セドート男爵アデルミラ「だからハック、私は君に聞く。それでも今すぐに行くのか? あの連中を助けに」
依頼主・皇帝アテーナニカ(ヴェルギナ・ノヴァ帝国)
概要・兵を率いてユグドヴァリア軍と戦う
シナリオタイプ・軍団戦
シナリオ難易度・非常に難しい
主な敵NPC・ユグドヴァリア大公「ソールヴォルフ」
主な味方NPC・セドート男爵「アデルミラ」
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・PCが「ハック=F・ドライメン」である事
シナリオ中の確定世界線・以下の実績を獲得している。
レシアへの宣言『皇帝個人の盾』
「ハック=F・ドライメン卿は確かに己自身を指して、帝国の騎士ではなく、皇帝陛下の騎士であると答えたのだな?」
騎士団の幹部である壮年の男が問いかけると、白髪の少女は頷いた。
「はい。アロウサ騎士伯は確かに皇帝陛下個人の盾として災厄から護りたいと思っているとおっしゃられました」
ケルテス家の娘レシアだ。
以前に聖堂騎士団が出した依頼の関係で、担当者としてハック=F・ドライメンと直接関わったのが彼女である。
故に騎士団幹部が集まるこの場に召喚されていた。
「……皇帝の盾か」
幹部の中の誰かが呟いた。
その響きには失望が混じっている。
皇帝個人よりもガルシャという国――つまり自分達――をこそ優先して欲しいという願望が叶わなかった為だろう。
情勢の変動により、騎士団と皇帝との関係は複雑さを増してきている。
古来より続くガルシャ王家の出身であるガルシャ王イスクラは、その血統と何よりも自身が敷いて来た長年の善政によって諸侯よりの信頼がある。
しかし帝国皇帝アテーナニカは余所者だ。
トラシア大陸人だ。
ゼフリール島の人間ではない。
統治者としてもこの若い娘は、王イスクラと比較して遥かに実績が薄い。
一般の団員達はともかくとして、ガルシャ諸侯も聖騎士団の幹部達も皆、外来の若い皇帝が本当にガルシャの為の政治を行うのかどうか、疑惑の眼差しを向けている。
皇帝は世界帝国ヴェルギナの再興、その旧領の奪還を果たす為に、大陸人達より『この世の果ての蛮地』と蔑まれているゼフリール島のごときは、体よく使い潰す腹積もりではあるまいか? そのような疑念を抱いている。
故に、
『皇帝の権力を拡大させてはならない』
『皇帝には傀儡で居続けて貰わねばならない』
ハッキリと口に出す者は少ないが、それがガルシャの一定階級以上の人間達の意識だった。
●
「生き抜け」
最期に義父からかけられた言葉。
ハック=F・ドライメンの原点。
最期に残された父の言葉は、ハックに生きる事に対する覚悟を与えた。
しかしそれは同時に『生きる事の他に覚悟を持てない』という弱さも与えてしまっていた。
故にかつて、少女の死すら厭わぬ覚悟を、否定してしまった。
その痛みを経て――青年は皇帝の騎士となった。
ならばせめて、と。
ならばせめて、他の誰かを護る盾となろうと。
今やゼフリール島最強の勢力となったヴェルギナ・ノヴァ帝国の頂点に立っている、しかし実態は孤立している――皇帝アテーナニカ。
その側に彼女の師であるメティス以外にあと一人くらいは、ついていてもいいだろうと思ったのである。
皇帝は覚悟をして道を歩いている。
“己の正義”というものをハックはついぞ持てなかったからこそ――
なればこそ、己よりも強い覚悟を持つ誰かを護る盾になろうと決めた。
人はそれぞれの理由で戦っている。
人々の数だけ多くの覚悟がある。
ベルエーシュに覚悟があるように、アテーナニカに覚悟があるように、レシアに覚悟があるように、そしてハックが盾となる覚悟を決めたように。
雪色の髪の青年が、祈りヶ丘の城塞の塔の頂に立ち、彼方の荒野を見渡せば、北国の戦士達からなる軍勢が見えた。
――彼等にも覚悟があるのだろうか?
