ワスガンニ家当主・シュッタルナ
「手段は問わない。あらゆる意味で」
依頼主・ワスガンニ家当主シュッタルナ(フェニキシア王国)
概要・要人の暗殺
シナリオタイプ・冒険
シナリオ難易度・非常に難しい
ステータス上限・無し
シナリオ参加条件・実績「アンムラピ暗殺計画に参加を表明した」をPCが所持
かつて――イル・ミスタムル州はいたって平穏であり、統治上何の問題も起きていないとされていた。少なくとも即位したばかりの幼い女王はそう信じていた。
女王の傍に仕える者達は誰も問題を報告しなかった。
中央へ納められる税にも長年変化はない。
良くもなく。
悪くもなく。
例年通り大過なく安定している。
中央からの州総督アンムラピへの評価は高かった――
王が死に王子も死んだ後、一人の貧農が罰せらるるを覚悟の上にて王家へと陳情せんとした。
即位したばかりの若き女王ベルエーシュ、彼女ならば我々の声に耳を傾けてくれるのではないかと。
その御前へと。
はるばるイル・ミスタムル州の辺境から中央へとやってきた。息も絶え絶えになりながら。
彼が住まう村からフェニキシア王都アーシェラルドまでは、超人たる祈士の足や整備された街道を進む軍用馬車ならば一週間程度の道程である。
しかし只人の足ではその三倍はかかる。貧しく旅慣れぬ一般人である彼の場合は一ヵ月もかかった。
だから、王都についた時、彼が息も絶え絶えになっていたというのは誇張でもなんでもなかった。
そんな彼に対し女王ベルエーシュは、当日の予定を棚上げして、すぐに謁見を許した。
宮中の者達は皆反対した。
一介の貧農になどいちいち女王が会うべきではないと。それよりも日々の女王としての務めをこなすべきだと。
しかしベルエーシュはその反対を却下した。
周囲の反対を押し切り農夫と直接会い、話を聞いた。
そして女王はイル・ミスタムル州で悪政が行われていると知った。
彼女は調査の為に王宮の役人を同州へと送り込んだ。
役人はアンムラピらミスタムル派閥の息がかかっていた。
報告には虚偽が混ぜられた。
実際からそう外れている訳ではない。だが、事態を軽く見せるような。そんな虚偽だ。
――ベルエーシュは貧農の訴えについて「大袈裟に言い過ぎよね」と判断した。
彼女が「そうではない」「貧農の言葉は正しかった」と悟ったのはかなりの時が経ってからだ。
宮中の役人が買収されている事に気づいた女王は、急ぎ別の経路で人を雇い、調べさせた。
だが、その時には既に罷免するにたる重罪への証拠は、アンムラピ侯爵の関与に繋がるものは隠蔽され、消し去られていた。残されたのは蜥蜴の尻尾達のみ。
ベルエーシュはなんとかアンムラピを罷免できないかと動いた。
しかし宮中の者達は揃って「州総督を罷免するに十分足る罪が無い、証拠が無い」と首を横にふった。
先王陛下より仕える宿将であり、大貴族であり、一大派閥の長であるアンムラピへは軽々しくは手を出せないと――
●そして暗殺計画
初夏。
温暖なフェニキシアでは麦の収穫作業も一段落し、毎年の豊穣を祝い、あるいは願って、祭祀がとりおこなわれる季節である。
古代より王が都にて盛大に祭を催す季節であったし、各州でも王権の代行者たる総督が、諸侯を集め祭祀を執り行うのが慣例だった。
「収穫祭に乗じてやる」
ワスガンニ家当主シュッタルナは言った。
アンムラピもまた初夏の祭祀の為にミスタムル州の諸侯を集め宴席を開いているのだと。
「この宴席にて仕掛ける」
警戒心の強いアンムラピは普段は所在を隠している。
その為、狙う事ができない。
だが、この収穫祭の時ばかりはアンムラピも公に姿をあらわすのだという。
無論、ミスタムル州の収穫祭の主催者はアンムラピである。だから宴席の会場はアンムラピの膝元である州都ウガリィッドの城館内であり、当然その警備はアンムラピの兵が行っている。
