ノヴァク商会の商会長ズデンカ「――いよいよですねケーナ!」
ノヴァク商会の副商会長ゲオルジオ「準備、長かったなぁ。しかしついにゼフリール島ともお別れか」
依頼主・ノヴァク商会の商会長ズデンカ(フェニキシア王国に友好的な独立勢力)
概要・新大陸への出航
シナリオタイプ・特殊
シナリオ難易度・無し
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・PCが「ケーナ・イリーネ」である事
シナリオ中の確定世界線・以下の称号・実績を獲得している。
「大陸の列強ルビトメゴル派の怨敵、月下の暗殺姫」「ズデンカと共に新大陸を目指す夢を追い始めた」「黄金の暁航路」「異神将アルバディオの撃退に成功した」「ゼフリール島の守護英雄」
光陽歴1207年初春。
ケーナ達の活躍により異神将アルバディオ率いる異貌の神々によるゼフリール島への侵攻は阻止された。
ほどなくして彼等は予想の通り進路を東へと変更、トラシア大陸西部へと上陸しニカイア帝国への侵攻を開始した。
一方ゼフリール島では大公ソールヴォルフを含めユグドヴァリア大公国の有力者達が戦死した事によりユグドヴァリアで大公位を巡り後継者争いが勃発、一時期乱れた。
しかしフェニキシア王国からの支援を受けて大公の座を継ぐと宣言したソールヴォルフの縁戚にあたる少年が諸部族を制圧、大公位の継承を周囲へと認めさせてユグドヴァリア大公国は再び一つにまとめられた。
この一連の出来事によりフェニキシア王国とユグドヴァリア大公国の間で力関係に変化が起こった。
以前は建前上はユグドヴァリア大公国がフェニキシア王国を敬いつつも、実質的な力としては大公国の方が上であり、主導権を握っていた。
しかし再統一後はフェニキシア王国の力と権威が増し、名実ともにフェニキシア王国がユグドヴァリア大公国よりも上位となり主導権を握る事となる。
かくてゼフリール島はフェニキシア王国を覇権国、中心とした体制が敷かれる事となった。
旧トラペゾイド連合王国に所属していた都市国家達もこれを認め、フェニキシア王国を中心としたフェニキシア・ユグドヴァリア同盟に従う事となる。
ケーナとズデンカらノヴァク商会の面々は、島の情勢変化にともなう物流の変化を敏感に掴みつつ、フェニキシア女王ベルエーシュから与えられた一部免税権など各種特権を利用して海洋交易を行い巨万の富を稼いでいった。
またフェニキシア王国が覇権国となった頃にゲオルジオは王国の傭兵隊長を辞し、ノヴァク商会へと復帰している。
「わー、怖いくらい儲かるね」
「フェニキシア王家の影響下にある港では税金が半分しかかかりませんからねぇ。ベルエーシュ陛下には感謝ですね」
「ま、俺達はそれに値するだけの貢献をフェニキシアにしただろうよ」
ケーナ達はそうして稼いだ富で新造船を建造して船団を組み、さらに大量の商品をゼフリール島やトラシア大陸の各地に運び売買し利益を雪だるま式に増加させていった。
得た利益を使ってまた船を増やし船団をさらに大きくしてゆく。
それらは新大陸を目指す為の準備だった。
時の経過と共にトラシア大陸では西部と中央の諸国が対異界勢力および対ルビトメゴルを名目に大同盟を結成した。
トラシア大同盟と呼ばれたそれはしかし西部からアルバディオらに削られ、東からルビトメゴルに削られ、あれよあれよという間に一年と余月で消滅した。
そして西部諸国を制圧したアルバディオら異界勢力と中央東部を抑えた超大国ルビトメゴルが激突。両者は壮絶な激闘を繰り広げ、大陸の幾つもの街が灰燼に帰し、直接的な戦闘だけでなく、餓えや貧困、疫病、治安の悪化からくる賊や眷属(ゲノス)の跋扈など多くの理由から、大量のトラシア人が死んでいった。