皇帝の騎士となった青年の脳裏を、ふとそんな言葉が掠めた。
●
「アロウサ騎士伯とセドート男爵には城塞に留まっていただき後詰をお願いしたい」
プレイアーヒル城塞の軍議の間にて、黒髪の大柄な男が岩を転がしたような低く重い嗄れ声でハックへと言った。
彼の名はイスクラ・シロッツィ・プロコノフ、雷神ジシュカの養子だ。
養父や王と同じイスクラという名である事から、自らでも進んで渾名の”シロッツィ(ガルシャの言葉で孤児の意味)”を自称し、やがてそれが正式に名として定着したのだという。
見た目は若いが齢は五十を超えている歴戦の聖騎士だ。
ジシュカ亡き後にガルシャ聖堂騎士団の総長の座とプレア侯爵位を引き継いだのだという。
つまり、今ハックと同じ長方形の卓を囲んでいる、この黒髪の大男が、帝国の北方軍の最高司令官だった。
「後詰ですか」
ハックは呟いた。
意外――ではなかった。
先のレシアからの話を踏まえるなら、今ヴェルギナ・ノヴァ帝国内では皇帝派とガルシャ王国派の権力争いが俄かに活発化し始めている。
そしてハックは皇帝から直々に抜擢されて騎士伯に任命され、自らも”皇帝の盾”であると明言してみせた皇帝派最右翼である。
皇帝の直臣であるハックに先鋒でも任せて、武功をあげられ皇帝派の影響力を増されては困る、といったところなのだろう。
「お言葉だがシロッツィ総長、それは賢明な判断とはいえないぞ」
黒髪ポニーテールの女騎士――ではなく女男爵に現在ではなっているアデルミラが淡々と尖った言葉を言い放った。
フェニキシアで監察長を務めていたアデルミラだったが、今回の戦いに際してその役を後任へと譲り、フェニキシア総督のメティスから預けられた祈士を率いて参陣していた。
軍議の場が微かにざわついたが、新総長シロッツィは特段気にした風もなく、
「セドート男爵、貴公らの実力に疑いは無い。しかし最早、兵力差からして我々の優位は明白だ。なればこそ優位が確定している戦で、わざわざ皇帝の盾殿達に危険な前線に出て貰う必要もあるまいよ」
「窮鼠猫を噛む、と言うぞ。それに北国の戦士達は鼠ではない、巨大な熊だ」
フェニキシアの女男爵が言うと騎士団総長は声をあげて笑った。
「南軍がフェニキシアの攻略と統治の安定化を終えるまで、一体誰が寡兵で北の大軍を抑え込み続けていたのか、セドート男爵はご存知ないのかな?」
アデルミラは沈黙した。
帝国が南方に兵力を集中できたのは、今は亡き雷神ジシュカに率いられたシロッツィらガルシャ聖堂騎士団が寡兵でその猛攻を跳ね返し続けていた為だ。
「ガルシャ聖堂騎士団は南軍のフェニキシア攻略の為に不利な状況を任されていた。実にやり甲斐のある仕事だったさ。国家の大戦略の為の、その一柱になれたのだからな。そうして我々が寡兵で北を抑え込んでいる間に、南では貴公らが上手くやってくれた為に帝国の状況は好転した。それには感謝している。耐え忍んだ甲斐があった。しかし」
黒髪の大男はふてぶてしさを感じさせる笑みを口元にたたえつつも、視線は剣のように鋭く女男爵を刺し、
「今や戦況はヴェルギナ・ノヴァ帝国の有利となった。ガルシャの聖堂騎士達はずっと耐え忍んできた。帝国は今こそここで、聖堂の兄弟姉妹達の献身に対し、武功をあげる機会で報いてやって欲しいというのは、それは過剰な望みだろうか? 皇帝陛下はそうお考えか?」
「……アテーナニカ様は聖堂騎士団の働きには深く感謝しておられる、しかし」
たじろぐアデルミラの言葉をシロッツィは途中で遮って野太い大声を張り上げた。
「ならば! 神々と皇帝陛下の御名に懸けて私はバチはあたらぬと思う! 貴公らは南で大功を立てた! であるならば、ここは我々に譲ってはいただけないかね! 貴公らこの上さらに北でも功績を搔っ攫うつもりか? それはチト強欲というものだぞ?」
