シナリオ難易度:無し
判定難易度:易しい
「いいね! うん、そうするよ!」
活気ある港街イルハーシスの酒場のテーブルにてケーナが笑顔で頷く。
傭兵を辞め正式に商隊の一員にならないかという誘いへの返答。
楽しそうという直感に従っての即決だった。
ゆくゆくは船団を組んで新大陸を目指す――大きな夢だ。それは今の段階では文字通りの夢物語かもしれなかったが。
不安の色を瞳に浮かべていたズデンカは、ケーナからの返事を聞くとパァッとでも擬音がつきそうな勢いで顔を輝かせた。
「有難うございます!」
嬉しそうな笑顔と共に少女が右手を差し出して来る。
「改めて、これからもよろしくお願いしますケーナ。ノヴァク商会へようこそ!」
思えば遠くへ来たものだ。
昔はトラシア大陸の地方の名家で令嬢をやっていたが、世界帝国ヴェルギナの皇帝カラノスの死後、その後継者を巡る争いに追われ、幼い弟と共に大海原を越えゼフリール島へとやってきた。そして傭兵となり、今はまたその傭兵を辞めて商人になろうとしている。
胸中にふと感慨がかすめたが、ケーナはその郷愁にも似た過去への振り返りを一瞬で彼方へと押しやった。
栗色のセミロングの髪の少女は紫水晶(アメジスト)色の瞳に未来への煌めきを宿して、笑顔をズデンカへと返し、差し出された右手を力強く握る。
「こちらこそよろしくね!」
それが契約書だった。
こうしてケーナは晴れて正式にノヴァク商会の一員となった。
元傭兵となった元名家の令嬢は瞳を輝かせながら言う。
「せっかくなら良い船を早く手に入れたいね」
船団でもなんでも早く作ってしまいたかった。
新大陸を目指すという大きくて自由な夢をズデンカと一緒に見てみたい。
その為に問題となるのは資金だった。
船は高い。
最新式の大船を新造し――新大陸を目指すという過酷な冒険航海においては中古船では耐久力に不安が残るだろうから、新造は必須条件だろう――複数揃えるともなれば、そこらの地方領主では賄えないレベルの莫大な金額が必要となる。
「稼げるうちにたくさん稼いでしまおうよ」
「ええ、今は好景気ですが、いつまでも好景気であり続けてくれる保証はないですもんね」
二人の少女は頷き合った。
そして同じ新大陸を目指すという夢、その為に必要な船団を組むという目標を達成する為に、成すべき事を相談し始める。
「最短で資金を稼ぐ為には、アタシには何ができるかな……」
ケーナは思う。
最短ルートを進むために自分にできる事、自分にしかできない事があるなら、多少の無茶くらいならやる価値があるだろうと。
フェニキシア王国の戦力になってもいいし、久々に本気で頭を使うのもやぶさかではない。
そんなケーナの本気を感じ取ったのかズデンカが言った。
「海上でもゲノスと遭遇する事が多々あると聞いています。ですからケーナには交易中の船の護衛をまず第一にお願いしたいです。ですがケーナって物の売り買いもうまいですよね?」
「そう?」
「ええ、行く先で利益を出せる商品をきちんと選んでますし」
ケーナはここ最近では弟のユーニと共にノヴァク商会の商売の手伝いもしていた。その際の仕事ぶりに対してズデンカはそのように評価しているようだった。
「交易は以前にもちょっとやった事があったから」
ケーナは過去に聖堂騎士団のレシア・ケルテスからの依頼で、どの商品を選んでどれだけの数を仕入れ、どこでどれだけの量を売却するか、そういった諸々を取り仕切った事があった。
その経験が生きていた。
「ケーナ、そのあたりもかなり上手いと思うので、ケーナが良かったらなんですけど、これからはうちの商会で扱う交易品や売却先の選定の相談にも本格的に乗っていただきたいです」
「それは構わないけど……良いのズデンカ?」
どの商品をどれだけの値段でどれだけの量を仕入れ、どこで売るのか、それは商会全体の命運を左右すると言っても良いくらい重要な事である。最重要な仕事だと言っても良い。
