フェニキシア女王ベルエーシュ「銀刃のシラハ・フルーレンよ、貴方はセドート男爵となり、私をフェニキシアの王と認め忠誠を誓うか? 」
依頼主・フェニキシア女王ベルエーシュ(フェニキシア王国)
概要・PCの叙勲式
シナリオタイプ・特殊
シナリオ難易度・無し
主な味方NPC・激情家の「ベルエーシュ」、道楽者の「アーシェラ」、生真面目な「ジザベル」、頑固者の「シュッタルナ」、直情的な「ハニガルバト」
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・PCがシラハ・フルーレンである事
――夥しい犠牲を払い続けてまで、この王国が存在し続けることに一体どんな意味があるのか?
そう問われた時に女王ベルエーシュが思い出すのは、臆病だった、しかしベルエーシュを愛してくれていた父の情けない困ったような笑顔である。
「逃げ足だけになら自信がある」
そんな事を言ってはばからない人だった。
父王ハミルカルは当時世界の八割以上を制覇していた超大国ヴェルギナの、英雄皇帝カラノスからの「人類世界の滅亡の危機に共に立ち向かわん」という呼びかけに応え、自ら兵を率いて海を渡った。
当時のゼフリール島は「ゼフリールの覇王」の称号を持つトラペゾイド連合王国上王ピュロスが取り仕切る盟約の下にあり、トラペゾイドはヴェルギナに冊封され緩やかながらも臣従していたから、出兵は半ば必然ではあった。
覇王ピュロスやガルシャの雷神ジシュカ、レイヴィスキョルドの首領ハスティン、冥神の戦槍王ヴァイデント、アヴリオンの狂雷ユナイトなどゼフリール島でも名だたる、錚々たる顔ぶれと共に世界を守る為に史上でも類が無いトラシア文化圏の諸国大連合軍に加わった。
「世界の為というよりはまぁ、交易航路の為だなぁ。フェニキシアの皆の飯の種の為だよ」
父は出陣前にこっそりベルエーシュにはそう洩らしていた。
そうしてハミルカルはトラシア大陸でヴェルギナの英雄皇帝と共に異界の神々の皇と戦って死んだ。
伝え聞く所によれば、勇敢な最期だったという。
ベルエーシュには信じられなかった。あの臆病で弱かった父がそんな最期などありえないだろうと。
――自慢の逃げ足でさっさと逃げれば良かったものを!
父王の戦死の報を聞いた時、少女は胸中でそう叫んだ。
ガラエキアの戦いで顔馴染みの兵士達が死んだ。
ガラエキア山脈の戦いはベルエーシュの策があたった事や、アヴリオンの傭兵達の活躍もあり、フェニキシア王国側の大勝利に終わった戦いだったが、戦である。
一定規模以上の戦闘であるなら、何人かは死んでしまうのは当然だった。
全員無事はありえない。
おまけにフェニキシア陸軍は精鋭の帝国軍と比べて弱かったから、有利な状況にあっても死者が出てしまうのは必然だった。
それでもベルエーシュは戦えと命令した。父から受け継いだこの国の女王だったから。
ベルエーシュの命令に忠実に従い戦死したうちの一人がベルエーシュ宛てに言い残したそうだ。
”我らが祖国をお願いします”
と。
――夥しい犠牲を払い続けてまで、この王国が存在し続けることに一体どんな意味があるのか?
そう問われた時に十五歳の少女は様々な事を脳裏に走らせる。
思い返す顔がまた一つ増えていた。
●
『アヴリオンの傭兵達』の一人である『銀刃』シラハ・フルーレンは、先のガラエキア山脈の戦いにてフェニキシア王国軍を勝利に導いた多大な戦果をあげた。
また、それだけでなくフェニキシア王国の内部を蝕んでいたミスタムル派閥の首魁である大貴族、イル・ミスタムル州総督にしてイル・ミスタムル侯アンムラピを討ち、政(まつりごと)の権をあるべき所へと還した。
これらの大功からシラハは女王ベルエーシュより男爵位と共に村一つとその周辺領域を領地として与えられる事が決定された。
アンムラピが総督を務めていたイル・ミスタム州の田舎にあるセドートいう名の村で、規模はさほど大きくはないが、イル・ミスタムル州は土壌が豊かであるので、税収はそれなりのものが見込めるらしい。
古代より悠久の時を経ても続いた伝統により身分階層が強固なフェニキシア王国において、領地規模としては小さいとはいえ平民が貴族に取り立てられる、というのは異例の事である。
大出世といって良かった。
ワスガンニ家のシュッタルナが言っていた、
『女王陛下は厚く報いてくだされるだろう』
との言葉は真実だったようである。
『国の大病を取り除いた英雄』『女王の忠臣』と民達から称賛された(また同時に『王家の走狗』『黒髪の暗殺者』という悪名もまた纏う事となった)シラハは、秋の某日、国境の城塞都市ベールハッダァードの館にて正式に叙勲される事となった。
今は戦中で、最前線の都市であり、また最下級の貴族位である男爵位であるが故にその式典は簡素なものであったが、女王派の主だった者達が集まっていた。
ベールハッダァードの代官太守グブラ伯爵ジザベル。
イラト子爵にしてビブロス宮中伯爵アーシェラ。
新たにイル・ミスタムル州州都ウガリィッドの代官となりエブラ伯爵となったワスガンニ家のシュッタルナ。
カルケミシュ伯爵となったハニガルバト。
等々である。
王都アーシェラルドを女王に代わって治めている代官太守ティリス伯爵アンテノールからも名代の男が送られてきていた。
シラハは女王派閥にとって期待の新人――という程に他の面子も女王派としての歴が長い訳ではなかったが(ベルエーシュが古くからの付き合いなのはグブラ伯ジザベルとティリス伯アンテノールくらいだろう)新たに女王派のフェニキシア貴族となるシラハと友好を深め結束を固めようという意志がある事は感じられた。
周囲はそのように完全にシラハがフェニキシア王国の貴族になると思って行動していたが、ベルエーシュはシラハに王国貴族に叙される事を拒否する権利も与えていた。
フェニキシア王国の正真正銘の貴族となれば『あらゆる勢力に対して中立』を謳う『祈装傭兵組織アドホック』に所属し続ける事はできない。
叙勲を受け容れ、女王ベルエーシュへと忠誠を誓ったその瞬間から、シラハ・フルーレンはアドホック傭兵ではなくなる。
傭兵業は引退である。
傭兵として以前は一応他国からの依頼を引き受ける事もできたが、今後はそれはできなくなる。
セドート村で領主として領地運営を行ったり、女王ベルエーシュからの要請に応え、兵を率いて従軍しヴェルギナ・ノヴァ帝国と戦ってゆく事になるだろう。
あるいは、別の任務がくだされる事もあるかもしれない。
いずれにせよ、今後はフェニキシア勢力の人間として立場が固定される事となる。
叙勲を受け容れるか否かは、式の中で女王から忠誠を誓うか否か問われた時の返答によってなされる。
――このままフェニキシア貴族となるので本当に良いのだろうか?
