シナリオ難易度:易しい
判定難易度:普通
黎明の空と大地だ。
東空より燃えあがる陽が昇り、黄金の閃光が夜の紺碧を薙ぎ払い、混ざり合いながら、秋の草原を照らしてゆく。
「……とんだ事態になりましたね。相手も毒に見張りにと、中々狡猾な手合いと見えます」
雪のような白髪を、東より差す夜明けの金色の光と、夜の残滓が残す群青とに染めながら、一人の少年が北西へと向かって歩きつつ若々しく良く通る声を発した。
黎明の草原に黒い影が西へと長く伸びている。
成人男性の平均よりはやや低い(168cm)の細身ながら良く鍛えられた体躯をブリガンダインに包み、背にラウンドシールドを背負い、腰に鞘に納められたブロードソードを佩いていた。手にはガントレットを嵌め、脛にはグリーブをつけている。
ドライメン傭兵団の生き残りにして現在は祈士による広域傭兵互助組織アドホックに籍を置く傭兵ハック=F・ドライメンである。
「シュッタルナ殿は優秀な方ですからね。それだけにお味方していただきたかった……帝国についた方がご自身にもご領地にも明らかに利がある現在の情勢ならば、と思ったのですが……」
夜明けの黄金光を長い栗色の髪に浴びる、幼い少女にしか見えないが、長い時を生きているという不老の賢者メティスは、大粒のサファイアに似た青い瞳に悲しみを宿し首を振った。
「明確な拒絶をいただきましたね」
ハックが言うとメティスは頷いた。
ワスガンニ家は交渉時、表向きは受け容れるふりをしていたが、その裏で毒殺を仕掛けて来るなど、これ以上はそうもない激烈な拒絶を示して来た。
「フェニキシアへの忠義に厚いのか、伝統ある貴族としての名を惜しんだのか、それとも帝国には従えない何かがあるのか……理由はわかりませんが、残念です」
言葉の通り至極残念そうな表情を浮かべメティス。
ハックはそんな少女を見つめつつ一つの疑問を抱いていた。
自分自身でも驚く事だが、ハックはここ最近はヴェルギナ・ノヴァ帝国に決して浅くはない肩入れをしている。
(だが、それは正しいのだろうか?)
そういった疑問だ。
ワスガンニ家のシュッタルナは帝国からの誘いを明確に拒絶した。彼は答えを出した。
アドホック傭兵のハックは現在までは帝国に協力している。しかし、この先もハックが帝国への協力を続ける事は果たして正解なのか……
――アテーナニカの正義は自分の命を預けるに値する物なのだろうか?
かつてこのイル・ミスタムル州よりも遥かなる北方の地にて、聖堂騎士レシア・ケルテスへと語り、彼女がそうしたように、己もまた皇帝の正義を見極める必要がある……そう思った。
傭兵少年はその想いを胸に、この調略の旅に同行していたのである。
「しかし、メティス殿が毒を見破っていなければ、寝ている間に死んでいたかもしれませんね。あれはどうやったのですか?」
気になっていた別の疑問をハックが問いかけるとメティスは顔を上げ、
「あぁそれはシンプルに匂いと味です」
と実に動物的な判別方法を賢者は答えた。
「匂いと味、ですか?」
「はい、微かにですが……料理の一品に桃のような香りと鉄のような味が混じっていました。暗殺にも使用される猛毒の一つにその匂いと味の組み合わせがあるのでピンと来たのです」
そう言ってからメティスは料理名を一つあげた。
それは食事の終わりに出された甘味の一つで、ハックも食していたが、そんな匂いや味はまったくしていなかった記憶である。
毒はメティスに出された皿にだけ混ぜられていたのかもしれない。あるいは彼女が特別に鼻と舌の感度が良いのか。
もっともメティスが今ハックへと述べている事が真実であるならば、だったが。
メティスが本当は別の判別方法を持っていて、それを今後とも活用できるようにと用心の為に伏せているのだとしてもハックは驚かなかった。
見破る為の手法が世間に知れ渡れば対策されるからだ。
「なるほど、流石はメティス殿、素晴らしい技能をお持ちですね」
「有難うございます」
