シナリオ難易度:難しい
判定難易度:難しい
港湾都市アヴリオンの夜の路地を風が一陣、吹き抜けてゆく。
紅蓮の光の風。
熱波だ。
満天の星々の下、路上で擱座した馬車が炎に包まれ煌々と赤光を周囲へと放っている。
天鵞絨で織られた帽子を深くかぶり、深い夜空の色の眼鏡をかけ、地味な旅装らしき砂の色の長衣に小柄な身を包んでいる人物が立っていた。
一見では男か女かも判別できない。
身の丈三クビト足らず(およそ144cm)という大変小柄な体格だった為、子供のようにも見える。
今回の襲撃に際して、正体を隠さんと変装しているケーナ・イリーネだ。
ゆったりとした砂色ローブの内側では抜き身の刃を握っている。
少女は光を遮る黒いグラスの奥に輝く、紫水晶(アメジスト)色の瞳をホン・ファへと向けていた。
<<ちゃんと顔見てないのに決めつけるのは良くないですよ……違ってたら失礼じゃないですか>>
揶揄するような響き。
鉄火場にあっても落ち着き払ったその態度は、彼女が一般人ではありえない事を示していた。
そして、
<<まぁ当たってるんですけどね>>
本人もまたあっさりと自供する。
炎光を浴びて立つ艶やかに青く長い髪の女は微笑を洩らすと、
<<わたくしの術に抵抗できる人間なんて限られてますもの。見た目を多少変えたとしても、その正体など明々白々ですわ。無駄な事をしますのね?>>
右手に握る肉厚の曲刀の腹を左手のその細く白い指先で撫でつつ小首を傾げて見せる。
<<あなた達からすれば、そうでしょうね>>
しかしケーナは僅かではあっても、自身がこの襲撃に関わっているという情報が拡散する可能性を減らしたかった。完璧は無理だとしても、減らせるものは減らせるだけ減らす。
その要望に応えて急場ではあったがアヴリオンの市長ユナイトが用意したのが今回ケーナが身に纏っている装束であった。
襲撃前や襲撃後なども含めて、万一無関係なアヴリオン市の市民などに目撃された際には、変装は一定の効果を持っている筈である。
ケーナは将来においても面倒事は極力招きたくなかった。
<<……トラシア大陸人の小戦姫ケーナ・イリーネ、その気にさえなれば、このアヴリオン市のみならずゼフリール島全体をも破滅の未来から救う英雄にだって、貴方はなれるかもしれませんのよ? ――なれるのですわ? 貴方こそが、救国の英雄に>>
<<それは素晴らしい事ですね。でもわたしにとってそれは興味がある事じゃないです>>
ケーナはゆったりとした様子で会話に付き合いつつも、密かに精神を集中させホン・ファの隙を伺った。
先の先を制して仕掛けたい。
先手で仕掛けるのが『先』
相手の動き出しの気配を掴み、その動き出しの一瞬先に仕掛けて打ち込むのが『先の先』
同じ先手ではあるが、一瞬のカウンターだ。
非常に高度なタイミングだが、こちらの方が隙を突ける分、効果的になる。
<<……この島を救う事に、英雄になる事に興味がない?>>
ホン・ファがゆっくりと衣のスリットから覗く長い脚を動かした。
ゆったりと立ち位置と身体の向きを僅かに変える。
ケーナの直感が言っている、言葉を交わしながらもホン・ファもまたこちらの出方を探っている。
<<ええ。国の未来よりも個人の都合の方が優先です>>
ビロウドの帽子と黒眼鏡をかけた子供にも見える少女は頷いて見せた。
場には爆音が高速で連続して轟いている。
狂雷ユナイト・ロックと招風雷タオ・ジェンの激突が奏でる戦歌だ。
<<タオ・ジェン議長の案の方がユナイト市長よりも現実的だとは思っていますよ――ですが、わたしはそれでも以前と同じ条件では飲めません>>