激戦は五年にも及び、ルビトメゴル帝国のカアン(皇帝)カムジーンは途中で病没したが、強敵である異界勢力を相手にカムジーンは万一に備えて皇太子テムライへと権力を与えていた為、テムライは後継者として超大国ルビトメゴルを分裂させずに引き継ぐ事に成功、異貌の神々との戦いを粘り強く継続した。
この時、ルビトメゴル帝国で後継者争いが起こらなかったのは、異貌の神々という強敵が存在していたが為に、内輪揉めしている余裕がなかったというのも大きな一因と言われている。
新しくカアンとなったテムライはあるいは先代以上とも謳われる鋭利な軍才を発揮して異貌の神々の勢力を次々に駆逐してゆき、追い詰められたアルバディオら異神達はエスペランザ島の『次元瘴穴』から異界へと撤退していった。
そうしてルビトメゴル帝国はトラシア大陸を統一、エスペランザ諸島をも制圧して『次元瘴穴』を破壊した。
トラシア大陸もエスペランザ諸島も荒れ果て人口は激減していたが、二代目カアン・テムライは亡き父の宿願である世界制覇を諦めるつもりは毛頭なかった。
彼は次の標的をゼフリール島へと定めた。
戦乱に明け暮れたトラシア大陸とは違いこの時既にゼフリール島は平和を取り戻しており栄えていたが、それでも大陸と島では面積も人口も違う。
総国力はトラシア大陸の方が上であり、またルビトメゴルは戦乱に次ぐ戦乱を勝ち抜いてきた百戦錬磨の祈士軍団を抱えていた。
フェニキシアを盟主としたゼフリール島の諸国連合と、トラシア大陸を統一している超大国であるルビトメゴル帝国がまともに激突すれば、ルビトメゴル帝国が勝つ可能性が高いというのが大方の予想だった。
だが大陸と島との間には天下の険キンディネロス海がある。
純粋な兵力では勝っていても、この難所を乗り越え兵を島まで送り込む為の船団を用意する事は、超大国といえども容易な事ではなかった。
大陸は荒れに荒れ果てており、生産力が激減しているという事情もあった。
そこで二代目カアン・テムライはまずいきなり武力で侵略するのではなく、外交で屈服させる事を選択した。
いわゆる降伏勧告という奴である。
これをゼフリール島の覇権国家であるフェニキシア王国に対し行った。
内容は旧来のルビトメゴルからすれば法外に甘いと言ってよかった。
大筋としてはゼフリール島の諸国の自治を認める。
要求する貢物の額もたいしたものではない。
ただしルビトメゴルを主君として臣従を誓え、その代わりフェニキシアにはゼフリール島の諸王をすべる王の中の王の座である『覇王』の位を授ける、ルビトメゴルがその権利と権威を保証する、代わりにフェニキシアには島内諸国を統制する義務があるとした。
これはかつて世界帝国ヴェルギナがトラペゾイド連合王国に対して結んでいた契約と同じだった。
大陸の帝国の強大な武力を背景にゼフリール島の一国に権利と義務と特別な地位を与えて臣従させ、その特別な地位にある国に大陸の帝国の代理としての役割を負わせ、島を統治させようという腹である。
間接統治という奴だった。
緩い統治方法だったが、費用を抑える事ができる。そして一応はルビトメゴル帝国の版図にゼフリール島を組み込む事ができる。
故にこれが成ればルビトメゴルがトラシア文化圏の世界のすべてを統一したと宣言しても良かった。
このルビトメゴルからの通告を受けたフェニキシアの女王ベルエーシュは、宮中の文武百官と相談した末、降伏勧告を呑む事にした。
彼女は強大無比な大陸の超帝国との戦争で島民の命を散らせる事を無駄だと思った為である。
「自治が約束されてるなら、それでいーんじゃない? 下手に逆らって戦死者多数死屍累々の果てに負けて街は火の海生き残りの島民みんな奴隷にされるとか最悪な事になるよりも、私がちょっと頭を下げて臣下の礼を取れば実害は無い、どころか大陸とも交易が再開できるようになるっていうなら、百倍マシでしょ」
