国に友好的な独立勢力)
概要・交易品の仕入れ選択と交易船の護衛戦闘
シナリオタイプ・交易と冒険
シナリオ難易度・難しい
関連の深いNPC・ノヴァク商会の商会長ズデンカ・ノヴァク
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・PCが「ケーナ・イリーネ」である事
シナリオ中の確定世界線・以下の実績を獲得している。
ノヴァク商会の一員となり相談役の役職となった
「うーん、どの品を購入すべきですかねぇ」
明るい茶色の髪に赤い瞳の少女が眉を寄せながら頭を悩ませている。
時は光陽歴1206年の秋。
ノヴァク商会はフェニキシア女王ベルエーシュから『祈霊石(ピエドラ・ルエゲン)』の輸送を依頼されていた。
祈刃が力を発揮しなければ、無双の祈士とてタダの人に成り下がる為、祈霊石の補給は非常に重要である。
前線への補給の為に海路を使用する事を女王ベルエーシュは選んだが、船での輸送もまた陸上同様に、あるいはそれ以上にリスクが高い。
嵐や異神の尖兵たる『ゲノス(眷属)』などの脅威によって船が沈められてしまったら積荷はすべて海の藻屑である。
祈霊石が海底に沈んで前線に届かなくなってしまったら、前線の軍は満足に戦えなくなってしまい壊滅しかねない。
ガラエキア山脈での大胆な戦術で名を馳せたベルエーシュだったが、少女女王はリスクを考えない人間でもないらしい。
女王ベルエーシュはリスクの分散を試みていた。
具体的に言うならば、祈霊石を一度にまとめて輸送するのではなく、複数に分けて輸送したのである。
複数に分割していれば、例え船の一つが沈められたとしても、それ以外の船が前線まで辿り着ければ、祈士達へと祈霊石を届ける事ができる。
オールオアナッシングの一か八かの博打ではなく、多少の犠牲がでるのは避けられないとしても及第点は確実に取る、安定性を選択した補給方法だった。
ただし複数に分ける輸送手段をとる為には当然、複数の船が必要である。
海洋国家フェニキシアにおいても、大船は高価であり貴重だ。最新式の軍船は前線でこそ使いたかった。
その為、輸送任務にあたる船の需要が高まっており、先日商船を手に入れ海洋交易商人としてデビューしたばかりの、ズデンカとケーナ達のもとへも、祈霊石の輸送が依頼される事となった。
ノヴァク商会は女王から軍の生命線である祈霊石(小分けにされたものの一部とはいえ)の輸送を依頼されるほどに、信頼を受けているといえた。
「女王陛下には日頃からお世話になっていますから、お断りする訳にはいきませんね」
とズデンカはこの依頼を受諾し、ノヴァク商会は祈霊石の輸送を行う事となった。
しかしながら、祈士の数というのは何万人規模で多い訳ではなく、祈霊石自体も祈刃にはめるものな訳だからそう巨大なものではない。
おまけに任されたのは小分けに分散されたうちの一部である。
その為、女王から依頼された祈霊石は、あまりスペースを取る量ではなく、船の倉庫には空きが発生してしまっていた。
倉庫に空きを発生させたまま移動するのは、商人としてよろしくない。
どうせ遠路を移動するなら、何かあちらで高く売れそうな品を空きスペースに積みたいところだった。
上手くいけば女王からの依頼料だけではなく、売買による利益も望める。一石二鳥だった。
問題は、
「今のリムニ・リマニィで売れる品ってなんですかね……?」
輸送先はトラペゾイド連合王国を構成していた都市国家の一つ、リムニ・リマニィ。
『双翼船の白銀王』と呼ばれた王クレステミストが統治し『水軍港都』の名で呼ばれ強大な海軍を有する軍事都市だった。