<<……国家よりも個人ですか……なるほど……貴方は実に傭兵らしい。生粋の傭兵よりも傭兵らしい。何にも縛られていない、まるで本能のように束縛を嫌う。実に自由ですわ>>
青玉(サファイア)色の瞳の女は眉尻を下げて嘆息した。
<<ええ、貴方はとても自由……多くの傭兵達は、自らの力の意味を、存在の意味を、大義や富や名声に求めるものなのに……――でもケーナ・イリーネ、貴方は自らという存在の価値を、それらにはまるで託さない>>
それは生粋の傭兵達よりも傭兵らしい態度だと、青い薄絹を起伏豊かな肢体に纏う女は言った。
彼女が着ている服がどういうものなのか大陸生まれのケーナは知っている、ゼフリールより東の大海を超えたトラシア大陸の、その中でもさらに東部に位置する遠い遠い異国の民族装束だ。
かつて強勢を誇ったが、ルビトメゴル・ウルスの支配下に組み込まれた地域タァーンのもの。
ゼフリール島で生まれ育ったホン・ファは、それでも先祖より連綿と続く彼女の身に今も流れている血統の基盤を示している。己の血のルーツを纏っている、それは彼女にとって実際にはその目で見た事が一度もない土地だったが。
<<だからこそわたくしは思うのです。本物の傭兵達は余程の筋金入り以外は大抵はどこかが傭兵としては似つかわしくない欲求を持っている。餓えているからです。足りないからです。自信が無いからです。彼等は心に弱い部分を持っていますわ。彼等は自分という存在がこの世に無条件で存在する価値があるものなのだと信じていない。けれど、見た目に反してまさにそれこそが傭兵といった態度の傭兵である貴方、貴方はだからこそ――>>
言葉の途中、青髪の女の姿が掻き消えた。
縮地。
瞬間移動するが如き速度で女が髪を振り乱して一息に踏み込み、猛然とケーナへと曲刀を降り下ろす。
剛雷の如く走る刃の光と共に殺意が爆風の如く吹き付けて来る。
ケーナの意志が決して翻る事は無いと悟ったのだろう、ホン・ファは会話の途中で仕掛けて来た。意識の不意を突いた奇襲だ。
音速を超える切っ先が、鋭く風を破裂させる音を巻き上げながら小柄な少女へと迫り来る。
だがその瞬間には既に、地面から膨大な光が強烈に膨れ上がっていた。
精神を研ぎ澄ませていたケーナは、ホン・ファが不意打ちを仕掛けて来る気配を直感し、その直前、彼女が仕掛ける僅かに一瞬だけ速くに、ローブとその下の布で隠していた左手から閃光弾を発射していたのである。
布を目隠しにした奇襲だった。
以前に異貌の神将すらも殺したという熟練傭兵であるゲオルジオから聞いた言葉を思い出す。
彼曰く、戦場で同じ敵と二度斬り合う事は少ない。
「だから、二度は通じなくても一度目で必ず殺せるなら、その技だけで傭兵としてずっと喰っていける。必殺の技の存在が周囲にバレない限りはな」
ケーナがホン・ファと戦うのはこれが初だった。
強烈な閃光が場に荒れ狂い、上から下へと爆風を巻きながら走った肉厚の曲刀が空を切る。
光の中、ケーナがホン・ファの左側面にローブを翻した姿で忽然と出現する。
縮地。
砂色外套に身を包んだ小柄な少女が殺気を漲らせる抜き身の剣を右手に構え、身を左へと捻っている。
並みの者ならば決して対応できない、文字通りの閃光と共に仕掛ける早業。
しかしホン・ファもアヴリオン議長の側近を務める者、並みの使い手ではなかった。達人だ。
いつの間にか瞳を閉ざしていた女は、彼女から見て右から来る水平斬りを迎え撃つべく気配のみを頼りに高速で体を捌く。
その動きに澱みはなかった。
朦朧としていない。
閃光弾が効いていない――抵抗されている!