ハックに褒められにこっと嬉しそうに笑顔を見せる幼女の真実が何処にあるのかは、外見からは良くわからなかった。
●
ハック達はイル・ミスタムル湖を目指し平原を北西へと向かった。
基本は速歩で歩く。長い黒髪を後頭部で結い上げている女騎士アデルミラが先頭を行き、その後ろにメティスが続き、ハックは殿を固めた。
時折り後方を振り返り、追手が迫って来て居ないか確認する。出来る限り戦闘は避けたい所だった。戦えば勝利しても祈霊石のエネルギーを常よりも激しく消費する。空になってしまったら祈士といえども一般の戦士と変わらなくなる。早々に尽きる物でもなかったが、補充が出来ない以上、消耗は避けたい所だった。
昼になったが今の所、目に見える範囲では追っ手らしき者達の姿は見えなかった。
しかしそれでも追いつかれて戦闘になる事を避ける為、ハック達は陽が落ちてからも歩き、保存食の干し肉を齧って飢えを凌ぎつつ、夜をも徹して歩いた。
(しかし、追っ手として出される者ならば、足は速いだろうな)
可能な限り追いつかれない為の努力はしていたが、ハックは追いつかれる覚悟は固めていた。
未だ追いつかれていないのは、相手方はメティスが水中呼吸可能な魔法を使用出来るとは知らない筈だから、もしかしたらハック達が逃げた方角が北西だとはまだ掴んでいないのかもしれなかった。
夜が明けてもハック達は歩き続けた。
祈士は常人と比較して超人的な身体能力を誇るが、しかしそれでもその体力は決して無尽蔵ではない。
二日目の陽も中天を通って西へと傾き、野原が黄金色に染まる頃には、さすがにハックでもきつめの疲労感を覚え始めていた。
そんな中、先頭を歩くアデルミラが彼方に村が見えるとの報告をあげた。
小さな村のようだった。
「……いかがなされますか?」
疲労を顔に浮かべている女騎士が足を止めて振り返り問いかけてきた。
立ち寄るべきか、立ち寄らざるべきか。
「うぅん、寄るも寄らぬも一長一短ですね……」
逃亡行には慣れているとは言っていたが、体力的にはハックやアデルミラと比較して大幅に劣るメティスである。彼女の表情にも疲労の色が濃かった。
ハックはしばし思案すると言った。
「永遠には歩き続けられない以上、何処かで休息を取る必要があります。危険はありますが……屋根のある宿はやっぱり恋しいですね」
一行は相談の末、村に立ち寄ってみる事に決めたのだった。
●
耕された茶色の畑に緑色の芽が見えている。
黄金の夕陽に照らされながらハック達三人が縦列になって、畑内に通された細い道を歩いてゆくと、やがて木製の城壁が見えて来た。城壁というよりは、塀といった方が正確だろうか。高さも厚さもあまり無い。
近づくと、その塀を囲むように堀がほられ中には水が流れているのがわかった。近くに川が流れているのだろう。ミスタムル湖を水源としたものかもしれない。そうであるなら、その川は湖へと辿り着く為の道標に出来る可能性が高かったが、今はともあれ、寝床だった。
水堀にかかる橋を渡って村を囲む塀の門へと近づくと、塀の上に立っている弓矢を手にした初老の男から誰何の声が飛んで来た。
「僕達は旅人だよ。見聞を広める為に旅をしている。一晩の宿を求めたい」
ハックが答えると初老の男はじろじろと三人を見て、
「ふぅん、このご時世に旅人ねぇ……」
治安の良いヴェルギナ・ノヴァの国内では旅人や行商人など珍しいものではないが、昨今のイル・ミスタムル州では賊、獣、魔物、それらが跳梁し被害が相次いでいる為、旅人というのは珍しいものだった。
「名前は?」
「ハック――ハック=F・ドライメンだ」
問われたので咄嗟に本名を答える。基本的には誠実な人柄だ。
言ってから、もし万一ワスガンニ家が伝書鳩などを飛ばして手配を敷いていた場合、不味かったかなと思ったが、
(その場合、人相などの特徴も付随しているだろうから、どの道同じか)
と思いなおす。
「ハックね……」
初老の男はじっとハックを見つめていたが、