今は既にフェニキシア軍の攻勢によって陥落し、港湾都市の城壁にはフェニキシアの旗が翻っている。
北方でも『平原城都』デュシスペディオンがユグドヴァリア軍によって攻め落とされ、連合王国の都市国家が次々にその領土を失っていた。
それでもなお『人類世界を守る為だ。犠牲はやむをえぬ』として異界勢力を現世から押し返す為に、エスペランザ諸島から主力を本土へと帰還させようとはしないトラペゾイド上王ピュロスに対し、連合王国を構成する都市国家の王達が反発、不満が急速に膨れ上がっているという。
この状況に対しユグドヴァリアとフェニキシアはさらなる攻勢を選択。
ユグドヴァリアは陸路で東へ、フェニキシアはリムニ・リマニィに接する河川と大湖アネモニカ沿いに北へ、そして海では海岸沿いに北東へと勢力を進めようとしている。
勢いに乗って攻め続けて連合王国を瓦解させ滅ぼすつもりなのだと噂されていた。
「やっぱり占領されたばかりの都市で確実に売れるのは食料品ですかね。でも一般的な食品は利鞘が控えめなんですよね。利益率で考えるならもっと高価な品のほうが良いかしら……?」
うーんとズデンカが宿の部屋の卓上に両肘をつきながら両手で頭を抑えて悩んでいる。
しばしうんうん唸っていた彼女はそれからそのルビー色の瞳をこちらへと向けて来た。
「ケーナはどの商品を積んでいくのが一番良いと思いますか?」
……ノヴァク商会の相談役としてはどう答えよう?
●
「錨を上げろぉおおお!! 帆を張れぇえええええ!!」
三本マストに四角形や三角形の白帆が複数張られた商船が大海原へと出る、東へと向かって。
「よぉおおおし進路そのまま! ヨーソロー!!」
甲板に中年船長の胴間声が響き渡っている。
船長はズデンカが女王のコネクションを利用して紹介して貰った経験豊富な海の男である。
中毒者な勢いで酒癖が悪かったが、船乗りとしての腕は確かな男で、荒っぽい見た目に似つかわず対象を水中で呼吸できるようにする魔法を使えたりするインテリでもあるらしい。
商会長であるズデンカは操船指揮は彼に任せて、彼女自身は提督として大まかな指示のみを出す形となっていた。
ズデンカを初めとしたノヴァク商会の商人達は、船長と同様に新たに雇われて加わった水夫達に混じって、船長からの指示を受け、縄を引いて帆を操ったり、帆柱の上にある見張り台に立って四方を見張ったり、ブラシを手にして甲板掃除などを行ったりした。中には船内で料理を行っている者もいる。
そんな調子で依頼品である祈霊石と、ケーナと相談してズデンカが購入した交易品を積んだ船は、港街イルハーシスより出港した。
進路はまず東、そこからやや北、目指すはフェニキシア軍の占領下にある『水軍港都』リムニ・リマニィである。
海岸沿いに進まないのは、秋の潮流と風の関係だった。この季節はルートによって帆船の航行速度に倍近い違いがでるらしい。
しかし秋のキンディネロス海は荒れやすい事で有名で、ノヴァク商会のナオ船も例に漏れず嵐に巻き込まれた。
筆舌にしがたい艱難辛苦だったが、アル中だが経験は豊富な船長の指揮のもと、ズデンカをはじめとした商会員達は必死に船を操り、あるいは神に祈り、なんとか海の藻屑になる前に、漆黒の雲から差す光のカーテンを見る事ができた。
「い、生きてるぅ……!」
「沈んでない……! 沈んでないよこの船!」
「おおベール様! 汝はいと偉大なり! 神よ! 大いなる天空の神よ! その御慈悲に感謝いたします!」
「ベール様は嵐の神だから、この場合はむしろアムナハル様(海の神)を讃えた方が良いのでは……?」
嵐の海を生き延びた商会員達は口々にそんな事を叫んでいた。
しかし、