いかな達人といえども完璧なタイミングで繰り出されたケーナの不意打ち閃光弾を無条件で防げるものではない。何故、ホン・ファが閃光弾に抵抗できたのか。
理由があった。
議長タオ・ジェンらはケーナの身辺情報を探っていたが、その際に過去の依頼でケーナが閃光弾を使っていた事も掴んでいたのである。
その為、ホン・ファは自分に対してもケーナが閃光弾を使って来るかもしれないと警戒していたのだ。
初見であって、完全なる初見ではなかった。
ケーナのこれまでの戦術情報が敵側に漏れている。
青い衣の裾を翻しながら女は、コンマ秒単位の僅かな時の間に瞳を再び開きつつ、ケーナへと向き直るように身を回転させ斜め左へと一歩滑るように移動しながら正面――振るわれる横薙ぎの斬撃のうち最も威力が乗る地点、それ以外の箇所では前でも後でも力学的に威力が落ちる――を外し、ケーナと同じ水平の軌道で、柳葉刀を左から右へと旋風の如く一閃させる。
ホン・ファの水平斬りはケーナが水平に斬りつけて来る剣、それを握る右腕を狙う軌道だった。
自らに迫って来る腕を狙う軌道。
迫って来る腕は、頭部や胴体よりも距離が近くなる。
故に、先に胴や頭部を狙って繰り出された相手側の剣よりも、後から繰り出して先に自らの剣を相手の腕へとあてる事ができる。後の先だ。
相手からの斬撃を止めつつ致命傷を負わせられる、攻防一体の必殺のカウンター技。
磨き抜かれた剣術の理合に則った達人技である。
が、その斬撃は空を斬った。
ケーナが水平斬りを繰り出すと見せかけて、実際には繰り出さなかった為である。
虚掛け。
ホン・ファの青い瞳が僅かに大きく見開かれる。その時には既に色付の伊達眼鏡をかけた少女は、レンズと同じ色の黒いレギンスと濃茶革のロングブーツに包まれた足底を地面に叩きつけていた。
ケーナの足より収束された霊気が解き放たれ大地の霊脈へと働きかける。
見えざる霊気の糸が路地より噴き上がり、ホン・ファの長い脚へと絡み付いてゆく。
間髪入れず逃れんと女の姿が掻き消える。
が、すぐにまた僅かな距離を動いたのみでホン・ファの姿が現れた。女が右脚をひきずるように、その態勢を崩している。
地霊縛。
対象の移動を制限する『祈闘術(スキル)』だ。
逃さない。
ホン・ファが拘束されてゆく中、ケーナもまた爆発的に加速して身を右へと捻りつつ地を滑るように機動、側面へと回り込んでいた。
霊力を全開に解き放つ。
紫電、猛撃を発動、栗色の長髪と砂色ローブの裾を靡かせつつ少女は、霊力を極限まで刀身へと収束、右から左へと今度こそ水平に祈刃『ザナト』を、殺意も無く、音も無く、振り抜く。
一閃。
音と風が遅れて世界に現れる。
掻き消えるかのごとく空間に走った金剛と真なる銀の合刃が、青衣の女の右胴から入って腹を裂きながら左へと抜けた。
真っ赤な鮮血と共に臓物の一部が飛び出す。
さらに慣性を無視して――無視したかのように、ではなく完全に力学から外れた物理法則を無視した動きで――祈刃ザナトは高速で翻り、ホン・ファの左腿を深々と斬り裂いて抜けた。
ホン・ファが持っている情報に無い剣閃だった。
ケーナの剣の腕が恐ろしく立つという情報は掴んでいたが、こんな魔技までを使うという情報をホン・ファは知らなかった。
故に、見切れない。
『ザナト』
それはフェニキシアの古い部族の言葉で『女神アナトの武器』を意味する。
フェニキシア王家ご用達の鍛冶師が、王家に強い怨みを持つ叛乱軍に攫われた己の孫娘を救出してくれたケーナへの礼も兼ね、魂を籠めて鍛え上げた祈刃の名である。
切っ先をアダマンタイト、刀身をミスリルで鍛え上げられたこのスモールソードは、ルーン文字が刻まれていた。
古い技術だ。
かつてフェニキシアから北へと移ったユグドヴァリアの民の先祖達が、まだフェニキシアに居た頃から伝えられている秘術。
