シナリオ難易度:非常に難しい
判定難易度:普通
(ちょーっとピンチっぽい? ユナイト市長が倒されるとか、どんだけ強いの?)
暗黒の空を高速で飛行しながら遠目に状況を確認したケーナ・イリーネは、腰に佩いている黄金色に輝く彫金装飾が施された鞘より祈刃ザナトを抜刀、霊気をウルズのルーンが刻まれているその刀身へと素早く収束させてゆく。
『アヴリオンの狂雷』ユナイト・ロックといえばゼフリール島最強の一角として名高い祈士である。
そのユナイトを今まさに吹き飛ばしてみせた甲冑姿の美丈夫が異貌の神々の将軍アルバディオだろう。
彼方の暗黒空間に存在している異貌の神々はいずれも強大な霊圧を放っていたが、その中でもとりわけその緑肌の偉丈夫は異質だった。
霊圧が感じられないのだ。
先程ズデンカから聞いた言葉が思い返される、
『アルバディオが私が以前に見た個体と同程度の力だとすると……ケーナでも勝算は三割……良くて四割、あるかないかだと思います、それくらい異神将は強大です』
との事だったが……
本当に三、四割もあるのだろうか?
強さの底が知れない。
ズデンカが知る神将とアルバディオは別の個体だ。
その力が異なっている可能性は高い。
かつてゲオルジオが倒したというその神将よりもアルバディオの方が遥かに強い可能性があった。
しかし、
(――ま、なるようになるか!)
逆にそれより弱い可能性だって無い訳ではないのだ。
栗色の髪を靡かせ飛行している三クビト弱(およそ144.5cm)の小柄な少女は楽観的に思考を打ち切ると、霊光を後方へと噴出させて瞬間的に超加速しつつ、極限まで霊力を収束させたオラシオンを横薙ぎに振り抜いた。
三日月状の光刃が重く大気を揺るがす轟音を発しながら飛び出してゆく。
光は稲妻の如く走り、彼我の距離を一瞬で制圧しつつアルバディオへと襲い掛かる。
猟技・破神剣。
かつて滅びの神々を押し返したカサドール達が誇った飛び道具。
身の丈四クビト(およそ2m)以上の長身を誇る緑肌銀髪の異神将は、ユナイトにトドメを刺すべく長剣を振り上げ霊力を収束させていたが弾かれたように振り向いた。そしてその勢いのままにケーナの方へと刃を一閃させる。
ドンッという重く低い大音量が轟いた。
アルバディオの剣閃からも三日月状の光波が勢いよく噴出されていた。
破神剣と瓜二つの光。
『祈士(カサドール・デ・ラ・オラシオン)』が放った光の刃と『異貌の神々(ディアファレテオス)』が放った光の刃が、互いに暗黒の空で交差し爆裂する。
壮絶な衝撃が周囲へと撒き散らされ空間が震えてゆく。
砕けた光を吹き散らしながら暗黒の宙より急降下してきた若き少女祈士が、異神将と倒れ伏した市長の間に割って入る。
<<ユナイト市長、まだやれますか?>>
極限まで精神を集中させたケーナは、紫水晶色の瞳で眼前のアルバディオを見据えつつ、右手で剣を構えながら、もう片方の手を後方へと向けた。籠手に包まれた掌より光が放たれユナイトの身を包み込む。癒しの光だ。
<<すまん、三シーク(およそ3秒)くれ>>
トレードマークの赤帽子を失くした赤外套の男は短く念話をケーナへと返した。
それから、
<<よく来てくれたケーナ・イリーネ。だが気をつけろ、敵は異神将アルバディオだ。こいつ、我々カサドールの猟技に酷似した技を使って来る>>
と情報をよこしてきた。
異神の癖に祈士の技を使ってくるとは奇怪極まるが、恐ろしく洗練されていて強い、との事。
<<承知しました。三シーク持ちこたえます。ただ、頑張るつもりはあるんですけど、無理そうな時は逃げるんで>>
<<……無理でない事を祈ろう>>
呻くようなユナイトの念話がかえってきた。
ケーナは無理そうだった時はゲオルジオも逃走に誘うつもりだった。
ズデンカは『ゲオはベテランの傭兵です。退き際は何よりも心得ている筈です』と言っていたから、それが本当なら一緒に逃げてくれる筈だが、そうならなかった場合は『アタシのワガママに付き合って』と頼んででも共に撤退させるつもりだ。
<<……アシェラの兵器がまたきたか。良いだろう、お前の戦技を見せてみよ!>>
異世界の神将はケーナを見据えると爆発的な速度で踏み込み、稲妻が如き勢いで長剣を振るってきた。
飛行の指輪を嵌め僅かに浮遊しているケーナは、咄嗟に霊気を噴出して宙を素早く右横に機動し一撃をかわさんとする。
ケーナの左肩部分の革鎧が裂けた。
刹那の後、灼熱感が左肩より湧き上がってくる。
斬られた。
(速い)
骨までは刃は届いていないが、避けきれなかった。
ケーナは意識を鋭く引き締めつつ、ザナトを手に斜に構える。大防御。
先の斬撃より間髪入れず落雷の如く剣撃が振り下ろされる。アルバディオの長剣とケーナのスモールソードが激突し、ケーナの刀身に沿って長剣が火花を巻き起こしながら斜め下へと滑り落ちてゆく。
切っ先を下げた長剣は、しかし即座に飛燕の如く翻り、今度は胴を狙った横一文字となり襲い来る。
ケーナはブーストを噴出。発射される弩矢の如くに、少女の身が爆発的に猛加速して宙を急速後退してゆく。振るわれる長剣の切っ先が茶色の革鎧を斬り裂き、その奥の身までも斬り裂いて血飛沫を散らす。間合いが急速に広がってゆく――アルバディオの姿が掻き消えた。
(縮地!)