祭の宴席では武装は解除される。武器の類は――祈刃も――預ければならない。
警護がいる中、丸腰で要人を暗殺するのはいかな祈士といえども困難だ。
『祈士(カサドール)』が超人的な力を発揮できるのは『祈霊石(ピエドラ・ルエゲン)』に蓄えられた莫大な精神エネルギーを『祈刃(オラシオン)』を媒介にして転化し、自らの力に変えている為だ。
祈刃を所持していなければ、強力な祈士といえども只人の範疇での力しか発揮できなくなってしまう。
しかし、これをどうにかするあてはあるのだという。
「協力者がいる」
イル・ミスタムル州の豪族ハニガルバトなる人物だ。
彼の息子がアンムラピの屋敷で働いており、その息子がこの度の祭の警備の責任者をつとめるのだという。
ハニガルバトはアンムラピに密かに反意を抱いており、常々除けるものなら除いてやろうと方々で仕込みをおこなっていたらしい。
「王家はついに立ち上がってくださったか」
シュッタルナがハニガルバトと接触し王家紋のメダリオンを見せた時、彼は感涙に咽び泣いたという。
ハニガルバトはこれまで中央へと再三にわたって悪徳総督の排除を訴えていたが、王家はまったく動いてくれなかった。
だから実の所、内心ではかなり失望していたらしい。
「貴公の訴えは女王陛下のもとへ届く前に、奸臣どもによって断たれていたのだ」
シュッタルナがそう説明し、貧農が遥々王都までやってきて直訴した事により発覚したのだと述べると「そういう事だったのか」とハニガルバトは得心がいった様子であったという。
「そのような訳で――警備責任者のミタンニ殿が協力してくれる手筈だ。とはいえ、一人だ。いかにミタンニ殿が責任者といえどもあからさまな事をしてはアンムラピに忠誠を誓っている周囲の者から排除されてしまうだろう。故に、彼に出来る事は限られている。会場に入る際の身体検査を多少は誤魔化せようが、大っぴらに目立つ得物を持ち込む事は不可能だろう。そこでだ」
これを、といってシュッタルナは半クビト(25cm)程の長さの鉄鞘に包まれた短刀を差し出してきた。
短刀型の祈刃である。
魔術による探知を誤魔化す術式が刻み込まれた祈刃でもあるそうで、これならばどうにかして隠し持った上でミタンニ殿の協力を得られればその警備の目をかいくぐり会場へと持ち込む事ができよう、との事だった。
この短刀型の祈刃を隠し持ち、シュッタルナの従者として同道して宴席に入り込み、機を見てシュッタルナと共に仕掛け、アンムラピを討つ、というのが計画の大枠のようだった。
「アンムラピも宴席では丸腰の筈だ。奴は希代の悪党だが祈士ではない只人だ。奴一人ならば仕留めるのは造作もない」
しかし、傍らには警護の祈士がついている。
彼等は祈刃をその身に帯びている。
しかもアンムラピは怨まれている自覚があった為、自らの命綱には大金を費やしている。腕利きの強力な祈士達が雇われているようだった。
「ミタンニ殿の話によれば『神将殺し』として名高い傭兵ゲオルジオが当日、護衛として雇われる事になっているらしい。噂に語られる実力が確かならば、ゲオルジオは非常に強力な傭兵だ。これに対抗できる強者は貴公をおいて他に無い」
ガラエキア山脈の戦いで味方だったあの傭兵は、確かに腕利きだった。
かつての大戦においてトラシア大陸で活躍し、異貌の神々の将軍さえも屠ったという、噂に名高いあの傭兵は、確かに並の実力者ではない。
あのゲオルジオが宴席の護衛についているとあらばアンムラピを仕留めるのは、確かに一筋縄ではいかない。
というよりも、こちらが使用できる武器が普段の愛用の祈刃ではなく、隠密性を高める為に性能が低下している短刀一本であり、対するゲオルジオの方は万全のフル装備とあっては、普通に打ち合っても、勝つ事はかなり難しい可能性がないだろうか……?