「まぁ良いだろう。入んな。騒ぎは起こすなよ」
「有難う」
両開きの門が開かれハック達三人は塀門をくぐり内部へと入った。
「宿は道なりに進んだ所の広場にある。雑貨屋と酒場も兼ねてる」
「ご親切に有難うございます」
メティスが笑顔で礼を述べ、初老の門番は余所者にあまり村内をうろつかれたくないだけだ、と答えた。
木製の家屋が並ぶ道を歩いてゆくとやがて広場に出た。
それらしき看板が出ている店があったので扉を押し開き入ると、中は人々の喧騒で溢れていた。
どうやら畑仕事帰りの村人達が一杯やっているようだ。
「見ない顔だな」
カウンターへと近づくと店台の内側に立つ短髪の長身の青年が声をかけてきた。若く見えるが、彼が店主なのだろう。落ち着ている様から、老化が早い段階で止まっただけで、実年齢はわりと高いのかもしれない。
「旅人だよ。アヴリオンの方からきた」
中立の都市国家の名を出す。ハックに限ればこの上なく本当である。
「自由都市か、最近のあっちの景気はどうだい?」
「僕が旅立つ前の景気は良かったよ。あちこちで戦をやっているから、諸国の商人が入用な物をアヴリオンで手に入れようとする」
「なるほどねぇ」
「そして今の僕らは、柔らかい寝台と暖かい食事が欲しい」
「あぁ、どちらも提供できるが、部屋は幾つ必要だい?」
ハックがメティスを振り返ると「一部屋で良いですか?」と彼女はアデルミラを見て、女騎士は「仰せのままに」と頷いた。二人ともに襲撃の可能性に備えているのだろう。固まっていた方がいざという時、戦うも逃げるも断然やりやすい。
「部屋は一つで――あまり持ち合わせに余裕がなくてね」
ただ家族には見えない男女が一部屋というのは不自然なので、ハックはそう理由を付け加えておいた。
「わかった。部屋にすぐに通す事も出来るが、まずは食事かい? 見ての通りテーブルは村の飲んだくれ達に占拠されてるんで、カウンター席になるが」
「ああ、まずは食事で頼むよ。それで構わない」
そうして三人はカウンター席につくと、久しぶりに暖かい食事にありついたのだった。
●
雑貨屋と酒場も兼ねている宿屋で一晩を明かした後、ハック達はミスタムル湖を目指し再び出発した。
アデルミラが新しい保存食を宿で購入しつつ尋ねた所、村の付近には細い川が流れていて、それはやはりミスタムル湖から流れてきているものらしい。
村から出た一行は小川沿いに北西へと向かう。
また一昼夜を強行軍し、そろそろ湖に辿り着くといった所で、ハックは後方より騎影が接近して来ている事に気づいた。
<<迫って来るか。恐らく妖騎兵だな>>
魔術によって強化された軍馬をフェニキシアの優れた馬鎧でよろった装甲騎兵だ。優れた騎手は騎馬への伝達用に特別な念話も使用して手足の如く軍馬を操り、人馬一体となって突撃してくるという強敵である。
<<数は六……メティス殿に全力を出させるまでもありません、我々のみで片付けます。アデルミラさん、行こう>>
<<応!>>
ハックが背からラウンドシールドを取り出し裏のベルトに左腕を通し、籠手を嵌めた手で取っ手を握る。腰の鞘からブロードソードを抜き放った。
心剣【ブラッシュ】の雪のように白い刃が朝陽を浴びて煌めく。
黒髪を後頭部で結い上げている女騎士もまたカイトシールドを左に構え、右手に長剣を抜き放った。
二人の護衛祈士はメティスを挟むように前に立ち、六騎の騎兵が長大なランスを手に迫り来る。
少年は先頭の騎兵を睨むと、右手に握る幅広剣へと霊力を収束させ一閃した。眩いオーラを纏った刀身が宙空に白い軌跡を描き、重く低い大気が破裂するような轟音と共に閃光波が勢い良く飛び出す。破神剣だ。
眩く輝く三日月型の光波動は、先頭の騎兵へと唸りをあげ迫ると直撃し盛大な爆裂を巻き起こした。
騎兵が鞍上より放り出され平原に激突して転がり、さらにアデルミラが放った破神剣がやはり一騎を吹き飛ばす。
残った四騎の間に動揺のようなものが走っていたが、それでも彼等はランスを構え風の如き速度で突っ込んで来る。