黒髪を後頭部で結い上げている女男爵は渋面を作りつつ騎士団総長を上目遣いに睨み返した。
「私は論功ではなく戦いの話をしている。私はまだしも、アロウサ騎士伯を遊ばせるのは戦術として最善ではない。総長、政治の都合で死者が増えるぞ!」
「戦えば人は死ぬものだ。そして戦とは政治の為に行われるものだ。男爵、違うかね?」
「……私はメティス様より政治とは人の道に基づいて行われなければならないと聞いている。派閥政治の為に兵に無駄な犠牲を強いるような選択が人道とは私には思えぬ」
「貴公はそう信じるか。しかし皇帝陛下から今回の戦の総指揮官に任命されたのは私だ」
シロッツィが断言すると、アデルミラは唸りながらも、それ以上の言葉を発するのは堪えたようだった。これ以上の言い争いは大戦を前にして軍を割る事になりかねない。
大柄な男は見下ろすように視線をハックへと向けて来た。
「では、そういう事で構わないかな、アロウサ騎士伯?」
ハックはそれに言葉を返し――結局の所、ハック達の部隊は後詰へと回る事になったのだった。
●
「プレイアーヒルの間諜からの報告によれば、ガラエキアの決戦を勝利に導いた立役者、神将殺しの撃退者にして神滅剣破り、アヴリオンの海賊殺しにして帝国最強の騎士であるサー・ハック=F・ドライメンとその部隊は城塞内で待機のようですぜ。先鋒に使うどころか動かす気が無い。表向きは後詰って話だそうですが、実際は後詰ですら無い。もしハックが勝手に動こうとしたらそれを妨害する手筈が整っているそうです。とことん皇帝派に功績を立てさせない腹積もりのようですな」
「舐めやがってシロッツィの餓鬼が」
北の雷狼大公ソールヴォルフは、側近からの報告を受けつつ、天幕内にて卓上に置かれた地図を睨みながら吐き捨てた。
「騎士団新総長のシロッツィは大将よりも一回り以上は年上ですぜ?」
「ジシュカの指示で動いていただけの小倅だ。親父のおかげでこれまで勝てていたものを、間諜を防ぐ事すらできねぇてめぇごときが手を抜いて、俺に勝てるとでも思ったか!」
「まぁ、政治の都合でしょうな。帝国内では皇帝派とガルシャ派の対立が目立ってきたそうですし……」
眼帯をはめた側近は笑みを浮かべつつ、唯一残った碧眼に剣呑な光を宿らせ、大公の横顔を見た。
「しかし、実際思ってるんでしょうな、それでも勝てると」
雷狼大公が牙を剥き振り向く。
「俺達が勝てなかったのはジシュカであってその小倅じゃねぇぞ?」
「ですが思っているのでしょうな、奴等は自分達だけでも俺達より強いと。北の戦士達を相手に雷神も神滅剣破りも抜きで本気で勝てると思っている――」
「舐めやがって!」
「あるいは」
側近が笑みを消した。
「そう思っていると、俺達に思わせるのが狙いであるという可能性がありやす」
「…………罠だと?」
若き大公もまた表情を消し真顔になった。
「シロッツィの小倅はこっちの間諜に実は気づいているが、敢えて泳がせて連中にとって都合の良い情報を流させ、俺達の油断を誘って迂闊な行動を誘導している可能性がある……」
間諜の逆利用。
潜入してきた敵のスパイを敢えて捕縛せずに情報を渡し、その情報を元に敵の動きをコントロールする。
「雷神ジシュカに以前それをやられたでしょう? ジシュカの義理の息子も養父の背から学んでいるなら、同じ事をしてくる可能性がある」
「……猿真似野郎が!」
「ですが、本当にこちらの間諜にまったく気づいていない可能性もありやす。奴は総長としてはこれが初陣です。慣れない事をしている間は、いつもよりもミスが多くなるものですから、防諜を上手く働かせられていないとしても不思議はありやせん」
雷狼大公は腕組みして唸ると、
「……――真と偽を混ぜてきている可能性もあるな…………めんどくせぇ!」