「貴公ならば出来ると信じている」
依頼人が真っ直ぐな瞳で貴方を見つめ、無茶を言ってくれている。
「しかし……ゲオルジオの排除は絶対条件ではない。アンムラピこそを仕留められれば良いのだ。理想を言うなら、ゲオルジオが割って入る前にアンムラピを一撃で殺し、さっさと宴席から脱出するのが一番良い」
そう、アンムラピを暗殺した後は現場から脱出しなければならない。
一応、ウガリィッドの街の幾つかのポイントに協力者が潜んでおり、彼等がいる地点――酒場や神殿など――にまで到達すれば、街から脱出する事は十分に可能らしい。秘匿されている地下通路や地下水脈を抜けて街の外まで逃げられるそうだ。
シュッタルナは事が成った後は二手にわかれて逃げた方が良いだろう、と言った。固まって逃げるよりは分散した方が逃げ延びられる確率が上がるだろうと。
しかし、こちらの理想通りに事が運べば良いが、あのゲオルジオが護衛対象への攻撃を易々と通すものだろうか?
あの男は瞬間移動したかの如き速度で移動する。縮地を使えるのだ。
破神剣を遠間からアンムラピへと抜き打ちで放っても、あの男ならばそれに反応して閃光との間に割って入って護衛対象を護る、くらいの事はやってのけそうだ。
「あるいは……『将を射抜くにはまず馬から』という」
シュッタルナの声が一段低くなる。
黒い瞳が長卓の上に置かれた蝋燭のゆらめく火の光を反射しギラリと輝く。
「――神将殺しには祭の前に、あらかじめ消えておいて貰う、という手もある」
曰く、代役は立てられるだろうが、神将殺し程に強力な祈士を緊急で雇う事は難しいだろう、と。
だから、祭当日よりも先に、ゲオルジオをまず暗殺しておけば、その後のアンムラピの暗殺は非常に容易なものとなる。
護衛戦力が格段に低下するからだ。
「宴席で護衛任務中のゲオルジオを斬るも、日常で護衛任務外のゲオルジオを斬るも、同じ事――とは、私は言わぬ」
褐色肌の中年の貴族は言う。
「だが、これは忠勤なのだ」
フェニキシア百年の大計の為なのだ、と王家に忠誠を誓っている忠臣は言う。
この国の、女王陛下の為なのだ、と彼は言う。
「手段は問わない。あらゆる意味で。故に貴公がその一線だけは超えられぬと手段を選ぶのならば、それでも良いと思っている。アンムラピを殺しさえ出来れば私はそれで良い」
どのように殺すか?
ワスガンニ家の当主は陰鬱さを秘めた、しかし張り詰めた覚悟を決めた真顔で、貴方に問いかけて来た。
■シナリオ成功条件
イル・ミスタムル州総督アンムラピを死亡させる。
●概要
とにかくアンムラピを殺せれば依頼達成です。
やり方は問われません。
■特記
このシナリオではアヴリオンなどの街で普通に売ってそうなアイテムを購入しシナリオ達成の為に使用する事が出来ます。
それが売っているかどうか不安な場合はご発注の際にメッセージで「これ買える?」とご質問いただければ可能不可能をご返答いたします。
■特記2
シュッタルナから暗殺用に貸し出される『短刀』型の祈刃を用いる場合、攻撃と防御がそれぞれマイナス20されます。
短刀の攻撃レートは-10です。
■味方戦力
●ワスガンニ家当主シュッタルナ
褐色肌の中年貴族。
祈士です。
地味に強いです。
初期状態のPCよりもちょっと弱い程度で2回行動、使用ダイスは1D100。
プレイングに指定すればセットするスキルを選択可能です。最大で全種類(ただしセット数が増えるとその分基礎ステータスは低下する)
猟技は縮地やアクセラレイターなどは使えません。
なお事前のゲオルジオ襲撃に加わる事はできません(ゲオルジオが事前にいるのはアヴリオンなので)