ハックはバリスタの矢の如き勢いで突き出され迫る騎兵槍の穂先に対し、打ち払うべく下段からブロードソードを振り上げた――
妖騎兵達は弱くはなかったが、神将殺しさえも退けたハックと帝国でもえり抜きの精鋭騎士であるアデルミラの敵ではなく、その破神剣と剣技の前に打ち倒され、ミスタムルの野に骸を晒した。
(傭兵である以上、誰かの命を奪うのは必然ではあるけれど)
白髪の少年剣士は鮮血の海に倒れ伏している祈士達を見下ろし思った。
(この感触に慣れる度に自分が殺しに染まっていくようで、気持ちが悪い)
雪のように白かった刃が、今は少しだけ青く濁っていた。
●
その日の晩、ハック達はイル・ミスタムル湖へと辿り着いた。
月明りの下、対岸が見えない、海の如き巨大な湖が眼前で波打っている。
「ここまで来れば一安心ですね」
メティスがほっとしたように言った。
昼の戦闘の疲れもあり、ハック達は湖岸で休息を取る事とした。
火を熾し、干し肉を炙り、白湯に乾パンを浸してふやかせつつ食べる。
「未来を創る、そうアテーナニカ陛下は仰ったと伺いました」
ハックは以前、聖堂騎士レシアから聞いた言葉を述べた。
夜空に蒼白い巨大な月が輝き、秋風が湖岸を抜け、黒い湖が小波立って、天より降り注ぐ光を浴びて白く煌めいている。
焚き火が赤い火の粉を舞い上げ、パチパチと音を立てていた。
火を囲む三人の顔が火光に照らされ陰影を象っている。
「輝かしい言葉だと思います。その一方で、理想主義だとしても曖昧に感じます」
白髪の傭兵少年が翠の瞳を向けると、地に腰を降ろしているメティスも青い瞳を向けて来ていた。
「僕は、現実を見て事物を語りたいのです。メティス殿のここまでの手腕を見れば、陛下の治世が明るいものとなることは見通せるでしょう」
理想に“根”が張っているか――
それを見極めたい。
「だからこそ訊きたいのです。あなたから見て、陛下の創る“未来”はどのような形をしているのでしょうか?」
心から絆されるには、この国と皇帝とのかかわりはまだ深くない。
しかし、もし皇帝の示す“未来”が命を預けるに値するのであれば、それを己の止まり木として定めてもいいかもしれない。
或いは、己の生きてきた意味すらも皇帝の理想に託すべき時が来る……それすらもあり得るかもしれない。
「――誰を救い、何を築くのでしょうか?」
メティスを見つめ問いかけると、彼女もまたハックを見つめ返したまま頷いた。
「私から見て、という事でよろしければ、お答えしましょう」
元は世界帝国の執政官であり、皇室の家庭教師にして、今は新帝国の宮中で教え子である皇帝の助言者の地位にあるという賢者は言った。
「アテーナニカ様が創る未来、目指されている未来とは、経済と治安が特に良好な国家です」
重視するのはその二点であるとメティスは言う。
「人々が明日のご飯の心配をしなくても良くなる未来、身の安全の心配をしなくても良くなる未来です。
貧しいと人は、己の子さえも捨て、売り払います。
貧しいから他者を襲い、奪い、争います」
貧しくなくとも捨て、襲う人間も世にはいるが大半は違うという。
「ですからアテーナニカ様は、人々の経済状況を豊かにする事を目指します。
その為に経済活動を盛んにします。
経済活動を盛んにする為には治安と法が必要ですのでこれを整えます。
治安と法を整備する為には諸州を統治する権限が必要ですので、諸侯を従え国を統治します。
また治安を整える為には内だけでなく外からも攻められないようにしなければなりませんから、戦乱を治めます。
戦乱を治める為に諸国を平定します」
これを目指し、その為にはこれが必要だからこうする。
メティスの語る所は簡潔で整然としていた。
「ですからアテーナニカ様が築くものは平和です。生産力と消費力が高く物質的に豊かな国です。
ヴェルギナ・ノヴァ帝国皇帝の権を以って法を整備し、有能な統治者を諸国諸州に配置し、民から搾取して私腹を肥やすような悪しき統治者を駆逐して、多くの人々に物質的に豊かな生活をもたらします」
