逆風、逆風、逆風、逆風、キンディネロス海の風は厳しいというけれど、どうして我が国に吹き付ける風はこうも厳しいのか?
ろくな資源が無いからご先祖様は技術を磨いた。結果、他国よりも圧倒的に優れた馬鎧の開発に成功した。
でも祈刃の性能向上に伴って騎兵自体が戦場から姿を消していった。
何故、よりもよって馬具なんて開発したのマイご先祖様? 何故、馬なの? 騎兵が好きだったの? 時代に消されゆく存在を愛したの? 鹿もつれてくるべきだ。
仕方がないから一世代前は起死回生で海に賭けた。
パパ様は船を作った。
目論見はあたった、今度こそ! 時代に乗った、ヒャッホーよ! 時代は海だったのよ! 大陸との黄金の遠洋交易、ついに我が国の春だったのよっ!!
そう――
『異貌の神々(ディアファレテオス)』とかいう連中が次元を割ってこの世界に瘴気とその『眷属(ゲノス)』、つまり魔物を放つまでは。
『次元瘴穴』とかいうものから連中が大侵攻してきたせいで、海は危険が大荒れ魔物MAX、元々でさえ命がけだったのに、とてもまともに遠洋貿易なんて出来たもんじゃあない。
掴んだ栄華はあっという間に去っていって、パパ様は異界の神皇討伐の為にヴェルギナ皇帝と一緒にトラシア大陸で戦って死んじゃった。
神皇が倒されて瘴気と魔物は随分マシにはなったけれど、それでも近場に船を出すのでも精一杯で、まだまだ遠出するには海は危険すぎる。
パパ様も皇帝陛下も異界のすべては倒しきれなかったんだ。
畜生、皇帝、なぜ死んだ。
パパ様、危なくなったら途中で逃げれば良かったものを。逃げ足だけが取り得だって言ってたじゃない。臆病で弱いのに何に義理を立てたのか。
そして大陸の僭主ども、なぜ瘴穴を残したまま権を巡って互いに争うか!
海が晴れない!
我が国を包む絶望の闇も晴れない!
こんな状況だっていうのに、北のガルシャは亡命してきた皇女を担いで、ゼフリール島統一を目指すだと?
世界帝国ヴェルギナの再興だと? 黄金の世をもう一度?
――ヴェルギナ帝国なんぞは既に滅んだッ!!
斃れた亡骸の名に何故すがるッッッ???!!!
島の統一だけなら百歩譲ってまだしも、統一叶った後は世界帝国の再建目指し大陸に打って出る?!
……んかあもう――
バッッッッカじゃないのッ?!
戦争、戦争、戦争、戦争、そんなに戦って死にたいか?!
畜生、アテーナニカ、何故そんな無謀夢想を叫ぶ! イスクラ王も何故それに従う?! 穏健王と呼ばれていた貴様のその実、それこそが野望だったのか!
あぁ愚かなイスクラ、よそ者皇女に夢を見て、滅びの道へと突き進むか!
アテーナニカ、アテーナニカ、アテーナニカ、あの女は恵まれている。
雷神ジシュカだと?
なんだあのジジイ、反則じゃないか、強すぎる。北の戦闘狂達だって大概なのに、それを寡兵で何故防げる。なんでそんな名将がぽっと出皇帝のアテーナニカに従うの?
小帝国だなどと揶揄されようともガルシャは天険に囲まれ地味は豊か。イスクラが築いたものを何の苦労もせずにアテーナニカはそのままそっくりいただいた!
ボスキ公爵だと? 騎士伯バーツラフだと? 美形じゃないか。なんでうちの重鎮にはイケメンがいない。なんでうちの男連中皆モブ顔とオッサン・ジーサンばかりなの!
それでも有能ならいいけど、どいつもこいつもイマイチパッとしない! 凡人しかいない!!!!
どうしろっていうんだ。
ああ、うちの国に何をどうしろっていうんだ!
ああ、神よ! 運命よ! 私達に死ねというのか!
皇女に従うも死。
皇女に逆らうも死。
八方塞がり。
すべてが私とフェニキシアに『死ね』といっている。
どうせ死ぬなら……
――……いや、死なん! 死なん! 死んでたまるかっ!!
こいよ運命! くたばれ神よッ!! 貴様と決闘だッ!!!!
この国の運命が亡びに定められているというのなら、私がその運命を幻のものにしてやるッ!!!!