直感的にケーナは判断し、腹に生じた痛みを堪えつつ身を捻り瞳を閉じた。刹那、スモールソードの切っ先に光が出現し、同時に爆ぜ、強烈な閃光が一帯に膨れ上がる。
閃光弾を自分自身の剣先にぶつける事で即座に起爆させたのだ。
普通ならばありえない不可能な事だったが『方向転換(エイワズ)』のルーンを発動しつつ放つ事で、光弾が射出される方向を転換し、これを実現していた。
当然、ケーナ自身も自分が放った閃光弾の効果範囲に巻き込まれたが、瞳を閉じる事でなんとか朦朧状態をレジストする。
直後、光の中にアルバディオが出現、その両手に握られ突き出されていた長剣の切っ先が、ケーナの顔面のすぐ脇の空間を貫いてゆく。
狙いがかなり甘くなっている。
(効いた!)
縮地からの突きを、僅かな動作ですり抜けるようにかわしたケーナは、着地すると身を低く沈ませながらスモールソードを真っ直ぐに突き出した。
次の刹那、祈刃ザナトは物理法則を無視した動きで急角度で弧を描き翻って上方への突きとなりアルバディオへと襲い掛かる。
狙いは、先のユナイトとの戦いで手傷を負ったのであろう、赤く染まっているアルバディオの左肘、その装甲の隙間。
細身の剣の切っ先は、ウルズのルーンにより勢いを増し、空を裂く音を鳴らしながら鋭く伸びて、肘関節の装甲の隙間へと滑り込み突き刺さった。
<<ありゃ、意外と上手くいっちゃった?>>
ケーナは念話を全領域へと発しつつ生命力を燃やして超加速した。
アクセラレイター。
少女は突き刺したアダマンタイト製の剣先をさらに押し込むと、間髪入れずに滑らせ引き斬――らんとしたところで美丈夫の姿が掻き消えた。
(反応してきた!)
アクセラレイターの加速に割り込んできたという事は、あちらもアクセラレイターを発動したのだろうか?
<<――妙な動きをする剣だ>>
少し離れた位置にアルバディオが立っていた。
長剣を構え直して防御の姿勢を取っている。
ケーナは再び宙へと浮かび上がりつつザナトの切っ先を向ける。
<<良い剣でしょ? 特別製なの>>
<<なるほど、エイワズのルーンか。まだ使い手がいたとはな!>>
アルバディオが疾風の如くに踏み込んで来る。既に閃光弾の影響からは回復したのか、その動きは鋭さを取り戻している。
ケーナは再び防御を固めて構え、甲冑姿の異神将は暴風の如くに肉薄すると、光を具足に纏わせて前蹴りを繰り出してきた。
(崩撃!)