「ええ、正直、私よりも勘が良さそうなので……」
ノヴァク商会の商いが近頃順調なのは、景気が良いのとフェニキシア女王や関係者からの信頼を勝ち取ったからである。要するにコネの力が強い。
ズデンカの売買の能力自体は貧乏商会だった以前と比較して劇的に上昇した訳ではない。
商人ズデンカ・ノヴァクは数値の計算には強かったが、物価変動の未来を確実に見通すような優れた目を持っている訳ではなく、交渉面でも性格的に甘いところがあったので、商才に優れているかというとそういう訳ではなかった。
商人として総合して平凡、甘く見積もってもやや優秀程度である。
悪くはないが、突出して良い訳でもない。
市場の値動きや、世間の動向から、未来の価格変動へのあたりをつける直感はケーナの方が優れていると言っても良かった。
「うーんそれじゃ、どこまでやれるかはわからないけど、アタシで手伝える範囲は手伝ってみるよ」
「十分ですよ! 有難うございます!」
かくてノヴァク商会の相談役ケーナは、船の護衛隊長としての役割だけでなく、売買に関しても大きな役割を担う事となるのだった。
●
ケーナはアヴリオンへと戻り、ルルノリアへの挨拶のついでに傭兵をやめる手続きをした。
「そうですか……少し寂しくなりますが、ノヴァク商会といえばフェニキシア女王陛下からの覚えもめでたく将来有望ですものね。とても良い転職先だと思います。おめでとうございます、ケーナさんならきっと三海に名を轟かす大商人になれますよ」
ルルノリアはケーナが傭兵をやめてズデンカの商会の一員となる事を伝えると、眉をハの字に下げつつも微笑みを作ってそんな事を言った。
「……ルル姉さんには、本っっ当にお世話になりました!」
ケーナは頭を下げた。
「いえ、私はそんなたいした事はしていません。ケーナさんのほうこそ、よく今日まで頑張って依頼をこなしてくださいました。依頼の達成率100パーセントというのは凄い事です。とてもギルドとしては助かっていましたよ」
「……この街に来た時には顔出しに来ますから、お土産楽しみにしててくださいね!」
そうしてケーナは時間が許す限り、ルルノリアと思い出話や雑談に花を咲かせた。
世間が色々あって商売繁盛しているとか、今のマイ祈刃最高! とか、借りてた祈刃も結構気に入っていたとか――
「そういえばお婆様が生き残れたみたいで良かったです」
「ええ、その節は御心を砕いていただいて、有難うございました。もう危ない事はしないでくれると良いんですけど……」
はぁ、と嘆息してルルノリア。
とりあえず生き延びてくれて一安心だったが、森の魔女のご隠居は、まだ孫娘が安心しきれるほどには枯れてもいないらしかった。
「傭兵辞めてもルルお姉さまは変わらずお姉さまです!」
「ふふ、じゃあケーナさんも変わらず妹ですね。近くに寄った時はまた顔をだしてくださいよ」
そんな言葉をかわしてケーナはアドホック傭兵ギルドを後にした。
その後、ケーナの頭にはなかった事だったが、弟のユーニから言われて、今まで住んでいた家のご近所への挨拶回りを行った。
そうして諸々をしっかりと済ませたケーナとユーニの姉弟は、姉はルルノリア、弟は近所の人々など、知人友人から見送られつつ、港よりノヴァク商会が保有する事となったナオ船へと乗り込んだ。
大陸より避難してから一年以上を過ごした自由交易都市国家アヴリオンへと別れを告げ、トラシアの姉弟の人生は、また次のステージへと進んだのだった。
成功度:大成功
獲得称号1:ノヴァク商会商会員
獲得称号2:ノヴァク商会相談役
獲得称号3:元アヴリオンの傭兵
獲得実績1:ノヴァク商会の一員となり相談役の役職となった
獲得実績2:アドホックの傭兵を辞めた
獲得実績3:ズデンカと共に新大陸を目指す夢を追い始めた