基本的にヴェルギナ・ノヴァ帝国――ガルシャ王国も封建制であるから、領内の事は領主が取り仕切る。
王国全体に共通する法もあるが、基本的に政事は領主単位だ。
そして封建制において、臣下の臣下は臣下ではない。
ガルシャ王イスクラはアテーナニカに忠誠を誓う臣下だが、イスクラに忠誠を誓うガルシャ諸侯はアテーナニカの臣下ではない。アテーナニカはイスクラに命令する権限はあるが、ガルシャ諸侯に直接命令する権限は無い、少なくとも今の所は。
故に『ヴェルギナ・ノヴァ帝国皇帝の権を以って法を整備し』とメティスはさらっと言っているが、いかに皇帝といえども王や諸侯の支持を得ない法案であれば、それは宮中における闘争となるだろう。後々皇帝権の拡大を試みるつもりなのだとしたらなおさらの激闘だ。宮中の闘争では収まらず武力闘争に発展してもおかしくはない。
メティスは何を目指すのかわかっている。
何が必要なのかも解っている。
だが本当にそれを彼女達が実行出来るのかどうかは、ハックにはわからなかった。実際に行うには、あまりにも解決しなければならない課題が山積みのように思える。
「それは……可能な事なのですか?」
「困難ではありますが、実現可能です。勝利し続ければ」
賢者は断言した。
きっと嘘ではないのだろう。その勝利し続ければ、というのが普通の人間にはまず無理なだけで。それが出来るのは物語で語られるような英雄達くらいなものだ。
「フェニキシアを制圧出来れば、ゼフリール島においてヴェルギナ・ノヴァ帝国は他よりも一歩抜きんでた存在になります。少なくともゼフリール島の統一までは、実現性が高い事です」
メティスは言った。
「アテーナニカ様が目指す所が実現すれば、国内において人々はいきなり盗賊から刺されて身包み剥がされたりしなくなります。
いきなり軍の騎兵がやってきて畑を焼き払われたりされなくなります。
馬車馬のように働く必要もなく、日の出と共に起きて、日の入りと共に休んで、きちんと普通の人間に可能な範囲で真面目に頑張って働けば、お腹いっぱい食べられて貯蓄できて結婚出来て老後の暮らしの心配もなくなる世の中になります。
貧しい親が子供を捨てたり売ったりしなくても良くなります。
ヴェルギナ・ノヴァ帝国内――ガルシャ王国に限れば現状でもほぼその水準には達していると思いますが、全国がガルシャ王国並みに豊かで平和になります。
そして今のヴェルギナ・ノヴァ帝国を形成しているガルシャ王国は、もっと栄える事になるでしょう。
陛下は功労者には報いる方ですから。功臣はますます栄え、貧民も最低限の暮らしは出来るようになり、賊は死滅します」
幼い見た目の賢者は熱く語った。
皇帝アテーナニカも本当に同様の志しを抱いているのかの保証は無かったが、少なくともアテーナニカに帝王学を教え、助言する地位にいるメティスは、彼女自身の意志として、そういう世の中の実現を目指しているのだろう、とは感じられる語りだった。
「ですから――その未来が誰を救うのか、といったら、戦火と搾取によって餓え、蔓延る無法の暴威に晒されている人々のうちの大半を救うでしょう。他にも救われる人々は大勢いる筈です」
そのようにメティスはハックの問いに対し答えたのだった。
一晩の休息を終えた後、ハック達はメティスから水中呼吸の魔法を受け、イル・ミスタムル湖へと入った。
水中を抜けて対岸に達すると火を熾して身を乾かし、ガラエキア山脈へと向かう。
以降は追っ手が迫る事もなく、無事に山中のボスキ公軍の拠点へと辿り着き、ハックはメティスの護衛依頼を完遂した。
その後、イル・ミスタムル州では大規模な反乱が起こり、同州はヴェルギナ・ノヴァ帝国の傘下に入る事になったという。
成功度:大成功
獲得称号:賢者の脱出を助けし者
獲得実績1:メティスを守った
獲得実績2:メティスから目指す世の姿を聞いた