ケーナは霊力を操ると構えたザナトを中心に透明な輝く光の障壁を発生させてゆく。破神盾。
光を纏った具足と光の盾が激突して轟音と共に光の粒子を撒き散らす。
アルバディオは左手を伸ばすと光の盾の縁を掴み取り、光盾を無理矢理に下方へと抑え込まんとしつつ、光を纏わせた剣を盾の上方の空間を通して突き下ろしてきた。
ケーナはエイワズのルーンで盾の向きを操作せんとしたが、剛力で抑えつけられていて動かない。
霊光を纏った剣先がケーナの鎖骨部分に突き込まれた。強烈な衝撃が炸裂しケーナの視界が激しく揺れ態勢が大きく崩れる。崩撃。
アルバディオは間髪入れずに長剣を引くと光を消し再度顔面を狙い突き下ろして来る。
ケーナは咄嗟に破神盾を消すと神眼を発動、剣の軌道を見切ると頭部を横に振って紙一重でかわす。
そしてザナトに霊気を収束させると肩口へと斬りかかる――と見せて途中でエイワズのルーンで剣の方向を急転換させ左肘を狙う。
これに対しアルバディオは両腕を高く振り上げる事で回避すると同時に、その回避動作を攻撃の予備動作に転換、そのまま振り下ろす事で落雷のごとき斬り下ろしをカウンターで仕掛けてきた。
ケーナはブーストを発動させ、高速で間合いを外しかわさんとする。
剛剣が革鎧を斬り裂きながら空間を突き抜ける。
かわしきれずケーナの身より鮮血が吹き出した。
アルバディオは嵐の化身の如くに踏み込みさらなる突きを放ち、追撃を警戒していたケーナは痛みに耐えつつ地を蹴って横っ飛びに跳んだ。
神将の剣が空を貫き、ケーナは茜色のミニスカートを靡かせながら地面ギリギリを水平飛行しつつ、濃い茶色の革ロングブーツを振るって地を蹴りつける。
エイワズのルーンの力も合わさってケーナの進行方向が急角度で曲がる。
ありえない軌道と速度で神将の側面へと回り込みながら霊気をザナトへと収束させた少女は、女神の剣を横薙ぎに振り抜いた。
輝く剣が轟音と共にアルバディオの膝裏に命中し、衝撃が爆裂し異神将の長身が傾ぐ。
すかさず着地したケーナは立ち上がりざま踏み込み、今度は方向転換を敢えて使わずに真っ直ぐに剣を突き上げた。
ウルズのルーンが発動されたザナトの切っ先が、アルバディオの甲冑の隙間である左の脇下へと深々と突き刺さる。
同時に鈍い音が鳴り響いた。
ケーナの脇腹にアルバディオの具足の先がめり込んでいる。小柄な少女の身が木の葉のように吹き飛ばされ、突き刺していた剣の切っ先も脇下から抜けて鮮血が噴出してゆく。
(何本か肋骨が折れた?)
ケーナは宙で姿勢を制御して態勢を立て直しつつ停止しダメージを確認する。骨が数本いかれてしまったようだ。激痛が走っている。だが、まだ戦えなくはない。
銀髪緑肌の異貌の神将が竜巻の如く長剣に光を纏わせ斬りかかってくる。栗色の髪の少女は肋骨の痛みに脂汗を吹き出しながらも光の壁を展開して剣を受け止める。
(二度同じ事はさせない)
伸ばされる腕に対して光盾を消して掴まれる事を回避。
そして再び振るわれた崩撃に対し破神盾を再度展開して受け止める。
轟音が響く中、アルバディオが目にも止まらぬ速度で一瞬で側面に回り込んで剣を振るって来る。ケーナはこれに対しエイワズのルーンを発動、素早く向き直り光盾を翳して受け止めた。
<<――守りが固いな。だが、守っているだけでは私は倒せんぞ?>>
<<無理に倒す必要もないでしょ。長引けばこっちの勝ち。違う?>>
アルバディオとケーナが光の障壁越しに睨み合う。
そんな中ふと気づく。
いつの間にかアルバディオの背後に血まみれの赤外套の男が幽鬼の如く回り込んでいる。
男は滑るように踏み込んで来るとアルバディオの背へと稲妻の如く突きかかった。
異界の神将はしかし直前で察知したか赤外套の男の剣が届くよりも一瞬前に上空へと飛翔し一撃を紙一重でかわす。
<<クソッ、外したか>>
<<ユナイト市長、もういけますか?>>
<<ああ、十分に回復した。待たせたなケーナ・イリーネ>>
アヴリオンの狂雷ユナイトは集霊法も使用していたのかケーナの癒しの光の効果も加わってかなり回復している様子だった。これならば復帰したは良いがまたすぐに倒される、といった事もないだろう。
(ユナイト市長と二人がかりなら倒せるかも?)