<<ゲッゲッゲノスだーっ!!>>
<<こいつ……まっまさかスキュラ?!>>
一難去ったところに再び船員達の悲鳴じみた叫びが念領域に響き渡る。
急ぎ船縁へと走り見下ろせば、船体に巨大な影が張り付き這い登ってきていた。
どうやら嵐に乗じて接近されていたらしい。
見張り達からの報告が念話に流れる中、船長が叫んだ。
<<祈士以外は総員船内へ退避ィッ! 提督も船内へさがりつつ引き続き船体防御をお願いしやす!>>
<<ええ! わかりました!>>
このナオ船は運用にあたる祈士が必要ではあったが、猟技の破神盾に似た防御フィールドを船体の表面に張り巡らせて防御する事が可能だった。
その為、嵐の最中でも船体がバラバラにされる事や、ゲノスの海中からの攻撃で船底を破られる事をある程度の間防ぐ事ができた。
しかし、この防御フィールドは破神盾ほどの強度はない。
一般的なゲノスの群れが相手の場合、10ピリム(およそ10分)程度の間なら耐えられても30ピリム以上攻撃を受け続けた場合、耐えられなくなってくる。
その為、強固な船内へと逃げ込んでも甲板を制圧されて攻撃を受け続ける事になるとまずかった。
また例え船体自体が無事であっても船はそのコントロールを失えば、バランスを崩されるなどして海中へと容易に沈められてしまうという問題もある。
防御フィールドに包まれた船体が海中で無事であっても、乗員は水中では呼吸はできず無事ではいられないからだ。
よって船を沈めんと甲板を制圧しに登ってくるゲノスは、なんとしても排除する必要があった。
ズデンカや非祈士である乗員達が船内へと退避してゆく中、シミター型の祈刃を引き抜きつつ、船内への入口を塞ぐように中年船長フズール・ハイレッディンは立ちつつケーナへと念話を飛ばしてきた。
<<ゲノスの迎撃はイリーネ相談役! その噂に名高い女神の剣でお願いしやす!!>>
<<ケーナ、貴方が頼りです! どうかこの船を頼みます!>>
ズデンカからもそんな念話が飛んで来る。
ノヴァク商会の相談役ケーナ・イリーネの仕事には商品の売買相談もあったが、凄腕の祈士である彼女のその第一の仕事は、襲い来る脅威から船員達を守る、護衛隊長の役目なのだった。
ケーナさんのノヴァク商会の相談役としての日常業務を描いたシナリオです。
海洋商人は日常から冒険です。
■このシナリオの主目標
1.仕入れるのに適切な商品を選び、商会に利益をもたらす
2.襲ってきたゲノスを撃退し船の安全を確保する
■ノヴァク商会が出発地点である港街イルハーシスで仕入れる事が可能な交易品
1.小麦粉
フェニキシア王国の『豊神の湖畔城都』ウガリィッド産の麦からひかれた小麦粉。
パンなどを作るのに使われる。
リムニ・リマニィでは下層の人間が食べるパンは安価なライ麦製なので、純白の小麦粉は中流層向きの商品。
2.フェニキシア家具
フェニキシア王国の『女神港都』アーシェラルドの工房で作られた、流麗な装飾がなされた家具。
島内随一の歴史を誇るフェニキシアの伝統が培った職人技の粋が光る。
瀟洒で高品質な為、ゼフリール島各地の上流層の間で人気がとても高い。ただし値段もお高い。
3.フェニキス木材
フェニキシア王国の『海神と森の城都』イルハーシスの特産品。
イルハーシスの北に生い茂るフェニキス樹の大森林より伐採されたもの。
フェニキス樹はフェニキス炭と呼ばれる高火力を出す為の特殊な炭の素材となるほか、良質な建材や家具の素材にもなる為、島内の各地で需要が高い。お値打ち価格。
4.岩塩
フェニキシア王国の『天神の山河都市』ベールハッダァードでとれた岩塩。
塩は人間の生命維持に必要な為、下層民から上級市民まで、塩の産地以外では一定の購入需要がある。安価。