■アンムラピ暗殺方法例
どんな手段を用いても良いですが、シュッタルナから提示されている方法としては主に以下の二パターンがあります。
●方法1 宴席で暗殺する
収穫祭において総督が開く伝統の宴席にシュッタルナと共に入り込み、機を見てアンムラピを襲い、仕留める。
宴席内に配置される祈士の数は五名ばかりの予定。
宴席会場の入口に二人、宴席内に二人、アンムラピの直衛として傍について回る者が一人。
この直衛が『神将殺し』ゲオルジオであるとの事。
他の祈士達もゲオルジオと比較すると数段力が落ちるが、侯爵の精鋭私兵であり並の祈士達よりはずっと腕利きであるらしい。
シュッタルナ曰く、収穫祭の宴にはしきたりがある。
宴もたけなわになる頃に、主催者が宴席の中央に進み出て、神に捧げる伝統の剣舞を舞わなければならないのだそうだ。
アンムラピもこのしきたりには従っており、例年欠かさず宴席会場の中央で剣舞を舞うのだという。
この時だけは直衛も離れるので、この神に捧げる儀式的剣舞を舞っている時に、暗殺を仕掛けるのが良いのではないか、との事だった。
首尾よくアンムラピを暗殺できた場合。
二手に別れ、会場の窓を突き破って外へと出る。
館の庭内を駆け抜ける。
館の敷地を囲む塀をよじ登り跳び越えて街中に脱出。
その後、街中の各所に点在する協力者のいずれかの地点へと駆け込み、ウガリィッドの街から脱出しよう、との事である。
最終的にはイル・クアン州の州都ベールハッダァードの総督府で落ち合おうとの事だ。
あの前線城塞都市には今、女王ベルエーシュの軍がいるし、統治者のグブラ伯ジザベルも王党派だから、そこまで逃げられれば安全であろうだろうと。
それらの話を聞いて貴方が思った事は。
1.ゲオルジオや他の兵士・祈士が貴方の顔を覚えていた場合、宴席会場に潜り込む際、貴方の顔を見られたら、高確率で警戒される
2.屋敷の敷地内から逃げる場合でかつ、塀をよじ登る場合。その高さの塀をよじ登るには何か工夫が必要そうだという事。
●方法2 ゲオルジオをあらかじめ暗殺しておく
ゲオルジオの暗殺に成功した場合、後日行われるアンムラピの暗殺も自動的に成功となります。
ゲオルジオを暗殺する方法としては、
1.アドホックを通じて手紙を送りつけアヴリオンの街の人気のない路地裏などに呼び出して襲う。
2.アヴリオンのアドホック傭兵ギルドで連日張り、ゲオルジオを見かけたら話しかけて酒を飲ませるなどしてから人気のない路地裏などに連れ出して襲う。
3.その他色々
です。
●方法3
1や2以外でもこうやればいけるんじゃ? というやり方を思いついた場合、それを行う事が可能です。
それが成功するか失敗するかは「方法1」や「方法2」と同様、判定に基づきます。
なお今回は難易度高いので、どの方法を選んでも、失敗する危険度が通常よりも高めです。
参考までに大体の目安として方法1は事前工作抜きにそのまま実行するとルナティックに難しく、方法2も非常に難しいです。
こんなの普通の多人数商業PBWじゃ絶対リリースできないよ!(非常に高確率で卓が揉めて収拾つかなくなりそうなので)な自由度MAX暗殺現場へようこそ、望月誠司です。
(でも噂の第六とかなら出来たりするんですかね? そのあたりは良く知らないので可不可がわからない)
とまれソロだからできるシナリオですねー。
色々手段を選んだり創意工夫を効かせられるシナリオですが、その分基礎難易度は高いです。
使える札をフルに駆使して攻略していただけましたらと。
ご興味惹かれましたらご発注いただけましたら幸いです。