ケーナはこれまでの戦況を分析しそう判断した。
閃光弾からの肘への一撃や、回り込みからの脇下への一撃などケーナが与えたダメージはそれになり手応えがあったし、アクセラレイターも使わせている。
先程までは守勢が濃かったが、二対一となれば片方が守っている間にもう片方が攻める事ができる。これはかなり有利な事の筈だった。
<<――確かにな>>
上空へと飛び上がった異貌の神将がそのまま距離を広げてゆく。
<<どうやら今回は我々の敗北のようだ>>
アルバディオは早々に見切りをつけたようだった。
撤退の念話が出たのだろう、見ればアルバディオだけでなくゲオルジオ達と交戦していた異神達も後退し退却に移っている。
<<しかし忘れるなアシェラの兵器どもよ。例え今は退くとしても、いつか必ず我々は戻って来る。必ずだ>>
異貌の神々が遠ざかってゆく。
<<……風向きが変わったらあっさり退いたなぁ。追撃とかします?>>
去ってゆくアルバディオ達を眺めつつケーナが一つ息を吐きながらユナイトらに尋ねると、
<<……博打を嫌ったか。惜しいがこちらも無茶はやめておこう。万一逆襲されしくじったら破滅だ。ゼフリール島にはアルバディオに対抗できる祈士は私達以外にはもう残されていない>>
アルバディオは一戦士としても最強だったが、その真の恐ろしさは一定以上の霊力を持たない存在を敵味方問わずではあるが広範囲で無力化するという対集団においての凶悪無比な能力にあった。
その能力の影響下でも戦う事が可能なケーナ達がもしも全員やられてしまったら、ゼフリール島民は誰一人として対抗できなくなってしまう。
<<ああ、無理する局面じゃない。次元回廊さえ閉じられれば、奴等はもうゼフリール島へはこない筈だしな>>
やれやれ助かった、と息を吐いて見せたのはゲオルジオ。
<<アルバディオがゼフリール島にこだわる可能性もゼロではないが……あの神将の能力の特性上、最も嫌うのは己と打ち合える強力な個だろうからな。ケーナ・イリーネが単騎で渡り合って見せた以上、奴は再度少数で我々と戦うのは避けたいところだろう>>
と長く異貌の神々と戦い続けている大陸三勇者のジャスティンが見解を述べた。
曰く、個で打ち負かせなかった以上、次は数で押す事を選ぶ筈だと。
そして天下の険キンディネロス海がある以上、それを乗り越える数を揃える為には、まずはゼフリール島よりもアルバディオにとっては与しやすいトラシア大陸西部を制圧して力を蓄えようとする筈だと。
ジャスティン曰く、大陸西部にはユナイトはおろかそれよりも一段劣るジャスティンと比べてさえも彼以上の実力の者がいるとは聞いた事がないので、アルバディオと一騎討ちできるような者は存在していない。その為、アルバディオにとってはやりやすいだろうと。
もっとも大陸の中央より東にはルビトメゴルが存在しており、そこにはジャスティン以上の者も存在しているだろうとの事だったが。
<<うむ……まぁもし予想に反してゼフリール島を引き続き狙って来たとしても、その時はその時だ。今ここでさらなる危険を冒す必要はあるまい>>
ガルシャ王イスクラが頷いた。
<<それよりも、よくぞ救援に来てくれた小戦姫ケーナ・イリーネ。よくぞアルバディオを退けてくれた。お主のおかげでこの島は救われた。お主こそはゼフリール島の英雄だ>>
こうして次元回廊の戦いにて侵攻してきたアルバディオ達を撃退する事に成功したケーナ達は、その後ケンヌリオス・ヘリオンへと帰還。
儀式を続けていた森魔長ルルノリアによってケンヌリオス・ヘリオンとエスペランザ島とを繋ぐ次元回廊は破壊された。
これによりゼフリール島はエスペランザ島の異界勢力の矛先から逃れられる事となる(だろう)との事だった。
今回の戦いにおいてアルバディオを抑えるという大功をあげたケーナは、希望の通り飛行の指輪をルルノリアから譲り受け、また新大陸を目指すにあたって必要な貴重な援助の数々をフェニキシア女王ベルエーシュに約束させる事に成功した。
その後、異界の神将を撃退しゼフリール島が脅威より守られたとして式典が女王ベルエーシュの名のもとに開催され、ケーナは特に活躍した一人として表彰され莫大な報奨金を与えられたのと共に、貴族平民問わず『ゼフリール島の守護英雄』としてその名が広く知られてゆく事となる。
ケーナは式典や自分の名が知られるなどの面倒は避けたかったが、褒賞やコネの為と我慢して出席し、代わりに商隊の宣伝を行いつつ出された豪勢な料理を食べまくったという。
成功度:大成功
獲得称号:ゼフリール島の守護英雄
獲得実績:異神将アルバディオの撃退に成功した