シラハ・フルーレンの今後の未来を大きく左右する、選択の時が迫ってきていた。
■シナリオの概要
叙勲を受け容れ女王ベルエーシュに忠誠を誓いフェニキシアの領主貴族(セドート男爵)になるか否かの選択。
及び、貴族となった場合、所信表明など。
■シチュエーション説明
叙勲の式は現在ベルエーシュ軍が駐屯している国境の城塞都市ベールハッダァードの城館で行われます。
城館内のホールは、全体的に文治であり風流なフェニキシアの中では朴訥武骨な気質があるベールハッダァードの城館らしく、頑健で古めかしい石造りのものとなっている。
叙勲の儀式の主な流れは、
1.王の前で被叙勲者が片膝をついて跪く
2.王が長剣を手にして正面に立てて構え、自身に忠誠を誓うか被受勲者へと問いかける
ベルエーシュは以下の事を言う。
「私はアーシェラルド及びベールハッダァードの領主にしてフェニキシアの王、ハミルカルの娘、ベール(フェニキシアの主神である天神)の火、ベルエーシュ・イル・イナンナ・ベルナアト・ノス・フェニキシアである」
「偉大なる戦士にして祖国に忠実なる女シラハ・フルーレンよ、貴方が私に忠誠を誓うならば、私は貴方をベールの子(フェニキシアの王族や貴族を意味する同国での古い言い回し)の列に加えよう」
「貴方の血は私達の血であり、私達の血は貴方の血である。私達の剣は貴方の権利を守る、貴方の剣が私達の権利を守るように」
「貴方は貴方の民を戦争においては指揮し、平穏においては統治する権利を持つ」
「そして貴方は災厄を祓い、貴方の民達に家と水とデーツ(フェニキシアの伝統的な古い食べ物、ナツメヤシの実、要するに食料という意味)を齎す義務を負う」
「貴方の判断がベールの法(フェニキシア王国の法律)に則っている限り、私はそれを尊重する。貴方もまた私の判断を尊重せよ」
「銀刃のシラハ・フルーレンよ、貴方はセドート男爵となり、私をフェニキシアの王と認め忠誠を誓うか?」
3.被受勲者が返答をする。
忠誠を誓う場合、単に「女王陛下に忠誠を誓います。今後フェニキシアの貴族としての務めを、我が名と魂に懸けて果たします」だけでも良いし自分の言葉で答えても良い。
その際には三国志で魏延が漢中太守に任命された際のエピソードのように「必ず帝国軍を撃破してご覧にいれます」などのように所信を表明しても良い。
4.忠誠を誓うと王から長剣の腹で肩を叩かれ、正式に貴族として認める事が伝えられる。
それにて叙勲儀式は終了。
5.貴族となった場合は、その場で立食式のパーティへと移行する。何か話したい事があれば、NPCと話をする事が可能。
断った場合も一応、居残って料理食べる事も可能だが、相当心臓が豪胆でない限り居心地は悪い。立食パーティには参加せず退出する事もできる。
といった具合です。
今回のシナリオのプレイングに書くべきものとしては、儀式においてキャラとしてどのような内容を、どんな感じで女王らに応答するか、心情なども含めて書く、というのが基本的な所になります。
国境の城塞都市におけるフェニキシア王国叙勲式の場へようこそ、望月誠司です。
タイトルにありますよう、シラハ・フルーレンさん専用のシナリオとなります。
フェニキシア王国は身分階層が強固なのでなかなか平民から貴族に取り立てられる事というのは無いのですが、大きな功績を二つあげた事と、女王派は勢力が小さくあらゆる意味で戦力不足なので、忠実そうな非常に強力な祈士は爵位と土地を与えて取り込んでおこう、という動きも効いて、今回の叙勲となっています。
貴族となった場合、女王派の武力働きの主力の一つとなる事が期待され(PC的に)忙しい日々となる事が予想されます。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。