なぜ既存の公的機関におけるイノベーションがそれほど重要とされるのか。答えは、今日の先進国では、既存の公的機関がすでにあまりに大きな存在になっていることにある。いまやそれは可能なかぎり営利事業に転換しなければならない。
それでも今日、公的機関によって行われている事業のきわめて多くは、依然として社会的サービスとして残る。すべてをなくしたり転換できるわけではない。したがってそれらの事業を成果の上げる生産性の高いものにしなければならない。
社会的イノベーションの必要性はさらに高まる。しかもそのほとんどは既存の公的機関の手によって行われなければならない。したがって、既存の公的機関の中に企業家的なマネジメントを組み込むことが今日における最大の政治課題である。(p217)
最後に「政治課題」という記述があることから、この部分については、主に政府機関や自治体などを対象としていると考えられます。
民営化に関しては、「民間の活力を利用して」とか、「民にできることは民に任せ」といったスローガンで語られるように、日本でも公共サービスを民間の営利事業に転換することは数多く行われています。
日本での大きな民営化の例としては、JT、JR、NTT、JPなどでしょうか。他に民営化できる事業はまだ残っているかもしれませんが、社会福祉や公共インフラ整備、国防などの領域では、まだしばらく公的機関の役割は続くでしょう。
企業がイノベーションを行わない場合、社会の変化に合わせて誰か別の者がイノベーションを成し遂げ、取って代わられるだけです。しかし、公的機関が何か別のものに取って代わられるというのは、一種の革命です。既存の公的機関が大きいほど、社会的に大きな混乱が起きてしまいます。
そこで、新たな公的組織にイノベーションを行わせるのではなく、既存の公的機関にイノベーションの能力を持たせ、混乱を最小限にして徐々にイノベーションを進めるべきだ、とドラッカーは言いたかったのではないかと思います。
Why is innovation in the public-service institution so important? The answer is that public-service institutions have become too important in developed countries, and too big. Wherever public-service activities can be converted into profit-making enterprises, they should be so converted.
But still the great bulk of the activities that are being discharged in and by public-service institutions will remain public-service activities, and will neither disappear nor be transformed. Consequently, they have to be made producing and productive.
The need for social innovation may be even greater, but it will very largely have to be social innovation within the existing public-service institution. To build entrepreneurial management into the existing public-service institution may thus be the foremost political task of this generation.
2014/4/28