との事だった。
貴族の中には伝統あるフェニキシア王国が野蛮極まるルビトメゴルに臣下の礼を取るなどとはと反対意見もあったが、そもそも戦乱以前はヴェルギナ帝国に臣従していたのだから、ヴェルギナがルビトメゴルにかわっただけで大差ないだろうという意見もあり、賛成多数でフェニキシア王国はルビトメゴルに降伏し従属する事となった。
ゼフリールの他の諸国、特にユグドヴァリアでは反対意見が根強かったがフェニキシアの軍事力を背景にした交渉により最終的には折れる事となった。
ガルシャ王国とアヴリオン共和国、旧トラペゾイド連合王国に所属していた都市国家群も同様にこれに従う事となった。
ただし大筋はそれで奇麗にまとまったが、ルビトメゴルの降伏勧告には要求が他に一つあった。
すなわち、
『ケーナ・イリーネとユナイト・ロック、及び両名の一族郎党の首を差し出せ』
というものである。
なんでも、先代のカアン・カムジーンはケーナが当時の市長ユナイト・ロックと共謀して当時アヴリオン市の議長であると同時にルビトメゴルの手先であったタオ・ジェンを倒し、ルビトメゴルによるアヴリオンへの調略を台無しにした事に対して酷く激怒し怨んでいたらしい。
なので、ケーナ達の首が欲しいとの事だった。
ケーナ達に対して激怒し怨んでいたのはあくまで先代のカアン・カムジーンであり、二代目カアンのテムライはそこまで強い関心がある訳ではないが、先代カアンの後継者である二代目カアンとしての、ルビトメゴル帝国の、面子というものがあるらしく、ケーナ達が生きていると困る、という事らしい。
この要求に対しベルエーシュは、
「二人は異貌の神々の侵略からゼフリール島を守ってくれた英雄であり、フェニキシアとしては恩があるので、その首を取るなどとんでもない事です。首の代わりに謝罪金でしたら差し上げますので、それで許していただけませんか」
と断った。
テムライは、
「逆らうか。ならば戦をするか?」
と女王を脅したが、
「良いでしょう。その程度も認めていただけないのならば、島の自治を認めるというお言葉もどこまで保証されるか怪しいものですから、一戦交える事も辞しません」
とベルエーシュは頑として応じなかった。
このやりとりにより早速フェニキシアとルビトメゴルの関係が悪化しかけたが、最終的に両国は金銭で済ませる事に合意し、ケーナ達へのルビトメゴル帝国からの手配は解かれたのだった。
●
かくて光陽歴1215年春。
ケーナが異神将アルバディオと戦った時より八年の歳月が流れている。
ケーナは初期にはノヴァク商会の相談役という役職にあったが、今では副商会長の役職も兼任している。
「錨を上げろ~! 帆を張れ~!」
ゼフリール島の西端に在る港街、ガルシャ王国の王都であるルアノール・ノヴァの港よりニ十隻の大型船が出航してゆく。
その大艦隊の船はいずれも最新の技術で新造されたガレオン船で、乗員はニ十隻の合計で6000名を超える。ゼフリール島では一つの町の人口にも匹敵する人数である。
旗艦であるヌエストラ・アミーガ号と副旗艦ヴィエント・ノヴァ号にはゼフリール島の街や村でよく見られる石塔と瓜二つな塔が建っている。
これは人々の祈祷から精神エネルギーを収集・集積する装置だった。
国家機密に属するものであるが、女王ベルエーシュからの支援により搭載する事が可能となっていた。
これがあれば『祈霊石(ピエドラ・ルエゲン)』にエネルギーを充填する事ができる。
常に充填された祈霊石を供給できれば、祈刃のエネルギー切れを心配しなくて良い。
ケーナをはじめとして祈士達が祈士としていくら強くとも、祈刃のエネルギーが切れてしまえば祈士もただの一般人と変わらなくなってしまう。