5.雪星のガルシアンブレード
現在フェニキシア王家の影響下にあるガルシャ王国の『三角州の王都』ルアノール・ノヴァの特産品。
ガルシャ北方の山岳都市ミーティア・スノウにて採掘される特殊な霊鉄鉱石であるミーティア鉱石から精錬された雪辰鋼とよばれる霊鋼をフェニキス炭を用いてガルシャの熟練職人が鍛え上げた刀剣。
数打ち品であり比較的安価ではあるが祈刃自体が高価な代物である為、飛び抜けて高価。
ガルシャの刀剣は値段に対して性能が良い為、人気が高い。
■戦場について
●ノヴァク商会のナオ級船の甲板。
船体の大きさは縦幅60m、横幅20m程度。
それなりに広い。
甲板上は波の為にかなり揺れている。風は比較的ゆるやか。
●船の周囲の海
嵐は去ったが、海流は一般の海と比較するとそれでもかなり荒い。
■敵戦力について
●スキュラ
ゼフリール島の人間達より通称してスキュラと名付けられ大いに恐れられている伝説的なゲノス。
上半身は金色の長い髪と彫像のように美しい顔と豊満な体躯を備えた人間の女型の物であるが、下半身は赤茶色の皮膚に白い吸盤を備えた蛸脚のような形状のものを多数生やしている異形である。
女型の上半身のサイズは1m程度。
蛸脚の長さは1本がおよそ2m程度で太さは最も太い部分で直径30cm程度。脚は全部で8本ある。
女の上半身は手に全長2m程度の三又の槍を一本持っている。
槍は刃の部分より蒼白い鬼火のような燐光を立ち昇らせており、切れ味が非常に鋭い。
その蒼い燐光を纏う刃は生命力を吸い取ると言われており、槍を突き刺された対象は数秒で急速に干からびてミイラのように変えられてしまう他、一瞬刃で掠め斬られただけでも活力が奪われる。
その際、スキュラは肉体に傷を負っていた場合、ただちに負傷が癒え、その肉体は再生すると噂されている。
8本の脚のうち2本で身体を移動させつつ、残る6本の脚を鞭のように振るって殴打や巻きついて拘束、圧死させて来る他、動きを封じた相手を槍で突き刺してトドメを刺したりもする。
6本の脚は一斉にあるいは波状的に襲って来る為、嵐に例えられるほどに激しい攻撃である。
水中を自在に高速機動する能力を持ち、水中では陸上よりも戦闘能力が飛躍的に向上する。
その為、狙える場合はかなり強引にでも水中へと標的を引きずり込もうとしてくる。
かつてヴェルギナ皇帝カラノスが異神皇の軍勢と戦った前大戦の頃から度々出没報告がなされていて、通算で何十隻もの船を沈めていると言われている歴戦の恐るべきゲノス。
イルハーシスの街の酒場ではその脅威が歌となって吟遊詩人に歌われているほど。
その為、ケーナ・イリーネはこの項目で説明されたスキュラの各内容について歌で聞いた事があるとして既に知っていても良いし、知っていなくても良い。
島東部の前線都市への交易航路へようこそ、望月誠司です。
ノヴァク商会員達の帆船による交易の旅路を描いたシナリオとなります。
大海原に乗り出し大量の商品を遠方へと迅速に運べる帆船による交易は成功すれば利益は巨大ですが、危険も大きいです。
嵐だけでなく異貌の神々の尖兵による脅威もあります。
今回はスキュラと呼ばれているゲノスが襲ってきました。
目撃されているだけでも数十を超える数の船を沈めている強力なゲノスです。
これを撃退しない限り、ノヴァク商会の船は沈没となり海の藻屑となってしまいます。
海洋交易に成功して富を掴むか、それとも失敗して破産する――以前に海の底に消え去るか。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。