過去のすべての攻撃を無力化した異貌の神々の障壁とそれと同種の障壁を纏う祈士達の台頭により、勢力を衰えさせた魔法使い達が、かつて戦場を支配していた頃の、今では滅多に一般では見られる事が無い、強力な本物の魔術文字。
ゼフリールの魔術の大半は異神の障壁すらも斬り裂く祈刃と比較するとたいした威力がなかったが、稀に大魔法使いのみが行使した強力なものがある。
流されたケーナの霊力に呼応して、ぼんやりとした光と共にザナトの柄に浮かび上がる魔術文字が発揮する力の一つは『方向転換』
剣の軌道を操る。
――ホン・ファはその瞬間に、己に先が無い事を悟った。
<<――あああっ!!!!>>
故にケーナへと意味を成さない裂帛の念話を叩きつけつつ、残される議長の為にせめて相打ちに持ち込まんと、命を燃やすように激痛を堪えながら曲刀を振り上げる。
されどホン・ファのそれは、ただの姿勢に過ぎず――対するケーナは本当に命を燃やして力に転ずる技法を体得していた。
アクセラレイター。
燃やされる生命力と引き換えにケーナの動きがさらに爆発的に超加速してゆく。
およそ人の業から外れた角度と動きで、栗色の髪の少女が縦横無尽に嵐の如く、輝く女神の剣を振るう。
ホン・ファは長年積み上げ練磨してきた業を持つ武芸の達人だったが、それは人の業の範疇に過ぎなかった。
この世の物理法則を無視した動きで荒れ狂う女神の刃に抗いきれるものではない。
時間にすれば一秒にも満たない。
短いそれが過ぎ去った時、しかし既に勝敗は決していた。
身を斬り刻まれた女が鮮血を噴出しながら路上に倒れ伏してゆく。
無力化されていた人々が意識を取り戻してゆく。惑乱の術を維持する力はホン・ファから消失していた。
<<……母、なる、トラシア、大い、なる、トラシア、大陸、の、名家、の、お嬢様、貴方は、真に自由、で、高貴……でも、我儘……貴方、なら、英雄に、なれた、のに……>>
途切れ途切れの不明瞭な念話がケーナの意識に届く。
少女は広がってゆく血の海に沈んでいる念の主を見下ろして念を返した。
<<そういうの興味ないの>>
そういうのは、面倒だった。
<<だから……アタシから一つ言わせて貰うなら、アナタ達は依頼の仕方を間違えた。アタシを脅して操る事を現実的な手段だと思っていたのなら、それこそがとっても非現実的よ>>
ケーナを支配し使役できるとタオ・ジェンとホン・ファが本気で思っていたのなら、それは夢想家だと揶揄されていた市長ユナイトよりもよほどだろう。
その点に関しては『向こう見ず』と評判の市長のほうがケーナの事をしっかりと見ていた。
弱みに付け込むような真似はしなかった。
もっともそうしたのは『相手を見て対応を変えた』というよりは、アヴリオン市の市民達からの支持を集めている市長は、単純に元々そういう性格な為なだけだったかもしれないが。
<<……確実、に、の、つもり、が……皮肉、な、もの、です、わ……ああ、この、世、は、本当、に……>>
それを最後に、女からの念は消えた。
顔をあげれば、馬車を燃やす炎の彼方で、市長ユナイトの剣が議長タオ・ジェンの胸を貫いているのが見えた。
剣が引き抜かれると、冠が脱げた美丈夫が、口から鮮血を吐き出しながら路上へと崩れ落ちてゆく。
勝利だ。
ケーナは息をついている赤帽子の伊達男へと近づくと、その勝利を讃えると共に敵の連絡役やスパイにも注意するよう念を押した。
市長ユナイトはケーナの勝利を讃え労う言葉を返すと共に頷いて、ケーナからの要請を容れ、この戦いにケーナ・イリーネが参加していた事実を秘匿すべく動き出した。
●
かくて、タオ・ジェンが討たれた事によりゼフリール島においてアヴリオン市、ひいてはゼフリール島を大陸の列強ルビトメゴルへと売り渡さんとする勢力は中核を失い大きくその力を減退させた。
密かに捕縛の手から逃れ生き残った者達もアヴリオン共和国外へと逃亡するか地下へと潜った。
