メーカーは合理的に行動しない顧客のことをこぼす。しかし合理的に行動しない顧客などいない。いるのは無精なメーカーだけである。単に顧客の事情がメーカーの事情と違うだけである。
イノベーションのための戦略は、それらの事実が顧客の関わりを持つかぎり不可避の事実として認めるところから始まる。
顧客が買うものはそれが何であれ彼らの事情に合ったものである。事情に合ったものでなければ何の役にも立たない。(P303)
事情戦略と意訳されていますが、原文では「the customer’s reality」ですので直訳すると「顧客の現実」です。
顧客は何に対価を払っているのかに合わせて価格を設定する「価格戦略」と同じように、顧客の事情に合わせて商品やサービスを提供するというスタンスを事情戦略といっているのだと思います。
本文中では、第一次世界大戦前にGEが電力会社に販売していた発電所用の蒸気タービンについての事例が紹介されています。電力会社という顧客には、州の公益事業委員会がその支出を審査しているという現実があり、部品のメンテナンスに対する支出を認められていませんでした。しかし蒸気タービンという部品は定期的に部品交換とメンテナンスが必要でした。そこでGEはメンテナンス費用を部品代に含めて価格設定をすることで、見かけ上メンテナンス費用の請求をしないこととしたのです。
もう一つ、農機具用の代金を農民に貸す銀行がなかった時代、自社の農機具を3年分割払いで販売してシェアを伸ばしたという事例も紹介されています。これも顧客である農民が初期費用を準備できないという事情に合わせたことによって起こしたイノベーションだったのでしょう。
Manufacturers are wont to talk of the “irrational customer” (as do economists, psychologists, and moralists). But there are no “irrational customers.” As an old saying has it, “There are only lazy manufacturers.” His or her reality, however, is usually quite different from that of the manufacturer.
The innovative strategy consists in accepting that these realities are not extraneous to the product, but are, in fact, the product as far as the customer is concerned.
Whatever customers buy has to fit their realities, or it is of no use to them.
2014/5/2