「虚々実々ですな」
「これだからガルシャの青瓢箪どもは嫌なんだ。めんどくせぇ真似ばっかりしやがる。実際にシロッツィがどうであるのかは、奴の戦場での兵の動かし方から判断してゆくしかあるまいな」
大公は側近を睨むように見据えると言った。
「ここで俺達が敗れる訳にはいかん。ゼフリール島はゼフリール島の民族によってこそ治められるべきだ」
「ええ、この島をトラシア人どもの良いように使い潰される未来なんてのは許容できませんな」
「ヴェルギナ女にたぶらかされた爺にまんまと操られているガルシャの舐めてる馬鹿どもを蹴散らすぞ!」
「――アルファズルの顎鬚に懸けて!!」
北の雷狼大公は側近からの敬礼を受けつつ、各部隊へと命令を発すべく天幕の外へと出ていったのだった。
●
イール教のリース派信徒達の聖地『祈りヶ丘(プレイアーヒル)』は北方に広がる山脈と南方を東から西へと流れる大河がつくる狭隘に存在している。
ガルシャ盆地北部から外へと出る為には幾つかの例外的ルートを除いて必ず通り抜けなければならない要衝だ。
古の時代に祈りヶ丘の頂にリース派信徒達によって聖堂が築かれ、やがて聖堂を守る為に砦が築かれ、それが今日の城塞都市プレイアーヒルとなっている。
昔、とはいってもそれほど昔でも無い半世紀ほども前、ガルシャ国内で異端とされ追い詰められたリース派信徒達が武装して立て籠もった最大最後の砦であり、そして不落の砦だった。
雷神ジシュカは当時、兄弟と王位継承権を争っていたガルシャ王子イスクラの支援を受け、プレイアーヒルを最後まで護り抜いた。
ガルシャ王となったイスクラはリース派の異端を解き、リース派信徒の聖騎士ジシュカはその恩に報いる為にイスクラに忠誠を誓った。
聖騎士ジシュカは内外に雷神と恐れられる程の無双の活躍をし、往年はユグドヴァリアからの侵攻も寡兵で跳ね返し続け、ついぞプレイアーヒルに他国の旗を立てさせる事は一度もなかった。
ガルシャ聖堂騎士団とは、大聖堂にて武装したリース派の信徒達が始まりである。
故に彼等の正式な名は『祈りヶ丘に建つリース聖堂を守護する兄弟姉妹達』である。ガルシャ聖堂騎士団の名は通称だ。
そんな彼等彼女等は雷神ジシュカ亡き今、その養子であり跡を継いだ新総長シロッツィに率いられ、東の城門を開いて出撃していった。
後詰として城塞に残ったハックは、塔の屋上よりその背を見送ったが、軍兵達の中に、聖堂騎士レシアの姿を見た気がした。
「無事に勝てると良いんだが」
塔上にて隣に立っている女男爵アデルミラが物憂げに言った。
聖堂騎士団とガルシャ王国派諸侯の部隊が東に広がる荒野を進んでゆく。
その行く手には多数の人影と翻る旗が見えた。
かなりの数だ、千名ほどはいるだろうか。
目元を覆う鉄眼鏡と一体化した『北国鉄兜(スパンゲンヘルム)』
首元から全身を覆う『鎖帷子(チェインメイル)』
左手には鮮やかな紋章が描かれている『円型盾(ラウンドシールド)』
右手には四クビトゥス(約2m)程の長さの『短槍(ショートスピア)』
背には武骨な『広刃戦斧(ブロードアックス)』
おおむねそのような武装を整えた屈強な男女達が、おおまかに左翼、中央、右翼にわかれ、それぞれ三列に重ねられた横陣を敷いている。
北の蛮人と悪名高い、ユグドヴァリア大公国軍だ。
対する帝国側の数は1500人程度だろうか。
大公国側と同じく部隊を左翼、中央、右翼に分けて横陣で進んでゆく。
荒野を進む両軍の互いの距離が近づいてゆき――
やがて激突するといった所でハックは気がついた。
戦場の南側を東から西へと流れてゆく大河、その水面に浮かぶ影達に。
――船だった。
ヴァイキング船だ。