アヴリオン市から旅立つ際に赤帽子の市長はケーナへと言った。
「改めて、強大無比なるトラシア大陸に阿る売国奴達側ではなく、ゼフリール島の側に立って共闘してくれた事に深く感謝する。トラシアの小戦姫ケーナ・イリーネ、私と今回の作戦に参加したアヴリオンの市民は貴方が成してくれた事を決して忘れないだろう。貴方のおかげでアヴリオンの誇りは守られた。きっとゼフリール島民の自由と誇り、島民がトラシア大陸人へと向ける友好的な感情もまた同様に。本来なら市の碑文にその功績を刻んで大々的に讃えたいところだが、貴方は秘密にありたいようだから、それはやめておく。レディ・ケーナ、どうかお達者で。気が向いたらまたアヴリオンを訪ねてくれ、私達はいつでも貴方を歓迎する」
ユナイトから礼と共に高額の謝礼金を受け取ったケーナは、その後、弟のユーニを連れてズデンカへと会いに行った。
現在のズデンカの所在は護衛を派遣していたユナイトが掴んでいて、ケーナは出発前に彼からその情報を聞いていたので、合流するのは容易だった。
「お久しぶりですケーナ! お互い無事に再会できて嬉しいです!」
顔を合わせると明るい茶色の長髪の少女は輝く笑顔を見せてそう言った。
「……無事? 何かあったの?」
「え?」
少女は丸っこい大粒の瞳を戸惑ったようにぱちくりと瞬かせると、
「えっと……ケーナ、アヴリオンの議長と一悶着あったんですよね? それでケーナがユナイト市長と交渉して護衛の人を送ってくれたんですよね?」
ケーナは今回の事情をズデンカへと伝えるつもりはなかったのだが、先日までズデンカへと派遣されていたユナイトの護衛が、実はある程度の事情をズデンカへと説明してしまっていたらしい。
その為、議長タオ・ジェン一派との戦いの事はズデンカも既に承知しているとの事だった。
(あー喋っちゃってたかー……)
それはケーナとズデンカの関係に影響を与えかねないし、場合によってはズデンカの身に危険ももたらしかねない行動だった気がしたが、あの市長らしい行動な気はした。
詮索せずに黙って護衛されろとするよりも、ケーナの友人であるズデンカに対してはある程度の事情は説明した方が誠実だと判断したのだろう。
相手や状況によっては危ういが、それも承知の上だろう。危険を招く可能性よりも護衛対象自身の納得を優先させた。確かにユナイト・ロックは向こう見ずである。気分で生きてる。
「大丈夫です、ケーナが関わっていた事はユナイト市長から言われている通り他に誰にも喋ってませんから。あと改めて有難うございましたケーナ。おかげで根性曲がった議長がいなくなりましたから、アヴリオンでの商売がやりやすくなりましたよ!」
ズデンカは笑ってそんな事を言った。
ケーナに巻き込まれる形で狙われたズデンカ達だったが、最終的にはその結果として商隊の利益になったのだと。
彼なりにアヴリオンの事を考えて動いていたタオ・ジェンに対して根性曲がった議長よばわりをするのはズデンカらしくない言葉な気がしたが――ズデンカ・ノヴァクは盗賊になるような人間に対してさえ、きっとその人なりの事情があったのでしょう、と考える人間だ――きっとケーナに気を遣わせないようにそう言っているのだろう。
ズデンカ達からすれば本来ならば今回狙われた事は笑いごとではない。
身の安全もそうだが、アヴリオン共和国はゼフリール島の交易の中心地として影響力が大きい。議長タオ・ジェンが健在であったら、その働きかけによってズデンカ達はアヴリオンを中心とした交易ネットワークから弾きだされてしまうところだった。ズデンカの商隊は莫大な痛手を被る事になっていただろう。
だがケーナ達によって議長タオ・ジェンは討たれ、アヴリオン共和国は名実共に市長ユナイト・ロックが統べるところとなった。