新大陸に辿り着くまで何日かかるか不明であり、また辿り着いた先でもどれくらい滞在する事になるかがわからない為、ノヴァク艦隊は船員達から精神エネルギーを収集・集積する装置を旗艦と副旗艦に積載する事を決めていたのだった。
同様に祈刃や飛行の指輪のメンテナンスを行う器具や人員も乗船させている。
これも国家機密に属するものであったが、女王ベルエーシュからの支援により手配する事が可能となっていた。
いずれも異神将アルバディオを撃退した際の報酬として、援助を約束して貰ったものであった。
しかし潤沢な精神エネルギー供給の為とはいえ、6000名もの数の人間を長期間生存させる為には、莫大な量の食料や水が必要となる。
その為、船や器具の修理などに使う資材やほんの少しの交易品などを除いて、各船の船倉には水や食料が大量に積み込まれていた。
それでも新大陸に辿り着くまでに十分な量が用意できていたかどうかは定かでは無かったが――
この数年で可能な限りの準備は整えたつもりだった。
しかしそれでも危険に満ち溢れた冒険となる事に疑いの余地は無い。
「――いよいよですねケーナ!」
十年前と変わらない姿のズデンカの、興奮と緊張とを抑えているような声を聞きつつ、ケーナは遠ざかってゆく陸地を旗艦の甲板より眺めた。
桟橋には多くの人々が集まりケーナ達へと手を振っている。その中には25歳となっても相変わらずフットワークの軽い女王ベルエーシュや、休暇を取って来たらしいアドホック職員ルルノリアの姿もあった。
遠ざかってゆく人々。
遠ざかってゆく大地。
ゼフリール島が遠ざかってゆく。
色々な事があった。
「準備、長かったなぁ。しかしついにゼフリール島ともお別れか」
ゲオルジオが呟いている。彼もケーナと同様に副商会長の役職となっていた。
今、ケーナの隣にはゲオルジオの他に友人のズデンカがいて、成長した弟のユーニもいる。中年船長フズールの胴間声が響いている。
新大陸へと向かう時が来たのだ。
島の伝説は語る。
『光の終わる地』『世界の最果て』と言われているゼフリール島よりもさらに西、キンディネロス海よりもさらに広く危険な海を越えた先に、大陸があるのだという。
その大陸では共通語ではない未知の言語が話されており、衣服から食事から何から何までもがゼフリール島やトラシア大陸とは異なっている。
しかし確かに人間が、そこには暮らしているのだという。
――果たして無事に辿り着けるだろうか?
潮風に栗色の髪を靡かせながら、26歳となったケーナは、過ぎ去っていったこれまでの事や、やがて来たるこれからの事に、想いを馳せるのだった。
最終シナリオとなります。
ケーナさんの世界線ではゼフリール島はフェニキシア王国を中心とした秩序体制が築かれる事となり、そしてケーナさんは商会の仲間達と共に伝説の新大陸へと向けて船出する事となりました。
いよいよエンディングですが、今回は特に課題などはありません。
これまでの事を振り返ったり、これからの事に想いを馳せてロールを回していただく心情回となります。
自由にプレイングをかけていただけたらと思います。
エンディングの心情回シナリオへとようこそ、望月誠司です。
ついにラストです。
前回の最終決戦の決着まで世界やシナリオの行方は一体どうなるのか、予断をまったく許さない波乱万丈なシナリオルートでしたが最終的にこのようになりました。
ノヴァク商会の仲間達と共に交易で稼いだ資金で艦隊を強化し、準備を万端としたうえで新大陸を目指す事となりました。
新大陸を目指すにあたっては成功率が最も高いルートです。
最後の締めとしてケーナさんにこれまでの振り返りや、これからの心情のロールを回していただけたら幸いです。