ユグドヴァリア側の拠点であるヴァルハベルグは勿論、前線の砦群とも川は直接接していない。陸によって隔てられている筈だったが、今そこにユグドヴァリア大公国軍の船が浮かんでいた。
喫水の浅い小型の船であるヴァイキング船を、屈強な北方の戦士達は担いで陸上を運び、密かに川の上流に降ろしていたのである。
ざっと見た所、船の数は10隻はあるだろうか。
一隻につき祈士が30人乗っているのだとしたら、全部で300名にもなる。
その船団が川上より高速で下って来ていた。
<<船だ!>>
<<何ッ?!>>
ハックが塔上より彼方の川上を指差して念話を叫べば、アデルミラが焦りを滲ませた念話を発した。
<<……背後への回り込みを狙っているのか!>>
今まさに陸上では帝国軍と大公国軍の距離が詰まり、激突せんとしている。
塔の上という高台から見下ろしているハック達からは良く見える、しかし平地を進んでいる地上の帝国軍からは視認が困難なのだろう。川の上を喫水の浅い背の低いヴァイキング船で高速で航行している船団の接近に未だ気づけていないのか、側面や後背に対してまったく無防備な動きに見えた。
横陣による戦列は正面に対しては非常に強いが、その側面や背面からの攻撃には脆弱である。
正面の敵によって注意を拘束されながら、別動隊によって側面や背面を突かれると実に不味い事になる。
それに気づいたハックは念話を飛ばして本隊へと注意喚起を行おうとしたが、通常の念話の範囲からは既に外れていた。指揮官用の念話範囲を通常の半スタディオン(約100m)から拡大する貴重な腕輪をハックとアデルミラはそれぞれ装備していたが、それでも届く範囲ではない。
<<援護にいった方が良い。出撃しよう>>
ハックは念話でアデルミラへと主張した。
今すぐにハックとアデルミラの部隊を動かして援護に向かえば、ヴァイキング船団の高速川下り上陸からの、帝国軍本隊の側背面への急襲を防げるかもしれない。
あるいは急襲される事を妨害する事は間に合わないにせよ、それによって窮地に陥る味方の支援は可能な筈である。
しかし、
<<――待てハック>>
アデルミラは固い表情で念話を返してきた。
<<本隊からの救援要請は我々に対してなされていない。我々が今受けている命令は『指示あるまで後方待機』だ>>
今ここで勝手に救援に走れば独断先行になる、と女男爵は言った。
<<つまり、聖堂騎士団の将兵の命を助けてやった為に、我々は総長シロッツィから感謝されるどころか逆に軍規違反に問われる危険性があるという事だ>>
アデルミラの表情を見る限り、真剣に言っている様子だった。
<<奴が『政治』を重んずるならありえない話じゃない>>
似たような話は現実に幾つも起こっているのだと女男爵は言う。
<<私はメティス様に良くしていただいているからメティス派だ、つまり、私も実質は皇帝派だ>>
賢者メティスはアテーナニカの家庭教師であり、アテーナニカの思想はメティスに基づくところが大きい。
メティスとアテーナニカは志を同じにしている。同一人物でない以上、多少の差異はあるが、同じ志だと言って良かった。メティスは当然皇帝派の筆頭だった。
<<騎士団総長シロッツィは今後の帝国内での派閥争いを優位に進める為に、我々が今奴等を助けにいったら、それを理由に命令違反として我々皇帝派の勢力を削ぎにかかってくる可能性がある。シロッツィは養父のジシュカとは性格が違う。聖騎士というより政治屋に近い。政治屋達は平気で恩を仇で返して来る。危険だ>>
アデルミラは緑瞳をハックへと真っ直ぐに向けて来た。
<<だからハック、私は君に聞く。今すぐに救援にいくのが、最も多くの帝国将兵の命を救える可能性があるだろう。だが同時に戦後の我々皇帝派の立場が脅かされる危険性がある。我々が潰されたら、陛下やメティス殿は盾を失うという事だ。それでも今すぐに行くのか? あの連中を助けに>>