ユナイト達はズデンカに対して危害を加えるつもりはなく、また以前からの顔見知りであり、今回の事でさらに縁が深まったから、ズデンカ曰くでは今まで通りを越して以前よりもより潤滑にアヴリオンとの交易ができるかも、との事だった。
「私達が狙われた事に関して、ケーナは何も悪くないですから、もしも気にしているのでしたら気にしないでくださいね」
悪いのはタオ・ジェン議長達だ、とズデンカ。
「……有難う。そういえば、元議長達との戦いでズデンカに紹介して貰った店の祈刃がとても役に立ったよ。それについてもお礼を言っておくね」
「とっても良い腕の鍛冶師さんでしたでしょう? どういたしまして、ハッダートさん(老鍛冶師の名前だ)が鍛えた剣がケーナのお役に立ったのなら何よりですよ」
破顔してズデンカが言って、それからちらりとケーナの陰に隠れるように傍に立っている少年へと視線を向けた。
「ああ、この子が弟のユーニだよ。ほらユーニ、挨拶なさい」
「う、うん……ユーニです。よ、よろしく、お願いします」
姉から促されて前に出ると齢十程度に見える少年はおずおずと挨拶した。
ズデンカは膝を曲げて目線の高さをユーニに合わせながらにこっと笑うと、
「ユーニさん、私がお姉さんのお友達のズデンカ・ノヴァクです。よろしくお願いしますね」
と自己紹介をした。
その後、議長派――トラシア大陸の超大国であるルビトメゴルに与する派閥――の残党から狙われる不安は決してゼロにはできないものがあった為、ケーナはズデンカの商隊について護衛をする事を申し出た。
「良いんですか?! 助かります!」
不安に思うところはあったのだろう、ズデンカは勢い込んで言った。
「ケーナがついてきてくれるならとっても心強いですよ。ルビトメゴルって怖い国ですからね……」
曰く、併呑された地域出身ではない生粋のルビトメゴル人は勇猛果敢で計算高く武力にも謀略にも長ずると名高いが、その残忍さ冷酷さも有名であるらしい。
ズデンカが知る限りでは実際にその噂通りな人間が多い国なので、何をしてくるのかわからないところがあるのだとか。
「うん、しっかり守るから安心してね。商売も手伝うよ。あ、それとユーニも読み書き計算はそこそこできるよ。弟も何かの役には立てられると思う」
「ちょっ、姉さん……」
「あら? そうなんですね、まだ小さいのに凄いですねユーニさん。それじゃユーニさんも、お姉さんと一緒に私達の交易を手伝って貰っても良いですか?」
「……はい、すいません、ワガママな姉でごめんなさい。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「ううん、そんな事ないですよ。ケーナは少なくとも私には優しいですし気を使ってくれてると思うんです。そして計算の頭脳は多いほど助かりますから! 商売が盛んなアヴリオン市は読み書き計算できる人はかなり多いのでそこに住んでると実感が湧かないかもですけど、フェニキシアだと大人でも読み書きできる人は半分くらいしかいないんですよ。計算できる人となるともっと少ない。ですから読み書き計算ができるならそれは立派な特技です。自信を持って良いですよ」
という訳でケーナはズデンカの商隊の護衛を行いつつも、弟のユーニと共に商隊の交易の手伝いもしながら、ゼフリール島内を巡る事となるのだった。
成功度:大成功
獲得称号1:アヴリオン共和国の英雄、自由と尊厳の護り手
獲得称号2:アヴリオンの赤雷の共闘者
獲得称号3:勝利を齎す者
獲得称号4:剣嵐の女神
獲得称号5:大陸の列強ルビトメゴル派の怨敵、月下の暗殺姫
獲得称号6:アヴリオンの狂雷の尖兵
獲得称号7:破滅を呼ぶ者
獲得称号8:公主殺し
獲得称号9:ノヴァク商隊のお手伝い君の姉の人
獲得実績1:アヴリオンの市長ユナイト・ロックと共に議長タオ・ジェン一派を襲撃し惑乱公主ホン・ファを討った
獲得実績2:ノヴァク商隊の護衛につくと共に弟ユーニと一緒にその商売の手伝いを行った