助けにいくのだとしても、急襲を受ければそのうちにあちらから救援要請が来るだろうから、それを待ってから助けに行った方が我々としては安全なのではないか、と彼女は言った。
■選択
1.命令を無視した独断先行となっても即座に本隊の救援に向かう
2.事前の命令を遵守し本隊からの命令が来るまで待機する
いずれの行動を選ぶのか、選択する必要があります
○PL情報
1.OPでユグドヴァリアの側近がソールヴォルフへと「アロウサ騎士伯が独断先行しようとするとそれを妨害する手筈が整っている」と報告していますが、独断専行しても妨害される事はありません。
戦場まで問題なく辿り着けます。
2.待機する選択をした場合、やがて本隊からの指令を中継の兵が念話で伝えてきます。
指令内容は至急救援を請う、というものです。
■今回ハックが率いている部隊
○アロウサ騎士伯隊 × 100
アロウサの代官から送られた兵と皇帝アテーナニカから預けられた兵あわせて祈士百名。
一般祈士としては非常に精鋭揃い。
使用ダイスが1D100で能力値も平均値以上。
レートは攻撃+5~+15、防御は+15程度。
大兜(グレートヘルム)をかぶり、鎧下服(ダブレット)と鎖帷子(チェインメイル)を重ね着し、さらに鷲の紋章が描かれた外套(サーコート)をその上から着用している。
片手用の重鉄棍(ヘビーメイス)を右手に持ち、片手用の諸刃直剣(アーミングソード)を腰に佩き、鷲の紋章が描かれた円型盾(ラウンドシールド)を左腕に装着している。
■皇帝派友軍
○セドート男爵隊 × 50
セドート男爵領の祈士数名とフェニキシア総督メティスから預けられた祈士を合わせた総勢五十名。
アロウサ騎士伯隊と同様に精鋭であり、武装も紋章以外はアロウサ騎士伯隊と同じ。
○女男爵アデルミラ
セドート男爵隊の隊長。
爵位としてはハックよりも高いが、ハックが皇帝直属なのと率いている兵の数がアロウサ騎士伯隊の方が多いので、という事で今回はハックからの指示に従って動いてくれる。
特に指示がない場合はセドート男爵隊はアロウサ騎士伯隊と似た動きをして協同して戦う。
黒髪ポニーテールの帝国の元精鋭女騎士。
PCからはかなり劣るが一般水準から見れば非常に強い。
(初期状態のPCと同程度のステータスで2回行動、使用ダイスは1D100)
武装はロングソードと赤いカイトシールド、赤いプレートアーマー。
■敵戦力の一部
●ユグドヴァリア大公隊
ヴァイキング船の部隊。
武装はOP中に描かれている大公国軍兵のものと同じだが、ユグドヴァリア大公家の紋章が盾に刻まれている。
兵の数は300名程度。
○PL情報
大公隊は実力としては並より少し強い程度。
使用判定ダイス1D50。
攻撃防御110。
生命110。
攻撃レート+5~15、防御レート+15程度。
基本的に川を高速でくだって帝国軍本隊の側面を通り抜け、上陸して帝国軍本隊の後背を突くべく動く。
その為、ハック達が救援に向かった際は、ちょうど帝国軍本隊の背中を突こうとしている大公部隊の背中を突く形となるか、既に帝国本隊と激突して乱戦になっている最中に突撃する形となる可能性が高い。
○雷狼大公ソールヴォルフ
ユグドヴァリアを率いる若き大公。
長身の美丈夫。
かつて起こったユグドヴァリア内の内乱では百戦百勝の快進撃で瞬く間に乱を制した。
ユグドヴァリア大公国最強の戦士であり戦術家。
雷神ジシュカにはついぞ一度も勝てず、その風評と本人の激しやすい性格もあって他国人からは侮られやすいが、神将殺しのゲオルジオと互角ないしそれ以上の戦闘能力を誇っている豪傑。
武器は2m程度の鉄塊のようなグレートソードと霊鋼の手甲具足。
要所が霊鋼で補強された硬革鎧に身を包んでいる。